野村萬斎「和の精神に富んだ式典に」五輪開閉会式演出へ意気込み
2020年東京五輪・パラ五輪の開閉会式4式典を演出する総合統括に、狂言師の野村萬斎氏が就任。31日に都内で記者会見に臨み「和の精神に富んだ式典にしたい」と意気込みを語った。この日は、オリンピック担当の統括に就任した映画監督の山崎貴氏、同じくパラリンピック担当でCMディレクターの佐々木宏氏も出席した。
東京2020大会では、オリンピック開会式からパラリンピック閉会式まで4つの式典を一体と捉えることを提案。昨年12月に「平和」「共生」「復興」「未来」「日本・東京」「アスリート」「参画」「ワクワク感・ドキドキ感」という8つのコンセプトから成る基本コンセプトに基づき、4式典を貫くメッセージを検討している。
7月30日に、開閉会式の演出するチーフ・エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター(総合統括)に野村氏が就任し、以下オリンピック担当を山崎監督、エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター(パラリンピック担当)に佐々木氏が就任した。さらに、クリエイティブ・ディレクターに川村元気氏、椎名林檎氏、栗栖良依氏、菅野薫氏、MIKIKO氏が就任し、東京2020総合チームメンバーを結成している。
今回の指名を受け、野村氏は「大役を仰せつかって身の引き締まる思いでした。この7カ月、みんなで話し合う中でそうなっていったこともあり、一丸とならないといけないなと思っています。復興五輪の名に恥じないような、和の精神に富んだ式典にしたいと思います。皆さんのお力添えをお願いします」と意気込みを述べた。
山崎監督は「あと2年しかありませんので、今から身を引き締めていきたい。素晴らしいメンバーが選ばれていますので、日本らしい素晴らしい式典ができれば」と語った。
佐々木氏は、2016年のブラジル・リオデジャネイロ大会の閉会式で“安倍マリオ”などのプレゼンテーションで海外からも大きな反響を得た。「いつもはCMをやっています。今回は3時間という長丁場になりますので、リオの時のメンバーも入っていますのでみんなの力を借りたいと思っています。64年大会の時は小学生でしたが、パラリンピックの記憶がなくて、パラリンピアンの方にお話を聞く機会を得てその違いをひしひしと感じております。オリンピックに注目がいくと思いますが、それに負けない様に挑戦者の気持ちで頑張っていきたい」と抱負を語った。
東京2020組織委員会チ―フ・セレモニー・オフィサーの中井元氏は「いよいよ演出的な部分が具体的なフェーズに移行していくことになりました。記憶に残る式典にして頂きたいと大変期待しています」と今回の面子について期待を寄せる。
野村氏も「それぞれが素晴らしいメンバーが集まっています。これからも新しいメンバーが加わって行くと思いますが、映画界や音楽界、テクノロジー、パフォーマンスの第一線で活躍する方々が集まっていますので心強い」と話した。
また、現在のイメージとして野村氏は「鎮魂と再生の精神を生かしていくことが意味があるのではないかと思っています。何より上質な日本の精神にのっとったものにしたい」と言い、「オリンピック・パラリンピックの精神をどう咀嚼して発信していくかということを考えています。内包的な日本人の優しさを出せたらと思います」と世界に向けて発信したいことを語る。
さらに「オリンピックの生まれた経緯がもともと戦争なので、平和と表裏一体だと思う。戦争や災害の悲惨さを意識した上で生の祝祭を感じるべきじゃないかと思います。死と生が繰り返して、地球が成り立っています。生を謳歌する、競い合うことで生の喜びを燃やす、それが五輪の根幹になると思います。そういう中でお互いの存在意義を認め合う、そういうことで生きてる価値を分かち合えたらいいなと思います」と五輪の意義を意識したものを作りたいと言う。
そして「4式典を繋げるということはお題として考えています。一つのなるべく共通のものがあるように機知に富んだものにしたい。お互いがお互いを映すようなコンセプトをしたためているというところなので期待して欲しい」と意気込んだ。
開閉会式として、ロンドン大会が記憶に残っているという山崎氏は「イギリスらしさというものをロンドンでは出したと思うんですけど、日本という国らしさを東京でどのように出したらいいのかな、と考えています」とイメージについて明かす。
佐々木氏は「1988年のフランスのブルノーブル大会の記憶が残っています。聖火ランナーの方が夕陽をバックにその火を受け取った様に走っていたのが印象的でした。『白い恋人たち』という映画にもなっていて、そのような良いフレーズが残る大会になればいいなと思っています」とその理想像を語った。
大会は猛暑の中での開催が予想され、その対策に懸念も上がっている。中井氏は「屋根のないことで色んな制約を受けるかもしれないなど色々な指摘は出ています。何とか対応できればいいなと考えています」と現在もその具体的な対策を話し合っているという。
狂言師としても活躍する野村氏。「能・狂言・歌舞伎は無理やりに出すと自然と出すように心がけたい。ハイアートからエンターテインメントものまで、振れ幅に大きいものになったらいいと思っています」と伝統芸能も活かした日本らしさを追求したいと話し、聖火点灯については「機知に富んだ色んな発想をいかんに発揮していきたい。日本の多様性を咀嚼してバリエーションを出していきたい。必然のある聖火点灯になればいいなとおもっております」と語る。
佐々木氏は「野村さんが重石になってくれるおかげで好き勝手やれると思っています(笑)。野村さんは伝統芸能とともにムーンウォークも上手なんです」と意外な特技を明かした。
これを受け、野村氏は「足袋をはいて前に行けばすり足、後ろに行けばムーンウォーク、そういうことなんですよ。一見ミスマッチなものも、少し見方を変えれば繋がっているので、ワクワクドキドキ、そういうところを見せていきたい」と笑顔で返した。
最後に、日本の子どもたちにどのようなところを見せたいかと問われ、野村氏は「いろいろな考え方があると思いますけど、何か青少年が考えるきっかけになるものを作れたら。それを具体的にするのが我々の役目」と言い、山崎監督は「子ども時代にオリンピックを体験するのは特別なことだと思う。その人の人生に何か変化のきっかけを与えることは重要だと思います。ちゃんと心に残るようなものにしたい」と語った。
佐々木氏は「今の日本ですと偉い人が決めているイメージがあるので、若者に任せるようなことも、今はネットで色々できるのでやっていきたい。大会当日だけではなく障害者の方が企画したり、参加したりすることもできたら」と運営の側から改革していきたいと自身の考えを述べた。【取材・撮影=松尾模糊】