音楽だけ燃費が悪い、イトヲカシ 秘めたエネルギーを曲へと燃焼
INTERVIEW

音楽だけ燃費が悪い、イトヲカシ 秘めたエネルギーを曲へと燃焼


記者:村上順一

撮影:

掲載:17年11月02日

読了時間:約12分

 伊東歌詞太郎、宮田“レフティ”リョウによる二人組音楽ユニットのイトヲカシが11月3日に、3枚目となるシングル「アイオライト/蒼い炎」をリリースする。「アイオライト」は俳優の山崎賢人と、女優の広瀬アリスが出演する映画『氷菓』の主題歌。「蒼い炎」はTVアニメ『ブラッククローバー』のEDテーマという両A面シングル。作品と自身たちの共通点を見つけ制作していったという「アイオライト」は、主人公の折木奉太郎の信条である“省エネ主義”と自身を重ね、作品に落とし込んだという2人。伊東は「音楽だけ燃費が悪いだけで、それ以外のことは省エネ」と音楽に多大なエネルギーを使っていると語る。「アイオライト」というパワーストーンをキーワードに、自身の体験談や、音楽に対しての捉え方など2人に話を聞いた。【取材=村上順一/撮影=冨田味我】

どこまで行っても不安な気がします

伊東歌詞太郎

――全国ツアー『イトヲカシ second one-man tour 2017』を終えていかがですか?

伊東歌詞太郎 自分の中では全公演100点を狙ってやっていました。その中で16公演16種類のライブがあったと思いますが、お客さんに対して100点のライブができていたということは変わらないと思います。手紙でもらったメッセージやライブで向き合うお客さんからもらった思いから、常に考えさせられて自問自答して、成長に繋がった3カ月でした。

宮田“レフティ”リョウ たくさんの気づきがあったツアーでした。常に考えていかないと、というのは僕も同じで思考停止したら終了だと思うんです。今回はアルバムの曲をリリース前にどんどんやっていく、というツアーだったので、お客さんの反応も凄く新鮮でした。「この曲はこういう風に食べてもらえるんだ」という感じで。

――フェスなどにも出て、去年とは違いますか?

伊東歌詞太郎 そうですね。一年間で状況は変わりますね。去年と今とでは考えていることも、感じていることも全然違います。自分達の音楽を聴いてもらえる機会は増えたけど、好きになってもらえたかどうかということは、僕としてはまだ見えてきていません。だから、メジャーデビューをしたからといって油断してはいけないと思いました。しっかりと自分達の足と声と手で伝えていくということを、おろそかにしてはいけないなと。

フェスに呼んで頂けることはありがたいですけど、そこでしっかりと、初めて僕達を観てくれた人に自分達の音楽を好きになってもらうという、いつまでもチャレンジャーだなと思いました。それがこの1年間の結論です。

――それをやめたら駄目かもしれませんね。常にチャレンジ精神というか。

宮田“レフティ”リョウ やっぱりずっと焦っているし、どこまで行っても不安な気がします。そういう話を50歳くらいの音楽プロデューサーの方とすると「俺も今、不安だよ」と仰っていて。そこまで行っても不安だと言ってもらえると、逆に安心するところもあるんです。この不安だという感覚は間違っていないと思うので。いつも不安だし、いつも渇望しているし、それがなくなったら、それこそ思考停止しているのと一緒かなと思って。

――3rdシングル「アイオライト」は、どんな作品になりましたか?

