PERSONZが、去る6月7日にヒューリックホール東京で40周年を締めくくるワンマンライブ『PERSONZ 40th Anniversary FINAL ONE NIGHT ONLY DREAM LAND』を開催した。ボーカルのJILLが「今が最高潮のPERSONZです!」と高らかに宣言した通り、結成41年目に突入したバンドが繰り出すステージは、まさに極上のエンターテイメントだった。観る者すべてを熱狂させた一夜の模様をレポートする。

 【写真】『PERSONZ 40th Anniversary FINAL ONE NIGHT ONLY DREAM LAND』の模様

 「こんなバンド、他にはいないと思います。音楽を作ることに常に真剣だし、メンバー全員が還暦を過ぎてもなお23枚目のアルバムをリリースして、24枚目のアルバムもまたすぐに作ろうとしている。今が最高潮のPERSONZです!」Wアンコールに応え、満場の客席に向けてJILLがそう高らかに放った言葉は一心の曇りもないものだった。

 これだけ完膚なきまでショーアップされた極上のライブを堪能すれば、結成41年に突入した日本屈指の最長不倒バンドが今まさに最高潮であることに異論を唱える者などいないだろう。

(撮影=アンザイミキ)

 昨年6月から始まったバンドの結成40周年イヤーを締めくくる、『PERSONZ 40th Anniversary FINAL ONE NIGHT ONLY DREAM LAND』と題された一夜限りの特別なステージ。 結成初期に新宿ロフトをホームグラウンドにしていた生粋のライブバンドは40年の歳月を経て、ヒューリックホール東京という大規模オフィスが集積するビジネス街にそびえる劇場型イベントホールが似合うエンターテイメント・バンドへと変貌を遂げていた。

 昨年末に大手町三井ホールで行なわれた結成40周年記念ツアーのアンコール公演をアップデートし、老若男女が等しく楽しめる選曲と構成に徹した大いなる祝宴と言うべきこの日の一部始終を書き連ねてみたい。

 開演時間が10分押し、JILL自ら編集を手掛けたという、昨年の40周年記念ツアーの模様を振り返るダイジェスト映像がステージの巨大スクリーンに映し出される。

 その後、楽曲の歌詞が随所にプリントされた40周年記念ツアー独自の衣装を身にまとったメンバー ──本田毅(gt)、藤田勉(ds)、渡邉貢(ba)、そしてJILL(Vo)がおもむろに現れ、この1年を象徴するテーマソングというべき「FLOWER OF LOVE」でワン&オンリーな一夜の幕を開ける。この1年、全国各地のステージで披露され続けたことで、着実に曲が“育ってきた”印象を受ける。オーディエンスも二番からクラップ、間奏でオイコールと、最初からフルスロットルで臨むバンドの熱演に真正面から応える。
 そこから間髪を入れず、JILLが「Do you remember?」と叫び、「REMEMBER(Eyes Of Children)」へ。時空が一気に38年前へ遡り、音で綴る夢の国、不思議の国へと観客をいざなう。今では遠い記憶となってしまったあの日のこと、あの街角の情景を変幻自在に想い出させる彼らはさながら音の魔術師だ。

 これまでなかなか完売できずにいたというヒューリックホール東京でのライブが今日は完売となったことを、JILLが満悦の表情で伝える。「後ろのほうまで人がびっしり入るのを初めて見れました。40周年の宴も今日でファイナルです。来週から梅雨になるかならないかの時期ですけど、今日はばっちり汗かいていきましょう!」

 間奏のギター・ソロが流麗かつエモーショナルな「SPECIAL SPARKLIN' HEARTS」が耳福なら、ファーの付いたハットと華美なサングラス、カラフルなマフラーを身に着けたJILLが客席にパンフレットをばら撒く演出が楽しい「PLASTIC BEAUTY」は眼福。そして「BE HAPPY」では冒頭で「オー、ハッピー・デイ」「ララララララララ……」「ダダダダダダダダ……」と観客との掛け合いをすることで、心のすり合わせを忘れない。目と耳と心で聴くPERSONZのライブはバンドとオーディエンスによる魂の交歓こそが醍醐味であり、観客一人ひとりもまた主役に他ならない。

(撮影=アンザイミキ)

 汗だくのフロアに「暑いですか?」と気遣いつつ、JILLは3月から5月にかけて各地で行なわれた16本のネオアコースティック・ツアーを振り返る。

「バンドにとっては素晴らしいスキルアップの旅でした。楽器編成はいつもと違うし、会場や音響も全部違うし、お客さんとの距離が凄く近い。ある種、道場破りみたいな気持ちで臨みました。でも、各地へ足を運んでくださった皆さんには本当に喜んでいただけました。ありがとうございました」

