篠崎愛にとって9カ月ぶりとなるシングル「Floatin’ Like The Moon」が6日にリリースされた。グラビアアイドルとして活躍するなか歌唱力が評価されて、16年8月に「口の悪い女」でメジャーデビューした。シングルとしては3作目となる今作は、曲調は異なるものの表題曲、そして「Moment」の両曲とも彼女の歌唱力が活かされた作品となった。なかでも「Moment」は冨田恵一をサウンドプロデューサーに迎えるとともに歌詞を共作。「考え過ぎるタイプ」と語る彼女が新たな一歩を踏み出すために自身と向き合った楽曲だ。性格は「S」と「M」の両極があるという篠崎。本音は出したくないという彼女がこのシングルで表現したものとは。そして「Moment」で現れた内側の部分とは。今作を通じて彼女の本心に迫った。
優しい気持ちに
――幼少期はモーニング娘。さんが好きだったということを聞いたことがあります。
そうですね、大好きでした。歌って踊っている可愛い人が好きなんです。歌詞に共感することもありますが、だいたいは目で楽しんでいますね。最近は平井大さんの曲をよく聴いています。声が好きで、歌詞もいいんです。
――ご自身に置き換えた時にアーティストとしての理想像は?
グラビアをずっとやっていて“癒し系”とよく言われたりするんですけど、歌を聴いて癒されたり、見ているだけで微笑んでしまうような存在でありたいんです。ライブを観に来たり、会いに来たりした時に、ファンの方たちがあったかい気持ちになれる、そんな人になりたいという思いはあります。
実際に、ライブが終わって握手をしたりしていると、「今日も癒された」と言ってくれる人がけっこう多いんです。自分はまだまだだなと思いますが、そう思ってくれる人もいるんだなと考えた時に、そこをもっと突き詰めていきたいなと思っています。
――過去にアイドルグループ「AeLL.」のメンバーとして活動されていました。シンガーになって変わったことはありますか?
全然変わらないですね。正直、今もアイドルだと思っているので、全然変わっていないです。曲調はちょっと変わりましたが、基本的なスタンスは「アイドル」という感じなんです。「ちゃんとファンの方を見よう」とかそういうことは意識しています。
――グラビアアイドルとしての経験が歌手として活かされることはありますか?
わりと同じようなテンションでやっています。グラビアは10年くらいやっているので慣れている感じはあるんですけど、歌はまだちょっとしかやっていないので、凄く考えてしまって「難しい」と感じることが多いです。「どうしたらいいんだろう?」と作品を作る毎に思っていますね。
本当はシャイ
――CMで看護師姿で歌っているシーンが反響がありました。2008年にインディーズで歌手デビューされて、CDとしては2015年に、そしてメジャーデビューが去年ですね。前から歌手になりたいという思いはありましたか?
はい。ずっと前から歌うのは好きで、先ほども話しましたが、モーニング娘。に憧れていたので、オーディションを受けたりしたこともありました。スカウトされてこの業界に入って、グラビアの仕事がたくさんきて、思っている以上にたくさん来て。仕事をやらせてもらっているなかで「歌の活動はできないのかな?」と思っていました。そんな中でアイドルユニットの話がきて、「やってみたいです」と。
――これまでの歌手活動の中で感じることは?
楽しいです。やっぱり歌うのが好きなので。でも一人って本当に難しいなと思っちゃいます。特にMC。どうやって喋ればいいのかわからなくて(笑)。一人で喋って解決する感じになるじゃないですか?
――インタビューにしてもMCにしても?
