昨年から音楽の本質を追求するため自分なりにも調べていますが、数々の取材からヒントを経た感じることは、アナログへの回帰がその本質へ通じる近道ではないか、ということです。というのも、アナログレコードの売れ行きも上り調子で、音楽制作の現場もデジタルでアナログ機器を再現するものが人気。これはアナログサウンドが人間の心地良さに繋がる何かがあるからに違いない。

 最新のデジタル機器がアナログの持つ音楽的なニュアンスを追求しているということは、既に音楽の録音物が70年代にはひとつの完成系を見せていた証だと思います。80年代にはCDなどデジタル機器が登場しますが、多くの録音はまだアナログマルチテープを使用し、音質的にアナログ要素が加わっていたこと、やはり人間そのものがアナログである限りこのアナログへの回帰は必然だと思います。

 そして、今は薄れつつある物事を“考える”、“追求する”という行為が、アナログには多くあったと感じています。例えば、30代以上の人たちは、おそらくカセットテープに自身選曲のベスト盤を作ったことがあると思います。

 現在はスマホなどで好きな曲でプレイリストを組むだけで簡単に、ほぼ制限なく、しかも素早くお気に入りのリストが制作できます。しかし、カセットテープには60分など制限時間があり、いかに上手く楽曲を配置していくかということを自然と考えていました。選曲にも吟味を重ね、それに加えレベル調整や曲間など、自分で簡易マスタリングをしている感覚すらあります。

 しかも、録音に実時間が掛かるという手間があるのですが、この間も録音しながらその音源を聴いて、CDやアナログレコードを取っ替え引っ替えしながら、真剣に音に向き合っていた人も多かったのではないでしょうか。それもあって録音している時間も楽しかった思い出があります。

 現在はあっという間に目的に達してしまい、寄り道がほとんどないと感じています。それは物を買うのに通販で購入しているのに近い感覚です。実店舗に行けば目的の物を購入するまでに思わぬものを発見する可能性があります。

 “考える”という行為は、これからもっと重要な事柄になっていくと感じています。消費するだけの音楽ではなく、その音から何かを感じ取れるようになった方が数倍楽しいではと思います。アナログには面倒くさいところも多いのですが、自然と考える行為が増え、敢えて寄り道をすることで、新しい発見にも繋がるはずです。【村上順一】

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