「生きている意味を見失う」シンガーソングライター近石涼にとって歌うこととは
近石涼
神戸在住のシンガーソングライターの近石涼が12月8日、アルバム『Chameleon』をリリース。近石涼は14年に「閃光ライオット」のコピバンステージに出演。初めて作った楽曲「シンガー」がオーディション「COMIN’KOBE2016」でグランプリ、アカペラバンド「sus4」の リードボーカルとして「第7回 A cappella Spirits!」の決勝進出 。昨年は関西最大級の音楽コンテスト「eo Music Try 19/20」で準グランプリを受賞するなど注目を集めているシンガーだ。今年6月には弾き語りフルアルバム「ハオルシアの窓」 をリリースし、8月にライブハウスで活動するシンガーの苦悩や葛藤を歌った「ライブハウスブレイバー」を配信リリースするなど精力的に活動。そして、多彩な表現力を堪能できるニューアルバム『Chameleon』が完成した。MusicVoiceではメールインタビューを実施し、近石涼の音楽への想いに迫った。【村上順一】
溜め込んできたものを存分に詰め込んだ『Chameleon』
――2021年を振り返ると、例年に比べてどんな1年でしたか。その中で印象的だった出来事など教えてください。
今まで自分1人で音楽活動をしていたんですが、今年に入って東京で制作活動をするようになり、初めて色んな人の力を借りて曲を制作する、アルバム1枚に費やした1年でした。一番最初のレコーディングがライブハウスブレイバーという曲だったのですが、初対面のミュージシャンと別の部屋で同時で演奏して、ほとんど1テイク目が音源になりました。誰かと音楽をやれていること、大きなスタジオ、同時録りの緊張感など・・・楽曲もライブハウスで1人でやってきた苦悩を歌った曲なのですが、それが広がる感覚、あの瞬間は忘れられないと思いました。
――近石さんが音楽制作に興味をもった瞬間、きっかけはどんなものでしたか。
BUMP OF CHIKENの曲を聞いて、バンドサウンドに出会って曲に感動して、弾き語りでカバーをしていました。最初はカバーを褒めてもらえて嬉しかったんですけど、途中で違和感を覚えるようになりました。人の曲ではなく自分の曲で誰かを感動させたいと思うようになって、オリジナル曲を作り出すようになりました。
――アルバムが完成しましたが、ご自身の中でどんな一枚に仕上がったと思いますか。
16歳の頃から歌い始めて20歳くらいからオリジナルを作り始めた中で、今までの自分の溜め込んできたものを存分に詰め込んだベストアルバムになったと思います。
――リリースされるレーベルが「lemon syrup」なのですが、このレーベル名に込められた想いはどんなものですか。
レーベル名は、好きなアルバムに入っていた一節です。高校の頃授業中ぼーっとしながら頭の中に曲が流れていました。授業が頭にはいってこないんですけど(笑)。その頃聞いていた衝動がこの言葉を聞くと思い出しますし、自分の原点を感じるのでレーベル名にしました。
――タイトルは『Chameleon』ですが、この言葉にたどり着いた経緯は?
アルバムタイトルを先に決めずに、まずは曲を作りました。収録したい曲が揃ってきた中でそれをどうまとめたらいいか考えた時に思いついたタイトルです。曲に色々なものを詰め込んだので、変幻自在に捉えられると思いました。カメレオンの生態を調べると案外繊細な生き物で、器用なようで不器用なところもあり、そういうところがリンクするなと思いました。
僕は大学生活で7個サークルに入っていたのですが、アカペラでは人気者のように扱ってもらったのですが、サッカーサークルだと輪の外側にいるような感じでした。みんなそうだと思いますが、自分が関わるコミュニティによって自分の顔などが変わったりすると思います。いろんなところでいろんな顔をしながら生き抜いていて。自分自身それを肯定したいと思いました。
――今作に収録されている曲で、悩んだところ、特に大変だった曲はありますか。
アルバムに何曲いれるかは悩みました。「ライブハウスブレイバー」の前に配信シングルを3曲リリースしていていたので、それらをいれるかどうかなど考えましたが、色んな思いがあってこの8曲になりました。
曲作りの上では「ノスタルジークラムジー」と「兄弟 II」は結構時間がかかりました。なかなか思い浮かばなくて近所を散歩したり、漫画を読んで作者のインタビューを読んだりして、自分の人生と照らし合わせてかきました。その2曲がアルバムのテーマに結びついているような気がしています。苦しむべきして苦しんだ、苦しんだからこそ歌える曲だと今振り返るとそう思います。
――今作はどんなところにこだわって制作されましたか。
アレンジャーさんと一緒に意見をすり合わせながら作業するのが初めてだったので、最初は戸惑いもありましたが、頼んでみて初めて自分でたどり着けないところに曲が完成したのを感じました。自分の頭の中にあるものが100%だとしたらそれを超えるのは誰かの力だと思いました。今回のアルバムはどの曲も自分の想像を超えてきていると感じています。自分とアレンジャーさんで意見交換を何度もして、丁寧にすり合わせて作っていき、今まで作れなかった形になりました。
