若干18歳のシンガーソングライターのHARUHIが7月26日に、1stアルバム『INSIDE OUT』をリリースした。映画『世界から猫が消えたなら』の主題歌、小林武史プロデュースの「ひずみ」で2016年5月にデビュー。現在3枚のシングルをリリースし、今作にはそのシングルから6曲と新曲7曲の計13曲を収録。HARUHIは1stアルバムにして、Early Bestとも称される今作について「自分の本心を出している」と話す。米国・ロサンゼルスで生まれた彼女。英詞と日本詞を織り交ぜた歌詞と類稀なるメロディーセンスでも話題だ。『INSIDE OUT』の制作背景から、これからの作品作りに対する考えなど話を聞いた。
音楽を学びにLAの大学へ
――今年、高校を卒業されたんですよね。
はい。卒業して今は夏休みで、9月からLAの大学に音楽の基礎、ベーシックな部分を学びに行きます。冬休みなど長期の休みには日本に帰ってくる予定です。
――現状でも素晴らしい楽曲が出来ているので、習わなくても大丈夫なのでは?
ボーカリストとはいえ、ベーシックなことがわかっていないとカッコ悪いと思ってしまいます。「何でこのコードがカッコいいのか」ということなどを知りたくて。それが勉強できたら、どういったときにセブンスコードが使えて、とかの理解が深くなって今よりも楽曲が速くできると思っていて。
――現在は自分の持っているイメージと出す音の整合に、時間がかかる部分がある?
はい。もっと勉強したら早く曲が書けるようになると思っています。
――そういえば今作でもギリギリで出来た曲もあったらしいですね? 楽譜を白紙で持って行って、その場でコードを弾いてという感じの。
ありました。バンドのメンバーと話しながら「こういう気持ちを出したいんだけど」と話して「このコードはどう?」とアイディアを出してもらったりして。音楽の勉強をしたいというのもそうなんですが、色んなアイディアを持っている人とたくさん出会って、新しい曲やアートを作りたいという意味でも、LAに行きたいと思っています。
――自分の感覚的にはLAの方が合っている?
そもそもLA生まれなので、LAに戻りたいということもありまして。
――3歳までLAに居たのですよね。
はい。でもNYの方が合っているのかな、とたまに思います。
――音を聴かせていただいた感じでは、イギリスにも合うと思います。Bjork(アイスランドのシンガーソングライター)がお好きとお聞きました。HARUHIさんはBjorkの持つ世界観、雰囲気も感じられます。
よく言われます。私もイギリスかなと何度も思いました。でも、最初は行き慣れている場所がいいかなと思って。イギリスのブリットスクール(イギリスのアーティスト養成学校)に行こうと考えていたこともありました。そこはエイミー・ワインハウス(R&Bのシンガーソングライター)やアデル(英・歌手)が行っていた学校です。
――LAに居た3歳の頃のことは覚えていますか?
その頃のことは覚えていなくて、その後にNYに移った頃は覚えています。LAには今でもほぼ毎年遊びに行ったりしています。NYへは最近行っていないのですが、ブロードウェイが好きなのでまた行きたいと思っています。
――HARUHIさんが思う、アメリカと日本の最も大きな違いは何でしょう?
人です。日本人の性格、文化はすごく強いと思います。アメリカには色んな人種がいて、様々な性格の人がいるので文化も様々です。それと日本人は、世界的に見ても凄く親切だと思います。あと、エレベーターに入ると日本だと静かなのですが、アメリカだとそうではなかったり。レストランでもすぐに話しかけてきたりと、オープン具合もかなり違います。私もアメリカに行くと「ハーイ!」って知らない人と挨拶するのですが、日本ではしなかったり。
――日本人はパーソナルスペースが強いというか、人と人との間に緊張感のようなものがあるかもしれませんね。
そうそう。良い面も悪い面もあるし、そのおかげか日本は安全な国でもあると思います。アメリカではすぐにバッグを持っていかれたり…治安が悪いところも多いです。日本とアメリカでは、人の過ごし方や性格がとても違うと思います。
自分の中の本心を出す
――『INSIDE OUT』の周りの反応は?
ツイッターなどでたくさんレスポンスがあるのは知っているのですが、実はツイッターの使い方があまりわからなくて(笑)。
――SNSはあまりやらない?
