拓也の見ようとしている所を補強
――レコーディング面に関してお聞きします。あきらさんはどうでしたか?
あきらかにあきら この曲はアニメがあるから、早い段階で1曲だけでのレコーディングでした。何曲の中の1曲というよりは、この曲にだけ焦点を合わせてレコーディングまで持っていけたことは大きかったし、考える時間が多かったので密度が濃かったです。
拓也が持ってきたデモの段階から僕も“エモさ”を感じていて、それをより引き立たせられるようなアレンジ、スパイスを入れていく作業が出来たと思います。もともとあるものを、さらに120%の力が出せるようなアレンジを心掛けました。
――ベースの聴き所としては?
あきらかにあきら ドラムが軽快なので、ベースは全部の真ん中にいる、全部を繋ぐ役だと思っています。ギターが鳴っている中でどう合わせるかという事をスタジオで(中西)雅哉と一緒にずっとやっていました。個人的にはハモりにも力を入れていたので、アニメサイズでは伝わらないのですが、2番以降でコーラス部分がドドッと入ってくるのでフルサイズでは聴いて欲しいし、よりエモくさせる為にハーモニーを考えました。
――ここ何年間かで、ベースの立ち位置が変わったという事はありますか? 以前から、間を取り持つというスタンス?
あきらかにあきら 難しいなあ…。僕はそんなに考え込まないタイプで。どちらかというと感覚という部分が凄く多いので、自分どうこうよりまわりの人との意思疎通をよりたくさんするようになりました。雅哉は、歌が主軸にあると思っているので、歌に合わせるならドラムはこうした方がいい、ちなみにベースはこうするつもりだよ、という感じに。じゃあ、デモではこうなっていたけど、こうしてっていった方がいいかもな、とか。
結局、バンドがぼやぼやっとしないようにまとめる作業の方が、実は僕は大事だと思っています。その中でコーラスも考えたいし、全部がきれいにハマっているのが好きなので、結果的にベースでどうアプローチをするかというよりも、みんなの向いている方向が一緒になっているか確認した上で、その間にベースを入れていく、みたいな。一番控えめかもしれないですけど。
――プロデューサー的な立ち位置?
あきらかにあきら いえ、そんな大したものではなくて、拓也の見ようとしている所を補強したり…。フレーズとかを本当に感覚的にやってしまっているから良くないのかなと思ってしまうけど、それで僕は良い気もしているので。メチャクチャ難しい質問です…。
――シゲ(鈴木重伸)さんは今回のレコーディングはいかがでしたか?
鈴木重伸 原作のライトノベルで読ませてもらって思ったのは、最初の印象は「学生モノのミステリーなのかな」という感じだったのですが、読めば読む程、そんなジャンルじゃ収まりきれないくらい色んな人間の相関図が描かれていたり、色んな表情がある作品だな、という事でした。
この曲自体にもそういう事は思いました。Aメロの軽快さだったりとか、サビでエモい部分があったりとか、そういう色んな表情を際立たせられるようにしたいなという事を念頭に置いて、ギターをつけていきました。
――けっこう色んなパターンを試したりした?
鈴木重伸 Aメロやサビはドラムとベースとボーカルを聴いて「こういう雰囲気だろうな」という事を読み取れていたので、そこはさほど苦労はなかったのですが、イントロとアウトロはギリギリまでゴネていた記憶があります。
――中西さんはレコーディングはいかがでしたか?
中西雅哉 毎回どんどん難しくなっていくな、と思いまして。自分のハードルが上がっていっているというか、どんどん意識が細かくなっていっているというか。前までは、何となくで作っていく小節はないな、という感覚になっていき、何となくで作る拍はないなという感覚になっていき、プリプロ(デモから楽曲を録音するまでの作業、アレンジなど)が終わる段階では大まかに固まっているのですが、それを持ち帰ったりして。最近のテーマが「歌とドラムで成り立つ曲」という、それが凄く大事な気がしてきて、そこが分離していたら説得力がないし“良い曲”とは言われないなと思います。
――世間に支持されている曲は、その部分がしっかりしているものが多い?
中西雅哉 そうですね。「俺だったらここ、こうするな」みたいな所が見えてきます。本当に歌ありきというか、歌に寄り添って、歌とドラムでもう1回聴いてみます。あきらと合わせるまではずっとその作業で、歌のメロディに対して一度上モノを全部なくして、キックと歌だけ、スネアと歌だけにしたりして調節します。そうして出来上がっていって「これレコーディング大変だな」となるわけです(笑)。そうやって、サビとか8小節のキックパターンが全部違っていたり。頭がこんがらがってきます。
――シビアに作っているのですね。
山中拓也 やってくれていますね。愛ですね。
あきらかにあきら メロディを口ずさみながらやったりしていますね。物理的に無理なアイディアもあったりして。
中西雅哉 逆にそれを自分達の基準値としてできるようになってきているので、作品としての隙がなくなってきているし、それがどんどん説得力にもなっていると思います。
――今作では歌はどこにポイントを置きましたか?
山中拓也 自分の感情も付随して歌に乗るというのはこういうことだなと「5150」からより強く感じています。「トナリアウ」もその延長線上で大事にしようと思っていました。歌い方の強弱も毎度のことながら意識しましたし、そこに関してはずっと変化はないです。
――ブレていないということですね。
山中拓也 自分の声のコンプレックスを、今強さに変えられているから、そのコンプレックスをより出すことによって、より強みが増していくという風に最近は開き直れるようになりました。濃さというか歌い方の癖です。
――どこがコンプレックスなのでしょうか?
山中拓也 ハイトーンボイスが流行っているこの時代の中で、この声で歌う人間がいないから、受け入れられにくいのかなって。それはインディーズの時から、メジャーデビューしてからも1、2年の間は凄く感じていました。でも、それはTHE ORAL CIGARETTESの強みとして力として活かせるのではないかと、ようやくここ1、2年で気づき始めました。今はそれをより濃く出していこうと思っています。