桑田佳祐が12月30日、31日、横浜アリーナで『LIVE TOUR 2021「BIG MOUTH, NO GUTS!!」』公演を行った。本ツアーは今年9月に発表した新作EP(ミニアルバム)『ごはん味噌汁海苔お漬物卵焼き feat. 梅干し』を携え、"どんな状況にあっても音楽を作り届ける"という矜持を胸に、全国10カ所20公演を巡った有観客全国アリーナツアー。4年ぶりの新作は各音楽ランキングの首位を席巻し、勢いそのままに突入したツアーのセミファイナル公演の模様を以下にレポートする。【取材=平吉賢治】

アリーナ中に溢れるねぎらいの心とエンタメの楽しさ

(撮影=西槇太一)

 「毎日を懸命に生きておられる皆様の心を、“ホンの少しでも晴れやかなものにするお手伝いができれば”」という想いのもと開催された全国アリーナツアーの30日の公演。

 桑田がおこなったライブは、今年、あらゆる人が感じた様々な心境に、深く寄り添うようだった。桑田とメンバーが発する音と言葉とパフォーマンスは、多くの人たちを温かく支えてくれるエネルギーを発し、会場でライブを楽しむ全ての人たちを輝かせてくれた。

 コロナウィルス感染症拡大により、歓声を出すことができない会場。しかし、拍手は従来以上にこだまし、オーディエンスそれぞれの表情はマスク越しでもわかるほどの幸福感と期待感で満ち溢れていた。

 「それ行けベイビー!!」の<適当に手を抜いて行こうな>という歌詞から始まったライブは、長引くコロナ禍で疲弊した人たちの心を解きほぐしてくれた。ライブ曲目の第一節がこの詞から、というのは桑田の粋と優しさを感じられずにはいられない。“SMILE”を絶やさず、労いの心と、エンタメの楽しさと、極上のパフォーマンスを、常に全方位のオーディエンスに向けていた桑田の姿は、あまりにも頼もしかった。

カラフルかつダイナミックなライブの真骨頂

(撮影=西槇太一)

 荘厳なコーラスがダイレクトに魂に届く「炎の聖歌隊 [Choir(クワイア)]」のオーバーチュアで、客席各々からのカラフルなライト、一斉に刻まれるクラップが楽曲を華々しく彩る。3曲目にして会場の熱気は一気に高揚した。

 MCで桑田は、「開演お待ちどうさん!ご来場ご足労さまでございます! 毎日おつかれさまでございます!」と、優しく、明るい口調で投げかけてくれる。そして、マスクをするオーディエンスに労いの言葉を伝える。その様子はこのタイミングだけではなく、ライブのMC中に何度も見せた。そこには、「毎日を懸命に生きておられる皆様の心を、ホンの少しでも晴れやかなものに――」という桑田の気持ちが表れており、会場中の心を温めてくれた。

 ライブは進み、和のテイストの演出が光る「本当は怖い愛とロマンス」、オーディエンスが一斉に両腕を揺らした「若い広場」と続け、そして最新EPより「金目鯛の煮つけ」がノスタルジックな風景がバックスクリーンの映像に投影され披露された。

 そして、「ご当地ソングとして蘇らせてきました」と桑田が告げると、横浜の様々なシーンを想起させる歌詞を織り交ぜた「新YOKOHAMA LADY BLUES〜新・横浜レディ・ブルース〜」(原曲「OSAKA LADY BLUES〜大阪レディ・ブルース〜」)」を披露。ツアーならではの貴重なテイクに会場は活気と笑顔に満ちたハートウォーミングな空気感に。

 序盤にまずリラックス、そしてボルテージを上げ、和みと笑いもはさみ、カラフルなパフォーマンスを繰り広げてたどり着いた中盤。ステージフロントに炎が立ち上がり「さすらいのRIDER」のソウルフルな歌唱で魅了した。

 「月光の聖者達(ミスター・ムーンライト)」ではしっとりと聴かせ、緩急もつける。「これぞライブ」と声を大にして言いたくなるダイナミズムを絶好のペースで魅せてくれるのは“エンタテインメント界の顔”と言っても過言ではない桑田のパワフルなはからいだ。

 そして、「ちょっと暗い曲、歌っていいですか?」という桑田の言葉に続いたのは「どん底のブルース」。ライブにさらなる色が加わり、オーディエンスは楽曲と演奏に一点集中して惹き込まれる。

 哀愁漂う“泣き”のリードギターが轟き、「東京」のエモーショナルなイントロへ繋がれる。桑田の歌唱と情念が心に溶け込んでくる。特に<世の痛みに耐えて咲いてくれ>というフレーズで桑田が感情をグッと強調させたフィーリングが、深々と、胸に染み入った。

