川口ゆりな×杉山勝彦、新曲「花束」に投影された感情の揺れ動き
INTERVIEW

川口ゆりな×杉山勝彦

新曲「花束」に投影された感情の揺れ動き


記者:村上順一

撮影:村上順一

掲載:23年04月22日

読了時間:約11分

 アーティスト、モデル、女優とマルチに活動するKawaguchi Yurina(川口ゆりな)がソロデビュー1周年となる3月21日に、3rdシングル「花束」と『カレンダーブック 〜花束〜』をリリースした。同曲は、自身初となるバラードソングで、乃木坂46など多数のアーティストに楽曲を提供する音楽プロデューサー・杉山勝彦氏が、作詞・作曲・編曲を担当した。イノセントボイスと表現されるKawaguchi Yurinaの歌声と、ソロアーティストとして活動を始めた1年目の不安な気持ち、そして新たな一歩を踏み出そうとする決意と、かけがえのない"君"への感謝の気持ちが込められた楽曲に仕上がっている。 MusicVoiceではKawaguchi Yurinaと楽曲を提供した杉山勝彦氏にインタビューを実施。「花束」楽曲制作の舞台裏に迫った。

本音がポロポロと出てしまった(川口ゆりな)

――杉山さん、曲を制作するにあたって、川口さんとお話をされたとのことですが、どんなお話を?

杉山勝彦 ゆりなさんはK-POP要素と言いますか、そういったジャンルで活動されていたので、J-POP畑の僕になぜ依頼してくださったのか? みたいなところからです(笑)。お話を聞いたら僕の曲を普段から聴いていてくださっていたというのがわかりました。そして、どんどん話していく中で、ゆりなさんの想いを形にするような曲がいいんじゃないかとなりました。

川口ゆりな 私は乃木坂46さんが大好きで、特に好きな曲が「サヨナラの意味」、「君の名は希望」という曲がお気に入りなんです。それらを調べたら杉山さんが制作された楽曲だったというのがわかりまして。皆さんに新しい姿をどんどん見せていきたい、今回のシングルではいつもとは違う私を見せたいと思いました。スタッフさんから「ゆりなはどんな曲が好きなの?」と聞かれた時に、杉山さんの楽曲がすごい好きというお話をしたのですが、まさか杉山さんが曲を書いてくださるなんて夢にも思っていなくて。

Kawaguchi Yurina(川口ゆりな)

――杉山さんは、川口さんのどんなところにフォーカスされて楽曲を?

杉山勝彦 今回ゆりなさんに初めて曲を作らせていただくので、どのようなお声をされているのか、そしてどんな人生だったのかというところも含めて、色々お話を聞かせていただきました。

――お話を聞いていく中で印象に残ってる話題はどんなものでした?

杉山勝彦 友達とのお話でした。

川口ゆりな 杉山さんと初対面というのもあり、どんなことを聞かれるんだろうと緊張していたのですが、すごく引き出していただいて、本音がポロポロと出てしまいました。私はマネージャーさんや近いスタッフさんにも、プライベートのことはあまり話さないタイプなのですが、杉山さんには全部話してしまいまして(笑)。

――そこで出てきたのがお友達のことだったんですね。

川口ゆりな はい。その話も初めてしました。私がずっと抑えていた感情を杉山さんが引き出してくださって、 それがこの「花束」に繋がっているんだと曲を聴いて感じました。この曲には私がこれまでに感じてきたことが描かれているので、レコーディングでもこみ上げてくるものがありました。感情の揺れ動きといいますか、それがすごく私らしいものになっていて、歌いながらアーティストKawaguchi Yurinaでもありつつ、1人の人間としてこの曲を歌っているような感覚もありました。

杉山勝彦 「花束」を聴いてくださった方が「今まで見せてこなかったゆりなちゃんが見れてすごく嬉しい」というコメントがありました。表舞台に出られてる方だったら、簡単には口に出せないこともあります。ゆりなさんは若くして、光と闇が強く出てしまうこの世界にいて、その中で転換点になる瞬間というのがあると思います。傷つくこともあるので、1人だったら活動を辞めてしまう人もいる中で、逆に辞めないきっかけになる人というのもいる、そんなゆりなさんのお友達のお話が歌詞の起点になりました。

杉山勝彦

川口ゆりな 韓国のオーディション番組に出演した時は、自分の覚悟を決めた瞬間でもあったんですけど、そこに行き着くまでに悩んだり、葛藤した時期があって、 その時に支えてくれた親友という存在はすごく大きかったんです。

杉山勝彦 でも、その方1人に向けた思いだけを書いたというわけではなくて、それを起点にいろんなタイミングで出会ってきた方への思いもシンクロしているんです。歌詞にある<ただありがとうじゃ伝えきれない>というのは、自分の道を頑張るということなんですけど、彼女のイメージだったら、その感謝をなにで渡す人なのかなと考えた時に、花が浮かびました。

――それで「花束」というタイトルになって。杉山さんは詞から曲を作ることが多いというのをお聞きしたのですが、今回もそういう感じでしたか?

