鈴木亮平「俳優は一生かけてやれる仕事」いま手に入れたい役者としてのスキルは?
俳優の鈴木亮平が、ディズニー&ピクサー『トイ・ストーリー』シリーズのバズ・ライトイヤーの原点を描く『バズ・ライトイヤー』(公開中)で、主人公バズ・ライトイヤーの日本版声優を担当する。本作に登場するのは、おもちゃのバズ・ライトイヤーではなく、そのモデルとなったスペース・レンジャーのバズ・ライトイヤーだ。「トイ・ストーリー」の少年アンディが大好きな映画の主人公で、本作はその映画の物語を描く。US本社のオーディションを経て、日本版声優の座を射止めた鈴木は見事に“人間”としての『バズ・ライトイヤー』を表現した。インタビューでは、吹き替えに挑戦したことでの発見から、自身にとってのヒーローは誰なのか、そして様々な役を経験してきた役者・鈴木亮平の完成度はいま現在何%なのか、多岐に渡り話を聞いた。【取材・撮影=村上順一】
声優の友人に相談、その相手とは
――今回アフレコをやってみていかがでしたか。
『トイ・ストーリー』のアンディと僕が同世代ということもあり、好きな作品なので、新しい人間としてのバズを作り上げて欲しいというリクエストは「大変なことになったぞ」とすごいプレッシャーでした。普段は声で説明しないようにというのを心がけているので、声だけで全てを表現するというのは、けっこうモードを切り替えなければいけなくて。加えて僕の中にアフレコに対する準備やルーティンというのがないので、声優の友人に相談しました。その中でわかったことはプロの声優さんでもこんなにも準備をされるんだということでした。DVDを見ながら何日も前から合わせていく、一流のプロでもいきなり本番はないんだと感銘を受けました。実はこの間その友人から連絡がありまして、「バズだったんですね。実は私も出てます」って。
――それはどなたですか。
自動操縦音声作動ナビゲーター・アイヴァン役で参加されている沢城みゆきさんです。言われてみればあの声は沢城さんだなと思いました(笑)。
――正義感のあるところなど鈴木さんがバズと似ていると思ったのですが、共感したところは?
自分でもちょっとバズと似ているなと思いました(笑)。僕は仲間を大切にするということに気づいた後半のバズになりたいと思っていて。もちろんバズのようなスペース・レンジャーの経験はしていないですけど、人として同じような道を辿ってきているなと。最初は自分で何でも出来るんだ、みたいなところから、自分はなんてダメな俳優なんだというところ、みんなとやれば良いものが作れるかもしれない、という誰しもが通る道を歩んできているので、すごく共感できました。
――どのようなきっかけでそう思えるようになったのでしょうか。
シンプルに年齢かもしれないです。30歳前後でそう思うことがあって、昔はどこかカッコつけていた、俳優というのはこうでなきゃ、というのがあったのですが、自然体でそのままの自分でいこうと思うようになりました。そうすることでお芝居も良い結果がでましたし、また一緒にやろうと誘ってくださる方も増えました。鼻息荒くつっぱっていた時期もありましたが、失敗から学べたことも沢山あったので、それも良かったと思うんです。
――ご自身でもバズに似ていると感じたとのことですが、そんなバズの好きな表情はありますか。
まず、バズのアゴの輪郭が僕とちょっと似ていると思っていて、それが好きな部分でもあります(笑)。あと、よく眉毛を動かす表情があるんですけど、それを僕もやります。
――アフレコされる時、その表情になってしまったりも?
なります。表情もそうですけど、例えば作品の中で宇宙船の操縦レバーを弾く時も、アフレコでは操縦レバーは勿論ないので自分の手をレバーに見立てて引っ張るような感じでやってみたり。それぐらいやってちょうど良いか、もしくは足りないくらいなんです。
――体を使って表現されているんですね。吹替をやってみて発見や気づきはありましたか。
英語と日本語の違いです。クリス・エヴァンスさんのセリフを聞きながら日本語を当てていくのですが、英語のトーンに引っ張られると日本語のセリフが不自然になってしまうんです。海外の方の好みはちょっと(感情を)抑えたリアリティのあるものが好まれるみたいなんですけど、日本の場合は少しデフォルメした方がしっくりくるんです。
――ちなみに今後、実写映画の吹替に挑戦というのは?
実写だったら俳優として出たいですね(笑)。アニメーションならいいんですけど、実写はちょっと窮屈に感じてしまうかもしれません。表情とか作られてしまうと、こちらの表現が限られてしまう気がしていて。アニメーションだと声で無機質なところを補っていくという面白さがありました。ストーリー前半のバズのように、自分もまだまだ未熟なのかもしれませんね。
鈴木亮平にとってのヒーローは冴羽リョウ
――アフレコをやって俳優業に活かせることはありましたか。
この作品の展開は衝撃的で、過去に生きるのではなくて、今と未来を生きていくというのは今回の作品で学んだことです。失敗を経て学んだことで今の自分がいる、そのおかげで失ったものもあるけど、逆に手に入れたものも沢山あると思っています。人間というのは失敗してもいいんだ、それを受け入れて最後に良い人生だったなと思えればいいんじゃないかなといった精神ですね。
――吹替など様々な経験をされてきて、俳優・鈴木亮平さんの完成度は現在何%ですか。
20%ぐらいです。俳優というのは一生かけてやれる仕事だと思っています。まだ僕は俳優を初めて20年しか経っていないので、今の段階で高い数字を出してしまうとどこかで打ち止めになってしまうんじゃないかなと思って...。1年で1%ずつ上がっていくと仮定して、80歳までやったら...あれ? 60%までしかいかないや(笑)。
――どこかでスパートをかけていただいて(笑)その中でいま手に入れたい役者としてのスキルは?
沢山あるんですけど、一つ挙げるとしたらもっと客観的に見ながらも、もっと役に入り込めるようになりたいです。俳優業というのはその両輪を広げていかないといけないと思っていて、その人物に入り込んで、もっと自由に相手の状況や反応を見て、勝手にその人物が奔走して行くことに身を任せられるようなスキルが欲しいです。一方でそれがしっかり相手やお客さん、監督に届いているのか、カメラの映り方や照明の位置にしっかり立てているのかなど、その両方を上手くできるようになりたいです。
――『トイ・ストーリー』のアンディにとってのヒーローがバズのように、鈴木さんにとってのヒーローは?
『シティハンター』の冴羽リョウ(※リョウはけものへんに「僚」のつくりが正式表記)です。おそらく僕はクールに仕事が出来るという人よりは、普段おちゃらけているけど「やる時はやる!」といった人が好きなんです。そういう人が好きだから冴羽リョウが好きになったのか、冴羽リョウが好きだからそういう人に憧れているのかはわからないんですけど…。生き方としては、そうありたいと思っています。
――冴羽リョウを意識したりも?
髪の毛を伸ばすと、ちょっと意識してしまうところはあるんです(笑)。改めて自分はリョウのような髪型が好きなんだなと思ったり、ジャケットを着ると腕まくりをしてみたくなったりします(笑)。
――鈴木さんの活動の原動力になっている想いは?
「人の心に長く残るものを作りたい」ということです。上手くいったとしても「もっとこうできたはず」と思ってしまうのでキリがないんですけど、すごく難しいことですが、自分が未熟で失敗するからこそ、情熱を持って飽きずにやれているのかなと思います。
(おわり)