INTERVIEW

街山みほ、佐藤周監督、いまおかしんじ氏

初主演映画で殻を破る「生まれ変われた気持ち」


記者:木村武雄

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掲載:22年06月30日

読了時間:約9分

 グラビアアイドルの街山みほが初映画出演で初主演を飾った『ヘタな二人の恋の話』は、不器用な男女2人の7年間におよぶ恋模様を描いた作品で、街の片隅で懸命に生きる若者たちの恋と性をテーマにした『マヨナカキネマ』の第一弾。街山が演じる綾子はコミュニケーションがうまく取れずもがき苦しみながらも自分らしく生きようと懸命に生きる女性。ひょんなことから交際が始まった似た者同士の祐太との淡い青春を切り取った。感情の起伏が激しい役どころで体を張った芝居にも挑戦。どのような思いで臨んだのか。また脚本を手掛けたいまおかしんじ氏、そして佐藤周監督が本作に託したものとは何か。【取材・撮影=木村武雄】

綾子ができるまで

――企画の経緯は?

佐藤周 プロデューサーの山口さんと話して、最初に若者を描くというのは決まっていました。そこから、今の生きづらい世の中で頑張る若者の姿を描きたいですと伝えて、主人公像は応援したくなる人がいいだろうと。そういうプロットを書いて、いまおかさんに脚本を書いて頂いたというのがスタートです。

いまおかしんじ もらったプロットからどう膨らまそうかと考えて。最初にタイトルを付けるんですけど、パッと浮かんだのがこのタイトルで映画のニュアンスも見えてきて。そこから書いていった感じです。

――キャラクター像は?

佐藤周 綾子を造形していく上で僕の実体験というか。精神的に弱い子と付き合ったことがあって、それを重ねました。メンヘラの子は面倒くさいところもあるんですけど、時々可愛い瞬間があってそこに惹かれてしまう。そこからずるずると付き合って。それをいまおかさんに話して多分に取り入れて下さって、僕も撮るときはそれを意識しました。

いまおかしんじ そもそも僕自身もちゃんとしていないし、僕の身の回りは生きるのが下手くそな人ばかり。でも僕はそういう不器用な人は好きだし、そういう人の方が描けるなって。僕からしたら祐太と綾子も普通。ただちょっとタイミングが悪かっただけで。2人が好きだから書いてて楽しくてどんどんセリフが出てきましたね。

――綾子は下手したらただ嫌な奴で終わってしまうキャラクターでそれをいかに応援したくなるような愛嬌のあるように見せるかは、演じる方の力量にかかっていると思いますが、街山さんはオファーが来た時はどう感じられたんですか?

街山みほ 嬉しかったです。脚本を通して綾子という人物に触れた時に、生きるのが下手な子だなって思いました。もっと上手に生きられたら楽だと思うけど、下手だけど一生懸命に生きて応援したくなる子。佐藤監督に初めてお会いした時に「私は感情的になりやすいタイプなんですよ」と伝えてそれを汲み取って下さったのか、感情移入はしやすかったです。

――汲み取ったという事は、当初の脚本から変わっていった部分も?

佐藤周 会った時はまだシナリオができてなくて、どういう話にしようかとまだプロットを書いている段階だったんです。行き詰っている時に街山さんと話してそう仰っていたので、いまおかさんにもそれを伝えました。

いまおかしんじ 街山さんがYouTubeに上げていた動画で笑えたものがあって(笑)。

佐藤周 そうそうぶっ飛んでる動画がいくつかあって(笑)。

街山みほ ありましたね!今はもう消してますよ。あれはキャラクターです。演じてました。

いまおかしんじ あれに僕らは影響されて(笑)。

佐藤周 うまいこと騙されました(笑)。

街山みほ あれは、お酒を飲んでテンション爆上げしてやったんですよ。でも一部は真実かもしれないけど…(笑)。

佐藤周 その一部を信じていまおかさんに伝えて(笑)。

街山みほ お酒を飲むシーンは自分自身と重なるところがあって、めっちゃお酒飲んで何もかも嫌だってなってそこから祐太と出会い恋をするところは自分とリンクするところもあって演じやすかったです。お酒を飲んで素敵な出会いをしたいなとは思う時はあります(笑)。

――当て書きに近いですか?