ファンの方と話したり、という感じもあるんですけど、私のファンの方は凄くシャイで見つめてくる人が多いから、「楽しんでるかな?」って不安になったりします(笑)。でも握手会の時とかに「楽しかったよー!」って言ってくれたりして、「ああ、楽しんでくれてたんだ」って安心します。
――篠崎さんに吸い込まれてしまうんでしょうね。
そうだったらいいんですけど(笑)。見つめられると真っ白になって何を喋っているのかわからなくなったりして、たまにグチャグチャになったりするんです。わりと「緊張しているようには見えないね」と言われるんですけど、頭の中はそうではなかったりするんです。だからユニットのときはみんながいるから凄く安心でした。でも一人になったらずっと喋っていないといけないので、それが大変です(笑)。歌っているだけだったらいいんですけど。
――幼少期から凄くシャイだったと聞きました。
今もめっちゃシャイなんですけど、だいぶマシになりました。たぶん、アイドルユニットをやってから少し喋れるようになったかもしれません。その前はずっと人見知りだったし、人とあまり喋れなかったんです。インタビューも無言、みたいな感じだったんです。緊張して、頭の中では言っているんですけど、声が出ないんです。変って思われそうと思ったら喋れなかったんです。でもたくさんの人と関わるようになって、喋れるようになりました。喋らないと伝わらないですしね。
――歌の方は平気だったんですよね?
もっと遡ったら、人前では全然歌えませんでした。小学生の頃かな…。家で窓を閉め切って外に聴こえないようにして歌っていました。親の前でも歌えなかったんです。でも、いつの間にか人前で凄く歌いたい人間になっていて。カラオケではマイクを離したくない、みたいになっていました(笑)。
――カラオケの番組がありましたが、芸能人の前で歌うのは緊張しませんか?
メチャメチャ緊張します。
――でも音程を外さないでしっかりと歌えますよね?
まあそうですね(笑)。
――それは幼少期に一人で歌の練習をしていたから?
多分、学生になって友達と一緒にカラオケに行くようになって歌ったときに、どこかで褒められたと思うんです。それで自信が徐々についてきたのではないかと。
――CMの反響にしても、カラオケの反響にしても、それらは自分の自信になりましたか?
そうですね。「歌がうまい!」って勘違いかもしれないし、わからないじゃないですか? 友達だからそう言ってくれているのかもしれないし。でもそうやってたくさんの人が褒めてくれることで自信になったんです。
――アイドル活動でもライブを重ねて自信がついていったと思われますが、いざソロとなったときに不安はありましたか?
凄く不安でした。ユニットが無期限活動休止となって、じゃあソロで何をやっていこうかってなった時に、グラビアと歌うことが好きだから、歌の活動も続けようと思いました。でもいざ話が進んでいくと1人であることに不安を感じて「ちょっと辞めたほうがいいかも」「絶対無理」って言ってました(笑)。でも曲が決まって、衣装が決まって、ジャケットが完成して。作品が出来上がっていくにつれて「あ、大丈夫かもしれない!」って。ソロ活動をやっていける気持ちになれたんですよね。
同居するSとM
――ところで、1stシングル「口の悪い女」(2016年8月)はインディーズの頃の曲と比べても一線を画しているというか、男性に三行半を突きつけているというか、サウンド面でも世界観も強烈なインパクトがありました。「口の悪い女」に対してのイメージはどのようなものでしょうか?
本当は違う曲になりそうだったんですけど、直前にこれを聴いて「こっちの方がいい」と言ってこれになったんです。私はどちらかと言ったら「S」だと思うんです。なので、「口の悪い女」は「凄いわかるな」と共感の嵐でした。だから歌っていて凄く気持ち良いんです。
――「S」という話がありましたが、テレビで映る、タレントとしての篠崎さんは「S」という印象です。でも曲やアーティストとして「M」を感じます。本心はどこにあるのかと。
たしかに…(笑)。日によりますかね。「S」なときもあるし「M」なときもあるし。人によりけりです。
――相手によりけり?
そうです。でも、基本スタンスは「S」です。
――実は本心は弱かったり?
奥の奥は「M」かも(笑)。
――「口の悪い女」はその前後には無かった、インパクトのある曲調ですが、この曲を選んだときの心境は?
