寺岡呼人「むしろ今から必要になってくる」音楽、エンタメの意義とは
INTERVIEW

寺岡呼人

「むしろ今から必要になってくる」音楽、エンタメの意義とは


記者:平吉賢治

撮影:

掲載:22年01月14日

読了時間:約10分

 寺岡呼人ソロデビュー25周年を記念して結成されたカーリングシトーンズが2021年12月29日、『またか!いい加減にシトーンズ!~Live at 東京ガーデンシアター2021.03.16~』をリリース。カーリングシトーンズは、寺岡シトーン(寺岡呼人)、奥田シトーン(奥田民生)、斉藤シトーン(斉藤和義)、浜崎シトーン(浜崎貴司)、キングシトーン(YO-KING)、トータスシトーン(トータス松本)の6人構成の奇跡のドリームバンド。本作はBlu-ray/CDとDVD/CDの2形態で、3月16日におこなわれた東京ガーデンシアター最終日の公演をノーカットで全21曲収録。インタビューでは、バンドやライブについての想い、寺岡が今追求していることや音楽の本質的な部分など、幅広く話を聞いた。【取材=平吉賢治】

「バンドだなという感触」とは

『またか!いい加減にシトーンズ!~Live at 東京ガーデンシアター2021.03.16~』DVDジャケ写

――2021年を振り返っていかがでしょうか。

 カーリングシトーンズ6人の6通りの過ごしかたを身近に感じていました。ずっと動き続けている人もいれば、僕みたいに休めるんだったら休もうかなど様々です。総じて凄く充実していました。考える時間もありましたし、来年に向けての創作なども含め、後半になってエンジンがかかってきたかなという気はしています。

――創作で最も大切にしていることは?

 締め切りでしょうか(笑)。「いつでもどうぞ」という自分での締め切りが一番きついんですけど、そういうところも凄く大事というか。求められていつまでに、というところに向けるのが不健全なようでいて健全だと思います。

――本作の映像作品を拝見して、内容も楽しく、とにかくメンバーのみなさんが楽しそうだと感じました。寺岡さんはどう感じますか。

 最初は僕のソロ25周年の記念にみんなに声をかけたのですが、ただ寺岡呼人ソロ25年、ゲスト奥田民生、斉藤和義…というと普通だと思ったんです。あえてバンドと銘打ってそのバンドのメンバーとして出るみたいな、そういう風に始まりかたが半分遊びだったんです。カーリングシトーンズという架空のバンドということで作って、メンバーも「シトーン」を名乗ると。

 その時はあまり曲も出来ていなかったけど、たまたまそこで新曲が15曲出来まして。ライブが終わって「じゃあどうしようか?」となった時に、やっぱりレコーディングしたほうがいいよね、というところから始まって早3年、みたいな感じです。その時に「こういうライブにしよう」といった計算は全くなくて。この6人の相性、関係値が結果絶妙で、さらにそれがライブのたびに進化して、一体と、変わってきたのが今回のライブの映像に凄く出ている気がします。

 1年ぶりでリハーサルも少なかったので、そんなにやりとりしてここに至ったわけではないんです。そういう意味では、この映像を観ていても「架空のバンドだったのにバンドになっているな」という感じは少し受けます。今年の11月もTV収録でライブをやったんですけど、さらに進化している気がしたので「バンドだな」という感触がみんなあるんじゃないかと思います。

――寺岡さんにとってバンドとは?

 定義はないんですけど、例えばサポートメンバーがいたら出せない、上手い下手ではなく、その人数のメンバーでしか出せないえもしれぬグルーヴ、一体感みたいなもの、そのメンバーにしか出せない味が出るのがバンドなのかなと思います。

――その味というのは人間性の表れだったりするのでしょうか。

 どうなんでしょう…たまたまビートルズの「GET BACK」のセッションを観ていて、ずっとスタジオで遊んでいるようでいて、でも音を聴くと「ビートルズだ」という感じなど、味という意味では究極なのかなという気がします。

――遊びという部分は大事な要素?

 あのセッション自体が、もともと遊びで始めたものを取り戻すような意味合いがあったとは思うんです。それが結果、ダイレクトにアルバムになっていたりするので、バンドというのはそういうことなのではないでしょうか? なかなかこれは理屈では説明しづらいものだと思いますが。

――カーリングシトーンズの映像を観ると、感覚的にそういった部分を感じられると思います。本作の映像では即興で曲を作る場面があり、そこもバンドならではと感じました。

 奥田シトーンが一番そういう遊びを大事にしているのに、みんなが引っ張られているみたいなところだと思います。ずっとみんなでそういうYouTubeチャンネルのようなのをやっていた流れではあるんですが、それこそコロナ禍から始めたので、そのなかでもやって楽しもうというところで繋がっていると思います。

――コロナ禍で音楽の発信の方法などが変化したと感じています?