伊東歌詞太郎 作品の題材を与えて頂いて書いたので、映画の世界観とイトヲカシを“両立させる”という考え方ではなく、一致する場所を探したところ、折木奉太郎の省エネな生き方にリンクしました。

我々も自覚があるんですけど、音楽だけが燃費が悪いだけで、それ以外のことは省エネだと。今は音楽が人生という感じだけど、仮に音楽を自分の人生から無くしたときは凄く省エネだと思うんです。例えば、恋愛で言うと自分は恋愛をしにくいタイプだと思っています。本当は感情の振り幅のある人間なのですが、音楽のために色んなものを省エネにしちゃっているんじゃないかなと、それがイトヲカシだなと感じています。

宮田“レフティ”リョウ 振り幅はやっぱり持ちたいです。その感情が大きく動いた回数は人生の豊かさに繋がっていると思っているんです。音楽にはそれが多分にあるから、満たされています。そこ以外でも持っている人はいっぱい持っているのに俺は持っていないな、みたいなことを考えるとちょっとヘコむこともあります。

伊東歌詞太郎 常に音楽に繋げて考えてしまうんですよね。映画を観ているときもジョギングをしているときも。でも、その考えに誇りを持っているところもあります。でも、もっと色んな種類の角度が欲しいんだよね?

宮田“レフティ”リョウ そう。色んな種類を持った方が人生得なんじゃないかと思いまして。

伊東歌詞太郎 だから、折木奉太郎の気持ちはよくわかるんです。それが今回の「アイオライト」という曲では“僕ららしさ”というものと折木奉太郎の評価の世界が合致する部分だと思います。でも、そんな折木奉太郎も、千反田えるに会って変わっていくんです。それって、僕らが音楽をやり始めたことと通じるから、作りやすかったです。

――千反田えるを音楽に重ね合わせた?

伊東歌詞太郎 ある意味そうですね。そのへんの歌詞を書いていたときは折木奉太郎の気持ちに没入していました。千反田えるを音楽に喩えて、という気持ちでは書いていないんですけど、結果としてそういうことになったと思います。

多くの人に歌を伝えるために生まれてきた人

宮田“レフティ”リョウ

――“アイオライト”という石はあまり一般的ではありませんよね?

伊東歌詞太郎 僕らも実は知らなかったんです(笑)。原作とアニメがこの作品にはあるんです。米澤穂信先生の本が大好きだから、原作をもちろん知っていたし、アニメも見ていたので両方見ていました。今回は『氷菓』という世界観を表したときに、主人公の千反田さんは外せないので、あの目が印象的に描かれていたアニメからアイディアを持ってきました。
あの目に見つめられちゃうと、折木奉太郎も「しょうがねえなあ」みたいな。映画でも、そこは原作の世界観にプラスされていると感じました。

――アイオライトの実物は見ました?

伊東歌詞太郎 パワーストーンは相当好きなんですよ。原宿のコスモスペースという石屋さんによく行きます。そこで気にはなっていました。

宮田“レフティ”リョウ 僕も石は結構好きです。軽石とか握ってるとツボが刺激されて(笑)。

伊東歌詞太郎 確かにそれはある。

――パワーストーンは、何となくお2人は好きなのかなというイメージはありました。占いなどもお好きだったり?

宮田“レフティ”リョウ 僕は一度、姓名判断をしたことがあります。そうしたら、「う〜ん、今は全部コレで出来ちゃうからね!」とスマホを出されました。じゃあここ来た意味ないじゃないかみたいな(笑)。

――姓名判断アプリですね(笑)。

宮田“レフティ”リョウ これでタロットもやろうか? って(笑)。

伊東歌詞太郎 占い師は人によるよね。僕は占いって、カウンセリングを占いという何かにコーティングしているんじゃないかと思っている時期がありまして。その時に何人かの占い師と僕は勝負をしてしまったんです。

「これってこういうことですよね?」みたいなことを言っていたら、「わかりました。師匠の所に行ってください。私達ではお手上げです」と。それで、その師匠の所で占ってもらったら、その人は「君は占いが必要ないから大丈夫だよ」と言って頂けて。

――確かに占いには、そういった側面はあるかもしれないですね。

伊東歌詞太郎 でも、沖縄のユタ(※民間霊媒師・シャーマン)という人達に、僕は何も言っていないのに、「ああ、そんなに歌が好きなんだ君は」と一言目に言われたんです。もう少しあなたが見たいからということだったので、名前を言ったら、「稀にいるんだよね。あなたは生まれたときに使命が決まっている人で、多くの人に歌を伝えるために生まれてきた人だから凄くわかりやすい」と言われました。

