自分の知らない角度見つけた、BUGY CRAXONE 音楽的代謝を信じて
INTERVIEW

自分の知らない角度見つけた、BUGY CRAXONE 音楽的代謝を信じて


記者:村上順一

撮影:

掲載:17年09月23日

読了時間:約13分

「自分の知らないBUGY CRAXONEの角度があった」と語るBUGY CRAXONEのすずきゆきこ(Vo、Gt)

 結成20周年を迎えた4人組ロックバンドのBUGY CRAXONE(ブージークラクション)が20日に、通算13枚目となるフルアルバム『ぼくたち わたしたち』をリリースした。今年の1月にベストアルバム『ミラクル』で再びメジャーデビュー。今作は今までの考えを改め、ナチュラルに出てきたものだけをパッケージ。すずきゆきこ(Vo、Gt)は「自分の知らないBUGY CRAXONEの角度があった」と言い、感覚や音楽的な代謝を信じて作った結果、芯のあるアルバムが出来たと自信を見せる。20周年で新たな一歩を踏み出したと言えるだろう。さらに、11月19日に開催される『20周年記念ワンマン "100パーセント ナイス!"』について、2000年におこなわれた初ワンマンでのことを振り返ってもらった。

“ゾーン”に入ることだけが全てではない

すずきゆきこ(Vo、Gt)

――メジャーデビュー後の3月から4月に掛けておこなわれた『ミラクルなツアー』はいかがでしたか?

 メジャーといいつつ、もともとよく知っているスタッフの方々と一緒にいたので、あまり感触的に変わったという印象ではありませんでした。ナイスちゃん(ファンの呼称)各位が非常に喜んでくれたりしていることで自覚することが多かったです。とてもいいツアーでしたし、『ミラクル』というベストアルバムを出したことでの良い完結ができたと思います。特に大きなハプニングもなく、手応えをしっかり感じて終われました。

――ライブでは音源で聴ける楽曲のドライブ感が増していますが、そこはいつも意識している部分でしょうか?

 変えているという意識はないのですが、自動的に変わっているというか、音源とライブの距離を近くするのか今のままいくのか、そこはもう少し模索できると思っていて。音源は、曲に相応しい音で録るということに重きをおくし、ライブになるとまた環境は全く違うので、そこでできる最大限の表現となると、フィジカルな音になっていくのは否めないですね。

――ライブのあり方などメンバーと話したり?

 「今日はここが良かった」、「ここはあんまりだったね」など、けっこう喋ります。終わった後に毎回何かしら話をしますね。

――ちなみにライブで“ゾーン”に入ることはありますか? 長くやられているバンドにはそういう特別な瞬間があると聞きまして。

 毎回ではないけど、全部の波長が合っているときはあります。けど、それが全てではないと今は思います。“ゾーン”に入ることだけが全てではない、というか。奇跡的な瞬間というのは毎回長い時間続く訳ではないので。

――“ゾーン”に入るとその瞬間はどんな感じなのでしょうか?

 体が自動的に動いている感じ、体が軽くて演奏が思い通りで伸びやかという感じです。

自分達らしく大人げないものを作ろう

「ぼくたち わたしたち」ジャケット写真

――『ぼくたち わたしたち』の制作はいつ頃から開始されたのでしょうか?

 録音はGWあたりでした。個々で曲を書くことは1年中しているのですが、アルバムの準備をしようという風になったのは、今年から少しずつやっていて、実際にしっかり作業に入ったのは『ミラクル』のツアーが終わってからです。「シャララ」は、地元北海道の報道番組の金曜日のエンディング用に曲を書きませんか? とオファーがあり、書き下ろしました。だから実際に作業に入ったのは3月くらいだったと思います。

――今作は全曲書き下ろしでしょうか?

 もともとあった曲もあります。比較的新しい曲が多くて、昔から温めていたという曲ではないです。

――今の気持ちがダイレクトに反映している作品なんですね。アルバムトータルタイムが33分とコンパクトですが、これは意図的なことでしょうか?

