良いきっかけになった、春畑道哉 テーマ曲作りで得た新たなもの
INTERVIEW

良いきっかけになった、春畑道哉 テーマ曲作りで得た新たなもの


記者:桂 伸也

撮影:

掲載:17年12月14日

読了時間:約11分

 ギタリストで作曲家、音楽プロデューサーの春畑道哉。TUBEのギタリスト、コンポーザーはもちろん、TUBEと並行しておこなってきたソロ活動でも高い評価を集める。そんな春畑が、1月から海外ドラマ専門チャンネルAXNで放送される『リーサル・ウェポン』シーズン2のテーマソングとして、新曲「【Re:birth】」を提供、配信リリースする。春畑は今回のプロジェクトは自身のソロ活動で「良いきっかけになった」という。それはなぜだろうか。【取材=桂 伸也/撮影=遠藤真樹】

はじめに

 TUBEのギタリスト、コンポーザーとしてはもちろん、TUBEデビュー後に並行して始めたソロ活動としても高い評価を集める春畑は、多くの楽曲提供やプロデュース、そしてソロアルバムリリース、Jリーグのテーマソングを手掛けるなど、日本を代表するギタリストの一人として、変わらぬ注目を集めている。昨年リリースしたソロアルバム『Play the Life』は、インスト・アルバムにもかかわらず大ヒットを記録し、異例のチャートアクションを見せて、話題を呼んでいる。

 そんな春畑が今回、テーマソング制作にチャレンジしたドラマ「リーサル・ウェポン」は、80年代に俳優・メル・ギブソン、ダニー・グローバーのW主演にて制作された映画のリメイク版。過去に愛した女性を失い、いつまでもその悲しみを胸に潜めている、型破りな男リッグスと、恐妻家で家族思い、定年を間近に控えているマータフという二人の凸凹刑事コンビが織りなす痛快アクションをそのままに、構成や時代演出を現在に近づけ、見ごたえのあるドラマとして生まれ変わっている。

 このアクションドラマに対し、コンポーザー、ギタリストとしてエキスパートの春畑が、ドラマから春畑が受けた印象とは? そしてどのように楽曲作りに取り組んだのか? インタビューで探ってみた。

「より良くなりたい、一歩前進したいと思う気持ち」からのタイトル「【Re: birth】」

――今回、海外ドラマ版の「リーサル・ウェポン」をご覧になった感想をお聞かせいただけますでしょうか?

春畑道哉

 痛快、爽快、スピード感。見ているとスッキリする感じですね。毎回一話完結で、その中で友情や家族愛とか、いろんな要素が詰め込まれている。だから今回、エンディングテーマを担当させて頂くとなった時に、その一曲の中にいろんなものを詰め込もうと思いました。

――ストーリーのもととなった映画版もご覧になったということですが、今回ドラマ版ならではの魅力とは、どのようなものだと感じられましたか?

 やっぱり映画版よりもより現代的で、流れる音楽も今風のもの、CGの映像も綺麗で、映画版よりかなりスタイリッシュに感じました。また主役のリッグスのキャラクター性を、映画版とドラマ版で比較すると、メル・ギブソンの演技には「あれ? リッグスってこんなにも女性に声を掛けていたっけ…?」と(笑)。

――そうですね、映画版のメル・ギブソンのイメージは、もっと爽快でカラッとした感じ、ドラマ版ではちょっと暗いかな?という感じがありますね。

 でもちょっと闇を抱えている、現代版の“悪そうな奴”という感じは、新しいシリーズのイメージとしては合っていると思います。今、映画版のメル・ギブソン風が来ると、ちょっと古いかな、と(笑)。

――楽曲についておうかがいしたいのですが、今回楽曲を作られる上で、タイトルを「【Re:birth】」としたのは、どういう思いからでしょうか?

 ドラマを見て感じたのですが、より良い自分になりたいとか、一歩前進したいという思いって誰にでもあると思うんです。それとやっぱり「リッグスに立ち直って再生してもらいたい」という思いですね。「過去の悲しみから脱却して、前向きに生まれ変わる、あるいは再生できる」、そんな気持ちを込めて【Re:birth】としました。

――楽曲を制作される際に、ドラマからインスパイアされた部分をおうかがいできればと思うのですが、たとえばこういったドラマを見られた際に、春畑さんはどのような部分が、自分にとってはインスパイアされることが多いのでしょうか?たとえば「リーサル・ウェポン」でいえば?

 そうですね…やっぱり爽快感、痛快感というところ、それもあるけど、やっぱりジ~ンとくる人間ドラマの部分というか。たとえばリッグス、マータフの二人の友情とか、家族の話であったり、相手のためにも超危険なところに飛び込んでいっちゃう、などと、感情が動いていくようなところはジーンと来ますし、好きですね。

――ストーリー的に、一番落ち着くようなところですかね?