 思えばネオアコースティック・ツアーの東京編、神田明神ホールでライブが行なわれたのは、桜が満開の時期だった(通算23作目のオリジナル作品『WHAT A WONDER WONDERLAND』には、この神田明神ホールでのライブ音源がボーナス・ディスクとして付属)。あれから2カ月が経ち、今月で今年の上半期が早くも終わってしまう。だが、「PERSONZはまだまだ走り続けます!」とJILLは威勢が良い。「今日が終わっても、7月からすぐにニュー・アルバムのツアーが始まります。ますますスケールアップするつもりなので、よろしくお願いします!」と、依然血気盛んといった感じだ。

 古くからのファンの方ならお気づきだろうが、この日のメニューは『40th FLOWERS』の収録曲を除き、ほぼテイチク/BAIDIS在籍時の楽曲が選ばれている。それも昨年の40周年ツアーの時とは違う、久々に披露される曲が意図して選曲されている。

 ファンが聴きたい曲をお届けするという彼らの徹底したサービス精神には頭が下がるばかりだが、限られた時間の中でもっと曲を聴かせたいという気持ちの表れなのか、ヒット曲が多いバンドにしか成し得ない離れ業をPERSONZはやってのける。すなわち、「PERSONZ 40thメドレー」である。「CAN'T STOP THE LOVE」、「MARQUEE MOONを聞きながら」、「LUCKY STAR」、「MAYBE CRAZEE - I LOVE YOU」、「FALLIN' ANGEL -嘆きの天使-」、「PRECIOUS LOVE」という不朽不滅の代表曲を一気呵成に聴かせるのだから盛り上がらないわけがない。EMIへ移籍して以降も今日に至るまで数々の名曲を発表し続けてきたにもかかわらず、ここまでテイチク/BAIDIS時代の楽曲に振り切る潔さに舌を巻く。ファンが求めるものを見極め、それを惜しげもなく披露するのがバンドの流儀であり、理屈抜きに唄って踊れるライブにするのが今日のコンセプトなのだろう。

「みんな汗びっしょりでございましょう。ここで少しインターバルです」と、JILLがメンバー各自に挨拶を促す。

「いまメドレーをやりながら、こういうメドレーができる63歳…今年で64歳だけど、なんだかご機嫌だなと思いました。ツアーに来てくれた皆さん、ずっと支えてくれているスタッフの皆さん、改めて本当にありがとうございます。これからもよろしく!」(本田)

「今日はファイナルということで、皆さんからのご愛顧に応えるべく、ど頭から凄い頑張ってるんですけど、その頑張りは伝わっていますでしょうか? 今日はお祭り、パーティーということで楽しんでいきましょう!」(藤田)

 渡邉からは、7月から始まる『PERSONZ - 2025【WHAT A WONDER WONDERLAND TOUR】』の追加公演がサプライズで発表された。

「去年、僕が東京タワーでのイベントで曲作りをしていた時に、ファンの方々から『沖縄でライブをやらないんですか?』と言われて。僕は一度も沖縄へ行ったことがなくて、一部のファンの間で『渡邉は沖縄を嫌っているらしい』という良からぬ噂が立っているとか(笑)。決してそんなことはないので、10月に沖縄でライブをやることにしました」(渡邉)

「沖縄初上陸です。他にもまだ行ってない所があります。だから来年はもっといろんな場所へ行こう! 皆さんに会いに行くこと、こうしてライブができること自体が幸せなことなので、これからも頑張っていきます!」(JILL)

(撮影=アンザイミキ)

 JILLいわく「『40th FLOWERS』の中でも印象深い曲」という洗練されたバラッド「DEAR YOU」を挟み、「MOMENTS」という新曲(『WHAT A WONDER WONDERLAND』に収録)が披露されたこともこの日のトピックの一つだった。

「以前、『MOMENTS』というドキュメンタリー・ビデオを出したことがありましたが、『MOMENTS』という曲はまだなかったなと気づいて。この曲のテーマは『自分の人生は自分のもの。自分の人生は自分が主役』。どんな物語にもどんな脚本にも書き換えられるし、監督も主役もあなた自身。そんな歌です」
 そう語られ届けられた最新曲は、ミッドテンポで少し憂いを帯びた美しい旋律が心に響く逸曲。すでにスタンダードの風格を備えていることからも、バンドの自信作なのだろう。

 キャリア41年にして訪れたことのなかった地でライブをやる、未経験のことに果敢に挑み続けるPERSONZの真骨頂はやはり新曲にこそあると私は思う。そして今回も最新アルバムの一片を生で聴けて、『WHAT A WONDER WONDERLAND』が決して期待を裏切らない、クオリティが揺るぎない作品であることを確信できた。

 ライブの本筋とは関係のないことかもしれないが、常にファンを大切にするバンドの特性を垣間見れる場面があったので書き留めておきたい。

 新曲パートの一つである「東京タワーであいましょう」の演奏中、ステージ前方で体調を崩した方がいた。その事態に即座に気づいたのが渡邉で、彼はベースを弾きながら下手の舞台袖に引き下がり、スタッフに指示を出していた。その後の「TOKIO'S GLORIOUS」の演奏中でも渡邉はベースを抱えつつ客席へ降り、急事に適宜応対をした方々へ深々とお礼をしていた。

