進化する「ap bank fes」、櫻井和寿「穏やかな笑顔でずっといられることを願って」東京ドーム公演初日レポート
『ap bank fes '25 at TOKYO DOME 〜社会と暮らしと音楽と〜』

Bank Band©ap bank
2月15日・16日の2日間にわたり、東京ドームで『ap bank fes '25 at TOKYO DOME 〜社会と暮らしと音楽と〜』が開催された。本イベントは、14回目にして初めての屋内開催。このイベントの収益は、全額ap bankの活動資金となる。アイナ・ジ・エンド、imase、Salyu、スガシカオ、B’z、槇原敬之、東京スカパラダイスオーケストラ、Mr.Childrenが出演した15日の模様を以下にレポートする。
【写真】『ap bank fes '25 at TOKYO DOME 〜社会と暮らしと音楽と〜』の2月15日の模様
『ap bank fes』は、気持ちのよい場所で音楽を聴きながら、環境問題を身近に考えてもらう場として、また、さまざまな取り組みの実践の場として2005年に始まった。ライブステージでは、小林武史、櫻井和寿を中心に結成された 「Bank Band」とゲストミュージシャンたちとの競演やバンドアクト、フードエリアでは環境にも体にもやさしい食事、環境に配慮したオフィシャルグッズや商品の販売、トークイベントやワークショップなど、楽しみながら環境問題を考えてもらえるよう趣向を凝らしたエリアづくりを行ってきた。また、環境負荷の少ないエネルギーの部分的な導入や、ごみの削減と再利用を促進する分別回収を徹底して行うなどの取り組みも積極的に取り入れ実践している。
■オープニングアクトSIDE CORE×玉田豊夢×アオイツキ
開演時刻が近づきカウントダウンが始まる。そのカウントがゼロになると客席から大きな拍手が響き渡った。オープニングアクトは、都市空間をテーマにしたSIDE COREが手がけるアート、玉田豊夢(Dr)のドラム演奏、アオイツキによるパフォーマンスが行われた。パフォーマンスが進むにつれ、緊張感のあるサウンドが加わり、高揚感が最高潮に達した瞬間「殻を破って」のメッセージとともに東京スカパラダイスオーケストラにバトンを繋いだ。
■東京スカパラダイスオーケストラ
東京スカパラダイスオーケストラが登場し、盛り上がり必至の「Paradise has no border」でスタート。ゴージャスなブラスサウンドに合わせて観客は手を振り上げ、初っ端からハイテンション。メンバーもステージの端まで移動しながら演奏し、会場の隅々まで盛り上げていく。谷中敦(Baritone sax)は「すごいパワーだ!」と興奮を隠せない様子。そして、「天空橋」では<わっしょい わっしょい>と観客の掛け声が会場をひとつにしていく。
スペシャルゲストとしてimaseが登場し「すげえ!」とドームの景色に興奮するなか、“笑顔のリレー”をテーマにした「一日花 feat. imase」を披露。スカパラのサウンドとimaseの唯一無二の歌声のマリアージュを堪能。そして、SPゲストとして櫻井和寿が登場し、大きな歓声が送られるなか「リボン」を歌唱。粋なビートとサウンド、櫻井のソウルフルな歌でエキサイティングな空間を作り上げた。ラストは「Dale Dale! ~ダレ・ダレ!」を演奏し最高の幕開けとなった。
■Break1/Movie〜殻を破って
休憩を挟み投影された“Movie〜殻を破って”。「生きること」「考えること」をテーマにした映像は興味深いものがあった。AIがストーリーテラーとなり『この世界で生きていくために、幸せとは何なのか』と問いかける。食べること、厳しい自然から身を守る、誰かと寄り添っていく幸せ、記憶にまつわることなど、人間の本質に迫る内容だ。人類はバランスを崩してしまっていると映像の中のAIは話す。正義とはなんなのか、現代社会と向き合っていく。「人間は何ができる?」というメッセージで締めくくられた映像を観客も静かに見入っていた。VTRが終了し、Bank Bandが「forgive」を披露。いま、人間としての質が強く問われる現代に「forgive」のメッセージがドームに響く。櫻井は集まった観客に感謝を伝え、「トーキョーシティー ヒエラルキー」で、さらに気持ちを一つにしていく。
