ニューオルタナの先鋭・ヘルシンキ、ナニワの地で高らかに鳴らす
「おとぎ話」
4人組ロックバンドのHelsinki Lambda Clubが1月27日、東京・渋谷WWWで、全国ツアー『「ME to ME」Release Tour “From ME to YOU”』のファイナルを迎えた。1stアルバム『ME to ME』(昨年10月26日発売)を引っ提げてのツアー。その5日前の22日には大阪・アメリカ村のLIVE HOUSE Pangeaでも開催され、4人組オンナバンドのCHAI、実力派4人組バンドのおとぎ話が登場した。トリを飾ったHelsinki Lambda Clubは確かな歌唱力と演奏でオーディエンスを惹きつけ、ダブルアンコールの完全燃焼。2017年のミュージックシーンで注目を集める“ニューオルタナティブ”の先鋭である彼らは、その叫びをナニワの地で高らかに鳴り響かせた。セミファイナルとなった大阪公演の模様を以下にレポートする。
奇想天外ワールド
20日の大寒を2日ほど過ぎた22日、大阪の街は冬の気配に包まれた。午前から冷たい雨が降り注ぎ、空にはどんよりとした雲がひしめく。開演時間が刻一刻と近付いてくると、水たまりを残して雨はやんだが、それでも寒気は依然としてまとわりつく。開演30分前には長い列を作ったオーディエンスは、その高まりゆく熱気で、冷気の侵入を許さなかった。
最初のステージに立ったのはCHAI。本ツアーの名古屋公演にも出演をした4人組オンナバンドは、そのエキセントリックな歌唱とパフォーマンスで大阪のオーディエンスの度肝を抜かせた。「ピピッピッピッピ」と軽快なヴァースが高揚感をあおる「NEO」で開幕すると、ボーカル・マナの伸びやかな高音が会場を揺らした。「ヴィレヴァンの」「Sound&Stomach」とビートを高めていくと、マナとギターのカナが前に躍り出る。マナとカナは実の双子。「双子あるある」をキュートに語り、その場に居合わせたHelsinki Lambda Clubのベース稲葉航大にも話を振って客席を盛り上げる。終盤には人気曲「ぎゃらんぷー」も登場し、徹頭徹尾の奇想天外ワールドで立ち上がりのステージを飾った。
続いて登場したのは「おとぎ話」。優しい旋律のメロディラインがロックと融合した実力派バンド。「JEALOUS LOVE」「セレナーデ」「This is just a Healing Song」など上質なメロディとパフォーマンスが会場を大人の世界に塗り替える。ボーカル有馬和樹が青春の甘酸っぱい香りを独特の歌声に乗せれば、ギターの牛尾健太は星がキラキラと瞬くような旋律を奏で、オーディエンスの胸を打ち抜いていく。
「おとぎ話」はHelsinki Lambda Clubの先輩バンド。MCに立った有馬はこの日登場した2組の若いバンドに「これから先、もっと最高の世界を見せてくれる」と檄を飛ばし、最後に「COSMOS」を選曲。儚さとエネルギッシュさを混濁させた名曲の調べで締め括り、後輩バンドに最強のプレッシャーを与えていた。
オルタナティブの先鋭
Helsinki Lambda Clubの登場を前に、会場入り口にはこの時間から訪れた観客でごった返し、ライブハウスのスタッフが観客に一歩前に詰めるよう要請する。年齢層は20代が多いが、白髪の紳士の姿も見られた。過去、オルタナティブに親しんだ世代。“断絶”とも形容されることの多い世代と世代のはざま。それをつなぐ、ニューオルタナティブの先鋭のステージが、ついに開幕した。
ファーストチョイスとなった「しゃれこうべ しゃれこうべ」のメロウなサウンドが流れ始めると、大阪のオーディエンスは「待っていました」とばかりに歓声を挙げる。ラフな出で立ちのメンバー4人。ボーカル橋本薫は、サビ部分で「地獄でワルツを踊りましょう♪」と綴られる異色性の高い歌詞をメロウに歌い上げた。
続く「NEON SISTER」に入ると、オーディエンスの横揺れは激しさを伴う。煌びやかな光線がステージを彩ると、歌い終わりに橋本は「上げて行きましょう!」と会場をあおる。反応するオーディエンスに届けられたのは「This is a pen.」だ。ビートを高め、疾走感に拍車をかけると、<トゥ~ルルルルルルッルッル~♪>のコーラスが優しく耳に溶け込む。オーディエンスは腕を突き上げ、テンションが最高潮へ向かって突き進むと、4曲目に「ユアンと踊れ」をチョイス。飛び跳ねるようにポップなメロディが流れ、オーディエンスは掛け声を上げて応じる。生まれたグルーブ感で会場はやさしい一体感に包まれた。