 うん、ただ暴れているだけだと、多分このストーリーにここまで惹かれなかったかもしれないですし。また、ちょっと人情噺みたいなところを引っ張りすぎないのがいいなと思う。たとえば泣くシーンが、長時間続かないし(笑)。サッと切り替わって次のシーンでは笑わせる、みたいな。その意味では、この作品はテンポ感もバランスもいいと思います。

激しい銃撃戦から、人情噺。すっかり引き込まれた「リーサル・ウェポン」からのインスパイア

――曲作りの過程についておうかがいします。「【Re:birth】」を聴かせていただいて、率直に”ギタリストの方の楽曲だな”という印象がありました。ギターの音が全編に出ていて、すごく攻める感じというか。イントロからこういった攻めた感じで行こうと決めたのは、何か理由があるのでしょうか?

春畑道哉

 やっぱりドラマの冒頭シーンは、大体大犯罪がすぐに起こるじゃないですか(笑)。スピードと爆発、そういう危険でスリリング、スピーディーであるというのがまず、すぐイメージができましたね、そのイントロのギターリフとああいったところが重なると。あと実際に、銃撃戦の音とか、パトカーの音とか、薄く「【Re:birth】」の中に入れているんですけど、ギターかパトカーのサイレンの音かわからないような感じにしていたりします。

――今回の曲は、ドラマを見ながら、そのシーンからイメージされたものを作っていかれたということですが、それは全体のイメージから作られたのか、それともパーツごとにイメージして作り上げ、それをまとめられた格好なのでしょうか?

 後者ですかね。まあドラマは楽しんで見ていたんですけど、どういうシーンを曲にしていくのかという気持ちでやっぱり何話も見ていました。だから、曲作りのために見ていたけど、ただ楽しんで見終わっちゃった、みたいなのがしばらくあって(笑)、「面白い、次観よう…あ、曲を作っていない」みたいな(笑)。半分くらい見たころから、やっぱり冒頭の銃撃戦というシーンが多いから、まずはこのリフだな、って。

――様々な要素を楽曲に入れることに対して、逆に制作する過程で「ここがうまく繋がるかな」という懸念はありましませんでしたか? それぞれの要素が制作過程でうまく繋がっているところが印象的ですが、それは難しかったのではないかと想像しました。

 確かに。ただ、ドラマでもいろんなテーマを取り扱っているけど、それがスピーディーに入れ替わっていて、結果爽快に1時間でストーリーを見せている感じなので、同じように一曲に盛り込んでみたのは、やってみてなかなか面白い仕上がりだなと思いました。

――こういうロック色が強いインスト楽曲のほうが、春畑さんとしては作りやすいほうなのでしょうか?

 作っていて楽しいですね、やっぱり。歌モノじゃないから、本当に自由だし。これで歌詞をつけるとなると、また非常に悩むと思うんですけど…特に今回のように、ストーリーからインスパイアされた多面性を、楽曲に中に盛り込むような場合は、やっぱりインストのほうが、いろいろできると思います。

――歌詞をつける曲と、ギターのインストとして作る作り方は、やはり意識も変わってくるのでしょうか?

 変わりますね。歌だと、音域としゃべる速度の制限がありますけど、インストだとキーも音域も、速度も思いのままですから。

――逆にインスト楽曲でテーマを作る時に、イメージ作りという点で難しさはありませんでしたでしょうか? 近年海外ドラマの日本語版で、日本語版の主題歌にボーカリストによる歌モノ楽曲が挿入されるケースがよくありますが、そういった例に対して、今回はインストでチャレンジということに、どうアプローチするかというプレッシャーみたいなものは?

 いや、それはないですね。ひたすらワクワクしていたので、特にプレッシャーみたいなものは。楽しませていただきました。

自身の転機になったかも?こだわり抜いた制作

――この「【Re:birth】」の制作は、どのくらいの時間を掛けて作られたのでしょうか?

春畑道哉

 2カ月くらいですかね。結構時間を掛けて作りましたね。何回もやり直して、ミックスまでできた段階で、車の中で流して聴いてみたら“もっとこうしたいな”と思うところが出てきてスタジオに戻ったりして、何回もやりました。

――それは、コンセプトの部分よりは、細かい部分の修正というところで?

 そうですね。大まかには、最初にスタジオに入った時からほぼこの方向でした。でも細かい部分については、もう自分にしかわからない程の小さな訂正が繰り返されているというか。多分その修正前、修正後を聴いてもらっても「どこが違うの?」とか言われちゃうような(笑)

――今回の作品に関して、ここ特にというか、普段だったらこういう音は入れない音を入れているとか、普段されていないことをしているというチャレンジなどはありましたか?