いまおかしんじ 最初に街山さんの名前が上がっていたのでなんとなくは。でも深くまで街山さんのことは知らないのでなんとなくの印象で書いてました。

街山みほ

街山みほ

役を掴めた瞬間

――街山さんは本格的な芝居は今回が初めて?

街山みほ ほぼ初めてです。最初の頃は綾子になり切れてなくて、佐藤監督と本読みの時に「綾子はこう考えているんだよ」と1から10まで教えて頂いて。

佐藤周 でも僕も脚本を書いたわけではないから、3人で謎解きしながら詰めていった感じでした。

街山みほ 最初の泥酔しているシーンは、綾子はどういう心情でやっていると思う?と聞いてくれて、私なりの考えを話して演じました。

――クランクインのシーンは?

佐藤周 最後の方に出てくる海のシーンです。

いまおかしんじ 海からだったんだ!

佐藤周 ファーストカットが岬を歩いているシーンで。誰も掴み切れてないなかであれほどの複雑な感情のシーンをやるので難しくて、でもよくやってくれたなって。その後、ひたすら走らされて泣かされて(笑)。

いまおかしんじ 濡れ場もその日に?

佐藤周 それは次の日だったと思います。初日に海を撮ってその後、お好み焼き屋のシーンだった気がします。

――お好み焼きって人に水をかけるシーンですよね。

佐藤周 そうです。

――初日でそれは大変ですね。

いまおかしんじ でもそんなシーンばかりだからね。だいたい暴れたり、怒ったりだから(笑)。

街山みほ カップ麺をバーンって(笑)。

いまおかしんじ そのシーン好きだな。そのタイミングで来るかよって。掃除するのもね(笑)。

佐藤周 べちゃって(笑)

街山みほ ファーストテイクで決まったから残念だなって思いました(笑)

いまおかしんじ 街山さん、ここぞという時のシーンはだいたいファーストテイクで決めちゃうんですね。

佐藤周 そうです(笑)。カップ麺も水をかけるのもそう。綺麗に決まって。

街山みほ 楽しんじゃった(笑)!

いまおかしんじ 経験あるとしか思えない(笑)。

街山みほ ないですよ~(笑)

――役を掴めた瞬間ってありましたか?

街山みほ やっぱりお水とカップ麺です(笑)でもお水をかけるシーンで、綾子の性格ってこういう感じなんだというのは掴めた気がします。

いまおかしんじ なるほどね。あそこで親の話をするから少しバックグランドが見えるかもしれないね。

佐藤周 あそこで見えたところはあると思うんです。昔から親に迷惑をかけていたけど、お姉ちゃんよりも親を愛している。面倒くさい子なんだけど、親思いであり、愛されていたんだろうなって。奇妙な笑い方をするところもね。あれも掴むきっかけになったかもしれないですね。えへへみたいな。

街山みほ そうです!

――それは監督の演出があったんですか?

佐藤周 一応は…(笑)。でも本音を言えば、台本には書いてあるけどどうしたらいいのかって。

街山みほ どういう笑い方が良いのかなって。

いまおかしんじ氏

佐藤周監督

街山は勝負に強い?

――最初の泥酔シーンは?

佐藤周 あれは初日ではないね。2日目かな?

街山みほ そうですね。

――監督から見て街山さんの芝居が成長していくプロセスは見えましたか?

佐藤周 見えました。会話を重ねていくことでキャラをどんどん掴めていったというのは感じました。誰かとやると自分のセリフも言うしなんとなく掴めていけるもんなんです。でも最初の撮影は一人が多かったから難しかったと思います。いろんな役者と会話をしていくうちに街山さんの綾子感、綾子としての説得力が出てきて、良かったなって思いました。祐太との部屋のシーンは後半に撮っているんですけど、今思えばそのスケジュールは正解。2人の本来の姿が出るのが部屋のシーンだからそれはやっぱりキャラを掴めてから部屋のシーンを撮ったのは正解だったなって思いますね。

街山みほ 祐太と綾子がご飯を食べているシーンがあって、そこもめっちゃ可愛いって思いました。あのシーンを後半に撮って良かったなって。

――あのシーンが一番平穏かもしれないですね。

街山みほ あそこぐらいしかない(笑)

――旅館のシーンは?

