氷室京介「LAST GIGS」映像作品化決定、付属映像に秘められた想い
氷室京介
今年4月から5月にかけておこなわれた、氷室京介の4大ドームツアー『KYOSUKE HIMURO LAST GIGS』が映像作品化、来年3月1日にリリースされる。本編に収録されるのは、ツアー最終日となった5月23日の東京公演。全35曲、約200分を超えるステージが蘇る。そして初回BOX限定盤には、氷室が本ツアーで一度だけ涙をみせた「SUMMER GAME」(東京公演初日)など、各公演の模様をセレクトした全16曲からなる特典映像を付属。その名も序幕を意味する『LE PROLOGUE』。ツアー前にリリースされたオールキャリア・ベスト『L’EPILOGUE』(終幕)とリンクするタイトルは何かを暗示しているかのようだ。
本編映像と同等の重要性
氷室京介の35年のキャリアを映し出すかのように、過去のライブ映像が目まぐるしく切り替わりながら流れる。そのなかで反響する大歓声。やがて眩い光を背中いっぱいに受けた氷室が拳を突き上げ叫ぶ。「夢を見ている奴らに送ります!」。曲を告げたあとに程なくして鳴るドラムカウント、一斉に鳴りだすサウンド。「DREAMIN’」。その瞬間、興奮の渦が鳥肌となって全身を駆け巡り、そして、震わせた――。
耳の不調などを理由にライブ活動を無期限休止している氷室京介。ファンのために設けられた休止前最後のツアー『KYOSUKE HIMURO LAST GIGS』は全7公演。4月23日の京セラドーム大阪2DAYSで始まり、ナゴヤドーム、福岡ヤフオク!ドームを巡り、東京ドーム3DAYSの最終日、5月23日に幕を閉じた。
本編に収録されるのはこのうちの東京でのツアー最終公演。トリプルアンコールに応え、最後は不意を突くBOØWYの「B・BLUE」で締めた伝説のライブだ。本ツアーで最も多い全35曲が披露され、約200分にもおよんだ感動の一夜がもれることなく収められる。
日本ロック史上、最高峰と言っても過言ではないあの日の夜。その模様をおさめた本編映像と同様に注目されるのは『LE PROLOGUE』というタイトルを冠した特典映像だ。大阪、名古屋、福岡、東京の各公演からセクレトした全16曲とMCが収録されている。
映像作品という伝記
『LE PROLOGUE』の映像を見る限り、制作者側の強い思いが伝わってくる。「氷室の軌跡を記録映像として残したい、そして、それを共有したい」という思いが構成から浮かび上がってくる。それはあたかもこの作品が「伝記」であるというように。それは、楽曲と同様にMCに収録時間を割いていることからもうかがえる。
本ツアーのMCは、BOØWY時代のアルバム『JUST A HERO』が転機になったエピソードや恩師に寄せる思い、ステージを離れる理由や自身の本懐「矜持」(きょうじ)、そして、矢沢永吉などリスペクトするミュージシャンの名前を出すなど、“氷室の真意”を知る上で重要な内容が含まれていた。それを極力、残すかたちで収録されている。
また、特典映像の作品化は当初はなかったようだ。関係者によれば、本作品は5月23日の最終公演を本編映像として作品化することがツアー前から決まっていた。しかし、各公演の映像作品化を求める声が多く寄せられ、その要望に応えるために、ほんのわずかなカメラ台数で撮っていた映像をセレクトして、特典映像として収録することを決めた。カメラ台数の少なさを決して感じさせない映像だ。
連続ドラマのような物語
そして、この特典映像の舞台となった最終公演を除く各公演には特別な意義がある。最終公演のあの奇跡的な空間を作りあげたのは各地での公演だ。氷室京介はツアー前に「7公演全てを通して1つのLAST GIGSなんだ」と語っていた。それを裏付けるように各公演にはドラマがあった。「あの公演がなければあの感動はなかった」というように、一つの公演が抜け落ちても成り立たなかった。それだけ、各公演は互いに作用した。
大阪での初日公演は、ほぼMCなしのノンストップで届けられ、再会の喜びとラストという悲しみの感情が複雑に絡み合いながら、時が無常に過ぎていった。氷室が第二の故郷と呼ぶ名古屋公演はこれまでに見たこともない熱気に包まれ、神懸かり的なグルーヴが生まれた。福岡公演はMCに多くの時間を割き、無期限休止を決意した思いを初めて明かした。一方、最後は抱えられるようにステージを後にするなど満身創痍。しかしながら、そのなかで届けられた楽曲の数々は鬼気迫るものがあった。
東京3DAYS初日公演の終盤に届けた「SUMMER GAME」で氷室は涙で歌えなくなった。それをファンが合唱することで歌い支えた。氷室とファン、そして、バックバンドのメンバーら全ての感情が結ばれたことで生んだ涙で、氷室が本ツアーでみせた最初で最後の涙だった。前日のライブがあっての盛り上がりだったのが東京3DAYS2日目公演。とてつもない熱気に包まれ、氷室の表情も穏やかだった。むしろ悲しみの一切を前日に吐き出したかのようにスッキリとしていた。
テレビの連続ドラマであるかのように、紆余曲折を得たこれら一話一話が最終的にツアー最終公演のあの感動的な物語を作らせた。本編映像と特典映像の2つを鑑賞して初めてツアーが締め括られるとでも言おうか。
そして、なによりも、再びあの感動が映像となって甦るのはこの上ない喜びだ。トークで魅せる氷室の笑顔。拳を突き上げたり、胸を叩くパフォーマンスなど。氷室だけではない。規律性と正確性を重んじる寡黙のDAITAがみせたアグレッシブな演奏。髪や体を横に振りながら縦横無尽にギターを奏でたYT、ジャジーなピアノ演奏からダイナミックなシンセなど曲によって巧みに色を加えた大島俊一、力強さと繊細さを併せ持ったCharlie Paxson(チャーリー・パクソン)のドラミング、そして、氷室から厚い信頼をえる西山史晃の孤高かついなせなベースプレイに再び触れることができる。
「LE PROLOGUE」は始まりか
そして、気になることがもう一つ。特典映像のタイトルである『LE PROLOGUE』だ。そもそも特典映像に、本編とは全く異なるタイトルがつけられることは珍しい。しかも、「序曲」あるいは「序幕」を意味する単語だ。
ツアー前にリリースされたオールキャリア・ベストアルバムのタイトルが『L'EPILOGUE』(終章)である。そして、本ツアー開催前に繰り広げられたキャッチコピーは「俺たちは、氷室京介を卒業できない」だ。更にいえば、本ツアー最終日に披露された最後の楽曲はBOØWYの「B・BLUE」。
氷室は、本ツアーの東京公演で「60歳になったら還暦アルバムなんか出して」と茶目っ気たっぷりに語っていた。点となっていた各地での公演がツアー最終公演で、線で結ばれたように、これらがいずれ、線で結ばれることもあるのか。この「伝記」を“読み終えた”何年か後に、再び新たな物語が始まることを期待したい。(文・木村陽仁)
作品情報
▽LE PROLOGUE 収録内容 at Osaka & Nagoya & Fukuoka &Tokyo 1.DREAMIN’(KYOCERA DOME OSAKA) ▽本編 KYOSUKE HIMURO LAST GIGS 初回BOX限定盤DVD:WPBL-90416/8=11,880円(Tax in) 通常盤Blu-ray:WPXL-90138=9,720円(Tax in) 通常盤DVD:WPBL-90406/7=8,640円(Tax in) ▽収録曲 1.DREAMIN’ |