 たとえば普段使わないようなドラム音源を使ったことですかね。歌モノであれを使うと、ちょっと歌に集中できなくなっちゃうような(笑)ドラムの激しい音とか。サイレンや爆破音も普段使わないし。いろいろ使いました。珍しい音源を。

――それはどこかのメーカーのリズムボックスか何かでしょうか?

 一つの機材や音源じゃないですね。いろんな音源を持って来ています。組み合わせているんです、単品でキックの音とか、あるいはループの中の、“このハットとこのハットの音”みたいな“何の音かわからないけど、この部分だけ”みたいなものを切り取ったりもして、使っています。

――かなりのこだわりですね。普段の音作りでも、そういったことはされるのでしょうか?

 よくやっています。たとえば“鉛筆をテーブルの上に落とした音”が気に入れば、それもサンプリングして使ってみたり。結構ソロでの制作では、そういうことをやるのが好きですね。それとギターは、一番新しいフェンダーのギターで、ほぼ録り切りました。

――また「【Re:birth】」のフレーズで、春畑さんが気に入っているフレーズや箇所はどのようなところでしょう?

 言葉での表現が難しいのですが…たとえば感動的な部分が長時間続くと、ちょっと言い方は悪いけど、感傷的になってしまうと思うんです。だから曲の制作もギターの泣きの部分のバランスを、抑え目にしたというか。サビで「感動的なコード進行とドラマチックなもの」みたいなものにはせず、前向きなメロディーにしてポジティブな曲に仕上げることができたと思っていて、そこは気に入っています。もっと全体が泣けるドラマだったら、そういったバランスもまた変わってくるのではないかと思いますが。

――エンディングも印象的な感じですね。完全に終わらせないで、途中でサッと切る感じというか。先の展開を予見させるような感じもあります。

 そうですね。リフは“悪そうな”感じなので、ビクッとする感じがいいかなと思いましたので、サッと切ってみました。確かに予見する感じというか…「【Re:birth】2」も作れますね(笑)。

――ガンガンに攻めている感じの中でも、ギターのメロディーには強い印象も感じました。メロディーは、どのように作曲されているのでしょうか?

 作曲方法は何パターンかあるんですけど、結構多いのは、五線紙にいきなり書いていく方法。その他には、たとえば今回の曲みたいなギターリフ主体のものだと、ギターを持って“ああじゃない”“こうじゃない”という感じで。今回だと普通のチューニングじゃない、6弦を全音落として、より重低音のワルそうな感じのリフみたいなのを作る方法とか。あとはピアノでメロディーを考えることもある。曲によってですね。

――今回のエンディングテーマを制作されたこと自体への所感などはいかがでしょうか?

 このテーマを作らせて頂いたことで、自分のソロの活動や作品の中でも、また少し新たなものが作れたと思っています。自分の最新作でもあるし、すごく愛着がわいています。こういう世界観をこれからももっと広げて、アルバム作りに繋げていきたいとも思うし、ソロ活動の中でも一ついいきっかけになったかもしれないです。

――新たな転機になった、ということでしょうか?

 かもしれないですね。

――次はこんなことをやってみたいなことはありませんでしたか?

 今回とても楽しかったしとても良い経験をさせて頂いたので、今後はもっと踏み込んで、たとえば映画やドラマの構成考える段階から「こういう音楽があったらいいねえ」と、最初から音楽制作に関わらせていただけることが出来たら、また楽しいだろうなと思います。

――チャレンジ精神旺盛ですね。春畑さんは30年以上も活動を続けられて、新しいこともどんどんチャレンジされている印象ですが、春畑さんに憧れているギターキッズたちに、ワンポイントアドバイスをいただけますでしょうか?

 どうでしょうか…やっぱり、まずは好きなことを決めて、ひたすらやり続けるというか。好きなことがハッキリしたら、それを毎日向上させていく、その繰り返しを行うことが大切だと思います。

<放送情報>
海外ドラマ「リーサル・ウェポン」シーズン2 海外ドラマ専門チャンネルAXNで、どこよりも早く日本初放送
【HD字幕版】2018年1月21日(日)10:00PMスタート
【HD二ヶ国語版】2018年1月22日(月)11:00PMスタート
※エンディングテーマは、二ヶ国語版の放送後に流れる。

<海外ドラマ「リーサル・ウェポン」シーズン2 エンディングテーマ 楽曲情報>
春畑道哉【Re:birth】 2018年1月22日配信リリース

※タイトルには 【  】 も含む
※【Re:birth】の「:」は長 (発音記号)が正式表記

春畑道哉オフィシャルHP
http://www.sonymusic.co.jp/artist/MichiyaHaruhata/

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