女優の中井友望(21)が映画『かそけきサンカヨウ』、『シノノメ色の週末』に出演する。講談社主催の『ミスiD 2019』でグランプリを受賞し、翌々年放送の日本テレビ系ドラマ『やめるときも、すこやかなるときも』で女優デビュー、今年は話題の映画への出演が続く。どこか柔らかい独特の空気感を持った彼女はいかにしてこの道に進んだのか。これまでの軌跡を振り返りつつ、「この時の感情を忘れたくない」と特別な体験となった本2作品への思いを聞いた。【取材・撮影=木村武雄】
「女優・中井友望」誕生まで
「今はとても充実しています。なかには思うようにいかない事や、しんどい事もありますけど、好きな事をやれているから頑張れています」
晴れやかな表情でそう語った。
もともと思ったことをうまく言葉にできるタイプではない。高校時代には不登校にもなった。「当時は学校が嫌いで、毎日嫌いな事に立ち向かうみたいな感じでした」
しかし、ある映画が彼女の運命を変えた。染谷将太と二階堂ふみがW主演した『ヒミズ』。震災後の宮城を舞台に、絶望に暮れる主人公とそれを支えてようとする中学生の物語。そこには喜怒哀楽が詰まっていた。
「それまで私が知らなかった感情の全てがそこにはありました。衝撃的でした」
「私も感情を吐き出したい」と女優を目指すことを決意する。自ら『ミスiD 2019』にエントリーし、そしてグランプリを獲得。その後、念願の女優デビューを果たし、2020年には『夜だけがともだち』で初舞台も踏んだ。
その舞台で、殻を破る経験をした。「一つのことにみんなで取り組んでいく日々の稽古を重ねての公演が初めての経験であり、新鮮でした」
高校時代、人目を避けていた彼女はいま、作品を通して出会う人の輪のなかで活き活きとしている。
「幸せです」
そんな彼女が『かそけきサンカヨウ』と『シノノメ色の週末』に立て続けに出演する。どれもいまの彼女の役者としての全てが詰まった大切な作品だ。
「新たな自分を発見できた気がしました。この時の感情は決して忘れたくない」
表情に表れない秘めた感情は人を惹きつける要素でもある。そうした感情の一つ一つは「役者・中井友望」の糧になっていく。
ここからはそれぞれの作品を中心に一問一答で届ける。
殻を破った舞台、話すことも「楽しく」
――一つの作品毎に向き合うにあたって不安は?
めちゃくちゃあります。でもそれがいいプレッシャーになっています。
―――初舞台で自分の殻が破けたと。
1回で終わるものを突き詰めていく毎日を送っていると、目に見えて成長が実感できて、自分でも想像できなかった自分になれていました。舞台には「お芝居が楽しい」と思う瞬間がすごくあって、この体験を映画やドラマの撮影にも活かしたいと思いました。
――苦手だった感情を言葉にする体験を舞台で味わえたというのも大きい?
大きいです。今もそんなに話すのは上手くないですし、インタビューとかでもなかなか言葉が出てこないときもありますが、以前よりも頑張って話せるようになってきたと思います。
――昔は苦痛だったけど、今は前向きになれていると。
前向きですし、ちゃんと話が出来きてくると「楽しい」と思うようにもなってきました!
――『ヒミズ』が好きなのは、感情を吐き出しているシーンが多いからですか。
そうです。私が知らない感情ばかりでしたので、こんなことが出来たらいいなと思いました。
――その時の現体験を胸に、今も仕事に向き合っているんですね。
はい! そうです。
数分にキャラクターの背景を表現/かそけきサンカヨウ
◆『かそけきサンカヨウ』(今泉力哉監督) 家庭環境によって早く大人にならざるを得なかった高校生・陽(志田彩良)の葛藤と成長を、同級生・陸(鈴鹿央士)との“恋まではたどり着かないような淡い恋愛感情”を交えて描く。中井は陽と陸の同級生・沙樹を演じる。
――沙樹というキャラクターをどう捉え、どう表現しようと思いましたか。
原作には沙樹はあまり登場しないのですが、脚本には、主人公二人の割と大切な位置にいるなと思って。そこを脚本でどう読み取って感じて演じるかというのをすごく考えました。沙樹は真面目で優しくて強い子で、仲の良い5人の中で、一番大人なお姉さん的存在だと思っています。でも、ちょっとお世話を焼いたりするけど、それを苦じゃなく好きでやっているすごく優しい子なんだと捉えて演じました。
――今泉監督に言われたことはありますか。
今泉監督から要求を受けたというよりは、私に合わせて監督も演出して下さって、どうやったらやり易いかとか、「この言葉って言いにくい?」と私に寄せて考えて下さいました。
――現場に入る前に楽しみにしていたことはありますか。