Instagramはやっているのですが、それ以外はあまり使わないのでツイッターはあまりわからなくて「これかな?」みたいな。
――大絶賛されていますよ。個人的には18歳でこのような楽曲を書くということにショックすら受けました。『INSIDE OUT』というタイトルはどういった意図で名付けたのでしょうか?
ありがとうございます! タイトルの意味だけだと「自分の中と外のストーリー」「本当のことを伝える」という感じです。できるだけ嘘をつかない、私が思っているそのままの気持ちをストーリーにしたいという想いを込めたタイトルです。4曲目の「The Man Who Turned Inside Out」のタイトルにそのフレーズを入れたり、6曲目の「Disappear」にも“Inside Out”というキーワードが出てきます。
自分の中の本心を出すという意味で“Inside Out”という言葉をいつも使っていて、このアルバム自体も自分の本心を出しているし、本当の思いが書いてあるので、それが一番いいと思いました。最初のアルバムだしセルフタイトルの『HARUHI』だったり、アデルみたいに年齢の『18』でも良かったかもしれないのですが、やっぱり本心とキーワードが一緒になっている『INSIDE OUT』にしました。
――2曲目の「Round and Around」は13、14歳のときに作った曲みたいですね。初期の作品ではありますが、最初に作った曲は「Always」と聞きました。今回は収録されなかったみたいですね。
みんなからも「いい曲だから入れたい」と話はあったのですが、今の自分らしくないかなと思い、収録しませんでした。前に書いたデモやライブでやった全曲を、バンドのメンバーとスタッフみんなで1曲ずつ聴きながら「これはどうする?」とずっと話していました。アルバムに「入れたい」という人もいたのですが、今の自分らしくない、という理由で今回は結局外しました。
――今作の13曲は何十曲もある中から選ばれた?
そうですね。25曲くらいかな。シングルから6曲を選んで、新曲を7曲入れました。
1年くらいパッと消えるようなことをやってみたい
――なかなか選ぶのは難しいかも知れませんが、今作の中で特に気に入っている楽曲は?
強いて挙げるなら「Disappear」です。この曲は凄く気に入っています。小さい町に住んでいる女の子が、そこに居るのが嫌でその町から消えるというストーリーが書きたかったのです。渋谷の街などを走っているバスに乗って、どこへ行くのかもわからないまま、その町から1年くらい消えて――みたいなことは、今自分でもやりたいことの一つです。
どこに行くのか自分でもわからないような感じです。いずれ、新幹線や飛行機など、予定もないまま空港へ行って「次のフライトはどこですか?」という感じでチケットを買って行ってしまうような…。
――目的もなく、そのときに思った所へ行くと。
それを私も凄くやりたいです。
――そういった願望が詰まった曲でもある?
いずれ、26歳ぐらいに、急に1年くらいパッと消えるようなことをやってみたいです(笑)。大人でも高校生でも、そういう気持ちがあるということが入っている曲です。誰でも人生で1回くらいはそういうことを感じたことがあると思います。
――「Disappear」はアルバムの流れで聴いたときに世界が変わった感じがあります。曲順の効果もこの楽曲をまた違うベクトルに押し上げていますよね。
ディレクターやスタッフと一緒に「この曲はここに合うよね?」という感じで決めていきました。「Disappear」のピアノは「説明がつかない感じの気持ちをピアノにして」とオーダーして、イメージ通りのものに仕上がりました。
――それが出来るというのは凄い方々ですよね。今後はそれを自分で出来るようになれたらいい?
ピアノも上手になれたらいいなと思います。
――「Friend」はアコースティックギターの弾き語りですが、これはコードを自分で探っていった?
そうです。一つのコードを弾いて、その形のまま上のフレットに移動したりして弾くと「これいいじゃん!」となって。自分でも「今何のコード?」と聞かれてもわからなくて。「Friend」はコードからその世界に入ったから、その逆をやりたい場合のためにもっとこれから勉強をしたいです。
――メロディーはアドリブらしいですね。
はい。ストーリーは自分の中でわかっていて、歌詞を書いてそれをラップではないですが「これ合うかな?」という感じで歌っていきます。
――メロディーにインプロビゼーション(即興)的な感じではあるものの、このメロディーがこの楽曲、コードの世界観にはまっていて。このバランス感覚は凄いと思いました。決してキャッチーではないと思うのですが、それでOKなのか判断に悩むときもありますか?