(撮影=アンザイミキ)

 この一連のやり取りは、自分たちを支えてくれるファンのことを常に第一に考えるバンドの姿勢の表れのように感じた。比類なき演奏力はもちろん、こうしたメンバーの人柄もまたバンドが40年以上にわたり支持され続ける一因に思えてならない。

 閑話休題。「TOKIO'S GLORIOUS」では、中盤でJILLが客席へ降りて練り歩く。最後列でターンして場内をぐるりと一周しながら歌唱するという、アスリートさながらのパフォーマンスだ。「予想以上の長旅だった」と笑いを誘っていたが、今日は満席だったのでどうしても後ろのほうまで行きたかったのだという。
「いつまでも夢見る少年少女でいてください! We're All Dreamers!」と始まった「DREAMERS」ではサビを一部観客に委ね、この日一番のシンガロングで会場が揺れる。間奏の本田のギター・ソロは渡邊の真横で奏でられるなど、メンバーの動きも激しい。

 本編最後はお馴染みの「I AM THE BEST」。“B, B, B, EST, B, EST, GO!”という印象的なフレーズに観客が一体となって手拍子で応える。バンドと観客が今日もまた“BEST”を更新できたという歓びのハンドクラップのようにも聞こえる。

 アンコールに応えたメンバーは、この日限定販売のTシャツ姿で登場。40周年にちなみ、40色の“40th COLORS” Tシャツだ(開演前に即完売)。

(撮影=アンザイミキ)

 JILLはラベンダーミスト、本田はインディゴ、渡邉はダスティピンク、藤田はターコイズをそれぞれ着用し、各メンバーと同じ色のTシャツを着た観客はステージへ呼び込まれ、それぞれメンバーと記念撮影をするという趣向。ステージ上の全員がTシャツ姿なのを見たJILLが「なんだか運動会みたい。今度は運動会でもやろうか?」とジョークを飛ばす。

 その後、「ネオアコースティック・ツアーで培ってきた技を次の曲で披露します」と、「MAGIC MOMENTS」はJILLが随所でブルースハープを吹くレアなアレンジで聴かせた。不思議な音の国で魔法にかかる瞬間はまだ続く。

「MIGHTY BOYS MIGHTY GIRLS」では、「まだまだ元気ありますか? 飛び跳ねられますか?!」というJILLの煽りにオーディエンスがサビのシャウトに合わせて思いきりジャンプして応える。普段は社会の中枢を担うミドルエイジたちが魔法にかけられ、まだ見ぬ世界へ飛び出す少年少女に戻っているかのようだ。

 鳴り止まぬ大歓声はメンバーが再度現れたことで鎮まり、バンドが結成41年を迎えられたことにJILLが改めて感謝の意を伝える。そして、「今日、ライブの帰りに雨は降っていないかもしれないけど、いつもライブが終わった後は楽屋でこの歌のような気持ちになっています」と「SINGIN' IN THE RAIN」をしっとりと聴かせる。ピンスポットを浴びて唄い上げる稀代のボーカリストは神々しく、雨を模して浅縹色や瑠璃色に点滅する照明が美しい。

 最後の「DEAR FRIENDS」の終盤で、「今日はこのステージから皆さんの素晴らしい笑顔が見れて最高です!」と満席の場内を見渡しながら語りかけるJILLの表情もまた満面の笑みだった。

 日本一のギタリスト、日本一のベーシストかつコンポーザー、日本一の(裏切らない)ドラマーをJILLが讃え、フロアを背後に記念撮影をした後、最後に7月からのツアーに向けて気合いを入れるべく一本締め。本来はそこで終演だったはずだが、まだ祝宴を終わらせてほしくない観客の熱烈なリクエストに応え、最後の最後に予定外のトリプル・アンコール。「皆さん唄ってね。もちろん私も唄うけど」と「7COLORS -Over The Rainbow-」が急遽披露される。こうした即座の判断と実践に、百戦錬磨のライブバンドならではのスキルの高さを感じずにいられない。

 気づけば2時間半を優に超えるボリュームの、徹頭徹尾観る者を満足させる至福のエンターテイメント・レヴュー&ショー。

 バンドの最新が最高を常に更新する今が最高潮のPERSONZはこの夏、聴き手にあの時、あの場面を思い出させる音楽の魔法を全国各地で振り撒く旅に出る。不動のメンバーで前人未踏の領域まで進化を続けるバンドの物語はまだまだ終わらない。

 今日の常識が明日の非常識となり、その逆もまた起こり得る混迷の現代、相互理解が困難になる一方の分断の時代には、聴き手の心を解き放つ音楽の魔法とそれを信じる力が大切なのかもしれない。だからこそPERSONZは生きる糧となるような時代が求める歌を今なお敢然と奏で続けるのだ。(取材・文 椎名宗之)

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