INTERVIEW

松浦りょう

「責任をすごく感じていた」孤独を知るための役作りとは:映画『赦し』


記者:村上順一

写真:村上順一

掲載:23年03月25日

読了時間:約7分

 女優の松浦りょうが、3月18日より公開中の映画『赦し』に出演。本作は、娘を殺された元夫婦と、犯行時に未成年だった加害者女性の葛藤を通し、魂の救済というテーマに真正面から挑んだ裁判劇。松浦は、映画デビュー作『渇き。』(14)などで独特の存在感を示してきた新進女優で、『赦し』では殺人を犯し、懲役20年の判決を受けた福田夏奈を演じる。同作のメガホンを握ったのは、日本在住の気鋭のインド人監督アンシュル・チョウハン氏。法廷の内外での激しくもサスペンスフルに揺らめく感情を体現した、尚玄×MEGUMI×松浦りょうの迫真の演技によって終始緊張感のある映像となっている。インタビューでは、殺めてしまったことへの葛藤を抱える女性という、極めて実感することが難しい役を務めた松浦に、本作の見どころから、夏奈を演じるにあたって考えていたこと、役者として追求していきたいことを聞いた。【取材・撮影=村上順一】

監督の言葉が意識を変えるスイッチになっていた

村上順一

松浦りょう

――出演が決まった時の心境は?

 生半可な気持ちで向き合ってはいけない役だと思ったので、難しい役柄という以上に責任をすごく感じていました。決まった時はとても嬉しかったんですけど、それ以上に不安があったので監督に相談したら、 役作りさえしっかりしていれば、絶対大丈夫だからと仰ってくださったので、役作りを必死にやりました。それ以降はプレッシャーを感じる余裕もないくらい、役作りに没頭していました。

――役作り、詳しく教えていただいてもいいですか。

 夏奈のような経験はできることではなかったので、殺人を犯してしまった方の記事、インタビューを読んだりしました。あとは、刑務所での生活をできる限り再現するということをやって、孤独を知っていくということをしていました。

――インタビュー読んで、どんなことを感じましたか。

 夏奈のように過去にいろんなものを抱えた上で、殺めてしまったという方も中にはいました。本作のテーマになっている“赦し”ということ、人を殺めることは絶対に良くないことだけれども、やってしまった側が100パーセント悪いのかということは、すごく考えさせられる機会になりました。

――演じてみて、特に苦労されたシーンは?

 独房のシーンです。自分の犯してしまったことに対しての後悔や、自分の未来に対しての不安など、言葉には表せないくらい苦しい感情を彼女は持っていると思い、このシーンでは、その感情を表現・体現しようとしましたが、とても難しかったです。監督から「もっと感情を出せ。もっといける」といった言葉をかけられながら撮影をしました。

――そんなもんじゃないだろみたいな。

 そうなんです。そこで私も過呼吸みたいな状態になりながら演じていたので、あのシーンは精神的、体力的にも消耗しきっていました。おそらく集中が切れないようにといった意図があったと思うのですが、現場で撮ったものを一切見せていただけてなかったので不安もありました。でも、完成した映像を観たとき、効果的にそのシーンが使われていて、すごいなと思いました。

――アンシュル監督、日本語は通じるんですか。

 通じないです。基本英語でやり取りをするのですが、私は英語が全く喋れなかったので、プロデューサーの方が通訳してくださって。本当はたぶん日本語も通じると思うんですけどね!(笑)頑なに日本語を喋ってくれませんでした(笑)。

――ハハハ(笑)。けっこう演出の指示は多かったんですか。

 監督とは撮影に入る前にコミュニケーションをしっかり取っていたので、撮影の日は演出に対しての指示はほとんどなく、迷いなく演じることが出来ました。監督は私を信じてこの役を任せてくださったと思うのですが、福田夏奈はすごく重い役なので、それを100パーセント任せることは、すごく大変なことだと監督も感じていらしたと思うので、最初に役作りのことなど話し合いました。

――どんなお話を?

 「君は健康的すぎるから痩せてほしい。今の君だと苦しんでいる人間には見えないから、役のために生活を変えてほしい」って。現場に入る2カ月ぐらい前から役に徹してほしいという感じでした。

――それを全て実行されたわけですね。

 はい。私、アンシュル監督の大ファンなので、全て監督に委ねて、監督が仰られたことは100パーセントやろうと思っていました。監督の言葉が意識を変えるスイッチになっていたと思います。その中で具体的にリクエストをいただいていて、とにかく頬をこけさせてほしいって。

――不健康なイメージですよね。

 はい。そうするには一体どうすればいいのかすごく悩みましたが、食事で変えていくことにしました。極力質素なものを食べたり、私、お酒が好きなんですけど、刑務所内では当然、飲酒できないので飲むのをやめたり...。

――尚玄さんは劇中でお酒、たくさん飲まれてましたよね。

 すごく羨ましかったです(笑)。

何度も撮り直していく中で泣いてしまった

村上順一

松浦りょう

――尚玄さんやMEGUMIさん、共演者の方とお話しはされました?

