INTERVIEW

日髙麻鈴

あらゆる音を擬音語に変える少女役に挑戦「美晴から勇気をもらった」:映画『美晴に傘を』


記者:村上順一

写真:村上順一

掲載:25年02月12日

読了時間:約8分

 女優の日髙麻鈴が、映画『美晴に傘を』(公開中)に出演。自閉症による聴覚過敏であらゆる音を擬音語に変えることができる美晴を演じる。本作は、『底なし子の大冒険』『狼少年タチバナ』などで知られる劇団牧羊犬を主宰し、短編映画では国内外の数々の賞を受賞してきた渋谷悠氏の初長編作品。言葉が心を紡ぐ、家族再生の物語だ。日髙は、2015年にアイドルグループ“さくら学院”に加入後、3年間の活動を経て2019年に卒業。アイドル活動中、映画『さよならくちびる』で初めて映画出演を果たし、本格的に女優業を始める。幼少期から歌うことが好きでミュージカルや音楽活動にも挑戦している。そんな日髙にクランクアップで号泣してしまったという撮影エピソードや、いま挑戦していきたいことを聞いた。【取材・撮影=村上順一】

自分で体感しながら美晴を作っていった

日髙麻鈴

――麻鈴さん、素敵なお名前ですがどのような想いが込められていますか。

 父が屋久島出身で、祖父が屋久島に住んでいるのですが漁をしていました。海がとても好きで、孫が生まれたら海にちなんだ名前をつけたいという理由から麻鈴になりました。海のMarinが由来で、漢字はお寺につけていただいて、「麻」は悪魔を追い払う魔除けの効果があって、「鈴」には鈴の音のような声になってほしいという母の願いが込められています。

――本作でも海辺の町が舞台ということもあり、繋がりがありますね。

 私も小さい頃から海で泳いだり、海のアクティビティがとても好きだったので、撮影期間中も海が近くにあるというのは、自分の心の家に帰ったような気持ちになりながら、撮影期間を過ごしていました。

――扉の奥に海が見えるロケーションも印象的でした。

 実際にあの場所にあるんです。私もあの場所が印象的で、美晴が扉の向こう側を見て、聞こえてきた音を言葉に変えていくのですが、あのシーンがとても大好きです。

――ところで美晴は聴いた音を言葉にすることで心が落ち着きますが、麻鈴さんが好きな擬音語はありますか。

 好きな擬音語は美晴と同じように「ぷにぷに」、「ほわほわ」、「ふわふわ」とか柔らかいのが好きです。実は私は日常生活で擬音語を多用してしまうタイプなんです。プライベートで何かを説明する時にうまく言葉で表せず、擬音語に変えて説明を試みるのですが、母から「それちょっとよくわからない」と言われます(笑)。

――あはは(笑)さて、美晴にアプローチするにあたり、どんなことを意識されていましたか。

©️2025 牧羊犬/キアロスクーロ撮影事務所/アイスクライム

 聴覚過敏のある役を演じる上で、役作りをしている時に日常生活から意識的にヘッドフォンをつけて生活をしていた期間がありました。外部の音を遮断して美晴が普段どういう風に生活をしているのかとか、どんな音を聞いているのかを意識しながら美晴を作っていた部分がありました。音を遮断していると、ヘッドフォンを外した時に耳から拾える情報量が増えて、役作りをする上でとても参考になりました。自分で体感しながら美晴を作っていった部分がありました。

――リアルに味わってみないとわからないなと。

 はい。できる限り美晴が聴いている、見ている世界に自分もできる限り近づけていきたいという思いがありました。私はどちらかというと役に入っていって作っていくタイプだなと思っています。

――なかなか役から抜け出せなくなってしまうこともありますか。

 撮影期間が終わって、しばらくはまだ抜け出せなかった部分はありました。ただ、美晴の見ている世界が本当に素敵で、少しずつ美晴が自分の中から抜けていく感覚がちょっと寂しいなと思ったのですが、今は愛着を持って美晴を演じることができて良かったなと思っています。

――一心同体のような感覚だったんですね。

 はい。美晴のパーソナリティと自分のパーソナリティ、近いものがあったなと思っています。

――自分以外の誰かになれるというのは、役者さんならではの特権で醍醐味だったりしますよね。

 違う人生を生きることや、体験できることは素敵だなと思っています。その役を演じることで、自分の生活にも新たな気づきがあり、いま見ている世界が180度変わるようなきっかけを、役を通じてもらい、助けられることがたくさんありました。俳優という職業をやっていく、自分が生きる上で必要不可欠な部分だなと思っています。

