INTERVIEW

奥平大兼

「セリフの空白がリアルを生んだ」映画『か「」く「」し「」ご「」と「』撮影の裏側


記者:村上順一

写真:村上順一

掲載:25年05月30日

読了時間:約8分

 俳優の奥平大兼が、映画『か「」く「」し「」ご「」と「』(5月30日公開)に出演。引っ込み思案で自分に自信が持てない主人公・大塚京を演じる。奥平大兼と出口夏希がダブル主演を務める本作は、『君の膵臓をたべたい』などを手がけた住野よる氏の同名小説を映画化。“少しだけ人の気持ちが見えてしまう”男女5人の、純度100%の尊い日々を描く青春ラブストーリー。メガホンを取ったのは、『カランコエの花』(18)、『少女は卒業しない』(23)などを手掛ける新進気鋭の中川駿監督。主題歌はちゃんみなの「I hate this love song」が起用された。インタビューでは、本作での撮影秘話から、主題歌の「I hate this love song」について、また奥平の今の悩みを聞いた。

演じるヒントになった原作者からの手紙

奥平大兼

――原作を読まれていかがでしたか。

 普通だったら見えない人の気持ちが見えるという設定ですが、見えるからといって特別、僕たちの世界とかけ離れたことをしているかと言われたらそうではないなと思いました。ただ見えるだけで、悩みは変わらないというのが、すごく共感できるポイントの1つで、そこが若者に支持される理由なのかもしれません。僕も京が思い悩んでいたようなことは学生時代に経験はありますし、まだまだこれからもあると思っています。

――京は「自分なんて」という、消極的な部分もあるキャラクターですが、そこも共感できましたか。

 僕は「自分なんて」とは思わないようにしています。ただ、自分から積極的に行ける人ってそこまで多くないと思います。僕も少なからず消極的になる時もありますし、共感できたところもありました。

――台本を読まれて、映画ならではだなと感じたところは?

 台本にセリフの空白がいくつかあったところです。そこは自由に言いたいことを言ってもよいとのことで、原作のある作品で、こうした経験はなかったので面白かったです。実際やっていて自由にしゃべる瞬間があったおかげで、原作を映画に落とし込む、リアリティを持たせるという意味では、大事でした。

――共演された4人のキャストの魅力は?

 三木直子(通称ミッキー)役を演じた出口さんは、その場の空気を変えられる人だなと思いました。明るさやユーモアのあるところはミッキーに近いと思いました。まるで漫画のようなことを違和感なくできるというのは天性のものだと思います。周りを明るくしてくれるので、すごくありがたいですし、一緒にやっていて何をしてくるかわからないところもすごく楽しかったです。

 高崎博文(通称ヅカ)役の晶哉(佐野晶哉)は、周りへのリスペクトがすごい方だと思いました。晶哉は「自分はいつもお芝居をやっているわけではないから、こういうところでちゃんと頑張らなければ」と話していたのも印象的でした。お芝居でも、ちゃんと返してくれるところが、絶対的な安心感がありました。

 黒田文(通称パラ)役を演じる菊池さんは、役について真剣に考えている姿が印象的でした。パラのことが好きすぎて、ずっと悩んでいたようです。現場は賑やかな時もあるので、場合によっては集中力が途切れたり、楽しい方に気を取られがちですが、そういう時は周りと話さないようにするなど、集中するために徹底していた印象です。自分の役への責任感の高さを感じました。

 宮里望愛(通称エル)役を演じた、早瀬さんは不思議な存在感がありました。努力ではどうにもできないような天性の魅力を持っていて、とてもいいなと思いました。また、自分の役のこともしっかり考えているけれど、それ以上に相手役のこともちゃんと考えているのだなと、京を演じながら思いました。

――完成した作品をご覧になっていかがでしたか。

 自分以外の4人のシーンは知らない部分が多かったです。特に原作を読んで好きだったのがパラとヅカが話すシーンで、ずっと「楽しみにしてるよ」と2人にプレッシャーをかけていました(笑)。実際に観て、とても良いシーンでした。

――さて、印象的だった出来事は?

 クランクイン前に住野先生が5人に手紙をくださって、僕は自分の手紙と出口さん宛の手紙を読ませてもらいました。他の3人はどんなことを書かれているのか、いまだにわからないのですが、僕がいただいた手紙には原作には描かれていない、とある理由が書かれていました。それは原作を読んでも分からなかったことで、それを知れたことがとても大きかったですし、京を演じるにあたり、とてもヒントになりました。

――なぜ、出口さんのメッセージを見ることができたんですか?

 最初からは自分の中にしまっておこうみたいな感じだったのですが、「ミッキーのなら見てもいいんじゃない?」という空気になって「じゃあ見ます!」という流れになりました(笑)。ミッキー宛の手紙には、「最高にバカかわいいミッキーを演じてください」といったことが書かれていました。

――さて、京を演じるにあたり意識していたところはありますか。

 良い意味であまり何も意識していなかったかもしれません。ただ、5人でいる時は一番居心地の良いポジションにいようと思っていました。無理に会話をしようとせず、基本的には待ちの姿勢で臨んでいました。ただ、ヅカやエルと一緒にいるときの空気感は、それぞれ変えようと思っていました。

――監督から助言などはありましたか。

 ありがたいことに「お任せします」と言っていただきました。僕から監督に質問をすると、的確に答えてくださったのも印象に残っています。きっと監督の中に答えはあるものの、僕の感覚に任せてくださったのかもしれません。空白のセリフなど、その場での自由な演技が多く採用されていたと思います。後から聞いて、「あれはアドリブだったんだ」といった会話をしたのを覚えています。

水族館のシーンで“マンボウ待ち”!?