  私は皆さんとコミュニケーションは取らなかったんです。基本、どのシーンも楽屋は別々でしたし、現場でも誰とも喋らずにいました。それは監督からもともと指示されていたことで、ずっと役者としてのスイッチがオンの状態でした。しかも尚玄さんはご挨拶をしても素っ気ない感じだったので、私、何もしていないけど完全に嫌われていると思っていました(笑)。後から知ったのですが、それは敵対する役同士だからこその役作りの一貫でもあり、俳優歴の浅い私のためにも敢えてそうしてくれていたようで…。撮影が終わってからはすごい優しくしてくださって安心しました(笑)。

――和気藹々とやる作品ではないですからね。そして、映画のキービジュアルとしても使われているシーンの表情もすごいですね。

 印象的な場面なので、すごく好きなシーンです。自分でいうのも変なのですが、なんとも言えない表情と言いますか、 どんな感情なのか読み取れない複雑な表情が、この映画を物語ってる気がしています。

――このシーンの表情も、監督からリクエストがあって?

 はい。もう何回テイクを重ねてもオッケーが出なくて。精神的に苦労というよりは、皆様を待たせてしまっていますし、本当につらかったです。これが私が出演する最後のシーンだったので、監督も妥協したくないから何度でもやると仰っていて。私は「まだOKがでないの…」と思いながら、どれだけ私はダメなんだと思いながらやってました。

――でも、無事にOKが出たんですね。

 最後、なんとかOKが出たのですが、先ほどもお伝えしたように、撮ったのを見せてもらえていなかったので、このシーンは本当に不安でした。もしかしたら使われてないかもと思ったり。でも、映像を見る前にキービジュアルに使用する写真を見させていただいて、「このシーン使われているんだ!」って(笑)。それでより楽しみになって、完成した映像を見たらすごくいいシーンだったので、監督やっぱりすごいと思いました。

――もしかしたら、あえてリテイクをされたのかも知れないですね。

 そうかもしれないですね。実は私、何度も撮り直していく中で泣いてしまいました。いま思うと泣いたら現場も止まりますし、最悪なんですけど精神的にきてしまって…。泣いた後にメイクを軽く直して、「よし、もう1回やるか」と気持ちを仕切り直して臨んだら1発でオッケーが出たんです。

――松浦さんは特にどんな方にこの作品を観ていただきたいですか。

 何かに悩んでいたり、苦しんでいる方に観ていただきたい作品です。 人それぞれ生きている環境や境遇によってこの作品の捉え方は全然変わってくると思います。登場人物の誰に自分を当てはめるのか、 それとも自分じゃなく友達だったり、家族を役に当てはめるのかなど状況によって違うと思います。自分自身はもちろんのこと、苦しんでいる人が身近にいる方は特に観ていただきたいです。

――今、どのような役者さんになりたいと思っていますか。

 自分の中の目標として、松浦りょうが出てるから映画をよく知らなくても観に行きたいよね、と言ってもらえる役者になりたい、信頼される俳優になりたいと思っています。

――松浦さんにもそういう方はいらっしゃるんですか。

 何人もいらっしゃいますが、その中でも特に、安藤サクラさん、満島ひかりさん、渡辺真起子さんがそういう存在です。その方のお芝居がいいから、作品のことをよく知らなくても観にいきたいと思えますし、私もそういう役者になりたいです。

――いま役者として追求されていることは?

 追求とまではいかないかもしれませんが、たくさん映画を見ることです。あと、英語を始めました。今回の件で監督から「英語ができるようになりなさい」と言われたのがきっかけなんです。いつか海外の作品にも出たいので、頑張って英語を話せるようになりたいです。

(おわり)

作品情報

『赦し』
3月18日(土)より、ユーロスペースほか全国順次公開
出演:尚玄、MEGUMI、松浦りょう、生津徹、藤森慎吾、真矢ミキ
監督・編集:アンシュル・チョウハン
脚本:ランド・コルター
撮影:ピーター・モエン・ジェンセン
音楽:香田悠真
プロデューサー:山下貴裕 茂木美那 アンシュル・チョウハン
エグゼクティブ・プロデューサー:サイモン・クロウ、ランカスター文江
アソシエイト・プロデューサー:前田けゑ、澤繁実、岡田真一、木川良弘
配給:彩プロ
製作プロダクション:KOWATANDA FILMS、YAMAN FILMS
助成:文化庁
2022年/日本/日本語/カラー/2:1/5.1ch/98分/原題:December
©︎2022 December Production Committee. All rights reserved

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