INTERVIEW

栁俊太郎

「現実に起きそう」作品が映し出す人間の“えぐさ”とリアルな恐怖


記者:村上順一

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掲載:25年04月26日

読了時間:約8分

 俳優の栁俊太郎が、映画『#真相をお話しします』(4月25日公開)に出演。菊池風磨演じる主人公・桐山の親友を演じている。本作は、ミステリー界の新鋭・結城真一郎による同名短編集を原作に、大森元貴と菊池風磨のW主演で映画化。現代社会の“いま”を切り取ったリアルな題材と、緻密なミステリーが融合した一作。

 さらに栁は、3月20日より公開中の映画『少年と犬』にも出演。高橋文哉と西野七瀬がW主演を務め、瀬々敬久監督がメガホンを取った感動作だ。原作は、直木賞を受賞し累計発行部数55万部を突破した馳星周氏の同名小説。栁は、西野七瀬演じる須貝美羽の恋人・森口晴哉を演じている。

 インタビューでは、2本の映画の撮影裏や見どころ、作品を通して感じたメッセージについて話を聞いた。【取材・撮影=村上順一】

今の時代に起こりうる話

栁俊太郎

――3月17日に行われた『映画「#真相をお話しします」レッドカーペットイベント~#映画の完成をお披露目します~』に参加してみていかがでしたか?

 撮影のとき以来、会っていなかった方も多かったので、久々に再会できて嬉しかったです。僕はリモートのシーンだったので、撮影中も共演者とはほとんど直接会えていなかったのですが、イベントで監督や共演者と顔を合わせて、「ああ、作品が完成したんだな」としみじみ思いました。

――とてもミステリアスな部分もある作品ですが、脚本を読んだ時の印象を教えてください。

 ストーリーは断片的に進んでいくのですが、最初の桜井ユキさんの登場シーンから「これ、どう展開していくんだろう?」と惹き込まれていきました。脚本の面白さにすごく惹かれましたし、今の時代に起こりうる話でもあって、実際にこういう事件が起きてもおかしくないよなと、リアルを感じました。

――確かにリアリティがあります。昨年出演された映画『他人は地獄だ』のときも、現代社会と照らし合わせて考えていましたよね?

 そうですね。映画や脚本から何かを感じ取るときって、結局は“今生きている自分”からしか想像できないと思うんです。だから、今の社会の出来事に照らし合わせて、勝手に自分が想像しているだけかもしれないのですが、作品が問題提起してくれている中で、僕ができるのは「今の社会、環境」について考えること。それが自然と作品を観るときのスタンスになっているのかなと思います。この映画『#真相をお話しします』が何を伝えようとしているのか、脚本を読みながら「境界線ギリギリなんじゃないか」と考えさせられました。

――動画配信サイトで誰でも簡単に配信できてしまうので、よく考えてやらないと怖いなと思いました。

 最近は、“表に出る人”の線引きが緩くなってきているとも感じています。今の時代、誰でも動画を作って配信すれば、表に出る人になるわけです。この映画でもそういう感覚はありますし、SNSなどのフォロワー数で注目される社会になってきている中で、僕らと一般の方の境目って、実はあまり変わらないんじゃないかと思ったりします。

――さて、共演された菊池風磨さんとは面識があったんですね。

 はい。12〜13年前にドラマと映画で共演して以来でした。

――久々の再会で、しかもリモートでの共演という特殊な形でした。

 そうなんです。撮影中は直接会えなかったので、スタッフさんが気を利かせて、風磨くんと(伊藤)健太郎くんと僕の3人で食事会をセッティングしてくださって。でも、めちゃくちゃ気まずい食事会になってしまいました(笑)。

――何があったんですか?

 僕は2人とも面識があったのですが、風磨くんと健太郎くんは初対面だったので、過去の話をするのも適切ではないなと思って。また風磨くんって、印象と違ってプライベートではけっこう静かなタイプなんです。僕も積極的に話すタイプではないので、静かな時間が多かったです(笑)。

――撮影はお菓子を食べながら緊張感ゼロだったとか?

 はい。パソコンの上にカメラが固定されていて、音声さんと照明さんが1人ずついるくらい。僕が撮影していた部屋にも3〜4人しかスタッフさんはいなかったので、まるで自宅にいるような感覚でした。ソファに寄りかかって、カットがかかってもリラックスしすぎて、撮影している感覚はなかったです(笑)。

――撮影はスムーズに進みましたか?