■Bank Band with アイナ・ジ・エンド
Bank Band with Great Artistsのセクションへ。登場したのはアイナ・ジ・エンド。小林武史と亀田誠治の対談VTRで「“生粋の表現者”とんでもないポテンシャルのアーティストが現れた」と絶賛されたアイナ・ジ・エンドが登場。アイナは1曲目に「風とくちづけと」を歌唱し、「すごく楽しみにしていました。今日は最後までよろしくお願いします」と挨拶。2曲目は「キリエ・憐れみの讃歌」。エモーショナルな歌で観客を惹きつけていく表現力は圧巻だった。Bank Bandの奏でるサウンドを受けながら、全身で音楽・ライブを楽しんでいる姿が印象的だった。最後に『宝者』を届け、ステージを後にした。
■Bank Band with imase
「グラデーションで音楽を捉えているかというよりは、パターンでコーディネートする感覚が長けている」と小林武史。「軽いからこそ見えてくる存在感、音楽への誠実さ正直さが魅力」だと亀田誠治がVTRで語ったimaseがステージに登場。ファルセットと地声の低音を巧みに使い分けながら紡いでいく「逃避行」。サビでの透明感のある伸びやかな歌声は幻想的で、“imaseワールド”にどっぷりと浸かっていく。「楽しんでいきましょう!エヴリバディ!!」と元気よく投げかけ「ユートピア」へ。軽快なリズムに乗って軽い足取りでステージを大きく使ってパフォーマンス。「最高の景色ありがとう!」と感謝を伝え「もっと!」と観客を煽る。ラストは大ヒットナンバーの「NIGHT DANCER」でグルーヴィなステージで心地よい空間をつくり出した。
■Bank Band with Salyu
“声が楽器のよう”、“暮らしていく中での波、波動”だとVTRで語る小林武史と亀田誠治。登場したのは今年デビュー20周年を迎えるSalyuだ。1曲目に届けたのは「LIFE」。爽快感のあるサウンドにトランスペアレントなSalyuの歌声が一体となり、東京ドームに広がっていく。ステージからの景色に「うわ〜すごい」と感動するSalyu。ここで昨年出産したことを報告し「私の最初の楽曲をお届けしたい」とデビュー曲「VALON-1」。ブルーの光がドームを照らす中、情感を込め歌唱するSalyuの姿が印象的だった。20周年について「このフェスが私の活動を引っ張って、引き上げてくれたと強く実感しています。改めて『ap bank fes』ありがとう」と感謝を伝え。ラストは「新しいYES」を披露し、ステージを後にした。
■Bank Band with スガシカオ
“いろんなところが変”、“裏の裏”、“アバンギャルドまで描けるけど額縁はある”と一風変わったコメントが印象的だった小林武史と亀田誠治の対談VTRに続いて登場したのはスガシカオ。1曲目は荘厳なストリングスが印象的なイントロから心掴まれる「progress」。メッセージ性、ドラマティックな展開、説得力のある歌声で観客を魅了。「自由にノって体を動かしていこうか!」と投げかけ、ファンクネスにこだわったスガシカオの真骨頂とも言えるナンバー「午後のパレード」を披露。多くのダンサーも登場しステージを華やかに彩った。ドーム公演について「僕は一人のゲストなんだけど、一緒にここまできたような気がしていて感無量です」と気持ちを述べた。また、先日解散を発表したKAT-TUNについて言及。デビュー曲「Real Face」を作詞したことから、「デビューのときからずっと関わらせてもらったので、ちょっと寂しいのが本音です」と心境を吐露。「複雑な思いがあるのですが、それを抱えつつみんなと歌いたい」と話し、「この曲は松本さんと僕との共作なんです。今日は東京ドームだしさ、やっぱり呼びたいじゃん」と、ここでB’zのギタリスト松本孝弘を呼び込みKAT-TUNのデビュー曲「Real Face」をパフォーマンス。多くの観客がタオルを振り上げ、大きな盛り上がりを見せた。
■Mr.Children
