2010年に14歳で天才少女として『デビュー!』CDデビューしたピアニストの小林愛実が4日に、インターナショナル契約第一弾アルバム『ニュー・ステージ~リスト&ショパンを弾く』をリリース。カーネギーホール等の世界の檜舞台に立ち続け進化を遂げた小林愛実。今作は彼女が得意とする2人の作曲家、ショパンとリストの深い理解を要する難曲かつ名曲を選曲し録音。彼女は「何で私はピアノ弾いてるんだろう?」と挫折を感じたなか、出場を決めた『ショパン国際ピアノコンクール』がきっかけとなり、彼女の新たなピアノ人生へと踏み出した重要な作曲家のひとりとなった。今作へ取り組む姿勢や、なぜ今この2人の作曲家を選んだのか、ピアノへの想いとともに話を聞いた。【取材=村上順一/撮影=冨田味我】
今はピアノが自分と対等になってきている
――インターナショナル契約を交わされて、第1弾アルバムということですが、今のお気持ちはいかがですか。
最初は信じられない感じでしたが周りの方々と話が進んでいく内に、「ああ、本当なんだ」という実感が湧いて来ました。やっとできたな、という感じです。今の自分の表現を形に出来たのはとても良かったと思いますし、7年ぶりのレコーディングなので、皆さんに新しい作品をお届け出来てとても嬉しいです。
――今作のレコーディングは今までホールでやっていた環境から、スタジオでの録音となり、環境の変化が大変だったと聞いています。
ホールでは残響があるし、自分の音が返ってくるんです。でも、スタジオだと返ってこないので、その音響の環境に慣れるのに苦労しました。音が返って来ない状態にただ慣れるしかなくて。
――ダイレクトなドライな音の感じになれると。そうなると、演奏、タッチなども変わってきそうですね。
そうですね。その場で臨機応変に対応する感じです。
――レコーディングは、とても孤独だと思うのですが、ホールでレコーディングした場合でも、実際にお客さんが入っているのと、いないとでは違うものなのでしょうか?
全然違います。コンサートだと1回しかできませんが、レコーディングだと録り直しができますので、緊張感が違います。どちらかと言うと、レコーディングの方が難しいと感じてしまいます。コンサートだと、お客さんの反応があって、その場の雰囲気を1度で楽しむといった感じですが、レコーディングだとお客さんがいないという状況で3日間くらいかけてやるので、集中力を保つことがとても難しいです。
――集中力を高める為に普段からやっていることなどはありますか。
それが全然(笑)。でもコンサートの日には開演前に楽屋で寝る時間を少しいただいて、舞台にのぞんでいます。
――ピアノに向かうと自然と集中出来るということですね。このキャリアの中でピアノとの関係性は変わってきていますか。
やっぱり大切なものですし、体の一部の様であって。今はピアノが自分と対等になってきているというか…一緒に人生を歩んでいく、一緒に楽しむといった、友達のような感じです。
――それは昔とは大分変わった?
昔はもっと体の一部感が強かった気がします。今は対等に会話できる存在になったという感じです。やっぱり客観的に自分の演奏を見ることができるようになったことは大きいと思います。のめり込むといったものではなく。
――トッププレイヤーの方の中にも演奏中に遠くから自分を見ている瞬間がある、という方がいるのですが、小林さんにもそういった瞬間があるのでしょうか。
ありますね。やっぱり、のめり込んでしまうと、良く聴こえたりするのですが、理に適った音楽じゃなくなるので。自分を見る瞬間も置いておかないと、音楽の流れが違う方へ行ってしまいます。それにチャレンジできるようになったのが本当につい最近のことです。
――椅子の高さにとてもこだわっているとお聞きしました。今は以前に比べ15cmくらい高くなっているんですよね?
作曲家によっても椅子の高さを変えるかもしれません。リストだったら高い方が弾きやすいし、古典だともうちょっと低い方が弾きやすかったりするので。シューベルトやモーツァルトだったら私は低い方が良いです。
――作曲家によって椅子を調整していくわけですね。それがなかなか決まらない時もあると。
私の普段使っている椅子はもともと高いので、低めの椅子しかない場合は現場でホールのステージマネージャーさんお手製の板を付け足してもらったりしています。
――何かほかに気を付けていることなどはありますか。
やっぱり心を込めて弾くことが一番大事だと思います。自分が楽しんでいないと、お客さんも楽しむことはできません。音楽を楽しむって結構難しいと思うんです。純粋に楽しむ心を持ち続けることはとても。
作品ばかりを尊敬して、作曲家と向き合わずに簡単な方に逃げてしまうと言うか…。私たちは作曲家ではないので、弾き手として、作曲家が伝えたかったことを私たちなりに理解して最大限に伝えることが私たちの役目だと思います。
だけど、そこを突き詰めることは凄く苦しいことでもあります。私も逃げたくなりますが、それは本当の音楽家ではないし、作曲家と音楽を尊敬出来ていないということだと思うのです。だから、そこに真摯に向き合えて音楽を楽しめる音楽家でありたいと思っています。