杉山勝彦 正確に言うと、詞を全部書き終わってから曲を書くというのは、そんなに多いわけじゃないんです。テーマと言いますか、世界観を定めてから楽曲の制作に取り掛かります。本作はここから前に進むということ、そして彼女のアイデンティティというものを想像した上で、言葉のキーワードが出てきてから旋律を考えるという流れでした。

――まず大枠を決めてからやることが多いんですね。

杉山勝彦 ステージで歌われている姿や、ミュージックビデオを想像します。その中でやはり花というのがポイントとしてあるなと思って。

――今回カレンダーも制作されましたが、それも花に寄り添っていますよね。

川口ゆりな カレンダーは12ヶ月あるじゃないですか。12ヶ月の花束というところで様々な姿を見せたいと、服に花をつけてみたり、花を顔の周りに置いて自分が花束になっちゃったりとか、スタッフさんのアイデアで色々やってみました。

自分の音楽に感動してくれる仲間に、もう一度届けたい(杉山勝彦)

――さて、川口さん「花束」を歌ってみていかがでした。

川口ゆりな この歌詞そのものが私の素直な感情なので、歌うことに関して言葉をより聞いてくださる人が、その気持ちを感じ取れるような表現方法を探るという難しさはありましたが、 歌っていてすごい気持ちよかったんです。自分の楽曲でレコーディングしてきた中では1番早かったです。

杉山勝彦 レコーディングでディレクションをさせていただいたのですが、現代は節回しとかもきっちりトリートメントしたりとか、正確に歌えているテイクを使うことが多かったりします。でも、今回はサビ頭で音程が4分の1くらい低めのところから入る、若干ブルーノート気味に入ったものがすごく良かったので、そのテイクを採用しました。

川口ゆりな 杉山さんが自由に表現していいよと仰ってくださったので、私も考えすぎずに、自分の感情を最優先で歌っていました。

杉山勝彦 本人の思いを曲として形にさせてもらいましたけど、色々あったんだろうなと、レコーディング中も思いました。ゆりなさんのような方の人生は、一般的な人生とはちょっと違うと思いました。

――杉山さんもアーティスト活動されてるじゃないですか。川口さんの親友のような立ち位置の方っていらっしゃいますか。

杉山勝彦 もちろんいます。学生の時に「俺はプロになる、音楽でやってくんだ」と話をした時に、親戚とかから「学歴を捨てて」とか「そんなの無理に決まってるだろ」と言われることもあったんです。でも、音楽を一緒にやってた仲間からは、「お前ならいけると思う」とか、僕がやることを信じてくれたところがあって。自分の音楽に感動してくれる仲間に、もう一度届けたいという意地みたいなものはあります。でも、それはたくさんはいらないと思いました。自分が何もなかった時に信じてくれたというありがたさがあって、あのとき、友人が信じてくれた音楽はここまで来たぞみたいな。

――ちなみに川口さんと制作されていく中で印象的だった出来事はありましたか?

杉山勝彦 制作とは直接関係ないのですが、ゆりなさんが地元の宮崎県に戻られた時に、お土産で地鶏をいただいたんです。しかも、コメントまで添えてくれて、なんて思いやりのある人なんだと思いました。これは人から愛されるわと思って、とにかく嬉しかったので、僕はその地鶏を家に飾ってたんです。

川口ゆりな えっ!飾ってらしたんですか(笑)。

杉山勝彦 でも、最近賞味期限が過ぎそうだったので、炒めて美味しくいただきました。

ちゃんと焦りながら頑張りたい(川口ゆりな)

Kawaguchi Yurina(川口ゆりな)

――サウンド面でのこだわりは?