生き様パフォーマンス集団の東京QQQ(トーキョーサンキュウ)のパフォーマンスに続いて、桜井が「さあ、いこうか東京ドーム」と投げかけライブは「擬態」で幕は開けた。躍動感のあるビートにのって伸びやかな歌声を響かせ、あっという間に観客の心を掴んだ。ドームが一つになったシンガロングに桜井は「最高!」と声を高らかに上げた。そして、疾走感のあるロックチューン「海にて、心は裸になりたがる」、心揺さぶる「HANABI」を披露し観客を魅了。
MCでは桜井が、「今日はこのフェスにそしてこの会場にふさわしい曲を選んで持ってきました。全力でお届けしたいと思います。近頃はこの社会の中、暮らしの中でこのままではどうなってしまうんだろうかと不安になったり、途方に暮れてしまうことが多いですが、いやいや、そうじゃなくて僕らが望んでいた未来、希望にはもうすぐなんだ。そんな気持ちを込めてこの歌をお届けしたいと思います」とメッセージを伝え、「Brand new planet」、アルバム『REFLECTION {Naked}』に収録の「街の風景」を続けて披露。「街の風景」では手書き風の歌詞がスクリーンに投影される演出も。
ミスチルのステージも佳境に。強いメッセージ性を持つナンバー「タガタメ」では、その迫真の歌唱と演奏に観客は固唾を飲むかのようにステージに目と耳を傾ける。しっとりと「HERO」で希望を感じさせる流れは見事だった。これで終わりかと思いきや小林武史をキーボードに迎え、ラストに「彩り」を披露。「ただいま」「おかえり」のコール&レスポンスは、ほっこりとした温かい空間をつくりあげ、「最後まで楽しんでいってください」とステージで締めくくった。
■Break2/Movie〜空になって
人間の進化について深掘りしていく映像。人間の進化の鍵になったのは共感で、集団を作り同じ目的を共有することで生存率を上げてきたという。そして、「敵」の存在も進化の重要な鍵となっていると興味深い内容が綴られていく。分断と争いと共に成長し、同時に悲劇を生み出した人間。「破滅に向かう争いは人間の進化において本当に必要なプロセスなのか」と問いていく。
地球に住む生命には4つの共通点があるという。膜で外部と区切られていること、自分の体を代謝で維持すること、自分の分身、子孫を残すこと、進化することの4つだという。この話を聞いて筆者はこの東京ドームの屋根を“膜”と見立てているのではないかと思った。また、いい意味で分断されたこの会場で、音楽を体感し共感することで、最終的に進化していくというプロセスを感じた。
「Movie〜空になって」が終了し、櫻井和寿とSalyuがステージに登場。2018年にリリースされたBank Band5作目の配信限定シングル「MESSAGE -メッセージ」を歌唱。<この世界に生まれた意味をぼんやり考えたりする>という歌詞が、どこか映像で語られた内容を包括し、解像度を高めるような感覚があった。
■Bank Band with 槇原敬之
フェスも残すところ2アーティストのパフォーマンス。櫻井が、「同級生です」と紹介し登場したのは槇原敬之。1曲目は「超えろ。」。快活なサウンドと歌で楽しませる。槙原は「もう最高です。櫻井くんと一緒に歌うことなんてなかったもんね。本当に嬉しく思っています。こんな素晴らしいメンバーで東京ドームで初めて歌うんです」と興奮気味に話す。「東京以外から来ている人もたくさんいると思います。そんな人たちに心を込めてこの歌を送ります」と「遠く遠く」を披露。切ないメロディと歌詞に感情を揺さぶられる。そして、今度は櫻井と一緒に歌いたいと「僕が一番欲しかったもの」を歌唱。1番は槙原、2番を櫻井、サビではハーモニーを響かせ、「ap bank fes」ならではのSPコラボで会場を湧かせ、アウトロでのコール&レスポンスの一体感も格別だった。ラストはリリースから34年以上経った今でも色褪せない名曲「どんなときも。」を歌唱。ついつい口ずさみたくなるキャッチーなメロディで、観客の心を鷲掴みにした。
■Bank Band with B’z
