難曲への挑戦が音楽と向き合う転換期に、ピアニスト大貫祐一郎の思考に迫る
INTERVIEW

大貫祐一郎

難曲への挑戦が音楽と向き合う転換期に、ピアニスト大貫祐一郎の思考に迫る


記者:村上順一

撮影:村上順一

掲載:22年03月12日

読了時間:約9分

 ピアニスト・音楽監督の大貫祐一郎が3月31日、東京・サントリーホール・ブルーローズでピアノコンサート『アナリーゼのために 第二楽章』を開催する。今回はゲストにヴォーカルグループ LE VELVETSの佐藤隆紀を迎え、“アナリーゼ(楽曲分析)”をテーマに、大貫祐一郎ならではの視点で音楽の魅力を分析する新感覚ピアノコンサートの第2弾。シャンソン、ジャズ、ポップス、クラシックなど様々なジャンルのトップアーティスト達とプレイし、俳優の井上芳雄との共演をきっかけにミュージカルにも活躍の場を拡げている大貫祐一郎に、コンサートに臨む姿勢や、音楽と向き合うこととなったターニングポイント、作曲・編曲をする時に大切にしていることなど、多岐に亘り話を聞いた。【取材・撮影=村上順一】
 

全力でやるということを学んだ

――コロナ禍で活動の方はいかがですか。コンサートが延期や中止になったりと、大変だったと思われるのですが。

 2021年はきっと新型コロナもある程度収束してるだろうと思っていたのですが、第4波、第5波とどんどん仕事の数も減ってきて、改めて大変なことになったと感じました。でも、ふと振り返った時に配信でのお芝居だったり、コロナ禍だからこそできたお仕事というのはたくさんありました。みんなで右往左往しながらも、ああでもない、こうでもない、と出来たのはある意味充実していたような気がします。

――その中で得たものは、どんなことでしたか。

 ものすごく膨大な量の譜面を書いて臨んだ、井上芳雄さんのコンサートも1公演しかできなくて。それは配信という形で消化することは出来たのですが、モチベーションをいかに保つか、という訓練になりました。何が起きても気持ちを強く持つというものです。どんな時でも手を抜かない、全力でやるということを学んだ期間でした。去年の12月に行った無観客配信でのピアノコンサート『アナリーゼのために』は、今できることを一生懸命やることで、その集大成のようなものが出来たと思います。

――『アナリーゼのために 第二楽章』を3月31日に行ないますが、楽曲を分析するというこのアイデアはどこから?

 スタッフとの雑談の中で「コンサートをやるなら、ひとつの曲を分析したいね」、という話になって。その分析というのはクラシック用語でアナリーゼと呼ぶんですけど、クラシックに「エリーゼのために」という曲があるので、それとかけまして。まあ、ダジャレなんですけど(笑)。

――(笑)。分析するというのは昔からずっとやられていることなんですよね?

 思い返してみるとアレンジをする作業というのは、その曲を分析しないことには始まらないので、深く考えるまでもなく、常にそういう作業をしていましたね。アナリーゼという言葉が自然と出てきたのも、日々、楽曲を分析しているからだと思っています。前回は「エリーゼのために」をジャズやサンバなどにアレンジしてみたり、僕のオリジナル曲を解説したりしました。

――基本はクラシックの曲が分析の対象となるのでしょうか。

 前回は配信のみで行いまして、アーカイブするにあたり著作権の関係もあり、クラシック曲と自分のオリジナルになったのですが、今度は有観客の公演で色んな曲ができそうなので、どんな曲をアナリーゼしようか、僕も楽しみなんです。すごく幅が広がると思います。ありがたいことにチケットが完売したので、アーカイブは付けられないですが今回も配信が決まりました。こちらでも楽しんでいただけたらと思っています。