奥平大兼

――撮影中の“青春エピソード”はありますか。

 現地の高校生たちが撮影に参加してくれたのですが、その子たちのパワーがすごかったです。まさに青春真っ只中の人たちが参加してくれて、何人かと会話したのですが、青春パワーをもらいました(笑)。部活の話などをしたのですが、大人になってから、部活の話ってあまりしないので、みんなからリアリティをもらいました。

――とはいえ奥平さんも21歳。それほど学生の皆さんと年齢が離れているわけでもないですよね?

 僕の高校時代はコロナ禍ということもあり、学生らしいことはできませんでした。みんなでワイワイすることもほとんどありませんでした。僕は部活動もしていなかったので、みんなから話を聞いて中学時代を思い出し、懐かしい気持ちになりました。

――さて、本作では水族館に行かれたり、いろいろなシーンがありましたが、どんな思い出がありますか。

 僕は水族館に行きたいと1年ぐらい前から言っていたのですが、念願叶ってやっと行けたので嬉しかったです。茨城県の大洗水族館だったのですが、とてもテンションが上がりました。ただ、その日はマンボウの動きが悪く、撮影でマンボウ待ちなどもありましたが、それも良い思い出になりました。

――ちゃんみなさんが書き下ろした主題歌「I hate this love song」を聴いていかがでした?

 本作に映画にぴったりな曲でとても感動しました。主題歌はその映画の世界観とか雰囲気を担う、重要な要素の1つだと思っているので、それを作り出すアーティストさんって、改めてすごいと思いました。

――ところで、京が好きなバンド「はーむれすベア」(以下、「はむべ」)が気になりました。奥平さんはどんなバンドをイメージしていましたか。

 実はちゃんとした設定があって、アングラ系の男性3人組バンドなんです。曲のタイトルがとても面白く、ジャケット写真などもきちんと作り込まれていて、とても印象に残っています。回想シーンでミッキーに「はむべ」のCDを勧めるシーンがあり、オフレコだったので音声は使われていないのですが、ミッキーが京に、「何の曲が好きなの?」みたいなことをアドリブで聞いてくるのですが、曲名がとにかく覚えにくくて、「うーん、なんだろうね?」みたいなやり取りをしていました。

――はむべには可愛らしいマスコットキャラもいます。劇中で登場するぬいぐるみは、美術スタッフがこだわって作ったと、資料で読みました。

 そうなんです。クランクアップしたときに、そのぬいぐるみをいただきました。たぶんキャストのみんな持っていると思います。

奥平大兼の悩みとは?

奥平大兼

――登場するキャラクターはそれぞれ悩みを抱えていますが、奥平さんはいま悩みはありますか?

 特別ネガティブに思っていることではないのですが、世間から見た僕のイメージと、普段の自分が違っていることです。僕のプライベート、たとえば友達といる時の姿を見たら、たぶんみんなびっくりすると思います。

――役のイメージに引っ張られのでしょうね。

 それだけ役の印象が残っているということだと思うので、役者としてとても嬉しいことではありますが、「意外と明るいんだね」とか「すごく喋るんですね」と言われたりすると、そんなに無口そうに見えるのかなと思ったりします(笑)

――(笑)。

 それもあって舞台挨拶などで表に出させていただく時は、もちろん空気は読みますけど、しっかり喋ろうと心がけています。静かな人だと思われるのも嫌なわけではありませんが、どうせなら本当の僕を知ってもらえたら嬉しいです(笑)。

――さて、奥平さんが最近あった嬉しかった出来事は?

 ちょっと前に任天堂のWiiを購入しました。『Wii Party』というゲームに“スゴロク”があるのですが、友達とスゴロクで遊んでいて、先日僕が初めて1位になれたんです。他愛もないことですが、それがすごく嬉しくて。大人になってからゲームをやるとすごく白熱します。ミニゲームとか意外と頭を使うんですけど、真剣にやればやるほど本当に面白くて、純粋にゲームを楽しんでいます。

――では、役者として一番喜びを感じる時はいつですか?

 最近感じたことなのですが、撮影が全て終わって、キャストさんやスタッフさんたちとご飯に行って、「あの時のあれ良かったよね」とか話している時です。間近に見てくれていた人たちが、そう思ってくれているのがとても嬉しくて。これまではクランクアップした時や、舞台挨拶、作品が公開された瞬間も嬉しかったのですが、すべて終わった後に現場の人たちに会って、「良かった」と言ってもらえるのも、格別だなと思いました。

――最後に本作を楽しみにしている方へメッセージをお願いします。

 住野先生がおっしゃっていたことなのですが、そのままの自分、ありのままでいい、ということを肯定するお話しだとおっしゃっていて、本当にその通りだなと思いました。悩みがすべて解決するわけではないと思いますが、京は普通の人には見えないものが見えていても悩むということは、見えない僕らは、まあ仕方ない、くらいの気持ちでいいんじゃないかなと思います。とても心温まる作品なので、原作と映画を一緒に楽しんでいただけたら嬉しいです。

(おわり)

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村上順一

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