あと北部の方に占いとかではなくて千里眼という能力を持っているユタの方がいて、近い未来が見えるそうなんです。そこで名前を書いて見せたら「ああ、使命が決まっている人ね」と、全然違う場所なのに同じことを言われました。何かユタ同士のネットワークがあるのかもしれないのですが…。

宮田“レフティ”リョウ 俺LINEしたもん。「ミュージシャンが来ますよ。そいつは歌が好きですよ」って。

伊東歌詞太郎 お前か(笑)。

伊東歌詞太郎 でも、そのユタの人達の言うことは素直に受け取りました。その人達は僕が言っていない情報までバシバシ言い当てるんですよ。

――そこまで当たるのでしたら、“歌う使命”ということも信じた方が良さそうですね。

宮田“レフティ”リョウ 本物は絶対いると思います。たぶんピンキリなんですよ。

伊東歌詞太郎 どの職業もそうかもね。

宮田“レフティ”リョウ 本質に触れているかどうかというところです。僕らも音楽の本質に対してまだ自問自答していますけど。

感じて欲しいことは一音一音ではない

イトヲカシ

――サウンド面に関してはどうでしょうか?

宮田“レフティ”リョウ 今までのスタンスはブレないようにして、千反田えるに会って折木奉太郎の心が加速していくスピード感、彼女の持っているきらめきをサウンドにできたらなと思って音作りをしました。

――ポイントとなる音はどのあたりに?

伊東歌詞太郎 編曲は曲全体の一つということで表現しているので、そこだけピックアップすると、もしかしたら、曲から感じて欲しい僕らが言いたいこととは別のものが伝わってしまうという、怖い気持ちもあって。ポイントは敢えて一部分ではなく、全体です。

――部分的に注目するよりも、全体として聴いてもらった方が良い?

伊東歌詞太郎 僕らとしては、そっちの方がいいです。細部にこだわるミュージシャンも正解だと思うんですけど、僕らは王道の音楽で、感じて欲しいことは一音一音ではないというところを考えてやっています。

宮田“レフティ”リョウ もちろん一音一音に根拠があって、そこはたくさん説明したいんですけど、それを説明しちゃうと、その部分ばかり聴いてしまうというところで。そういう聴き方は一つの楽しみ方だからいいんですけど、それが主体になってしまうとね…。

伊東歌詞太郎 取材でそう書いてあったとなると、そういう耳で聴くようになってしまって、幅を狭めてしまうかなと。そうなってくると、この曲はこの音があるから素晴らしい、という聴き方になってきちゃうんです。それはマイナスになるなと、この一年間で思いました。

――多くを語らずとも、曲をどう聴くかはリスナーに委ねる部分ですね。

伊東歌詞太郎 そうです。そうしていきたいんです。

宮田“レフティ”リョウ 難しいですよね。ミュージックってマジックと同じだと思っているので、その種明かしを言っちゃっているのかなという感じもあります。

伊東歌詞太郎 編曲の一音一音はメロディのためにあるかもしれないし、歌詞は編曲の音に対してのリンクだから、一カ所をピックアップというのは本意ではないかなと、僕は思っています。SNSで一部分の感想や評価を発信されて、「そう聴かなければならない」といったイメージが付くことはあまりよくないのかなぁと。

内に秘めた想いが実は一番熱い

イトヲカシ

――「蒼い炎」はTVアニメ『ブラッククローバー』EDテーマですが、この曲も作品と自分達の共通点を探すところから始めたのでしょうか?