――今回、LE VELVETSの佐藤隆紀さんがゲストとして参加しますね。

 佐藤さんは発声マニアでクラシカル的な発声からポップス的な発声など、いろいろ知識を持っている方なので、それも楽しみですね。

――大貫さんが音色をアナリーゼするというのも面白いかもしれないですね。ピアノも3台ぐらい用意していただいて。

 それは贅沢ですね(笑)。ちょっとマニアックすぎるかもしれないですけど。あと、やってみたいことの一つとして、ゲストをお呼びして2台のピアノを使った演奏をしてみたいですね。2人で向き合って演奏というのはよくあるんですけど、僕はあまりやったことがないので。あっ、お客さんと演奏するのも面白いかもしれない(笑)。

――大貫さんと演奏出来るのはすごく貴重で嬉しいですが、なかなか勇気がいります。ハラミちゃんとのセッションとかも見てみたいです。

 ハラミちゃん、来てくれるかなあ(笑)。あと今回、新しい試みとして僕が作曲、ゲストの佐藤さんが作詞をしていただいたオリジナル曲をコンサートで披露する予定です。今後もゲストの方に来ていただいて、一緒に曲を作りたいなと思っています。そして、僕は横浜出身なので、50曲ぐらい出来たらゆくゆくは横浜アリーナでコンサートが出来たら、という夢もあります。今のペースだと25年くらいかかるかも知れませんが(笑)。

音楽の思考に迫る

村上順一

大貫祐一郎

――大貫さんが曲を作るときは何を一番大切にしていますか。

 ピアニストが作る曲は歌うのが難しい、とよく言われるんです。なぜならピアノは叩くと音がすぐ出るので音が飛ぼうが何しようが、オクターブも楽にいけるけれど、それを声で出す、歌うというのはすごい大変じゃないですか。自分では気持ちいい音だと思って作るけど、歌うとなるとすごく難しいらしくて。なので、歌のメロディーを書くことが多いので、なるべく音が飛ばないように、というのは考えています。

――アレンジされる前に行うことは?

 まず、その曲を何度も聴きます。その曲を好きにならないとアレンジをする気が起きない。なので、電車に乗っている時も歩いている時もその曲を聴き続けて、好きになるとその曲のいいところが見つかります。この部分をこういう風にアレンジしてみようとか、アイデアも出てきやすいです。

――例えば既にリリースされている曲を分析する中で「なぜこの曲が売れているのか」、というのがわかることも?

 それは難しいですね。リリースされたタイミング、時代も関係していると思います。ただ曲の構成の妙というのはあるかもしれないです。例えばサビから始まる、ちょっと変わったものもあるんですけど、ある程度大枠は決まっている、という感じがしています。極論ですけどサビだけの曲ってないじゃないですか。ホップ、ステップ、ジャンプでよしきた!、みたいな。とは言っても売れるのはやっぱり運ですかね(笑)。

――先程お話しした音色をアナリーゼするというのも面白そうだなと思ったのですが、音色というのは楽曲にどのくらい影響力があると考えていますか。

 僕はプレイヤーなので、音色はかなり大事だと思っていて、こだわりを持っています。ピアノという楽器は鍵盤を叩けば誰でも音が出るので、その中で音色の差をつけるにはどうしたらいいか、というのは考えています。そして、ピアノ自体が持っているポテンシャルというのもあると思っていて、YAMAHAやKAWAIなど、メーカーによってもそうですし。あとはグランドピアノか、アップライトピアノか、というのもあると思うので。

――大貫さんが音楽と向き合って、意識が大きく変わった時期は?