杉山勝彦 ゆりなさんの今までのサウンドはK-POP要素が強くて、ビートも強いし煌びやか。その立ち位置の中で、古き良きバラードみたいなものはちょっと違うと思いました。僕が音楽作家事務所「コライト」を立ち上げたんですけど、そこに今度入る予定の尾上榛くんにトラックメイキングに入ってもらいました。彼はまだ23歳ぐらいなんですけど、その世代の音になったらいいなという意図がありました。彼が洋楽やK-POP、ボカロ系にも精通していたので、J-POP要素が強い楽曲のなかで、どれだけ違和感のない作品にできるのか、 というのはディスカッションしながらやってました。

――川口さんすごくいい歌詞だと思うんですけど、あえて1節だけ選ぶとしたらどこへ選びますか。

川口ゆりな 沢山あって選ぶのが難しいのですが、サビの <また歌いたいって思えたの>というフレーズが印象的だったと、ファンの方の中には多くいらっしゃって、私ももちろん、このサビの部分は感情がすごくこみ上げてくる部分ではありました。そして、AメロやBメロは、私が今まで見せてこなかった自分を特にさらけ出していて、個人的に印象的です。

杉山勝彦 僕が今回1番書きたかった部分は<また歌いたいって思えたの>なんです。何も知らずにゆりなさんが歌って踊っているMVとか見たら、きっとこういう星の元に生まれた人なんだと感じると思います。でも、その人がまた歌いたいと思えた、歌いたくない、歌うのをやめたいと思った瞬間があったというのがわかると思います。ただ、そういう状況でそばにいてくれた人がいる。自分の気持ちをわかってくれた人がいたことがわかった時に、嬉しくて泣きそうになる瞬間があります。そういうのを繰り返して、何かに夢中になってる人って強くなっていくと思うんです。

――確かに<また歌いたいって思えたの>はすごく心情を切り取っていますよね。

川口ゆりな ソロ活動をやるという気持ちになれなかった時期もありました。当時は自分には無理だと思っていたので、本当に歌詞の通りで、また歌いたいと思わせてくれた存在がいたから今があります。

杉山勝彦 普段<また歌いたいって思えたの>というワードをそのまま書くかと言われたら、なかなか書かないと思います。でも、今回に関してはゆりなさんの人生が書いた歌詞なので、 ここはストレートに伝えた方がいいなと思いあえて書きました。例えば“一緒に歩きたいって思えたの”という言葉だとどなたにも当てはまってしまう可能性があるじゃないですか。でもこのフレーズで、この歌詞はゆりなさん自身のことなんだろうと、みなさんは受け取ってくれると思うので、すごくリアリティが出たと思います。

――ソロとして2年目に突入したわけなんですけど、どんな気持ちでここから活動していきたいですか。

川口ゆりな 1年間ソロアーティストとしてやってきて、 いろんな楽曲を歌わせていただいたのですが、まだまだ満足はしてないので、どんどん吸収していろんな表現力を持ってアウトプットができるように頑張りたいです。ただ、焦りすぎも良くないと思うんですけど、ちゃんと焦りながら頑張らなきゃって。

杉山勝彦 「ちゃんと焦る」いいですね!

川口ゆりな 私の性格もあるのかもしれないですけど、スケジュールやお仕事もそうですし、気持ち的に余裕があると私はだらけてしまうんです。常に詰め込んで追い込まれた方が、知らなかった自分が無意識に解放される気がしていて、そういうところも楽しんで生きていきたいなと思います。

――杉山さん、自由に曲を書いてもいいとなった場合、川口さんにどんな曲を歌ってもらいたいですか。

杉山勝彦 う〜ん、まずはどこに向かうのかというのを、ゆりなさんにお聞きすると思いますが、「花束」のカレンダーを見ての印象と、これまでクールな曲が多い印象もあるので、カラフルと言いますか、全部バズるための仕掛けがオンパレードといった曲をやってみたいです。「ジャンルはどうなってるの、本当にこれ1曲なの?」と色んなものが超濃縮されていて、衣装や踊りもどんどん変わっていくような曲。どこを切り取ってもTikTokやYouTube ショートなどで使われるようなイメージですね。モデルさんとして出演するような現場でライブ披露する機会があって、1曲だけそういうの披露したら、新しい時代に行ってる人がいるみたいな印象も生まれるのかなと思ったり。好き勝手言ってますけど(笑)。

川口ゆりな 最先端をいってる人という感じで、それ、すごく面白そうです(笑)。

(おわり)

作品情報

■Kawaguchi Yurina 3rdシングル「花束」

作詞・作曲 : 杉山 勝彦
編曲 : 尾上 榛、石原 剛志、杉山 勝彦
2023年3月21日から配信中
https://umj.lnk.to/Hanataba

■川口ゆりな 2023.04-2024.03 カレンダーブック 〜花束〜(B4判 / 36頁)

Art Direction & Design : KOJI WAGATSUMA (YAR) Design : SATOMI UMEZU (YAR)
Photography : MELON (Tron)
2023年3月21日 発売中 (UNIVERSAL MUSIC STORE)

https://store.universal-music.co.jp/product/pdzt1071/

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村上順一
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