全てを輝かせる桑田の音楽の力

 ライブ後半は怒涛の勢いだった。今年開催された東京オリンピック・パラリンピックを彩った「SMILE~晴れ渡る空のように~」を歌唱する桑田は満面の笑み。2拍、4拍目に力強く、幸福感溢れる音色で鳴り響くオーディエンスの手拍子は次曲「Soulコブラツイスト~魂の悶絶」のラストまで刻まれ続けた。本公演のハイライトと言えようひとときに桑田は熱唱しつつ、楽しそうに、ライブ空間の幸福感を膨張させる。

(撮影=西槇太一)

 ゴージャスなレーザービーム演出、多数のダンサーが放つ艶やかな色気と華。スペシャルミュージシャンメンバーによる至高の演奏。オーディエンスの快活なレスポンス。ライブのハイライトから勢いはそのまま、いや、それ以上の熱量を出力しながら「スキップ・ビート(SKIPPED BEAT)」まで走り、「悲しい気持ち(JUST A MAN IN LOVE)」で最高のフィナーレを醸し、「愛してるよ! また会いましょう!」と、桑田はストレートに会場中に愛を伝え、本編は幕を閉じた。

(撮影=西槇太一)

 アンコールで再びステージに現れた桑田は、「東北をはじめ、全国各地の被災地の復興、そしてみなさんの健康を願って!」と述べ、「明日へのマーチ」を披露。アンコールは5曲で応え、「波乗りジョニー」では桑田とメンバーが巻き起こす“波”にオーディエンスは一斉に乗り、ラストは「みなさんにとって来年も素晴らしい1年でありますように、最後に願いを込めて、この曲を聴いてください!」と言葉を添え、「祭りのあと」で華々しくフィニッシュ。

 様々な人たちが明るい兆しを求めて苦難を乗り越えてきた2021年。桑田がくれた音楽とエンターテインメントは、素晴らしい2022年のスタートを切るための原動力となった。会場を後にするオーディエンスの表情、姿、雰囲気、所作、その全てが煌々と輝いたことが、それを明瞭に物語っていた。

 桑田がフロントマンを務めるサザンオールスターズは2020年に2度の配信ライブを果敢におこない、新しいライブエンターテインメントの可能性を示した。困難な状況下でも希望の光を照らし、粋な姿で魅せ、全方面に感謝の想いを向け、多くの人たちを鼓舞した。

 2021年3月には、桑田はソロとして初の配信ライブという新たなスタイルを見せ、“最新の文化的時間”を展開し、美しいひとときを我々に提供してくれ、心を満たしてくれた。

 そして、本公演がおこなわれた2021年12月30日現在の局面でも桑田は、そしてメンバー、スタッフは、万全の対策下で有観客アリーナライブ開催という希望の轍と、その先の光をたっぷりと魅せ、多大な勇気をくれた。

 「次こそは、みなさんとマスクを取ってお会いしたい――」と、ライブ中に桑田は語った。エンタメ復興の第一歩となる貴重なライブとも捉えられよう本ツアーの公演。ライブ、音楽、エンタテインメントの強大なパワーは「今だからこそ、必要だ」と、心底感じさせてくれた一夜だった。

 そして、2021年11月20日、21日におこなわれた、さいたまスーパーアリーナ公演のもようが“オンライン特別追加公演”として各配信メディアで2022年1月3日19時から一斉ライブ配信され、その “おかわり配信”として、1月7日20時から、8日13時から、9日19時からの3回にわたりリピート配信することも決まっている。

(撮影=白石達也)

セットリスト

『桑田佳祐 LIVE TOUR 2021「BIG MOUTH, NO GUTS!!」supported by SOMPOグループ』

2021年12月30日@横浜アリーナ

01.それ行けベイビー!!
02.君への手紙
03.炎の聖歌隊 [Choir(クワイア)]
04.男達の挽歌(エレジー)
05.本当は怖い愛とロマンス
06.若い広場
07.金目鯛の煮つけ
08.新YOKOHAMA LADY BLUES〜新・横浜レディ・ブルース〜」(原曲「OSAKA LADY BLUES」)
09.エロスで殺して(ROCK ON)
10.さすらいのRIDER
11.月光の聖者達(ミスター・ムーンライト)
12.どん底のブルース
13.東京
14.鬼灯(ほおずき)
15.遠い街角(The wanderin' street)
16.SMILE~晴れ渡る空のように~
17.Soulコブラツイスト~魂の悶絶
18.Yin Yang(イヤン)
19.大河の一滴
20.スキップ・ビート(SKIPPED BEAT)
21.悲しい気持ち(JUST A MAN IN LOVE)

ENCORE

EN1.明日へのマーチ
EN2.悲しきプロボウラー
EN3.愛の奇跡/ヒデとロザンナ
EN4.波乗りジョニー
EN5.祭りのあと

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