大竹しのぶ、アルバム発売3カ月後に初トップ10入り、背景に歌唱力の再認知 女優が歌う魅力とは
「黄昏のビギン」でデュエットした大竹しのぶと山崎まさよし
女優の大竹しのぶ(57)が歌い上げたカバーアルバム『歌心 恋心』(昨年12月24日発売、喝采)が今年3月に入り、山野楽器・銀座本店のウィークリー・セールス・ランキングで7位を記録した。発売から3カ月が経ってからの初のトップ10入りとなる。しかしなぜ、今になって売り上げが伸びたのだろうか。その背景に、原曲が生まれた時代背景と“シンガー大竹しのぶ”の認知が高まってきたからだと関係者は分析している。
同アルバムは、昭和歌謡やJポップの名曲を11人の男性アーティストとデュエットした作品。参加アーティストをみてもザ・クロマニヨンズの甲本ヒロトやゴールデンボンバーの鬼龍院翔と、意外性をもった面々が名を揃えている。あくまでも人選は「もともと大竹が好きだったアーティスト」だったようだ。
話題性もあったが“意外”にも売り上げが伸びたのは年が明けてからだった。なぜタイムラグが生じたのか。
CD発売に関連して昨年秋から音楽媒体への出演を積極的に行ってきた。なかでもNHK「歌謡コンサート」やNHK「SONGS」など、歌唱の魅力が伝わる歌番組を中心に出演した。これはテレビに限ったものではなく、FM放送においてもそうであった。「OVER45のためのMUSIC STATION」とキャッチコピーに掲げていたFM COCOLO(大阪)などの放送局に絞った。
その効果もあってか、大竹の歌唱力は視聴者(聴取者)に徐々に浸透。年を開けて“シンガー大竹しのぶ”としての再認識が確立しはじめた。それが発売から3カ月後の3月、セールスランキングトップ10入りに繋がった。
電話取材に応じた山野楽器・銀座本店によると、歌唱力に定評がある大竹の楽曲(シングル)はもともと人気があったそうで、今作についても店内に企画コーナーを設置したことで更に注目が集まった。客層は主にシニア層だが、サラリーマンの男性も多かったという。担当者は「大竹さんはテレビにも出られて人気の方です。NHK『SONGS』にも出られましたし、店内で試聴されてから購入されるお客様もみられました。今回は若い男性アーティストさんともコラボされていますので、若い世代のお客様もいました」と答えている。
女優が歌う音楽の魅力
大竹に限らず、このところ女優が歌う音楽CDが注目されている。その代表例に、今年1月21日に発売された『なかにし礼と12人の女優たち』(日本コロムビア)がある。このアルバムでは、常盤貴子や南野陽子、桃井かおり、高島礼子、泉ピン子たち名立たる女優陣が名曲をカバーしている。Amazon.co.jpのベストセラー商品ランキングでも歌謡曲・演歌部門でトップ5入りを果たし、話題を集めた。
この作品に限らず、昭和歌謡を代表する名曲をカバーして大ヒットしたケースは過去にもみられる。例えば、島谷ひとみの「亜麻色の髪の乙女」(オリジナル=ヴィレッジ・シンガーズ)やSHAZNAの「すみれ September Love」(同=一風堂)など。最近では一青窈がフジテレビ系ドラマ『昼顔』主題歌で「他人の関係」(同=金井克子)をカバーしたことでも話題を集めた。また、徳永英明のカバーシリーズ「VOCALIST」は累計600万枚も売り上げている。
そのなかで、あえて女優が歌い上げる魅力についてテレビ関係者はこう語る。
「芝居では決められた役を演じて視聴者や観劇者を感動させるにはかなり高い表現能力が求められます。それも何十年もやってこられているわけで。その表現能力を5分という曲の物語に注ぎ込んでいく。しかも、個に執着せず歌の本質を届けようとしているところもリスナーの心に響く一つの要素と言えるでしょう」
また、舞台で活躍した女優だからこそ見い出せる声の魅力があると音楽関係者は以下に分析する。
「歌唱力には基礎となる発声が重要です。舞台ではマイクを通さなくても広いホールの後席まで届く声を発しなければなりません。これには声楽的アプローチによる訓練が不可欠です。声楽は身体全体を楽器に見立てて共鳴させます。これにより響きの伴った声で表現することが出来ます。舞台経験のある女優さんはこの声楽的な発声法を身に付けているため、自然と歌にも説得力や深みが生まれます」
大竹しのぶは言わずとも知れた女優、しかも名女優だ。2011年には学術、芸術、スポーツ分野の功労者に贈られる紫綬褒章を受章している。大竹が宿す歌には鳥肌が立つようなゾクッとする感覚が伝わってくる。それがシニア層の心を掴んだとも思える。しかしながらこの作品はシニア層を狙って作られたものではなかったという。
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