誰かの日常に自分たちの音楽が溢れている、そんなバンドに
――前回、「オドループ」のMVを発表された際は、驚異的な視聴回数をたたき出したという事実がありますが、それだけの影響力はもともと見込まれていたのでしょうか
健司 いや、そこはやっぱり自分たちがライブをやったときに初めてお客さんから教わったものでもあり、自分たちが思っている以上に、求められていることがあるんだということを感じ、逆に驚かされたところでした。
――今回はそこを目指し「オワラセナイト」のMVを制作されたという経緯もあるのでしょうか
健司 そうですね。「オドループ」で感じたことを曲にしたところもあったので、ちゃんと関連性も作りたいということをMVの監督さんにも話をしましたし。ちゃんと「オドループ」で得たものをしっかりと作った上で、次に進める何かを作りたいと思いはありました。
――今までのお話を伺った限りでは、聴いた印象よりも逆に、かなり理詰めに作られているという面も見えてきますね。たとえば先程の健司さんの話で、音楽的には康司さんが中心となってイメージするものを「普通」と感じているというお話をいただきましたが、それは音を作る上での印象で、他方で普段の康司さんに対する見え方はまた違うものがあるのでしょうか
健司 彼に対しての印象はやっぱり「作る側の人間」というところで、僕ら3人とは違うものを持っているな、という感はあります。作ることに関して一定以上のものを持っているというような。絵も描くし、服も好きで、そういった興味を持っている部分が全部芸術に向いているイメージがあって、弟だけどある意味不思議な人間だなと。
隆児 普段の生活に起こりうる、いろんなことを全部吸収しようとする面があります。たとえば、今回のアルバムの中に「セーター」という曲がありますが、「そこを見てるんかい!?」という感じ。普段の生活の中で「セーターに目がいったときがあったんやろうな」と(笑)。そういう発見を毎日しているのかな? と考える。
kaz. 言葉がすぐに出てくる人ですね。ジャムっている段階ですぐに歌詞が出てくる人でもあります。いきなり即興で。頭の中がどう考えているのかがわからない。ジャムって音楽で遊ぶということはできるけど、言葉でも遊べる人って、僕は今まで会ったことがない。彼はそれができる人なんです。
――それはもう言葉に出てきた段階で「こういう曲」のように決まったメロディがある
kaz. 本当に詞と曲が一緒にできるみたいです。同じ単語を何回も言うときもあれば、歌わないときもあるんですけど、昔スマホでVoice Memoを録ったものを聴いたことがありましたが、中には「スゲーな、これ本当に即興?」みたいなのもあります。だから本当に、今まで会ったことのない音楽人ですね。
――逆に康司さんから見ると、皆さんはどのように見えているのでしょうか
康司 健司については、「兄弟だから」というのは抜きにして、俺をホールに連れていってくれるのは「健司の声」だと、いつも思っています。絶対自分じゃない。兄弟だからそれ以上はホメないですけど(笑)。それはすごく感じるし、その中に全部詰まっているんです。
kaz.さんはすごく周りに気を配れるというか。音楽に対して熱量も持っているし、その中で「自分が引こう」という部分をちゃんとわきまえて引いてくれる。見るべきところはしっかり見てくれる、そんなところをすごく感じます。
隆児に対して俺がすごく思うのは、「今まで会ったことのないタイプの人間だ」と(笑)。不思議というか、考え方の視点が斜めなんです。「そういうことを考える?」って。さっき「セーター」に関しての話がありましたが、僕は逆に「そこを突っ込むんか!?」みたいな(笑)。そういう印象がありますね。
――健司さんからは、康司さん、隆児さんのお二人を見てどのように思われますか
健司 なんか、どっちもアホやな、と(笑)。たとえるなら、康司はまあ地球人のアホで、隆児は地球外生命体みたい、日本語をやっと覚えた感じで(笑)、何を考えているのかがよくわからない(笑)。人が考えているところとは全く別の場所にいて、論点がつながらないんだけど、なぜか説得力があるというか。何でしょうね、憎めへんキャラというか。
康司 でも、その隆児の論点を語ってもらうときに、なんか変に落ち着くところがありますね。「ああ、そういう考え方ってあるんや」とか思うこともあるし。
――こうしてお話をうかがってみると、それぞれに強烈な個性が感じられるメンバーですね。健司さんから見たkaz.さんの印象はいかがでしょうか