コンセプトを決めるときに、二面性ということを言っていて、“天使面”や“悪魔面”というか、そういう違う面を出したいという話をしていたんです。グラビアで癒しやカワイイといったことを多くやってきたから、メジャーデビュー第一弾は強い感じ、「色で言ったら黒を出したい」ということを言われたんですけど、来た曲がすごく可愛らしい曲だったんです。色で言ったらピンクみたいな。
この曲だと「黒」は絶対表現できないと思って色々考えている時に、控室のPCからふと流れてきた曲が「口の悪い女」だったんです。インパクトもあるし面白いし「いい!」と思ってこの曲になったんです。だからコンセプトがあってのこの曲なんです。
違うテイスト、「Floatin’ Like The Moon」
――そうしたなかでリリースされた今作「Floatin’ Like The Moon」は女子の恋が芽生えるその時の心境を表現した爽やかなナンバーです。これまでとは一線を画す内容とも思えますが、改めてテーマを教えてください。
1stシングル「口の悪い女」と2ndシングル「TRUE LOVE」(2016年12月)は歌謡曲テイストでやってきましたが、今年3月にリリースしたミニアルバム『LOVE/HATE』で一区切りをさせて、ここからまた新しい感じにしていこうという話になって、今回の「Floatin’ Like The Moon」になったんです。ただ、あまり馴染みのない曲調だったので、声にハマるかなって少し不安だったんですけど、歌ってみたら凄く合っていて、すぐ気に入りました。
――曲調的に歌を前面に出していくよりも、歌声を曲に溶け込ませていく印象を受けました。
そうですね。歌を聴いて欲しいというのもあるんですけど、日々聴いていて心地良い曲というのがいいなと思って、そういうコンセプトもありだなと思って、今回こういうのを出してみたんです。
――こういう「心地良い曲」に至るまでに心境の変化はありましたか?
今までの曲も凄く好きなんですけど、癒したいとか、温かい気持ちになって欲しいって気持ちがずっとあって。いつ聴いてもリラックスできる気持ちになる曲を出してみたいなと思ったんです。それでこの曲を聴いた時に感じたのは夢心地な雰囲気でした。お風呂とか、リラックスしている印象です。「口の悪い女」とかは全然リラックスという感じではないかなと(笑)。フワッとしたものがいいなと思って。
――今後の展望として「こういうのをやっていきたい」というのを今作で見つけた部分はありますか?
今回の曲はライブなどで披露をしても評判がいいんです。だからこの方向性もありだなと思いつつ、でも根本としてアイドルが好きなので、もっとポップな感じの曲もあってもいいかなと思ったりします。それこそライブでただ楽しい曲があってもいいなと。
でもあまりギャップがあり過ぎても…とも思いますが、カップリングにそういうのが入っていたりとか、遊び心みたいのがあってもいいかなと思っています。「こういう風にやっていきたい」というのはあまりなくて、色んな曲を歌いたいという気持ちがあるので、固めたいとは思っていないんですけど、今回の流れもありかな。
――これまでの曲は「片思い」でもどちらかというと男性を追いかけている印象があります。今回の曲では「これから恋が始まる」というテーマもありますが爽やかですよね。
今までもハッピーな曲はあったんですけど、強めの曲がけっこう印象的だったので…。でもやっぱりハッピーな曲が歌いたいですね。
本音が出た「Moment」
――カップリングには「Moment」という、篠崎さんの「歌」を強調した曲が入っていますが、この曲のテーマは?
とりあえず、区切りというか、今回は共作で歌詞の方にも携わらせてもらったんですけど、今までのモヤモヤしたものを越えて進んで行くという感じの内容なんです。ちょっと考え過ぎる体質なので、「ああなのかな、こうなのかな?」と考えて後悔してもしょうがないから、そういった戸惑いとかを越えて進んで行こうという、前向きな感じです。
――サウンドプロデューサーは冨田恵一(冨田ラボ)さんです。曲が上がってきて感じたことは?
「凄!」って思いました。
――冨田さんとはお話をされましたか? 歌い方へのアドバイスなどもありましたか?
はい。レコーディングでディレクションをして頂いたので、普通にお話もしました。歌い方に関してはびっくりするくらい何も。逆に「こんなに歌えるの?」みたいな感じで、レコーディングの間ずっと仰っていただきました。面白がっていたというか、楽しまれているようでした。元はもっと違うアレンジだったんですけど、すごく考えて下さって。
――もとのアレンジはもっと音数が多かったりしたのでしょうか?