 それが、けっこう時間はかかりました。ワンシーンを長く撮影していたのですが、いろいろタイミングが難しかったです。たとえばメッセージアプリの通知が届かないとか、後ろに人が現れるタイミングとか、けっこう大変で何テイクかやりました。さらに、電波が悪くてリモート画面がフリーズしたり…。そうしたやり取りもリアルさとして活かされていたと思いますが、これまでとは違った難しさがありました。

――リモートってどこかぎこちなくて、ちょっと話しづらいですよね。

 慣れるまでは難しかったですが、次第に“間”の取り方もつかめるようになりました。最初は対面で行うような普通の芝居と同じような間で考えてしまっていたのですが、リモートのやり取りって、ちょっと間が空いたり、言い直したりするのが当たり前で、そういうリモートならではの“自然さ”をもっと出していいんだなと思えたあたりから、スムーズになりました。

引き出しが多いと感じた大森元貴の芝居

栁俊太郎

――仕切り屋で女たらしの役だと紹介されていましたが、役へのアプローチはいかがでした?

 風磨くんや健太郎くんは色々考えることも多かったと思いますが、僕はいい意味であまり考えずに臨みました。2人と親友というシンプルな関係性だったので、むしろ何も構えずに演じたほうが自然だと思ったんです。ただ、クランクアップしてからは「もっと自然にできたな」など、反省点が出てきました。ただ、そのときはベストを尽くしていたので、次に活かせればいいなと思っています。

――共演シーンはなかったと思いますが、W主演の大森元貴(Mrs. GREEN APPLE)さんの演技を見てどう感じましたか?

 「演技、初めてじゃないでしょ」って思いました。ライブでさまざまな表現をしている方なので、やっぱり引き出しが多いんだと思います。おそらくステージも演技と同じような“表現の場”という認識があるのかもしれません。僕はライブに立ったことがないので断言はできませんが、ミュージシャンならではの魅力や表現力って、やっぱりあるんだなと感じました。初主演であれだけ堂々とした演技ができるのは、とてもすごいことです。

――この作品を、どんなふうに楽しんでほしいですか?

 物語のあちこちに伏線が張られていて、多くのキャストが登場します。人間の“えぐい部分”や、それを隠し持つ人が実は身近にいるかもしれないという怖さ。そして「これって現実に起きそう」と感じさせるようなリアルな描写。そうしたものがストーリーに織り込まれているので、シンプルに楽しみながら観て、ある瞬間に「これって深刻な問題かも」と気づいたとき、ゾッとすると思います。

映画『少年と犬』で演じた森口晴哉は正義感がゼロ

栁俊太郎

――最初に『少年と犬』の脚本を読んだときの印象はどうでしたか?

 最初は、犬と震災の話で、「飼い主を探して旅をする犬の物語」と聞いて、それだけで泣けると思いましたし、資料を見ただけで泣いてしまって。僕、犬が大好きなんです。これはまともに観られないかもしれない、と思ったほどです。ただ、そのあとに「森口役です」と言われて……「ああ、すごいクズの役なんだな」と(笑)。

――人として、かなりの“嫌なやつ”といった役でしたね。

 これまで僕が演じてきた役の中でも、相当なクズかもしれません。人を殺していないことくらいが、かろうじての救いです。人を殺したり、もっと重い罪を犯す役でも、どこかに“その人なりの正義”があるものですが、森口にはそれが全くなく、ゼロだと思いました。

――嫌なやつというのが滲み出る表情がとても印象的でした。スタッフの方々も、あの表情を求めていたのでは?

 プロデューサーさんからも褒めていただきました。ある番組であるタレントさんが、「“あの男、何なの!?”」とおっしゃっていたそうで。それを聞いて、「ああ、ちゃんと伝わったんだな」と思う反面、まだお会いしたことがない方に、役柄ではありますが、“クズ”だと思われているのは、ちょっと切ないです(笑)。

――あはは(笑)。そう思われても仕方ない演技でした。ところで、共演した西野七瀬さんはどのような印象を持ちましたか。

 とてもおとなしい印象の方で、お芝居もすごく自然体でした。現場で会話を交わす機会はあまり多くなかったのですが、滋賀県での撮影中、琵琶湖を見ながら「雨が降りそうですね」みたいな会話をしたのを覚えています。また、アクションシーンもあったので、そのあたりはお互いに確認しながら進めていきました。

――この作品のキーになる犬の“多聞”(たもん)とは会えましたか?

 森口が埋められるシーンがあるのですが、そのときに多聞が遠くから僕のことを見ていたので、そのときに会いました。すごくかわいかったです。

――埋められるのは、嫌ですね……。

 あれは本当に怖かったです。実際に土をかけてもらったんですが、「土ってこんなに重いんだ」と思いました。

――栁さんは動物に助けられた、救われた経験はありますか?

 僕、犬を飼っているのですが、毎日癒しをもらっています。そういう意味では、救われているなと思います。

――精神的な支えにもなっているんですね。

 はい。もし僕がサイコパスのような人物だったら、それが犬にも伝わって、噛まれたりするらしいんです。でも、逆にその犬のことを思って撫でると、セロトニンが脳内に出て、それがお互いに作用して、幸せを感じる。そういうことが、データとしてもあるらしくて、僕もそれを実感しています。疲れているときは、本当に癒されるので、かけがえのない存在です。

(おわり)

栁俊太郎

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