 曲を短くしようという気持ちはなかったのですが、自分でもびっくりしました。これだけ聴き応えがあって、この時間内で終わっているのは、的を得たアレンジができているのだなと思いました。体力的に自然とそうなっているのかな、とも思います。

――確かにタイトル曲の「ぼくたち わたしたち」は2分22秒しかないのに、物足りないという感じはないですよね。この楽曲の着想は?

 今回は20周年ということでツアーをまわったり、ベテランに片足を突っ込んだという感じなのですが、いざツアーをまわったりしていると、自分はまだまだ負けず嫌いなところがあるなと思いました。「まだ全然ベテランじゃないじゃん」と思ったり。だったら、もっと自分達らしく大人げないものを作ろうと思いました(笑)。

 自分の年齢を考えると、若い世代の元気さと先輩達の偉大さのちょうど間にいると感じていて。例えば会社勤めをしていたとすると、凄く絶妙なポジションにいるというか。そういう自分達のことを励ましながらという部分があります。

――自分達への応援ソングですよね。

 いつもそうです。「悪くないよね、自分達頑張っているよね」みたいな気持ち。そういう“同僚”や“同志”だとメンバーで思ってやっているので、そういう人達の励ましのような、寄り添えるような曲、アルバムを作りたいと思いました。

 全ての曲がそういうことを歌っている訳ではないのですが、全体としてのテーマ、歌詞は特にそうですね。「シャララ」は依頼があって書き下ろしたというところで、報道番組のプロデューサーの方と最初に話をしたときに、一週間の最後の金曜日のエンディングで、その一週間の出来事の映像が出るところで流れるので、「良いこともあれば悲しいこともあったけど、また来週も頑張ろうという気持ちに寄り添えるような曲」と言われました。

 自分がいつもテーマしていること、今特にそこを書きたいと思っていることと、重なるなと思ったので、より一層そこを意識したところがあります。だから金曜日の夕方に聴くということは、その時間帯に家に居る人で、ご飯の用意をしているのかなとか。今まで何かを作ってきて「どんな人に聴いて欲しいですか?」と聞かれても「誰に聴いてもらっても嬉しいです」という気持ちでした。もちろん、今もそうなのですが、今回は同世代の人に聴いてもらえて、そういう人達の生活の中に必要な音楽だったらいいなと思いました。

――「シャララ」の歌詞に<未来の前に明日が来るよ>という言葉があって、“明日”は“未来”とは違う解釈なのでしょうか。

 未来という言葉に押されるというか、未来というと凄くおおごとな感じがするなと思ったんです。それよりも、明日って凄く身近で、将来や未来みたいな先々のことに目を置き過ぎて、いわゆる「一番近い未来である明日だって同じくらい大事じゃんね」ということを書きたかった。

――確かに明日は当たり前のことのように感じてしまいがちですからね。2曲目の「花冷え」ですが、これをタイトルにするのはオシャレだなと思いました。

 この曲はギターの笈川(司)君が書いた曲で、歌詞がなかなか書けなくて。あるときに、この曲のギターのオーバーダビングをしている音を漏れ聴きしながら考えていました。昔、笈川君がやっていたバンドで唯一歌詞を書いたことがある曲があって、それが「花冷え」だったということを思い出したんです。私はそのときに生まれて初めて「花冷え」という言葉を聞いて、覚えていて。

――「花冷え」という言葉が印象に残っていたのですね。

 なかなか耳にしない言葉ですよね。天気予報などではたまに聞いたりする言葉なんですけどね。凄く綺麗な日本語なんですよね。

――バンドのカラーにも凄く合っていると思いました。

 笈川君の色が凄く強い曲だと思います。

――この楽曲ももちろんなのですが、笈川さんのギターの音ってあまり歪んでいなくて、いい意味で勇気があるなとも思いました。この音で弾ききるのは実は難しいですよね。

 私はその音に慣れているから、それが当たり前だと思っているけど、確かにそうみたいですね。本人もそれは意識しているところで「歪ませちゃうのは簡単だよね」と。だから面になってしまうような歪み音はあまり聴き慣れないというのもあります。同じ歪みでも、ちゃんと弦が鳴っている歪みです。