色々入っていたんですけど、あえてそれをシンプルにして下さったようでした。
――歌が上手いというイメージはみなさん強く思っていると思いますが、それだけでは終わらずに、その先の可能性を、今作の2曲で示している気がします。
素敵な言いかたですね。ありがとうございます。
おフェロ
――今作ではそれまで封印してきたビジュアル面も出していますが、何かご自身のなかで変化はあったのですか?
心境の変化はなくて、出したかった、みたいな(笑)。出すことに対して何の抵抗もないし、私は全然よかったんです。でもグラビアとは違う印象にしたいというのがあって隠してきたんですけど、「やっぱり出したいんです(笑)」という話をしました。色々試行錯誤してあの雰囲気にたどり着きました。いい塩梅だと思っています(笑)。
――いやらしくはなく、ポップな感じでしょうか?
そうですね。わりと出ているけど、いやらしい感じではないですよね。
――歌のイメージに合っていますね。
「爽やかなエロ」という感じ。エロっていうか、何だろう(笑)。柔らかさというか、丸みというか、最近の言葉だと「おフェロ」ですかね(笑)。ファッション誌などで使われる言葉なんですけど、「おフェロ」というワードが一番わかりやすいかな。女の子の友達とかも「ジャケットめっちゃ可愛いね」(と言ってくれてたし、正解だったかなと思ってます。
――グラビアアイドルのときは、見てもらいたい相手の目線としては男性でしょうか?
そうですね。女性というよりも、結果、男性の方が見るものだろうなと思っています。
――本当は女性に見てもらいたいという思いがある?
性別関係なく、見てもらえるなら誰でも嬉しいです。普通に楽しんでもらいたいなという気持ちです。
――それは歌に関してもそうでしょうか?
どっちもそうです。別に「誰に」とか「何に」ということは考えていなくて、できるだけたくさんの人に、という感覚です。そうなったときに、あまり下品に出していても嫌な人はいるだろうし、今回は私的にはいい塩梅かなという感じです。エロ過ぎず、エロくなさ過ぎず、という(笑)。
あまり深く知られたくない
――曲を作りたいという思いはありますか?
はい。あります。色々メモったりしています。でもそれを見せるのは嫌なんですよ。よく「見せて」って言われるんですけど、「嫌だ」って言っちゃうんです。意味わからないですよね(笑)。
――あくまで、自分のストックとして?
そうです。めっちゃ恥ずかしいんですもん。「何か悩んでたんだ?」と思われるのが嫌というか(笑)。「全然悩んでないよ」という感じでいたかったんです。自分のことをあまり深く知られたくないというか。普通に「楽しそうだな」と思われたいんです。「凄いマイペースだよね」というくらいに思っていて欲しいんですけど、「今回さらけ出しちゃったな」みたいな感じのテンションなんです(笑)。
――本当はライブでそんなに歌いたくはない?
本当はあんまり歌いたくないなって思っちゃう(笑)。
――そのときの表情が見てみたいですね。
そうなんですかね(笑)。真面目な感じはあまり見られたくないんです。ひょうきんな感じで見られていたいんですけど。今までの曲も、私的な印象では真面目系の曲が多かったと思うんです。インディーズの頃もバラードが入っていたり、落ち着いたテンションの曲が多かったりするんですけど、もうちょっとこう、楽しげなやつを…!って(笑)。
――「悪い猫」のときにシーツにくるまっていましたが、演じている訳ですよね? 「PepperMintt」のときも公園が舞台でしたが、あれも演じている?
そうですね。
――演じることと歌手とは違いますか?
私的には違わないです。
――演じる方が本当はいい?
演じる方がいいです。本当の私はあまり知られたくないという。あまり見せたくないんです。ただ、今回の楽曲「Moment」でほんのり出ちゃいましたけど(笑)。
――ファンに限らず、色んな人にとって、内側が出た貴重な曲ということで?
そうです。切り替えの曲ですから、これで一旦前に進みますということです。
――みなさんも切り替えてくださいと。
そういうことです(笑)。
【取材=木村陽仁】