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秋谷百音が、ロングランを続ける映画『ベイビーわるきゅーれ』(阪元裕吾監督)で主人公に敵対する役どころを好演中だ。社会不適合者な元女子高生の殺し屋コンビが、社会に馴染もうと奮闘する姿を通して現代の若い世代の価値観を映し出す異色の青春物語。殺し屋コンビの主人公、杉本ちさとを高石あかり、その相棒の深川まひろを伊澤彩織が演じる。秋谷はその殺し屋コンビに敵対するヤクザの組長・浜岡一平(本宮泰風)の娘、浜岡ひまりを演じる。狂気に満ちるがどこかポップ。相反する二面性を併せ持つ難役にどう挑もうと思ったのか。【取材・撮影=木村武雄】
ひまりの人物像
――映画『別に、友達とかじゃない』にも出演されていましたが、涼子は内気な性格の役どころでした。
どちらかというと自分に近いというか、自分の一面でもありました。
――当て書きですもんね。
ほぼ当て書きです。ちょっと誇張はしていますけど、自分の持っている面の一部だったなと思います。
――今回の役どころも?
今回は確実にだいぶ離れています(笑)。これまで弾けるような明るい役はあまりなくて、ひまりを演じたことでちょっと自分の殻を破けたような気もします。
――ひまりは、ポップでちょっとバカっぽさもあって、秋谷さんは自然なお芝居をされていましたが、当初は役どころをどう捉えて演じようとされましたか?
脚本を読んだ段階では突拍子もない役だなと感じていて、大丈夫かなと思いました。衣装合わせのときに、阪元監督の作品で『ハングマンズ・ノット』(17年)という映画があるんですけど、それを観てくださいと言われて。それを観てから脚本を読むと理解できてきて。『ハングマンズ・ノット』の登場人物の空気感がひまりに共通していて、このテンション感なんだっていうか、ちょっと狂気的な人間がポップな服を着て、ポップに喋っているんだなっていう感じがしました。
――その役柄の外は衣裳とかによって作られていきますが、内面とかはどう作ろうと。
見た目は突拍子もないんですけど、内面は意外と普通の女の子というか。演じて分かったんですけど、父親に対する気持ちやお兄ちゃんに負けたくないっていう気持ちとかはどこにでもいるような普通の女の子と一緒だなっていう感じがしました。すごく現実離れしているようで、意外と普通の女の子でした。
――もしかしたら悪いことも悪いと思ってないような?
その純粋さは感じました。こうやったらパパに気に入ってもらえる、みたいな。何の疑問もなく、悪い感情を持たないで今まで生きてきたのに、父親に襲い掛かるあることによって初めて憎しみとかの感情を持ったんだと思いました。ひまりにとってはそこが分岐点になっていると思います。
――そのシーンは自分でもこれまでの芝居とは違う感覚はありましたか?
そうですね。ひまりを演じてる中で、父親のことやお兄ちゃんのことがあってからは感覚的に2人を見るときの気持ちが全然違いました。
――これは順撮りだったんですか。
順撮りではなかったんですけど、タイミングよくクライマックスのシーンと父親たちのことを知るシーンはちゃんと順を追っていたので、そこはクライマックスには持っていきやすかったのかなとは思います。
――今回の作品で役柄の方に寄ったとか、自分の違う一面が解放されたという話がありましたが、役者として改めてこの作品はどういうものになりましたか。
まさかこんなにロングランで上映していただけるなんて思ってもなかったですし、こうして主演のお二人だけじゃなく、私にも取材しに来ていただける機会が今まではほとんどなかったのですごくありがたいです。自分の殻を破けた作品でもあるので、自分にとっては大きいというよりは体積がある重たい作品になりました。この経験があるから他の仕事も頑張れますし、SNSとかで感想やコメントを送って下さる方も多いのですごく励みになります。それを身近に実感できたのでやって良かったって思います。
今はいい空気が流れている
――やって良かったということはそれまではちょっと心が折れかけたこともあった?
心が折れたというよりは不安でした。撮影に入る前はキャストの方も私が一方的に知っている方ばかりだったので、緊張もありましたし、大丈夫かなという気持ちがあったのですが、それを乗り越えたというか、一緒にやることによって元気づけられたり勇気づけられました。さらにお客様に観ていただくことによって自信もついて、相乗効果でどんどん良くなっていった感じがあります。
――よく階段を一段上がったという表現がありますが、まさにそんな感じですか。
人間としても役者としても良い影響を及ぼしてくれた作品だと思います。
――動画インタビューで「楽しいことは?」と聞いたときに「今」だと答えられて。それは取材を受けていることも含めて?
そうですね。お仕事もそうですし、今この瞬間、今のこの期間もすごく楽しいです。お芝居もできていますし、自分のやりたい好きな事もできているので、充実の日々ですし、時間ですし、瞬間っていう感じです。
――いいですね。
いますごくフラットで冷静になれているんです。自分の体内の中でいい空気なんだと思います。仕事をしているときはもちろん気は張っていますし、緊張もしていますけど、いい意味で楽かもしれない。呼吸ができているような感じです。
――ご自身の出演シーンでここは見てほしいというところがあれば教えて下さい。
一番印象に残っているのは、人をさらってくるシーンがあるんですけど、長回しなんです。そのシーンはリハーサルを繰り返して、これくらいのスピードで喋って、これが見える前にセリフは終わってこの木が見えてきたら止まる、という入念なリハーサルをやったんです。早口のシーンですし、情報がどんどん出てくるシーンなので観ている方としては忙しいシーンではありますが、すごく頑張ったのでその頑張りを観て欲しいです(笑)
――長回しが多いというのは高石さんにインタビューした時も言っていました。
2人の日常のシーンは、私も完成でしか観ていないんですけど、ご飯を食べたりおでん食べたりするシーンはたぶん長回しで。日常というか生きている感じがしてリアルでいいですよね。
――確かに、あのシーンもそうですけど、全体的に生きていますね。
キャラクターなんですけど、キャラクターがその中に生きているんだなっていう感覚はすごくありますよね。
――しかもポップに。
あれいいですよね。私もあんなにポップな服を着ることがないので、衣装を着るだけでテンションが上がっていました!
――衣装を着たことでテンションが上がって、その役に入り込むとか。
特にあのキャラクターは衣装が奇抜なこともあって、より入りやすいとは思います。あと劇中には見えていないのかもしれないんですけど、ネイルもカラフルにしていて。そういう意味では、ポップでカラフルでバカな悪役ですごく楽しかったです。
――最後にこの作品を機にどういうところに行きたいですか。目標があったら教えて下さい。
やってみて思ったのは、観た人とか一緒に仕事をする人たちがなってほしい役とか、秋谷像みたいなものってあると思うんですけど、それになろうと思いました。役柄もこういうイメージの秋谷百音でいてほしいというものに応えるというか、需要があるところに供給できたらいいなと思うようになったので、もちろん自分のやりたい役とかもあるんですけど、それもやりつつ、「こういう人になってください」とか「こういう感じはどうですか」と言われたときに、喜んで受け入れられる人になりたいなって思います。
――柔軟にこなせるということですね。個性も出しつつ。
役に個性があるから私に個性がなくてもとは思います。
――その発想面白いですね。
今見せているかは分からないですけど。毎回違う役をやりたいですし、逆にすごく普通の人物って一番難しいんですよね。そういうのを今までやったことがほとんどないから、そういう役にも挑戦してみたいです。
(おわり)
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