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声優の松井恵理子が、6月29日よりNetflixで独占配信が開始されたアニメシリーズ「大奥」に参加。三代将軍・徳川家光を演じる。よしながふみ氏原作の『大奥』初のアニメーション化。舞台は、男子の人口が急速に減少した結果、社会運営の根幹や権力が女性に完全に移った江戸。江戸城でも家光以降将軍職は女子へと引き継がれ、男女逆転の大奥の世界が築かれていたというストーリー。インタビューでは、過酷な運命を背負う役を演じたかったと語る松井恵理子に、どのような思いでこの役に臨んだのか、声優として心がけていることについて話を聞いた。
演者として強く共感して演じてあげたい
――この取材で着物を着られていますが、着用されてみていかがですか。
今回こんなに綺麗な着物を着させていただいて嬉しいです。今まで浴衣や振袖とかは着たことはありましたが、訪問着を着たのは初めてなんです。下に重みがあったりして、浴衣や振袖との違いがあるんだなと思いました。今回ちょっと貫禄が出るように着付けていただいたので、ちょっとでも貫禄が出てたらいいなと思っています(笑)。
――凛とした風格があります! さて、オーディションにはどのような意識で臨まれていたのでしょうか。
この役をすごくやってみたいと思いオーディションを受けさせていただきました。とても難しい役柄だというのは重々承知していたのですが、前々から自分が体験したことがない過酷な運命を背負う役を演じるというのは1つの夢でした。過去にそういった役をやらせていただいたこともあるんですけど、より深くそのキャラクター、人間に触れてみたいと思って、難しいけど、すごくやりがいがある役柄だなと思いました。
――本番までにどんな準備をされましたか。
物語では自分が全く体験できないことばかりが起こるので、そこに対して色々考えました。
――どんなことを感じました?
家光のように生きてきた人はどう思うのだろう、万里小路有功(CV:宮野真守)に何か言われた時、なぜこういう表情になったのだろうとか、自分なりに考えていくと家光は自分よりもはるかに強い人間だと思いました。自分だったらこんなにも襲ってくる悲しみの連続に、きっと心が折れてしまっていると思います。ですので、家光が憧れの存在になりました。
――ところで『大奥』は何度もドラマ放送されていますが、観られたことは?
ドラマ版は、多部未華子さんが家光役をやっていたものを観ました。
――参考にされたところもありました?
色んな考え方があって、情報はいろいろ必要なのですが、実写は得られる情報量がアニメとは違うので、逆にあまりそこに捕らわれないように気をつけていました。
――ストーリーが進むにつれ、家光の心情に変化が訪れます。それがすごくセリフにも表れていると感じたのですが、実際はいかがでしたか。
緻密に家光の気持ちが有功の影響で変化していくのが細かく描写されているので、私自身がここはこうしようみたいな事というより、今はこういう気持ちであって、ここでは将軍の威厳を見せなければといった感じで演じてました。私が家光に対してすごいなと感じたところは、可憐な少女のような一面もあるのですが、自分の立場をすごくよく理解していて、自らにのしかかる重責を受け止めたうえで、度胸もあるというところです。台本にはそれらがそのまま描かれていたので、私がどうこうよりも、演じたら自然とそういう感じになるようになっていて、私が特別意識したところはなかったです。
――印象的だったセリフは?
予告編でも使われている女将軍が誕生した時の「誰か異存はあるかえ」というセリフです。そこは何回もやり直したこともあり印象に強く残っています。最初は言い放つような威厳を押し出す感じでやっていました。でも、上っ面ではなく、体の重心が下にあって地の底から響くような、誰も有無を言えないピリッと張り詰めたものが必要だったので、何度も録りなおして今回のような表現になりました。
――ちなみに松井さんは声優として、どのような責任があると感じていますか。
イチ声優として、自分が演じるキャラに誰よりも寄り添ってあげたいという思いがあります。例えば、今回演じた家光にも間違った部分や苛烈な部分、これは人として駄目でしょ? と思うところはたくさんありました。でも、頭ごなしにダメと言うのではなく、 なぜこうなってしまったのか、どうしてこうせざるをえなかったのかというところを、演者として強く共感して演じてあげたいと思っています。そうすることで真の言葉、セリフになるような気がしています。私はある種の代弁者みたいなものだと思っていて、気持ちが乗っていない言葉は発してはいけない、それは常にどんな役柄でも感じている私の責任です。
キャラが一番突き詰めたいものは何かを探る
――いま追求していきたいことや、もしくは追求されてることはありますか?
役柄によってキャラクターの持っている追求すべきところが全然違います。家光だったら深層心理がそれにあたるのですが、私はその激情だったり将軍としての責任感を突き詰めたいと思いました。アイドルのようなキラキラした可愛らしい役柄であれば、そこは彼女のきらめき、 魂から出てくる人を魅了するような輝きを突き詰めたいんです。ですので、私が追求していきたいことは、そのキャラが一番突き詰めたいものは何かを探ることです。
――突き詰めたいもの、その探り方は?
まずはしっかり台本を読むことです。とはいえ、色んな感じ方があるので、自分1人の思考だと凝り固まってしまったりするんですけど、幸いにも現場にはスタッフの方やキャラクターを作ってくださった方がいらっしゃるので、その方々とディスカッションして探っていきます。そして、1話のアフレコを録り終わった後に家に帰ってから、ああいうディレクションをしていただいたけど、次にこういう場面があったらどうなるのか考えてみたりします。
――松井さん、もしかして国語の勉強は得意でした?
どうなんですかね? よくあるテスト問題で作者の気持ちを答えよというのがありますが、それは作者以外分からないですよね。その読み解き方が一つではないところが個性にもつながってくるとは思います。私は勉強はそんなにできないんですけど、自分を信じてもし間違っていたとしたも、瞬時に修正できるようになればいいなと思っています。
――さて、宮野真守さんとの対話も多かったと思いますが、アフレコもご一緒されたりも?
別々の時もありましたし、一緒に収録させていただくこともありました。コロナ禍ということもあり、同じ時間にスタジオ内でブースが別の場所という特殊な時もありました。アニメーションならではだと思うのですが、被るセリフがあると、そこは別録りにすることもあります。でも、ブースが別なので被っても大丈夫ということもあり、逆に掛け合い自体はすごくやりやすいときもありました。
――キュンとしたセリフありました?
いっぱいあるんですけど、家光が綺麗なお着物を肩にかけていただいて、有功が「上様の方が似合う」と話し、その後モノローグで「なんて可愛らしい」という流れが“胸キュンポイント”です。全てを包むような慈愛に満ちた本当に素敵なセリフで、ぜひ女性の皆さんにはそのシーンを観ていただきたいです。
――最後に松井さんが思う、本作の見どころは?
沢山あるのですが、苛烈だった家光が「私が好いているのはただ 1人、お前だけだ」と雪が降る中で話すシーンです。この世界に 家光と有功 の2人しかいないと感じさせる静寂さの中で、家光が静かに決意を語るシーンがすごく美しくて。心が揺さぶられて泣いてしまうというよりは、自然と涙が出てしまうシーンでした。いろんな出来事を経てここまでやってきたんだというのが感じられると思うので、後半のお話なのですが、ぜひそこにも注目してもらえると嬉しいです。
(おわり)
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