この日のHelsinki Lambda Clubの演奏予定時間は60分。ボーカル橋本は「大阪には何度も来ているけど、1時間は初めて」と告げて観客は拍手。30分構成では披露できない楽曲として、SUPERCARの「DRIVE」を贅沢にカバーした。
ワンマンライブで大阪に参陣したい気持ちもあったことを明かした橋本だったが、「このツアーは、僕らが良いと思うバンドも提示したい気持ちがあった。この最高の3バンドで大阪に来ました」と集まったオーディエンスに改めて挨拶。そして、「僕らはどう見せて行きますか?」と話を振り、ベースの稲葉は「すげえ無茶ぶり」と苦笑い。自分たちは「欲張り」という橋本は、CHAI、おとぎ話の2バンドの良さ、その「どちらも奪って、良いライブ見せて行きます!」と高らかに宣言。観客は壮大な拍手に興奮をこめた。
「メサイアのビーチ」でしっとりと情感をのせれば、「Justin Believer」では随所に橋本のラウドが飛び出す。そして、ひと際大きな歓声が上がるなか、次に送り出したのはキラーチューンの「Lost in the Supermarket」だ。ロングヘアを荒ぶる神のごとく振り乱した稲葉、橋本は甘い歌声を響かせる。軽快なUKロックを感じさせるスタイリッシュな時間を提供し、続く「メリールウ」でオーディエンスが掲げて握った拳の強度はさらに高まった。
ニューオルタナティブの地平
Helsinki Lambda Clubのブースターも点火する。「lipstick」「彷徨いSummer Ends」「Morning Wood」、さらには「マニーハニー」と演奏が続く。「マニーハニー」の歌唱部分を終えたが、演奏は続く。橋本はギターをかき鳴らし、ドラムのアベヨウスケは巧みなテクニックで演奏をコントロール。何かに気づいた様子の橋本は、「ごめんなさい。余韻に浸ってしまった」と苦笑い。オーディエンスはドッと沸いた。
そして、「Skin」。衰えないパワー、壁を超えていく橋本の歌声。会場には熱量が充満した。橋本は囁くような声で「終わりたくないけど…」と言葉を発する。残りわずかとなったライブを惜しむようにオーラスへ向かう。「目と目」でオーディエンスとバイブスを繋ぎ合わせ、最後の楽曲「TVHBD」のイントロが流れると観客は雄たけびを上げて歓迎を示す。快活な調子と激しく感情をほとばしらせる演奏で、セットリストを締め括った。
だが、オーディエンスは彼らを逃がさない。「余韻にはまだ浸れない」とでも言うかのように、手拍子がさざ波を起こす。アンコールの舞台に戻ったHelsinki Lambda Clubは、ここでCHAIとのコラボレーションを披露。選曲はザ・バグルスの「Video Killed The Radio Star」。「おとぎ話」の有馬が「もっと最高の世界を見せてくれる」と語った2つのバンドは、歌声と楽器を絶妙にシンクロさせ、若きプロフェッショナルの咆哮をにじませた。
最後に「バンドワゴネスク」を歌唱したHelsinki Lambda Clubだったが、オーディエンスは再びの手拍子。ステージに舞い戻り、「めちゃくちゃ嬉しいです。大阪、最高です」とダブルアンコールに橋本は感激。最後の最後の楽曲をメンバーや観客と一緒に探すなか、選んだのは「限界に挑戦したくなったので」とアベが語った、Helsinki Lambda Clubの楽曲のなかでも一層ハードな「宵山ミラーボール」。ラウドの先に待ち受ける山を超えに超え、メンバーとオーディエンスは一体となり、テンションの際限を突破。完全燃焼のステージを実現した。
クールでありながら情熱的。ハードなのにしっとりする。混然とした価値観を、ほとばしる感性でひとつながりに表現したHelsinki Lambda Club。計19曲を歌い切り、ツアー・セミファイナルに選んだナニワの地で切り拓いたのは、ニューオルタナティブの地平だ。インディーズからメジャーへと続く階段が、Helsinki Lambda Clubの眼前に現出した。(取材・小野眞三)
セットリスト
Helsinki Lambda Club
01. しゃれこうべ しゃれこうべ 06. メサイアのビーチ 10. lipstick 〜アンコール〜 〜ダブルアンコール〜 |