実際わかりやすくないメロディーって、歌った後の次の日にもう一回聴いたら、自分が書いたのにメロディーを覚えていなかったりするので、「おお!」みたいな感覚があります。自分が書いた曲でも、次の日に聴くと別の人が書いた曲のように聴けるのがいいなと思います。その曲、メロディーは全部インプロビゼーションです。
――「Lullaby」はハンドマイクでレコーディングしたそうですね。先日開催された先行試聴会では、大きい音で聴いたらノイズとか気になるかもと話していましたが、実際は全然わかりませんでしたね。
そうですね。クリック(メトロノーム)とか入ってなかったっけ? と思ったんですが。「Lullaby」は本当にラフにやっていたので。後半の歌詞が入っていない所も全部、ボーカルブースではない、みんながいるコントロールルームで、ハンドマイクでそのまま歌っていたから。(編注=コントロールルームとはエンジニアが音をミックスする部屋)
――録り直そうとは思わなかった?
そう! 何で録り直さなかったのだろう(笑)。やっぱりそのときの音が良かったのかな。私が今一緒にお仕事をしている彦坂(亮)さんも生々しい感じが好きだし、私もボーカルのエディティングは「そんなにしないで」と話していて、声が割れたりしても曲に合っていたら全部キープします。最近のJ-POPの曲は声がどうしても綺麗じゃないですか? 綺麗過ぎると「綺麗なバラードだな」で終わっちゃうけど、綺麗でないと、もう少し気持ちがグッと掴まれるというか。
――ベテランのミュージシャンの方はそれをわかっているようで、綺麗な音よりも、フレーズや感情の方が重要なのではと言います。それを18歳の時点でわかっているというのが凄いですよね。
「ソラのパレード」でその感覚を掴んだ感じがありました。私の場合は綺麗過ぎると本心が隠れてしまう。PVで作る顔も、アート作品を作るときも、綺麗過ぎるともったいないなと思うこともあります。
小林武史さんにすっごい口を出しました
――「ひずみ」と「あたたかい光」は小林武史さんの楽曲ですが、自身の楽曲との違いは?
私は地味な感じのインディーな雰囲気の音が好きなのですが、小林さんはホーリーな感じのオルガンやエレクトリックピアノの音や、光がパッと来る感じの音が好きな気がします。「ひずみ」にもそれがよく出ていて、大サビの部分も聴くとすぐに「あ、小林さんだ」とわかります。
――楽器の音色にも小林さんの特徴が出ているのですね。
「あたたかい光」のピアノの感じも、最初と変えてもらって、今の感じになりました。Aメロが終わってサビに入る部分も小林さんが好きな感じのコードだったんですが、「私はこっちの方がいい」みたいな感じで変えてもらったり(笑)。
――小林さんのアレンジを却下してしまうのですね。
そういう部分もあります。自分の曲にしたいと思うので。
――ということは「あたたかい光」はけっこう案を出しました?
すっごい口を出しました。最初に送ってもらったデモがあって、それに対して結構やりとりがあって、今の形になりました。
――「あたたかい光」の歌詞では、<チューリップが 咲いていたんだ>のところは別の言葉だったみたいですね。その部分が凄く耳に残ります。どうして“チューリップ”に?
私はチューリップが一番好きな花で。子供の頃の記憶なのか、わかりませんが、チューリップと紫陽花が何故か好きで。安心するのかな? この曲自体にありがたい気持ちが込められてるからこそ、「自分の子供の頃の記憶の暖かい感じはどこから来るんだろう?」と思った時にチューリップの花が思い浮かびました。
――童謡の「チューリップ」も好き?
その曲はそんなに聴かないです(笑)。アートや絵でチューリップがあると「ハッ!」とときめいちゃいますね(笑)。何で好きなのか、はっきりはわからないのですが。薔薇だってもちろん綺麗なのですが、ちょっと花びらが多かったりしますよね。チューリップはシンプルだし…それなのかな? 絶対に小さい頃の思い出に何かあるはずなのですが、それが思い出せなくて。普通は「お花が咲いている」という感じだけど、“チューリップ”という言葉をどうしても使いたかった。
「メソメソしていないで頑張らないと絶対に進まないから」
――歌詞の英語と日本語のバランスが絶妙ですよね。HARUHIさんならではと言いますか。
そもそも日本語がそんなに流暢ではないので、一番近い感じの言葉で言うしかなかったりして、訳がいつも難しいです。日本語に英語の歌詞を書くとき、例えば「ソラのパレード」は、ほぼ一行ずつ日本語と英語が混じっているのですが、日本語と英語がそれぞれわかる人が聴くと、意味がそれぞれちょっとずつ違います。
日本語のところだけ読むとちょっと可愛かったり、英語と混ぜるとちょっと暗かったりします。自分でもちょっとニヤニヤしながら書いています。訳を読むとちゃんと意味がわかったりして、そういうところが日本語と英語を混ぜて使うときに面白いと思います。
英語の歌詞だけだと、訳を読まないとわからないけど、意味はわからなくてもその音が好きというだけでもいいと思います。日本語で書かなければならない曲を英語から始めてしまうと出来なくなってしまう。
――日本語と英語を混ぜるかどうかという点は、楽曲が呼ぶということもあるのでしょうか? 実は英語で全部歌いたいというところもありますか?
