amazarashi秋田ひろむ、弾き語りライブで見せた音の原石と美しさ
amazarashiの秋田ひろむ(Vo、Gt)が6日に、千葉・舞浜アンフィシアターで『amazarashi 秋田ひろむ 弾き語りライブ 理論武装解除』をおこなった。途中からは、豊川真奈美(Key)も参加しフルバンドではないながらも、彼らの世界観をより表情豊かに作り上げた。【取材=桂 伸也】
最新アルバム『地方都市のメメント・モリ』を13日に発売したamazarasi。今年はベストアルバム『メッセージボトル』をリリースし、幅広く活動の枠を広げた。この日はそのベストアルバムに収録された曲や、ニューアルバムの曲も含めたamazarashiの楽曲15曲を、秋田の弾き語りにより披露するという特別な趣向でステージがおこなわれた。
また、観客席に向け180度の放射状の格好で作られたものとなっている舞浜アンフィシアターのステージも、見え方としてまた違った趣向が感じられ、普段ではなかなか見られないプレミアムなステージとなった。そんな特殊なステージ環境で敢えてライブを披露するという秋田には、この区切りを迎えた一年への、何か特別な思いがあったに違いない。今回はそんな彼のステージを以下にレポートする。
寄り添うようでもあり、希望を見出してくれる歌
シンセサイザーやストリングスの浮遊感のあるサウンドがBGMとして流れていた、スタート前の会場。心なしか、よくあるライブステージ前のような、ライブを待ち望んでいる若者たちの活気は、会場にはそれほど見られない。どちらかというと、何かクラッシック鑑賞の会場のよう、その音楽に心ゆくまで浸りたい、会場に訪れた観客の表情には、そんな思いが垣間見られるようでもあった。
そしてスタート予定時間を5分ほど過ぎたころ、不意に会場が闇に包まれると、客席からは拍手の音が響いた。ステージを取り囲む紗幕。その中心には秋田の登場を待ち構えるような椅子が、一つ置かれていた。そこに帽子をかぶった秋田が登場、かすかにチューニングを行うギターの音を控えめに響かせたのち、ギターをかき鳴らし「夏を待っていました」からステージを開始した。
その歌声は、聴く者の耳をとらえて離さなかった。秋田が特にスタートのアピールをしたわけではない、特に観客の表情を見ているわけではない、ただギターをかき鳴らし、歌を歌っているだけ。それだけのはずなのに…少しハスキーでもあり、伸びやかでもある。さらにサビで見られる、少しがなったような、叫びにも聴こえる声。「絶望の中から希望を見出す、辛辣な詩世界を持つ」というamazarashiの詞の世界観が、弾き語りというスタイルで余計に鮮烈な像を描き出す。とある物語のようでもあり、反面、聴く者に寄り添うようでもあり、そして最後には希望を見出してくれる、後押ししてくれるような世界観である。
「すごくきれいなハコですね。今日初めて来て、ビックリしました」少ししわがれたような声で語る秋田。一人称を「わい」と語るその素朴さが、さらに歌のイメージを、自分自身をそのままさらけ出したような、真に迫ったイメージに塗り替えていく。まさしく観客は、その歌の中に浸っているだけ、生々しくも優しさを感じさせるその歌を歌い上げる度に、惜しみない拍手を送るしかできない。それほどまでに皆、秋田の歌に引き込まれているようでもあった。
鮮烈に表現された、断片的でない深いもの
「今年も、もう12月でいろいろあったなという感じですけど、良いことも、大変だったこともすごく多くて、すごく思い出深い一年になった気がします。ネガティブなことも、新しい出会い、いろんな出会いがあって、いろんな感情が生まれ、それが新しい曲になったりするので、それはそれで良かったかなと思っています」ライブ中盤、秋田はこの一年を振り返った。
そして、そんな情景を振り返ったような曲であるという「命にふさわしい」を披露。激しくドライブするようなギターに激情をぶつけるような曲に対し、ゆったりしたようなストロークのギターの音と、朗々としたカラーも感じさせる歌が、聴く者の感情をさらに引き込んでいく。
10曲目の「フィロソフィー」からは、amazarashiの豊川真奈美(Key)がキーボードのサポートとして登場。ピアノの音色とギター、そして豊川のコーラスが入っただけで、バンドスタイルのamazarashiのイメージにグッと近づいてくる。しかし、それでも耳から体の芯に染み込んでくるのは、秋田の声。いや、単なる声だけではない。彼らの持つ「辛辣な詩世界」、その詞に表現された複雑な感情を、そのままなぞるようなその声が、聴く者の耳だけでなく意識も感情もとらえて離さない。秋田が2〜3年前に作ったという未発表曲「夕立旅立ち」あたりから、豊川が入ってアグレッシブさも見せ始め、観客は変わらずじっと席に座ったままステージを見ているものの、拍手の音は確実にボリュームを増して、熱気すら帯びているようにも感じさせた。
ステージもクライマックスに近づいてくると「せっかく豊川も来ていることだし」と、懐かしい曲として「光、再考」、さらに「自分ではそうは思わなかったけど、皆さんに名曲にしてもらった」という曲「僕が死のうと思ったのは」へ。
そして、ラストナンバー「悲しみ一つも残さないで」と、時に寂しい雰囲気を感じさせながらも、新たな一歩を踏み出したいと思わせてくれるような、爽快な物語を読み聞かせる様に歌い上げる。秋田は、盛大な拍手が巻き起こる中「ありがとう、また会いましょう」と言葉を残し、ステージを去った。
中盤で披露された「ライフイズビューティフル」について、秋田は「昔、東京でバンドをやっていて、そのダサいバンドだったけど、その時は人生を賭けてやっていました。今は疎遠になった仲間もいて、そんなことを思い出しながら作りました」と語っている。そんな昔話を辿ったような物語であるこの曲で、サビで<人生は美しい>いう言葉を高らかに響かせる秋田の声には、何か感情に強く訴えられるものを感じた。
薄暗い会場の中、照明を当てられない秋田の表情は、全く見えなかった。しかし彼の歌声は、その表情、感情を想像させてくれるようなイメージを、ステージのスタートからエンディングまでずっとアピールしているようにも感じられた。アルバムで聴かれる、バンドサウンドでの彼らのサウンドも印象的だが、この日のステージは、これまで彼らが作り上げてきたものが、美しいとか格好良いとか、そんな断片的なものではない、もっと深いものを表現した結晶であることを表しているようでもあった。
セットリスト
『amazarashi 秋田ひろむ 弾き語りライブ 理論武装解除』 2017/12/6 千葉・舞浜アンフィシアター 01. 夏を待っていました |
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