佐藤周 あれはロケ地の都合で前半でした。

――祐太と綾子がお互いに信頼し合っている感じが出ていました。

街山みほ それは嬉しいです!

佐藤周 あれは2人の努力でしかない。よくやってくれました。

街山みほ 祐太役の鈴木志遠さんが役と同様に柔らかい印象の方で、合わせてくれているんだろうなって感じて。優しさを感じました。

佐藤周 でも鈴木君も焦っててどうしようって。緊張していて。

街山みほ それも祐太っぽいですね!

――2人でいる時の光の加減(照明)は狙ってたんですか? 旅館もそうですし、一夜を迎えた次の日の朝とか。

佐藤周 あれは狙いましたね。撮影部と照明部がやって。そもそも僕がじめじめした湿度感のある画が好きで、その中であの濡れ場ではエッジ感を入れて。次の日の朝のシーンは遊び心を入れてましたね。撮影部と照明部が最高で!

いまおかしんじ 時間がないなかで良くやったね!

佐藤周 一応ワンカットでやってますからね。ああいうのはどんな状況でも1個は入れるんですよ。士気が高まるというか。カットがかかるとみんなニコニコする。映画撮影は楽しいなって思いたいじゃないですか。みんなで。

いまおかしんじ それは確かにある。ただ撮っているんだけじゃないんだぞって。

街山みほ 私も見ていてすごいなって思いました。

――2人のあのシーンだけ光が特別だったので、聖域を表現したのかなと。

佐藤周 その通りです(笑)そこまで感じて頂けたなら最高ですね!

街山みほ

街山みほ

自分の殻を破った

――さて、街山さんは今回の作品で初主演で体も張っていろいろと掴めたと思いますが、ご自身にとってどういう体験でしたか?

街山みほ 恋も仕事もうまくいかない下手な男女は、まさに私が10代の頃の恋愛とも重なっていました。10代の時って言葉で伝えようとしないで「分かってよ」って押し付けたり、物に当たったり。私自身は綾子だったなって。綾子を通して自分のことを振り返られて見つめ直すきっかけになったと思います。それと演技はほぼ初めてだったので感情をさらけだすことが難しくて。でも綾子は感情をさらけだすことも一生懸命だろうなと台本を読んで感じていたので、自分の殻を破るという意味でも生まれ変われたような気持ちになる作品でした。

――これからもお芝居に挑戦していきたい?

街山みほ そうですね。試写を観てもっと頑張らないといけないと思ったので、もっとたくさん経験して勉強してまた新しい私と出会えたら嬉しいなと思います。

――綾子はちゃんと愛せた?

街山みほ 可愛いですし、ちゃんと愛せました。女の子って言葉で伝えるのが下手な子が多いと思うんです。自分が好きな相手にとって一番でありたいし、たった一人の人間でありたいから「もっともっと愛してよ」というセリフがありますが、そういった部分とかが共感してもらえるなって。

――2人を通して何が大切なのかを考えさせてくれますが、監督はどう感じますか?

佐藤周 相手への理解をちゃんと前向きに理解しようと思うことが大事だと思います。

――祐太の上司は典型的ですね(笑)

佐藤周 あれはだめです(笑)旧世代の生き物です(笑)

いまおかしんじ あれは『ふぞろいの林檎たち』パート2に出てくる室田日出男さんが演じた相馬課長のイメージです。(笑)

佐藤周 そっちだったんだ(笑)

――ところで、いまおかさんは次回作『甲州街道から愛を込めて』が決まっているそうですね。

いまおかしんじ 男1人と女3人が明大前から甲州街道をドライブに行く話で、その4人はみんな生きるのが下手くそなヤツらで。4人がいるとそれだけで演出もいらないのでほったらかしなんですけど、自然とそれぞれが4人のキャラを生きて行くっていうか、まさに今を生きている若者の感じもあって、この作品にも繋がるけど、今を生きている人が映画を撮って今生きている人が見る、同じ時代、時間を共有するのは大事だと思う。昔の映画も価値はあるけど今の映画も大事だと思うので盛り上げたいなって思います。

(おわり)

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