大盛況の一夜となった横浜アリーナ公演

 スピッツの結成30周年アニヴァーサリーライヴツアー『SPITZ 30th ANNIVERSARY TOUR “THIRTY30FIFTY50”』が8月24日、神奈川・横浜アリーナでおこなわれ、大盛況の一夜となった。7月1日の静岡エコパアリーナからスタートしたツアーは東京・日本武道館3DAYS公演を経て、本公演が関東地区最終公演となった。スピッツは1万人超の温かいオーディエンスと一体となり、「ロビンソン」を始めとする往年の代表曲から新曲「ヘビーメロウ」など、ファン垂涎の名曲たちを惜しみなく、たっぷりと奏で、夏の終盤にかけがえのない思い出を刻んだ。

総立ちでスピッツを迎え入れてライヴスタート

草野マサムネ

 湿った天候が続いた今年の夏だったが、横浜アリーナ公演の24日は爽やかな晴天。スピッツ公演への期待感を抑えきれないオーディエンスの数々が会場へ向かう道中、至る場所で笑顔の温かい花を咲かせていた。今夜のセトリ予想、お気に入りの楽曲エピソードと、横浜アリーナ周辺はスピッツの話題でもちきりで、スピッツ・ファンのワクワク感が街を優しく彩っていた。

 吸い込まれるように横浜アリーナへと向かったオーディエンスは、開場直後は客席でにこやかに憩いながら着席して温かい空気を醸すも、スピッツ登場寸前で既に総立ち。笑顔と拍手の洪水。アリーナ席から見渡す限り全席のオーディエンスが総立ちでスピッツを迎えた。30年という永きに渡るスピッツ愛が爆発・歓迎された瞬間のエネルギーたるや凄まじくも愛に満ちた熱量であった。

希有なスピッツ・アンサンブル

三輪テツヤ

 横浜アリーナは瞬く間にスピッツ・アンサンブルに包まれた。草野マサムネのヴォーカルは、音源やTVなどで聴く限りでは意外と気づき難いのだが、非常にパワフルな声量でバンドの主軸を支えていた。

 ドラム、ベース、ギター、鍵盤のアンサンブルで奏でられるスピッツ楽曲は、横浜アリーナを大音量で埋め尽くす、というよりは、“間”や“行間”が適度に含まれた心地良いアンサンブルで、ロックな楽しみ方も、ポップスとしての聴き方も、クラシックのような心酔感も味わえるたいへん間口の広いサウンドを展開させていた。

 崎山龍男のドラムは、ビートとしても、言葉としても感じられるような音使いを魅せ、誰よりもハッスルしたステージングで爽やかに荒ぶる田村明浩のベースラインと同化していた。「息ピッタリ」なのだが、その中に心地良い隙間が見えない音符として散りばめられている点は“スピッツのグルーヴ”の正体であろうか。

 “クランチサウンドの魔術師”とも言えるギターの三輪テツヤは安定したリードギタープレイを放ち、「ヒバリのこころ」でのロングギターソロをしっぽりと聴かせてくれた。“刺さるが、包み込む”という熟練の味を醸すギタープレイを経て、MCへと繋がれた。

何気ない会話のスピッツ感

田村明浩

 草野マサムネのMCは、温かくて、可愛くて、安心感があって、でも常に何かを期待してしまうような魅力があり、オーディエンスをトークでほっこりさせてくれた。しかしスピッツ30周年、そこは気合いの入り方も並ではないであろうという期待に「楽しい夜にするから。俺に任せろ!」という頼もしい言葉で応えてくれた。

 24日の本公演は“1001回目のスピッツライヴ”らしいことを告白し、「新たなスタート、新鮮な気持ちでステージに立っています」という言葉で、節目だった昨日の1000回目のライヴも、今日の1001回目のライヴも共にスペシャルな日であるということを提示し、会場のテンションは急上昇、30周年という節目と、ライヴ公演1000回超えというダブルな記念に祝福の空気に包まれた。

 草野マサムネはメンバーとのトークの要所で、軽く用語説明や概要のフォローを挟む(“マサペディア”と呼ばれていた)メンバー間の空気感も、スピッツならではという空気で何とも温かいものだった。

 MC明けの曲の前に、「この曲が注目された頃は、世間ではこういう曲が流れていました」と、草野マサムネは「ロビンソン」がヒットした1995年に注目された安室奈美恵の曲を1コーラス弾き語りするという一場面があり、ライヴならではの貴重なテイクにファンを湧かせた。そして、日本の楽曲屈指の美しさを持つイントロの「ロビンソン」が会場中を輝かせ、ライヴを再び走らせた。

スピッツの特別なアンサンブル・マジック

崎山龍男

 スピッツライヴは、シンプルなアンサンブルながらも、あらゆる色彩の鮮やかなアプローチで楽曲を表現した。草野マサムネ、三輪テツヤ共に、楽曲毎にベストマッチサウンドのギターに持ち替え、時には草野マサムネがリードプレイでテーマを奏で、時には並んでツインハーモニー・ギタープレイを披露し、広い音域までカバーする田村明浩のベースプレイと崎山龍男の歌うようなドラミングはアンサンブルのマジックを何度も魅せた。

 ライヴで体感する“アンサンブルのマジック”は、言葉ではどうしても表現できない快感を伴うもので、スピッツのそれは、オーガニックで、牧歌的で、温かくノスタルジックな気分に一瞬で浸れるものだった。それは、スピッツが30年間バンドとして走り続けた結果生み出すことができる唯一無二の“ギフト”であり、それがどれだけ心地良いものかは、オーディエンスの表情がこの上なく純粋に物語っていた。スピッツのスペシャルなアニヴァーサリー・ツアーはまだまだ続く。

【取材=平吉賢治】

 ※崎山龍男氏の「崎」は正しくは「大」の部分が「立」。

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