英語のほうが歌いやすいからこそ、全部英語で歌いたいのですが、曲的に合うかどうかと考えると、日本語を入れようと思います。そうでない曲はついつい英語になっちゃいます。書きやすくて早く書けるので。
――日本語を混ぜるとリズムも変わってしまいますよね。
そうです。難しいです。日本語は一言一言をちゃんと歌わなければいけないのですが、英語だとちょっとくっ付けても歌えちゃうので。最初は英語から書いていたので、日本語となると大変です。でも前よりは慣れてきたと思います。
――1stアルバムでこれほどのものを作ると、次の展開が大変では?
そう。自分でもここまでのアルバムになると思っていなかったです。アルバムでもシングルでも、今の自分にしか出せないからこそ、次に出す作品は22歳になるか、27歳になったときかはわかりませんが、それはそのときのもので、比べられないと思います。
――アーティストには「前作を超えたい」という気持ちがあると思いますが、HARUHIさんはそういう感じでもない?
超えなくてもいいと思っています。アデルのアルバムも『19』『21』『25』と、そのときの自分だから前の作品と比べると違うし、そのときの性格が出るというのが面白いと思うのです。コリーヌ・ベイリー・レイ(英シンガーソングライター)も、1stアルバムは凄く綺麗で、2作目のアルバム『The Sea』はそのときに夫が亡くなってしまったということもあり、ちょっと暗くて、3作目のアルバム『The Heart Speaks In Whispers』ではそこから復活した感じの曲がたくさんあります。そうやって人生のストーリーが見えるので、前作を超える必要がないと思います。
――確かにそれだと前作を超える必要性はありませんね。
アルバムやシングルを繋げるとアーティストの人生が見えたりするので、それが良いなと思います。前の自分を超えたいとも思いますが、超えるよりも、そのときの自分の本心を出さなければいけないと思います。
――今作は自分の感情的な部分を出すことに成功したので、次の作品でもそのときの自分の思いや感情が出せれば良い?
私はそれでOKです。今作では自分の性格も全部出せたので嬉しいです。
――今作はどういったシチュエーションで聴いてもらえたら嬉しい作品でしょうか?
難しいですね…そう、やっぱり自由に聴いてもらえたら。ルールなども付けたくないという気持ちもあります。私と同じ歳の子が聴いたらどう感じるのか、ということは知りたいです。歌詞に書いた気持ちと同じ人もいるかもしれないので興味があります。
――プレッシャーなどは感じますか?
それ自体があるのはわかっているのですが、あえて見ないようにしています。そうすると良い部分に集中できると思っています。
――では、未来の自分に一言いうなら?
「メソメソしていないで頑張らないと絶対に進まないから」ですね。
――意外なのですが、HARUHIさんそういうタイプ?
誰かが悲しんでいると、その気持ちを分かろうとしたり共感したりして、自分を落としたりすることが得意なのか、そういう部分があります。だからこういう曲が書けるのだとも思うのですが。作家の村上春樹さんは、朝に執筆して夜は映画を観たりしているそうです。そうやって、自分が弱くて深い部分に行ってしまう時間を知った上で、コントロールしている人は天才だと思います。夜にそういった深い部分に入ってしまうと全然出られなくなる、というところが分かっているのは凄いと思います。
――確かにそれは凄いですね。
私もそういうバランスを掴みたいと思っています。夜の方が深い所に入りやすいのですが、落ち過ぎないようにして進む、そうやってずっと進み続けなさい、と未来の自分にアドバイスしたいです。
(取材・撮影=村上順一)
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