INTERVIEW

山時聡真

「役へのイメージを作らない」芝居への心構え


記者:村上順一

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掲載:22年12月26日

読了時間:約9分

 俳優の山時聡真(17)が、12月9日より公開の二宮和也主演映画『ラーゲリより愛を込めて』と、前原滉、大友花恋主演映画『散歩時間~その日を待ちながら~』(以下、散歩時間)に出演。

 山時は2019年にNHK大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』、2020年に連続テレビ小説『エール』、映画『約束のネバーランド』など多くの作品に出演。その作品の人物に寄り添った着実な演技が魅力の俳優だ。

 第2次世界大戦後のシベリアにある強制収容所(ラーゲリ)での過酷な生活を描いた映画『ラーゲリより愛を込めて』では、捕虜役として、山本幡男を演じる二宮和也とのやりとりにも注目が集まる。

 そして、新型コロナウイルスの感染拡大により生活様式が変わる中で、明るい未来へと一歩を踏み出す姿を描いた映画『散歩時間』では、学校イベントのほとんどが中止となり、長年の恋心さえも伝えられずにいる中学3年生の香取光輝を、自然体で演じている。山時が出演する今回公開されるこの2作品で、役者としての振り幅を見ることができるはずだ。

 インタビューでは、映画『ラーゲリより愛を込めて』、映画『散歩時間』の撮影エピソードから、撮影に臨むにあたりどんな準備をしていたのか、オーディションでの心構えなど、話を聞いた。【取材・撮影=村上順一】

時代背景を知ることから始めた『ラーゲリより愛を込めて』

村上順一

山時聡真

――山時さんってすごく珍しい苗字ですね。

 確か日本全国で170人くらいしかいないみたいなんです。順位だと23000位とか。山口県出身の方に多い苗字なのですが、親戚以外で同じ苗字の人に会ったことはないです。珍しい名前だとすぐ覚えてもらえるというメリットがありますし、名前で得しているところはけっこうあると思っています。

――さて、映画『ラーゲリより愛込めて』に参加されていかがでした?

 シベリアの強制収容所での絶望的な生活を描いたけっこう重いお話ではあるのですが、それを超えるものがありました。それは、愛だったり希望を持ち続ける大切さを感じられる作品だと思いました。たくさんの人に観ていただきたい作品です。

――共演者の方とのコミュニケーションはいかがでした?

 僕は二宮(和也)さん演じる山本幡男さんと絡むシーンが多かったのでお話をする機会もありました。二宮さんはすごくお優しい方で、撮影の朝にお会いした時も「元気?」とか気さくに声をかけて下さるんです。僕の役は二宮さんに懐く役ということもあったので、自分から話しかけようと思っていたのですが、二宮さんの方から声をかけてくださり、嬉しかったです。。

――撮影は過酷でした?

 雪が積もっている中で丸太を持ったり、伐採など肉体労働をするシーンの撮影は、寒くて足が動かなくなったりして大変でした。

――事前準備はどんなことをされました?

 まずは時代背景を知ることからでした。ロシア語でダモイは帰る、カーシャはお粥のことなど、そういった言葉の意味を調べたり、『シベリア抑留』についての資料を読んだりもしました。まだ、僕は他のキャストさんよりも知識はないので、人一倍やらないといけないなと思っていて。

――もう勉強する感じですね。

 はい。今年は舞台にも出演させていただいたのですが、舞台『アナザー・カントリー』はイギリスのお話だったので、1930年代のイギリス映画を観たり、同じく時代背景を調べました。そういう習慣をつけてくださったのは、事務所の方からのアドバイスでした。

――時代背景など調べることが難しそうな『CUBE』のような作品に出演された時は、どんなことをされたんですか。

 原作を読んで、台本を読み込みました。『CUBE』は非現実的な作品なので、逆に自由なんです。ファンタジー要素がある作品は自分たちで作り上げていくものという認識で臨んでいます。ただ、そういう場合はみんなで話し合う時間を増やさないと、それぞれの意識に差が生まれてきてしまうので、一致団結して一つの方向に向かわないとダメなのかなと思います。

――共通認識をはっきりさせないとダメなわけで。

 はい。『約束のネバーランド』に出演させていただいた時に、作品に出てくるような孤児院は実際にはないので非現実的ですが、原作があるのである種、正解は存在しています。実写で表現する中でどうするかというのはあるのですが、主演の浜辺美波さんや北川景子さんが雰囲気作りや世界観を作ってくださっていたので、みんなが同じ方向に向かっていけたと感じています。

――北川さん、今回の『ラーゲリより愛を込めて』で再び共演されていますね。お会いできました?

 今回は一緒のシーンがなく撮影でお会いすることはできなかったんです。でも、小耳に挟んだのですが、北川さんが僕のことを覚えていて下さったみたいで嬉しかったです!

――瀬々敬久監督とのやりとりはいかがでした?

 根本的なところはすごく詰めていく感じですが、自由に演じさせていただきました。細かいところはすごく自由な感じで、色々試して欲しいといった雰囲気を僕は感じました。試す勇気をこの作品でいただけたと思います。

――アドリブみたいなものも?

 僕はまだまだなので、本番でアドリブはまだ入れられなかったです。個人的にアドリブはすごく好きで、オーディションでは割とやります。

――オーディションでのアドリブエピソードはありますか?