伊東歌詞太郎 そうですね。

宮田“レフティ”リョウ この曲自体は、タイアップのお話を頂く前から、僕達の膨大なストックのライブラリーの中にあった曲なんです。その曲たちにはやっぱり愛情があって、どうにかしてアウトプットしていきたいという気持ちがあるんです。

――出番を探しているんですね。

宮田“レフティ”リョウ そうです。お話を頂いて本を読み込んでいく中で、この曲はこの作品の世界観に合致するんじゃないかということで、「この曲はどうでしょう?」と提案させて頂いたら、アニメ制作側の方も凄く気に入ってくれたんです。

伊東歌詞太郎 作品をしっかり読み込んだら、メチャクチャ面白かったです。主人公は才能がないと言われていて。魔法が主体の世界なんですけど、彼は魔法が一切使えないのですが、「魔法帝」という王様になりたいという目標があって。みんなに魔法が使えないのになれる訳がない、と笑われてしまって。でも、彼はまず己の肉体を鍛えるんです。人よりも何倍も努力して、魔法では不可能であったことというのを、彼が魔法を使わずに奇跡をどんどん起こしていって、どんどん勝ち上がっていくサクセスストーリーで。

これって、多くの人が抱えている状況と同じじゃないかなと考えました。才能があるかどうかなんて、まず誰も言ってくれないんですよ。天才を天才と気付かせない人も多い世の中だから、例えば凄い才能を持った人に周りが「お前は才能ないよ」って逆のことを言ったりもしますし。天才に天才と気付かせたら癪な人もいるんでしょうね。

――確かに“出る杭は打たれる”という風潮はあるかもしれませんね。

伊東歌詞太郎 僕はそれを色んな経験から感じているんです。そのときに『ブラッククローバー』の主人公はかっこいいなと感じたんです。「蒼い炎」は“教室では輝けない人”を描きました。教室って、そこにいるときは世界の全てだと思うけど、教室の外にはいくらでも世界が広がっています。

例えば、僕達は中学、高校の頃から音楽をやっているんですけど、基本的に学校の中で輝くものではないんですよね。放課後にスタジオ、ライブハウス、こういうところで僕達は輝いてきたので、ある意味“学校で輝く才能”が全然ないというか。そこに重ね合いました。

僕的には『ブラッククローバー』の主人公は天才だと言いたいです。でも言われないんだろうなと(笑)。このまま努力を続けていって魔法帝になって欲しいという気持ちと「蒼い炎」がリンクしました。

――「蒼い炎」というタイトルの意図は?

宮田“レフティ”リョウ 炎は青と赤があるけど、赤の方は目に見えて熱いイメージがあって、「赤い炎」というのがフィーチャーされると思うんですけど、実は青い炎の方が温度が高いじゃないですか? 内に秘めた冷静の中の情熱は青い炎の中に宿っているというところです。

伊東歌詞太郎 実際に火の温度を上げていくと、赤から青に変わっていって最後は透明になって見えなくなるんです。だから青い炎、見えない炎の方が温度が高い。学校では、わかりにくい内に秘めた想いが実は一番熱いんだぜ、ということが言いたくて。タイトルの漢字を「蒼」にしたのも、「青い炎」にしたら何か直接的になってしまうかなと。だったら、かっこいい方の「蒼い炎」にして。どうせなら「炎」も「焔」にしようかと思ったけど、それはやりすぎかと思って(笑)。

――“焔”でもアニメチックで良いですけど(笑)。

宮田“レフティ”リョウ 中学生の頃に、自分の名前の漢字をあえて難しくてかっこいい漢字にしたことありません? それです(笑)。

伊東歌詞太郎 これが一番バランスが取れているかなと思いまして。

――そういうところでも上手い具合に引き算をしたのですね。

伊東歌詞太郎 そうなんです! 1年間かけて大人になってきました(笑)。

 

作品情報

3rd SG「アイオライト/蒼い炎」

11月3日リリース

<CD+DVD>1700円(税込)
<CDのみ>1000円(税込)

収録曲:

01.アイオライト
02.蒼い炎
03.アイオライト(Instrumental)
04.蒼い炎(Instrumental)

DVD収録内容:

「アイオライト」Music Video

ライブ・イベント情報

<リリースイベント>

11月4日 タワーレコード名古屋近鉄パッセ
11月4日 タワーレコードモレラ岐阜
11月5日 森ノ宮キューズモール
11月6日 タワーレコード渋谷
11月6日 タワーレコード新宿

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