今まで、ドキュメンタリーの映画はあったんですけど、ちゃんと役名がある(映画)作品は今回が初めてでした。なので、映画の現場ってどんな感じなんだろうとか、不安と楽しみ、そして緊張など色々ありました。でも今泉さんが持っている空気感や、他の皆さんが持っている雰囲気や空気感がすごく温かくて、撮影以外の場所でも居やすかったです。無理せずいられたというか。
――その空気感もあって、同級性の間柄も自然と作ることができたと。
そうです。終始ずっと優しい気持ちになれていました。現場も物語自体もそうですし、陽と陸、そして沙樹はちょっと三角関係みたいな位置にあると思うんですけど、全くドロドロしていないというか、純粋で真っすぐにお互いの事を想っているのはすごいなと思いました。私自身、発見でした。
――沙樹の背景はあまり描かれていませんが、陸が沙樹の家に見舞いに訪れる数分のシーンにそのすべてが詰め込まれていたような。中井さんの表情や声、仕草がその人物の背景を映し出していました。
それが伝わって嬉しいです。陸が来てくれたという嬉しさが沙樹にはあって、それは仕草や表情で出した方がいいと思いましたが、沙樹としては「その気持ちを出さないぞ」という思いもあったと思うので、出し過ぎないように意識しました。
――「色んなものを持っているけど、私は持っていない」というセリフにも象徴されていますが、あそこで表情とセリフが相まって沙樹は自分自身に卑屈になってると感じました。
私もあのセリフは好きです。沙樹が一番感情的になった、陸にちゃんとぶつかったシーンだと思います。
――もしかしたら、陸に甘えていたのかもしれないですね。
何か言って欲しかったのかなと思います。
この感情を忘れたくない/シノノメ色の週末
◆『シノノメ色の週末』(穐山茉由監督) 穐山監督オリジナル脚本。女子高を卒業して10年、夢みていた未来とは違う毎日に落ち込んだりもするシノノメ女子元放送クラブの3人(桜井玲香、岡崎紗絵、三戸なつめ)。廃校が決まった母校で再会し、10年前に埋めたタイムカプセルを探すために週末に集まるが、やがて切ないリアルが忍び寄る。篠の目女子高校最後の学生・杉野あすかを演じる。
――3人を女子高時代に感情を引き寄せる役割を持っていると思いますが、どういう気持ちで臨みましたか。
もう初めから楽しかったです。主演の桜井さん、岡崎さん、三戸さんが最初からお姉ちゃんのように仲良くして下さって、監督も女性の方で、本当に女子高に紛れ込んだみたいな気持ちでスッと馴染めました。私が演じるあすかというキャラクターは異物感があった方が面白いと思いました。特別意識したわけではないけど、もともと持っている私のキャラクターが活かせた役なのかなと思います。
――両作品とも主人公の感情を引き出す役割があったと思いますが、特に『シノノメ色の週末』に関してはその要素が強いです。中井さんの何かをもっていそうな雰囲気が良い効果になっていますね。
それまではそれが強みだと思えなかったんですけど、この作品、そしてこのキャラクターを通して、強みと思ってもいいかもしれないと思えてきました。
――もしかしたらこの作品で、役者としての自分らしさが掴めたような感覚?
掴めたというより、私から見るとほとんど私だったんです。普段の自分だと思いました。それに合うキャラクターと出会えたのがすごく嬉しかったです。少し自信が持てたかもしれないです。
――それとあすかの登場シーンがすごく大事だと思いますが、何か意識しましたか。
穐山監督はそのシーンの撮り方にこだわりを持っていました。ホラーではないんですけど、衣装も含め幽霊っぽいシルエットにこだわっていて、声のトーンもちょっと意識しました。実際完成したものを試写で見てめっちゃいいなって思いました。
――今回2作品に携わって、この経験というのは自分にとってどういうものになりそうですか。
試写の時に、スクリーンに映っている自分を見てすごく感動して、初めて「映画に出たい」と思った時の気持ちを忘れたくないと思いました。
――欲がもっと出てきた?
出てきました。その時その時で自分がやれることをやっていきたいと思いっていますが、作品を見て「自分はまだまだな」と毎回思うので、そのギャップを少しずつ狭めていきたいと思います。満足したらこれで終わりだと思うので努力し続けたいです。
(おわり)
スタイリスト:中村美保
ヘアメイク:住本彩
▽衣装
トップス
ottod'Ame/STOCKMAN(オットダム/ストックマン)
03-3796-6851
スカート
アンアナザーアンジェラス
03-5843-0395
靴
NO NAME/STOCKMAN(ノーネーム/ストックマン)
03-5426-2251