――そして、「さーてぃーないん ぶるーす」で出てくる、<ホットケーキを1.7枚食べたい>というのは、またひねくれた歌詞で。

 曲が少しふてくされているように聴こえたんです。そういう拗ねている感じと、不条理に対してどう向き合って良いのかわからなくて、“1.7”みたいな、そういう小難しいことを入れこみました。

――<まるで意味がブー>という歌詞も印象的ですね。

 子供の頃にみんなよく言っていたんです。自分の中で懐かしい言葉で、言葉と曲との混ざりもあって、抜けてくるなと思ったので使いました。

――全体的に作詞はスムーズに進みましたか?

 今回は1カ月でほぼ10曲書いているから、そういう意味ではスピード的には早いです。「花冷え」と「SAY SAY DO DO」は言葉を乗せるのが大変だったので、ちょっと時間がかかりました。でも、いつものタイム感で考えると、全体的に早かったです。

――基本的には自分以外の方が書いた曲の作詞は苦戦することが多い?

 それはあるかもしれないです。自分が曲を書くときはけっこうメロディと同時進行が多いので。歌詞から書いて曲を乗せることもありますし、そういう意味では自分の曲は早いといえば早いです。でも、ものによりますね。

――7曲目の「ベッドの上でさ」ですが、<西友行かない?>ってダイレクトで面白いですね。

 友達が遊びに来ていて夜に喋ったりしていて「アイス買いにいかない?」みたいな時間って、いわゆる幸福な時間だと思うんです。友達がいて、色々ああだこうだ言っているけど、結局ベットに寝転んでマンガを読んでいるみたいな。友達や恋人や、誰かとのんきに部屋で過ごしている時間。

BUGY CRAXONEというバンドを一度離す

すずきゆきこ(Vo、Gt)

――今作はレコーディングで何か新しく取り入れたことはありますか?

 いつも以上に色彩豊かなアルバムにしたいという思いがあって、シンセサイザーや同期なしでどこまでやれるか、ということは意識しました。アレンジとしては「ばっくれソング」の頭でやっている「移民の歌」(*Led Zeppelinの楽曲「Immigrant Song」)のオマージュみたいなこと、そういうことって今まで面白がってやってこなかったなと思ったんです。その辺もせっかくだからやっていこうと。

――気分的には今までよりも余裕が生まれてきている?

 ここ何年かはアルバムを作るにあたって、私が最初に「こういうイメージ」「こういう曲が上がってきているということは、こういう曲を書きたそう」みたいな感じで、逆に「これはもういらない」というように、微調整してコントロールすることが多かったです。でも、20年やってきてベストアルバムも作ったのに、またそれをやってもしょうがないと思いました。

 もう一歩、個々を伸び伸びとBUGY CRAXONEというフィールドに、自分を出したらどんな音楽になるのかを、もう一回見てみたいというのがあって。だから、あまり全体イメージみたいなものを持たずに、ただ1曲1曲を一番良い形で完成できるようにしました。全体像が見えない不安のようなものもありましたけど。

――今まではそこを意識してやっていたというところもあるのですね。

 これまでに比べてミディアムな曲が多いのですが、前だったらミディアムな曲を削って速い曲を作って入れようと言っていたのですが、速い曲が自動的に出来てこないということは要らないというか、自分の体がそういうものを求めていないのだと解釈しまして。

 食べ物なんかも「今これがどうしても食べたい」というものは、そのときに体が求めている栄養素だったりするじゃないですか? それと同じように音楽も捉えて、そう作っていいんじゃないかなと思ったんです。私の個人的なテーマとしてはBUGY CRAXONEというバンドを一度離すというか、変に小さくまとめないようにしてみる、というところがありました。だから完成して曲が並びきるまでは、どこか不安があるというか。

 でも、どんどん出来ていって、最終的に通して聴いてみて「凄く良いものが出来たな」と思ったので、ホッとしたという感じです。自分の知らないBUGY CRAXONEの角度があったというか。

――そういった意味では、1枚目を作ったような感覚もあるのでしょうか?

