ミュージシャン・にしなが11月17日、東京・LINE CUBE SHIBUYAでワンマンツアー「1999」のツアーファイナルを迎えた。アルバム『1999』の収録曲はもちろん、これまで彼女が生み出してきた楽曲を網羅したセットリストは、進化し続ける彼女の「今」を見せつけるのに充分。すばらしい演出とパワフルなサウンド、そして表情豊かな歌が、にしなの現在地を雄弁に物語るライブだった。

 開演時刻、まずステージにはカッパの着ぐるみが登場して、ラジカセから流れる音楽と共に観客を盛り上げる。そして力強いサウンドとともに幕が上がると、そこにはバンドとともににしなの姿があった。ドラマティックなオープニングに、最初から客席では手拍子が巻き起こる中、1曲目に披露されたのは「スローモーション」だ。にしなの弾くギターが力強くコードを奏でる。「自分らしく楽しんでもらえたら嬉しいです」と挨拶すると、続いてはハンドマイクで「東京マーブル」。そこから「FRIDAY KIDS CHINA TOWN」へとつないでいく。今年春のワンマンライブ「虎虎」以降コンビネーションを高めてきたバンドとの息もぴったりで、序盤から圧倒的なグルーヴが生まれていった。そしてそれを引っ張っているのは間違いなくパワーを増したにしなの歌だ。ステージから放たれる音のすべてが前回のワンマンのときよりも骨太に、そしてヴィヴィッドになっているが、そんな「強い音」の中にあってもにしなの声はまっすぐに届いてくる。

 「楽しめていますか?」。ファーストアルバム『odds and ends』の楽曲を中心に構成された中盤、「桃源郷」を終えたにしなが客席に問いかける。その表情には柔らかな笑みが浮かび、ツアーファイナルの緊張も徐々にほぐれてきたようだ。バンドメンバーを紹介するとますますリラックスしたのか、その後の「centi」では一層伸びやかな歌声が広がる。そのままリズムをつないで「夜間飛行」へ。体を大きく揺らしたり折り曲げたりしながら全身で歌を表現するにしなの姿からは、彼女自身がこうしてステージで音楽をやることを心から楽しんでいることが伝わってくる。一転、「ワンルーム」ではピアノとにしな自身の弾くギターの音色をメインにしっとりとパーソナルな風景が描き出される。部屋で思いに耽っているかと思えば空を飛んだり宇宙に出かけたりする、そのしなやかな想像力こそにしなの音楽の魅力だが、ライブで聴く彼女の生の歌は、その想像の翼をぐんぐんと広げ、観客の眼前に風景を浮かび上がらせる。その表現力も圧倒的だ。

(撮影=ERINA UEMURA)

 ギターの弾き語りから始まってぐんぐん加速していった「透明な黒と鉄分のある赤」のダイナミックなパフォーマンスを終えると、あっという間にライブも終盤。にしなはライブがもうすぐ終わってしまうことに「もったいないなという気持ちです」と名残惜しそうに語っている。今年は夏フェスにも多く出演し活躍の場を広げた彼女だが、フェスでライブを観ていたときに感じたことをもとに作った曲がある、といって「ケダモノのフレンズ」を歌い始める。「みんなそれぞれ孤独を持ち合わせているんだな、孤独も悪くないな」――そんな気持ちを込めた切なくも愛しいこの曲では、グッズとして発売された「ケダモノのしっぽ」も大活躍。曲のリズムに合わせて客席でもふもふのしっぽが揺れる様がなんとも愛らしい。もちろんにしなもしっぽを手にステージを自由に動き回る。そこから「U+」、そして「ヘビースモーク」を経て「青藍遊泳」へ。この曲に込められた未来への願いのような感情が、ツアーファイナルという特別な空間を青く、みずみずしく彩っていく。

 そして「最後に、ツアータイトルになっている曲を」という言葉とともに披露されたのはもちろん「1999」だ。さまざまな風景を重ね合わせたようなスケールの大きなサウンドの上で、ときに優しく語りかけるように、ときに力強く宣言するように、にしなの歌声が広がっていく。曲の終わりには大量のスモークがステージを覆い尽くし、やがて客席も包み込んでいく。楽曲に描かれた「最後」をそのまま表現したような圧巻のフィナーレ。気がつくとステージからメンバーはいなくなり、オープニングでカッパが音楽を聴いていたラジカセがスポットライトに照らし出されていた。まるですべてが夢だったかのような余韻を残して、ライブ本編は終わりを迎えた。

(撮影=ERINA UEMURA)

 アンコールで再びステージに戻ってくると、にしなは改めて「1999」について語り始めた。地球滅亡の夜を描いた楽曲だが、もちろん地球の滅亡を願って書いたのではない、ということ。自分にも自分にとって大切な誰かにも必ずやってくる「終わり」、それがあるからこそ毎日「ありがとうとごめんねをちゃんと言えたらいいな、周りの人を大切にして生きられたらいいな」という願いを込めたこと。語り終えると改めて「今日は来てくれてありがとうございました」と客席に感謝を伝えるにしなを、この日一番の拍手が会場を温かく包んだ。

 そして最新曲「ホットミルク」を披露。この曲だけは撮影OKということで、客席からは無数のスマートフォンがステージに向けられた。「私はひねくれていて臆病者で、ステージの真ん中に立って歌うタイプの人間じゃない。でも自分をありのままでライブを楽しませてくれるお客さんがいて、かっこいいバンドメンバーやスタッフがいて、そのおかげで音楽を自分らしくできているなと思いました」。そんな言葉とともに最後の曲、「アイニコイ」へ。にしなの音楽への愛、メンバーへの愛、そして集まったお客さんへの愛が溢れたライブは、清々しいバンドサウンドとともに幕を下ろしたのだった。【小川智宏】

(撮影=ERINA UEMURA)

<セットリスト>

01.スローモーション
02.東京マーブル
03.FRIDAY KIDS CHINA TOWN
04.ダーリン
05.真白
06.夜になって
07.桃源郷
08.centi
09.夜間飛行
10.ワンルーム
11.透明な黒と鉄分のある赤
12.ケダモノのフレンズ
13.U+
14.ヘビースモーク
15.青藍遊泳
16.1999

EN1.ホットミルク
EN2.アイニコイ

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