 『約束のネバーランド』のオーディションの時のことなんですけど、原作で白い服をみんな着ているので、オーディションを受けにきた役者さんは役作りとして、白い服で来ていました。でも僕は真っ黒の服で行ってしまって...。頭の中では「どうしよう、何とかしなければ」と焦ってました。しかも、その時の僕のセリフが「僕たちってみんな白い服だよな」というもので、黒い服を着ている自分が言うのもおかしいなと思って(笑)。それでセリフの後に「僕だけ黒いけどね」とアドリブでセリフを入れたんです。ポロっと出てしまった言葉ではあるのですが、監督さんはそれが面白かったらしく、もしかしたら決め手になったのかなと(笑)。

――ガンガンアドリブを入れられる作品に出演するのも面白そうですね。

 『今日から俺は!!劇場版』の福田(雄一)監督は、アドリブがお好きみたいで、僕もそういう作品に挑戦してみたいです。

「散歩時間」は自然体の演技に一歩近づけた作品

村上順一

山時聡真

――そして、「散歩時間」は年齢も近い等身大の役ですが、どのような意識で役にアプローチしましたか。

 僕が演じた光輝は自分と性格もちょっと似ているような気がしています。それもあって、この役のために特別したことはなく、そのまま自分を出したイメージです。多くの役者さんは自然体の演技が良いとおっしゃると思うのですが、その自然体というものに一歩近づけた作品になったと感じています。

――そんな「散歩時間」のオーディションはどんな感じでした?

 ちょっと一般的なオーディションという感じではなくて、監督さんとお話をする感じでした。僕が演じた光輝のイメージに合っていたみたいで、合格した時にそう教えていただきました。

――監督さんからはどんな指示が?

 戸田(彬弘)監督はお芝居に関してはあまり指示をされない方で、自由にやらせて下さるんです。僕の方から演技の確認をすることもあるのですが、要所だけ抑えた上で、あとは好きにやって大丈夫と言ってくださって。だからこそ自然に演技ができたのかなと思います。自分に合っている役だと思っていただけたからこそ、そのままの僕で良かったんだと思います。

――朝ドラ、大河ドラマと様々な作品に出演されていますが、オーディションで役を勝ち取る秘訣みたいなものはありますか。

 一つ心がけていることがあって、もう一度演技を見せてほしい、となった時に違う演技をするようにしています。それは演技の幅を見せたいというところからなんです。一つがダメだったとしても、もしかしたらもう一つがハマる可能性があるかもしれない。それで上手くいったこともあるので、それが僕の秘訣かもしれないです。

 あと、役に対するイメージを作らないというのもあります。それは、相手役が違うイメージで来てしまった場合、自分が考えてきたものが崩れてしまう、イメージを決めてしまうとそこから抜け出せなくなってしまう可能性があるからなんです。僕は相手役に合わせて演じていくので、それがバリエーションを増やすコツになっているんじゃないかなと思います。

――脚本を読まれた時、どんな作品だと思いました?

 希望を与えていく作品だと思いました。僕も修学旅行に行けなかったりして、コロナ禍で同じような境遇を経験された方に希望を与えるような作品だと思いました。マスクやUber Eats、リモートなど現代と直結しているところが多いので、共感しやすい作品でもあるのかなと思います。

――今を切り取った作品ですよね。山時さんはコロナ禍で新しい楽しみとか見つけました?

 家族と一緒に過ごす時間を大切にしていました。改めて家族と何かをするというのは楽しかったです。あと、勉強への意欲も出てきました。時間ができたので英単語を覚えたり、普段やらないことをできたのも楽しかったです。

 あと、僕はバスケ部に入っていたのですが、コロナ禍で引退試合も中止になってしまいました。でも、後輩との試合を引退試合にすることに決まって。ブランクがあったので、ちょっと試合への不安もあったのですが、勝利して気持ちよく引退することができました(笑)。引退試合を勝って終えるには優勝しない限りないことなので、稀有な経験ができたと思います。

――すごくポジティブに捉えていたんですね。その期間に役者として考えたことは?

 コロナ禍で撮影がなかったので、あまり考えていなかったかもしれないです。5歳からこのお仕事をさせていただいているんですけど、仕事のことを考えない期間というのはなかったので、不思議な感覚はありました。ただ、その期間に事務所のオフィシャルYouTubeチャンネルで行っていた、料理対決の企画に参加し、その時に事務所の社長と松坂(桃李)さんから賞をいただいて、すごく嬉しかったです。

――撮影がなくなって、不安はなかったんですか。

 ありました。でも、僕はすごく恵まれているんです。不安になったとしても、それを癒してくれる、払拭してくれる方々が周りにいるので、不安は一瞬で消えました。

――すごくいい環境なんですね。さて、「散歩時間」で印象的だった撮影は?

 プールのシーンです。撮影日は満月だったので、撮影で使用した望遠鏡で月を見ました。あんなに綺麗な月は初めてでした。それをスマホで撮影して、今でも綺麗だなあと思いながら見ています。そして、この後すぐに『ラーゲリより愛を込めて』の撮影に入るので、丸刈りにしたのを覚えています。

――丸刈は久々?

 1年振りくらいです。なぜか僕は丸刈の役が多いんです(笑)。

――最後に山時さんの活動の原動力は?

 周りからの期待です。あとは、原動力とはまた違うのかもしれないですけど、5歳からこの世界でやってきたという自信、オーディションで役を勝ち取ってきた達成感も活動の支えになっています。僕は人とは違うことをしたいタイプで、色んな経験をしたいんです。役者は役を通して色んな人物になれますが、それってみんなが経験できることではないと思っています。すごく天職だなと感じていて、役者というお仕事自体がモチベーションに繋がっています。

(おわり)

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