 そうですね。1stの頃はよくわからずに、とにかく今ある曲をという感じで作って、その作り方をしたことにちょっと後悔したときがありました。だからしっかり全部を把握した上でという作り方を長いこと選んでいたわけです。でも、それを今やっても代り映えしないというか…結局、曲とか中身とか、その1年間の成長が反映したとしても、アルバムの印象は変わらないんじゃないかと思って。でも今回みたいに、自分のイメージをあまり押し付けずにやってみたことで、よりタフになったという感じがあります。

――バランスをみてアッパーな楽曲も入れたくなるというのも、必要とは思いますが、出てきたものをそのまま形にするということは、それだけで勇気が要ることですよね。

 それが今必要だから出てきているのだし、その出てきたものをより良く演奏すればライブだって当然いいんだよと。いつも通りでやって素直にのびのびやって「んん?」って思うのなら「やめちまえよ」って思って。20年もやってたのだから、ちょっと挑戦してもいいんじゃないかと。自分のそのときの感覚や音楽的な代謝を信じて作った結果、歳相応なものが出来たということは心が強くなったし、芯のあるアルバムが出来たと思います。

初ワンマン、何か力及ばずなところがあった

BUGY CRAXONE

――11月19日に渋谷クアトロで開催される『BUGY CRAXONE 20周年記念ワンマン "100パーセント ナイス!"』が近づいてきています。

 クアトロでやるということを決めたときも、いいステップにしたい、次に繋げられる元気がある力のあるライブにしたい、という気持ちは相変わらず強くて。全国から来てくれるという気持ちがあるので、そこは絶対に忘れないというか。20年間色々やってきたことの集大成であり、その先の可能性も感じるライブというのはなかなかハードルが高いけど、ありのままやれば絶対良いと思うんです。だからあまり気を負っていないし、ただただ楽しみです。

――過去のライブで悔しさがあったというのは?

 最初にワンマンをやったのがクアトロだったのですが、形としてはしっかり終わったけど、終わった後に「よし、次に向けて頑張ろうぜ!」というフレッシュな気持ちになったというよりは、何か力及ばずなところがあったよなという感じです。

――反省の方が強かったのですか?

 そうですね。「クアトロって大きかったな」って。でもそれはキャパのことではなくて、届ききらなかったなという意味でそう思いました。力不足だなと思ったんです。メジャーデビューをして、後ろだてをたくさんしてもらっているのだけど、何しろバンドの力が及んでないと思って、悔しい気持ちと申し訳ないなと思う気持ちが、スタッフの方々などに対してありました。弱かったんだなということにどんどん気が付いていった感じです。そこを払拭したいということではないのですが、良い起爆剤になるんじゃないかなと思う。

――リベンジという意識ではない?

 より良くできる、という感じです。

――最初のワンマンライブから17年経って、見える景色も違うと思います。

 せっかくの20年という節目のときに、お祭りとまでは思わないけど「何かまたひとつステップになること」と考えたときに、悔しかったというポイントを飛び越えられたらと思います。

――20周年のライブは思い入れのあるクアトロで、というのはバンドみんなの思い?

 そうですね。みんなに集まって欲しいという思いもあって、いつもより大きなライブハウスにしているのですが、今の自分達で考えたらもっと小さなライブハウスの方が色んな意味で安心だし、例えば下北沢のシェルターも自主イベントを始めた思い入れがあって、節目になった所だから「そこで20周年のライブをやらせてもらうのもいいんじゃない?」という話もありました。でも、メンバーが珍しく「もうちょっと大きいことをトライした方がいいよ」と言ったので、確かにそうだなと思って。

――今から楽しみですね。

 20周年ということで、きっとわざわざ遠くからも集まってくれるし、暫く聴いてなかった、暫くライブハウスに行けてなかったという人も既に来てくれていたりするし、ずっと来てくれている人は、より一層の想いはあるでしょうね。そういう人達が集まってくれる訳だからきっと良いライブになると思います。

【取材・撮影=村上順一】

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