 四季で考えたら、冬に動物がじっとして冬眠するのと同じように、必ずまた春が来ると思っていたというか。あまり発信が変わってなんとかしてもシンプルに音楽を創ったりするのは変わらないので、あまりネガティブに考えていませんでした。

「もし、レコードを1枚だけ」どの盤を持っていく?

――今、追求されていることは?

 特にコロナ禍になってからはアナログレコード、7インチドーナツ盤を異常に買い出しました。ただ、あまりジャンルを広げて買うときりがないので60、70、80年代前半のブラックミュージックの7インチを買って聴いていました。

 同じ曲でもLPに入っているものよりも凄く音圧があるものがあったり、回転数も33回転ではなく45回転だったり、1曲なので溝の幅も広いので音圧が全然違う曲もあったりと。「当時の少年少女はこういうのをジュークボックスで聴いていたのかな」ということを思いながら聴いていました。

――仮にアナログレコードを1枚しか持っていけない、という状況になったらどの盤を選びますか。

 RCサクセションの『シングル・マン』です。それは当時すぐに廃盤になったんですけど、RCサクセションの人気が出た後に再発売されて。僕も再販されたものばかり聴いてきたんですけど、この間そのオリジナル盤を見つけまして。いっぱい名盤はあるんですけど、ちょうど買いたてというのもありますが、思い入れも含めて『シングル・マン』を持って行きたいかなと思います。ちなみに、音はめちゃくちゃ違うかというと、そんなには変わらなかったんですけど、少し原音感はありました。

――アナログレコードで聴いたことがないけど興味を持っているとしたら、すぐにでも体験したほうがいいというほどの魅力がある?

 僕は絶対そっちがいいと思います。音楽は「音を楽しむ」と書きますが、デジタルの音は「楽しむ」というよりは「情報が入ってくる」という感じなので。特に古いロックやブルース、R&Bなどはレコードで音を聴くと本当に体が動くしワクワク感があります。同じ環境でCDや配信音源などで聴くと全然音圧が違ったりするので不思議ですよね。レコードで聴くと、文明が発達しているはずなのにそういう部分はちょっと廃れていっているのではないかと思いますから。

――確かに、CDで何度も聴いた曲をアナログレコードで聴いた時、明らかに感動が違いました。

 そうですね。アナログを超えるデジタル技術が上がればまた違うのかもしれませんが、今のところはちょっとなかなかまだ超えられていないのかなという気がします。

音楽は何倍ものエネルギーに

カーリングシトーンズ

――寺岡さんにとってライブの魅力、醍醐味、ポイントなどは?

 やはり100回練習するよりも、お客さんの前で1回ライブをやるほうが僕らは全然成長できるんじゃないかなと思います。

――音楽を共有する方々が目の前にいると別物になる?

 別物だし、やる曲が同じだとしても1日目と2日目で全然違うものになるし、そういうところではないでしょうか。同じものはない、というか。

――カーリングシトーンズの来年の展望はいかがでしょうか。

 とにかくまずスケジュールがあまり合わないので(笑)。ただ、みんなやりたい気持ちが凄くあるので、タイミングさえ合えばやろうというのは共通して思っています。カーリングシトーンズは責任を6人で分けあえるので、「気が楽だ」というような、ある意味オアシスみたいな場所でもあるみたいで。

――レコーディングについて、年々、音楽制作の環境が大きく変化していると思います。そのうちAIが音楽を作る時代が来るのかとも。音楽においてのテクノロジーの進化についてどのように思われますか。

 あくまで本質ではない気はします。音は直せるし、AIでも、どちらかというと楽に簡単にしてくれているというか。だけど、本質はいい曲を書いて、いい歌を歌わないとダメだと思うので、そこはあまり進化しているとは思えないですね…例えば、ビートルズが屋上でやったライブを下の階まで線を引っ張ってレコーディングしているんですけど、めちゃくちゃ音がいいんです。じゃあ、あの音を今AIを使って録ってみようか、といっても録れない気がしています。

 技術が進歩しているんですが、あくまでもそれはどれだけ楽にできるかという。200トラックにしたからといって素晴らしい音楽ができるかといったらまた別の話なので。そういう意味で言うと、4トラックに負けてどうするんだよという感じはありますけどね(笑)。