櫻井がB’zの2人を呼び込むと、松本を先頭に、稲葉が肩に両手を乗せる形で、まるで電車ごっこのように仲睦まじく登場。「Oh Yeah!」と稲葉のエネルギッシュなシャウトから、昨年配信リリースされた「イルミネーション」をパフォーマンス。伸びやかな歌声を響かせる稲葉、松本はメロディアスで鮮やかなギターソロでライブを盛り立てる。MCでは稲葉が「温かい空間にお声がけいただいてありがとうございます」と感謝。「槙原さんが散々コール&レスポンスをやっていましたけど、僕たちだって皆さんの声が聞きたいです」とコール&レスポンスを観客にお願いすると観客の声が盛大にドームに響き渡り、そこから「Calling」へと流れ込んだ。同曲は序盤と終盤のハードセクションとバラードセクションの2面性を持つ変則的なナンバーだ。アウトロではライブならではのブレイクでコール&レスポンスを際立たせ、稲葉のシャウトが冴え渡るなかテンションはさらに上昇。
稲葉は、「温かい声援をいただきありがとうございます。腹の底から楽しみたいと思います」と話し、ラストは昨年行われた『NHK紅白歌合戦』でも大きな盛り上がりを見せた「ultra soul」を投下。2番のAメロで櫻井は<いいのかい>のコーラスで稲葉と絡む場面も。<そして輝くウルトラソウル>からの<Hi>の大合唱は、最高の一体感を生み出していた。エンディングではライブならではの<ウルトラソウル> <Hi>の3連チャンでボルテージは最高潮。稲葉は「東京ドーム、最高でした!」と投げかけ、極上のロックサウンドでフェスを盛り上げた。
「最高すぎじゃないですか!」とB’zの2人を送り出した櫻井は、見てほしい写真があると話す。スクリーンには2023年に逝去したKANさんの写真が投影された。櫻井は「何度も何度も『ap bank Fes』に出演していただきました。その度に独特なKANさんの世界に僕らを引きずり込んでくれて、思いっきり楽しませ感動させてくれました。続いての曲はKANさんへの感謝とリスペクトを込めて 1 曲僕が歌わせていただきます。50年後、当然世の中、社会は変わっているでしょう。今よりもっと困難な世の中になっているかもしれないし、逆にすごく楽でハッピーで幸せな世の中になっているかもしれない。たとえどんな社会に世の中になっていたとしても、みんなのその幸せそうな顔、いつまでも変わらずに大事な人と一緒に、穏やかな笑顔でずっといられることを願って」と、KANさんのナンバーから「50年後も」を櫻井が熱唱。丁寧に歌い紡ぐその声に観客は静かに耳を傾けていた。
そして、「奏逢~Bank Bandのテーマ~」、「良かったら一緒に歌って!」とSalyuを呼び込み櫻井とともに「to U」を歌い、ラストは先月配信限定でリリースされた「カラ」を、音源でも参加したアイナとSalyuをコーラスに迎え披露し、壮大なスケール感の中『ap bank fes '25 at TOKYO DOME 〜社会と暮らしと音楽と〜』の初日は大団円を迎えた。
このフェスの初日に参加して感じたことは、「人間は何ができる?」という問いに対して、少なくとも人間は音楽を奏で、それを聴いて心を一つにし、感動することできると思う。多幸感あふれるこのフェスがそれを体現していた。回を増すごとにメッセージ性が進化していく『ap bank fes』への期待がさらに高まった公演だった。【取材=村上順一】
【出演者】
■2月15日(土)
[Bank Band with Great Artists]
Bank Band、アイナ・ジ・エンド、imase、Salyu、スガ シカオ、B’z、槇原敬之
[Band Act]
東京スカパラダイスオーケストラ、Mr.Children
■2月16日(日)
[Bank Band with Great Artists]
Bank Band、上白石萌音、JUJU、Superfly、宮本浩次、milet
[Band Act]
Saucy Dog、マカロニえんぴつ、Mr.Children
Bank Band :小林武史 (Keyboards) / 櫻井和寿 (Guitar & Vocal, Chorus) / 小倉博和 (Guitar) / 亀田誠治 (Bass) / 河村“カースケ”智康 (Drums) / 山本拓夫(Sax, Flute) / 西村浩二(Trumpet) / 四家卯大 (Cello) / 沖祥子 (Violin) / イシイモモコ (Chorus) / 小田原ODY友洋(Chorus)
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