健司 謙虚をそのまま人間にしたようなところがあって、意見が出ると始めに「ありがとう」という言葉が出る。で、それに続けて「でも、それに対して俺にはこういう意見があるよ」と、ちゃんと前置きしてから意見を主張するんです。「人間出来上がり過ぎじゃないか?」というくらい人格者です。
――素晴らしい人材ですね。そもそもどのような意図でフレデリックへの加入が決定したのでしょうか
健司 バンドを組んだときに、メンバーの中に大人の人、ちゃんと若い自分たちをまとめてくれるような人が居てくれたらなと思っていました。バンドって、やっていくと、音楽人過ぎて常識がなくなる、みたいな部分が出てくることを危惧していたんです。だから、ちゃんと取りまとめてくれる人がいないと、人間としてもバンドとしても絶対よくなくなると思ったので。メンバーの中で年上を探そうということになったんです。で、入ったのはkaz.さんでしたが、自分が求めていた以上のことを教えてくれることもあるし、kaz.さんがいるおかげですごくバンドが成長しています。
――ある意味バンドを成り立たせている存在ということでしょうか
健司 そうです。バンドって、結局人間関係ですもんね。
――今回、メジャー2枚目のアルバムということになり、今後はリリースツアーなどの活動も控えているところではあると思いますが、最終的に目指そうとしている目標みたいなところは、どこか具体的に持たれたりしていますか
康司 そうですね。まだバンドとしても全然新人、知られていないんですよね。自分たちが夢を見ているアーティストの足元にも及ばないというか。でも自分たちの書いている曲を、本当に届けたい人たちのところに届けるには、大きなところに行かないと、本当にそこにたどり着けないと思うんです。
だから、机の上のCD棚に置かれるように、常に誰かの日常に自分たちの音楽があふれる、そんなバンドになりたいと思っているし、そこにたどり着くためにはどんどん大きくなっていかないと伝わらない。今まで自分たちがやっていること、この『OWARASE NIGHT』をリリースすることもそうだと思うんです。
だからこの一歩一歩を大事にして、先の未来は、ホールでライブをしたい、『紅白』にも『ミュージックステーション』にも出たい(笑)。そういうバンドになりたいと思っています。そこを目標にして、今ある一歩を大事にしていきたいと思っています。
――とても大きな希望ですね。では最後に、今回のアルバムのセールスポイント的なところ含めて、一人ずつメッセージをいただければと思います
隆児 フレデリックに対して、もしかしたら「変」「とっつきにくい」という印象をもたれているかもしれない。でも、実際にアルバムを聴いてもらうと、そんなことないと考えています。広くいろんな人に聴いてもらえる歌詞とメロディだし、まずは偏見なく一回聴いてみてほしい。それで気に入ってもらえれば、ほかのも聴いてもらえれば。気に入らなければ、他のアルバムから入っていくというのも手ですし(笑)。3枚のアルバムのうち、誰でもいずれかのアルバムに共感を持ってもらえると思う。だからいっぱい聴いてみてほしいですね。
康司 音楽っていつでも出会える。リリースしたらネットを通じてとか、いろんな場所から仕入れる機会もあるかもしれない。そんな中で、今回の『OWARASE NIGHT』は、今時点の僕をすごく意識して作った作品なので、今聴いてもらいたいとすごく思うんです。この時期に出会う音楽はたくさんあるし、リリース日には他にもたくさんの音楽が出たと思いますが、この作品は今しか聴けない音楽の一つだと自負しているので、目に留まったら是非聴いてほしいです。
健司 康司が言っているように、今を大事にしたい、僕らが今出したこの作品、前に進むために作った作品を聴いて、その時期がいつだっていい、たとえばリリースから2カ月後に聴いたとしても、その人にとって「今」アルバムを聴いたところで、その人が「今」感じ、前に進めるような作品にしたので、是非聴いてみてほしいと思います。
kaz. このアルバムの7曲には、悔しいこと、悲しいこと、いろんなことに対して、全部無駄なく「前を向こうよ」っていうメッセージを込めているんです。ゆっくり歌詞も見て、その意味をそれぞれに楽しんでほしい。今までで一番いろんな方の意見を聞いて、それに向き合ってすごく歌や言葉をわかりやすくするために、みんなで一生懸命前を向いて作れたアルバムだと思うし、僕らとしても人間として、一回り大きくなれた作品なので、一人でも多くの方に聴いていただきたいですし、僕らの音楽を通して、さらに「じゃあ僕らがどんな音楽を聴いて、こんな作品を作ったか」と、さかのぼることも是非お勧めしたいですね。 (おわり)