 一番最初は高校生の頃かもしれないです。中学生までヤマハの音楽教室で習っていて、音大に行きたい!となったときに、当時習っていた先生の先生に習い始めました。その先生がすごく厳しい人だったので、これはちょっと気合入れないといけないな、と思ったのが高校生2年から3年生になる頃でした。練習する曲も自分の実力よりも「これはちょっと無理なんじゃないか」という曲を選ぶのが良いと、アドバイスをいただいて。それで難曲を練習したというのは真剣に音楽と向き合うきっかけになりました。

――当時はどんな曲を練習していたのでしょうか。

 ショパンの「黒鍵」とシューマンの「トッカータ」という曲です。憧れはあったんですけど、それを試験で演奏することになりました。

――難しい曲を練習するときは、どのように始めるのがいいですか。

 最初は指使いも考えながら、ゆっくり弾くところからです。みんな手の大きさがそれぞれ違うので、指使いってすごく大事なんです。しっかり一つひとつ指を確認しながら、左手だけで練習したり、次は両手でゆっくり弾いたりと、だんだんテンポを上げていきます。そうやって練習していると、半年ぐらいかかってしまうんですけど。

シャンソンだったら誰にも負けない

――あと、ケガをしないようにすごく気をつけているみたいですね。

 もし転倒したとしても、腕や手から行くんだったら、僕は顔から落ちた方がいいと思っていて。なので、腕相撲とかバーベルを上げたり、手を使うような運動もやらないようにしています。

――筋トレとかもされないんですね。

 中学生の時に野球をやっていたので、筋トレはしていましたが、今はやらないですね。あと、卓球も少しやっていた時期もあります。

――野球は指をケガしそうですね。

 当時はすでにピアノも弾いていましたが、野球でけっこう突き指はしていました。若い時は深く考えていなかったんですよね。なんだかんだで今とは違ってケガをしてもすぐ治りましたから。

――さて、大貫さんはクラシックをはじめ、ジャズやポップス、ミュージカル音楽など多岐に亘り演奏される大貫さんですが、肩書きとしてはどんなピアニストだと思っていますか。

 自分ではシャンソンピアニストだと思っています。なぜかというと大学を卒業して仕事として一番最初にやり始めたのが「愛の讃歌」や「サン・トワ・マ・ミー」などのシャンソン曲でした。今もその仕事は続けているので「どんなピアニストですか?」と聞かれたら、「シャンソンピアニストです!」、と答えることにしています。シャンソンだったら誰にも負けないぞ、という気持ちもあります。

――今はミュージカルで演奏することも多いですが、これまでの活動と比べると特殊なことはありますか。

 ポップスは曲が始まったらテンポはほぼ一定じゃないですか。でもミュージカルはリズム、テンポが変わります。割とシャンソンもそうなのですが、バースと呼ばれている、語るようにメロディーを歌っているところに演奏を合わせることがあります。ジャズの方はこれがなかなか難しいらしいんですよね。というのも、ジャズも割と同じテンポで演奏することが多いからで、僕は昔からリズムが変わる曲に慣れているから、そんなに難しくなくて。それはミュージカルにも通ずるところがあって、自然に入れた要因かも知れないです。

――最後に、コンサートへの意気込みをお願いします。

 今回はお客様を入れてのコンサートです。以前は当然だった事が、ここ数年のコロナ過で当然では無くなり、普通だと思っていた事が普通では無くなりました。今までやってきたことが、簡単になくなってしまいましたが、同時にそれを静かに見つめ直す機会にもなりました。“エネルギーの交換”とよく表現しますが、家族、友人、上司、部下、同僚・・・人との接点を渡り歩いて生きています。つまり、お客様がいなくては私たちの仕事は成り立ちません。私もエネルギーを欲しているし、お客様もそうだと思います。今回、佐藤隆紀さんというエネルギーの塊みたいな方をゲストに迎え、私と共に大放出したいと思っています。是非お楽しみに!

(おわり)

公演名:大貫祐一郎 ピアノコンサート『アナリーゼのために 第二楽章』
出演:大貫祐一郎
ゲスト:佐藤隆紀(LE VELVETS)
2022年3月31日(木)開演19:00〜ライブ配信(アーカイブなし)
【イープラス】https://eplus.jp/onukiyuichiro0331/
【ぴあ】https://w.pia.jp/t/onuki-yuichiro/
視聴券:3,800円(税込)
一般発売:2022年3月13日(日)
お問合せ:TBSグロウディア Tel:03-6230-8931
主催:TBSグロウディア

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村上順一
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