新生活への期待と不安のなかで聴いた曲、今も蘇らせる当時の記憶
あなたの想い出の曲は
この時期になると新卒で入社した頃を思い出す。大海原に出るように、期待感があった。しかし、その思いは一瞬にして砕かれる。
入社前に2週間の研修期間があった。泊まり込みで企業のいろは、社会人としてのマナーを学ぶのだが、慣れない環境に加え、同期との学歴差に悩み、心がすさんで、ホームシックになった。
そんな時、良く聴いていたのが、Every Little Thingの「Dear My Friend」だった。学校卒業間際、友人とよくドライブに出かけた。その時に、良く流れていた曲の一つだった。
<朝までファーストフードで>
<みんな たわいもない話>
<時間が経つのも忘れていたね>
<共に過ごした日々が懐かしい>
歌詞すべてがその頃の思い出と重なっていた。消灯時間が過ぎ、寝静まったベッドで布団にもぐり込み、イヤフォンを掛けて聴いていた。曲から元気を与えてもらう、というよりも、恋しい当時を懐かしみ、そしてそこから現実逃避したいという思いだった。
その曲もいつしか聴かなくなっていた。その頃には会社にも慣れ、社会の厳しさにもまれながらもしっかりと前を見つめ、歩いていた。
けれど、毎年この時期になるとその曲が頭のなかで流れる。当時を恋しく思うのではなく、淡い思い出として。若かれし頃の青っぽさにほほえましくなる。そして、曲が当時の記憶を鮮明に思い出させてくれる。
電車に乗れば、ビシッとしたスーツに身を包んだ若者が目立つ。期待と不安を抱えていることだろう。初給与で何を買おうか、と思っている人もいるかもしれない。社会にいれば楽しいこと以上に辛いことも多い。
そんなときに聴いている曲は、いつまでも背中を押してくれる大事な曲になるだろう。春の風、そして、若者の表情をみて改めて曲が持つ力を感じるのであった。(文・木村陽仁)