――美晴が着用しているイヤーマフ(防音保護具)に描いてあるウサギもかわいいですね。

 そうなんです! うさぎ柄のテープが貼ってあるのですが、美晴は音にとても敏感なので、うさぎは耳が大きくて音に敏感というところで、監督が美晴とうさぎの共通点があるということで、そのシールが貼ってありました。

――ストーリーではワインも登場しますが、日髙さんは飲みましたか。

 撮影の時はまだ20歳を超えていなかったので飲めなかったんです。でもキャストの皆さんはすごくおいしいって飲んでいました。また、行く機会があったら昨年12月に21歳になりましたので飲みたいと思っています。

美晴から勇気をもらった

日髙麻鈴

――本作で特に注目してほしいシーンはありますか。

 夢の中のシーンです。美晴が心の拠り所にしている部分でもあるのですが、外の世界から自分の心を守るために、夢の中に傘売りが出てきます。美晴が大切にしている絵本の中の物語が美晴の頭の中にも存在していて、夢の中のシーンはとてもファンタジックです。傘が空の上を飛び交ったりしている映像になっていて、撮影中も実際に傘を吊り上げて空に飛んで行くのを実際に観ながらお芝居をしたのですが、とても温かい気持ちになりました。そのシーンがとても大好きなので注目してもらえたら嬉しいです。

――逆につらいシーンもあると思うのですが、日髙さんがつらいと思ったシーンは?

 物語が進むにつれて、美晴は外の世界に興味を持っているけれど、いろんな音だったり、自分を追い込んでしまうことが原因でなかなか外の世界に一歩踏み出せず、その苦しみや葛藤がだんだん高まっていく部分はつらかったです。一歩を踏み出すのはとても大変なことで、何かに挑戦する時も不安な気持ちはなかなか拭えないけど、勇気を出して一歩足を踏み出してしまえば意外となんとかなる。美晴が一歩を踏み出すシーンがいくつかあるのですが、自分も勇気をもらいました。

――日髙さんが撮影を経て勇気を出して一歩踏み出したことはありますか?

©️2025 牧羊犬/キアロスクーロ撮影事務所/アイスクライム

 精神的な部分で踏み出せたところがありました。私は学生時代から音楽だったり、絵を描いたり物語を創作することがとても好きで、それらが心の拠り所になっていて、日記のように溜めています。それを世に出したりは一度もないのですが、自分のそういう創作したものを、一歩踏み出してこれから発信していけたらいいなと思い始めています。それは美晴に背中を押してもらった部分がありました。

 特にいま興味があるのが音楽です。今年の1月に音楽プロジェクト“Magico”(aはアキュートアクセント付き)の第3弾作品として
はっぴいえんどの「12月の雨の日」をカバーした7インチレコードをリリースしました。自分でもいま音楽制作を始めていて、オリジナル曲を一人で黙々と作っています。それがいつか出せたらいいなって。いまワクワクしながら作っています。

――さて、升毅さんや田中美里さんなど素晴らしい役者さんと共演して刺激を受けたことは?

 刺激をもらってばかりの毎日で、皆さんに包み込んでいただいたという印象があります。カメラが回っていない時でも優しく接してくださり、本当の家族みたいな感じでした。伸び伸びとお芝居ができるように、いろんなことに寄り添っていただいていました。毎朝起きて撮影現場に行くのが本当に楽しみで、子どもの頃の純粋な気持ちに戻って撮影をしていました。

――クランクアップはとても寂しかったのでは?

 大泣きしました。この撮影が終わらないでほしいと思ってしまうくらい素敵な現場でした。時間がゆったりと過ぎて行き、とても心地よくて、あっという間に最後の撮影日になり、これで終わってしまうのかと、感極まって泣いてしまいました。

――とても温かい現場だったんですね。最後にいま役者として成し遂げたいことはありますか。

 成し遂げたいとは少し違うのかもしれないのですが、自分自身であることを絶対に忘れないように生きていくことです。今回演じた美晴はとても自分に近いものがありましたし、美晴の中に強い意志があり、ありのままの自分として生きていく、自分を受け入れることの強さと大切さを教わったので、それをしっかり心の中において、人生を駆け抜けていきたいです。

(おわり)

©️2025 牧羊犬/キアロスクーロ撮影事務所/アイスクライム

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