――いい曲を書いていい歌を、というのが本質と。

 昔はレコーディングスタジオでないといわゆるプロレベルに出来なかったのが、今は高校生でも同じくらいの機材で、家で簡単にできるという意味では素晴らしいと思うんです。でもそれは使いようというか、あとは自分の感性などがないとダメなのかなという気がします。

 例えば宮崎駿さんのような作品をAIが作れるとはとても思えないと。それはあくまでもツールを使ってどうしたいか、どう構成したか、どういう想いが、というのがあるので。想いがAIに負けるとは思えないんです。

――なるほど。さて、2月5日に『寺岡呼人 Birthday LIVE 2022』を控えていますが、意気込みはいかがでしょうか。

 僕が高校生の時、生まれて初めて行ったライブハウスが京都の「磔磔」なんです。それでたまたま1回やってみたらなぜか恒例になって。去年はできなかったので、そういう40年以上やっているライブハウスで、コロナ禍でみなさん頑張っているなかで実質2年ぶりくらいにできるので凄く楽しみです。

――音楽の存在意義について、寺岡さんはどのようにお考えでしょうか。

 京都のお菓子屋さんの社歌を書いたことがあって、その会社の方と京都で久々に会いました。社訓が会社にあって普段から目にすると思うのですが、「音楽って全然励まされかたが違う」というようなことを仰っていて。

 特に、その会社の掃除をする方が、社長と話をしていてもその社歌が流れると「ちょっと待ってください」みたいな感じで社歌が終わるまでそこで一緒に歌うらしいんですよ。それで「私はこの曲で凄く救われて頑張ろうという気になれるし、この会社で働けてよかったと思うんです」と。そういうことが音楽にあるんだなと思いました。

 社訓みたいに言葉だけだとそれで終わりかもしれないけど、そこにメロディが付くことで何倍ものエネルギーになったり、そこで勇気をもらえる人もいれば、泣く人も笑う人もいて。すごく幸せな仕事をさせてもらっているなと、そういう人と話すと気付きます。だから、コロナ禍など色々言われていますが、むしろ今から音楽は必要になってくるんじゃないですかね。こういう、言葉とメロディが付くというエンタメというものは凄く大事になっていくと思います。

(おわり)

作品情報

『またか!いい加減にシトーンズ!~Live at 東京ガーデンシアター2021.03.16~』

■Blu-ray (BD+CD)
価格:9,000円(税別)
品番:MUXD-1024/5

■DVD (DVD+CD)
価格:8,000円(税別)
品番:MUBD-1088/9

ライブ情報

『寺岡呼人Birthday LIVE 2022』

公演日: 2022年2月5日(土)
会場: 京都 磔磔
時間: 16:30開場 / 17:00開演
料金: 自由席 5,000円 税込
※3歳以上チケット必要
※入場時ドリンク代別途必要

◆オフィシャルHP先行(抽選)
2021/12/13(月) 12:00~
受付URL:https://eplus.jp/yohito0205hp/

◆一般発売日
2022/01/15(土) 10:00~
プレイガイド イープラス: http://eplus.jp

カーリングシトーンズ

寺岡呼人ソロ・デビュー25周年を記念して集まったカーリングシトーンズは、2018年7月に記者会見動画を公開し結成。寺岡シトーン(寺岡呼人)、奥田シトーン(奥田民生)、斉藤シトーン(斉藤和義)、浜崎シトーン(浜崎貴司)、 キングシトーン(YO-KING)、トータスシトーン(トータス松本)の6人で構成され、全員がリードボーカルをとれ、作詞作曲も出来、あらゆる楽器の演奏が可能なフロントマンが集まった奇跡のドリームバンド。

2018年9月にZepp Tokyoで一夜限りの奇跡のデビューライブを開催する。その記念すべき1曲目として演奏された「スベり知らずシラズ」がスタジオ録音作品のデビュー曲となる。2019年11月には、1stアルバム「氷上のならず者」を発表。12月には、東京国際フォーラムホールAを皮切りに初の全国ツアー、カーリングシトーンズTOUR 2019-2020「やったぁ!明日はシトーンズだ!」を開催。

2021年9月22日に映画主題歌とし初めて書き下ろされた新曲「それは愛なんだぜ!」を配信シングルリリース。また、最新の映像作品として2021年3月15日16日と東京ガーデンシアターで行われた有観客ハイブリッドライブの最終日公演を12月29日に『またか!いい加減にシトーンズ!~Live at 東京ガーデンシアター2021.03.16~』Blu-ray/CD及びDVD/CDの2形態でリリースした。

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