――今回、「room 501」と「ノスタルジークラムジー」が収録されています。それぞれどんな情景、想いを描いた曲になりましたか。この2曲の制作背景などお聞かせください。
「ノスタルジークラムジー」に関しては、『おやすみプンプン』という浅野いにおさんの漫画がきっかけで照らし合わせて書きました。普段ギターで曲を作ることが多いのですが、今回ピアノで曲を作りました。だんだん慣れてきて、いいバランスやコードに対してひねくれた音だったり引っかかる心地いい気持ち悪さをすごく狙いました。今までアカペラで学んできた音楽を一番取り入れることができた楽曲だと思います。
「room 501」はもともと自主制作盤、ハオルシアの窓のボーナストラックでした。おまけとして作ったので、今回アルバムに入れるのは自分でも意外でしたが、納得いく曲ができたと思っています。誰かといる部屋のストーリーを歌っているのですが、どういう部屋などはみなさんで想像してもらえたらと思います。
当初のアレンジはDTMで打ち込んだLO-HiHIPHOP的な感じだったのですが、今回違うベクトルでガラッと変えています。この曲がアルバムの中で1番思い切っていると思います。今ワンマンにむけてリハーサルしているのですが、グルーブがどんどん変わり、倍のテンポになり疾走していく感じが心地よく、歌っていてとても楽しいです。是非ライブで聞いてもらいたい1曲です。
――歌詞を綴るにあたって、近石さんが大切にしているところはどこでしょうか。
綺麗なことを綺麗なままで歌いたくなくて、少しひねくれてしまうところがあると思います。基本的に自分の音楽を通して誰かがプラスになったり、曲から何かを受け取ってもらいたいという気持ちで書いているので、自ずと具体的に人とか物とか浮かぶ事が多いです。誰かに向けて歌っている、歌いたい人が顔が浮かぶというか。心掛けているというより作ろうとするとそうなることが多いです。
近石涼が追求したいこととは?
――近石さんはソロシンガーとして活動されていますが、バンドにも並々ならぬ想いがあるとお聞きしました。近石さんが思うバンドの魅力と、その中でソロシンガーとして活動することを選んだお考えをお聞かせ下さい。
バンドに憧れてギターを持ち始めましたし、高校時代には少しバンド演奏もしたりしていました。シンガーソングライターも、曲を作ってそれを自分の演奏にのせて歌うという作業は、バンドの人と変わらないと思いますし、そこに憧れていた気がします。セッションからの曲作りや、バンドならではの空気感、サポートでは出せないバンドのグルーブがあるので、そういうのを見ると僕もバンドをしたいなと思います。
僕もアカペラサークルではバンド単位での活動でした。卒業までという期限があり、その中でもうまくいかないバンドもあったので、何年も同じメンバーで続けることの大変さは見てきました。シンガーソングライターは1人だから解散はないよな、とか(笑)、そこは気楽な部分だなと思います。
ずっと弾き語りで活動していたので、ギター1本でどれだけ伝えられるかという部分では自分の持っている力だと思っていますし、バンド活動していたら培われなかった部分だと思います。仲間がいたらバンドをやっていただろうけど、今はサポートの方と一緒にバンドセットで演奏できていて楽しいです。
――現在、近石さんが追及されていることはありますか。
永遠のテーマでもあるのですが、今音楽が溢れている状況で、リスナーは数秒で次の曲にスキップできますよね。なので数秒でいいと思ってもらえる、短い尺で心をつかめるようなメロディや歌詞をもっと突き詰めたいと思っています。
――近石さんがコラボしてみたいアーティストはいますか。
友達でもあるのですが、ナギーレーンさんやウルトラ寿司ファイヤーさんたちとはコラボさせてもらいたいなと思っています。すごくいい曲を書く小林未来さんや、昔ご一緒したこともある門脇更紗さんなども、いつかご縁があればと思います。
――ご自身にとって音楽、歌うこととはどんな意味を持っていますか。
最初は歌が好きで歌っていたのですが、自分の歌で誰かが救われたという声をもらうようになり、自分の中でこれで生きていけないと意味がないなと思い出しました。
今の自分から歌をとりあげられたら、生きている意味を見失うくらい自分にとって全て捧げているようなものです。
――2022年1月22日にワンマンライブを控えていますが、どんなライブにしたいと考えていますか。
昔からお世話になっているところで初めてワンマンができるので、今まで関わった人たちへ自分が成長した姿を見せて恩返しがしたいです。そこから大阪や東京でもライブができればと思いますし、もっと活躍して、大切なタイミングで神戸に戻って迎え入れてもらえるように活躍ができればと思っています。
(おわり)