先日、小袋成彬さんのシークレットライブを取材しました。小袋さんとサポートメンバー2人で、PCで制作されたサウンドを使いながら演奏を聴かせていました。特に印象に残ったのは、4月25日発売のデビューアルバムから先行配信されている「Lonely One feat.宇多田ヒカル」です。=写真=イベント時のもよう(C)Spotify

 空白を活かしたビートがクールなこの曲ですが、ライブでもその音楽的強度は変わりませんでした。むしろ目の前で生成されている音が加わる事によって、音源とはまた違う多幸感へ導いてくれる感じ。ライブの醍醐味ですね。

 小袋さんは胸が締め付けられる様なファルセットや時に力強い歌声、個性的なリリックも魅力ですが、特筆すべきはフロウ(リズム)でした。近年は世界的なヒップホップの人気によって幅広い遅いテンポの楽曲が増え、幅広いジャンルでリズムやメロディの革新が起きています。小袋さんの歌はその新しい感覚をR&B経由の日本語で体現していて、まさに次世代シンガーといえるでしょう。

 さらに「Lonely One feat.宇多田ヒカル」であまり指摘されない事としては、宇多田さんの歌がラップに明確な形で近接している点ではないでしょうか。アルバム『Fantome』以降、作詞においてまるでラップの様に意識的な韻を踏んでいる様に見えましたが、この楽曲で満を持して歌唱もそちらに寄せている様に聴こえました。そう、個人的な感想は「これが聴きたかったんだよ!」という事に尽きるのです。

 これまで宇多田さんは早口なメロディを歌う事はあっても、この様なアプローチを聴かせた事はないと記憶しています。小袋さんのアルバムをプロデュースした宇多田さんが新たな才能からの影響か、逆に新境地を見せ自己更新を果たしているのはとても面白い現象でした。

 ライブで小袋さんはビートに含まれた宇多田さんの音声と疑似セッションも果たしています。本人は「いつか出来たら良いですけどね」と控えめでしたが、ステージ上でお2人が共演する日が来るのもそう遠くないかもしれません。【小池直也】

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