あれくん「大事にしているのは直感」自然体で作り上げた「呼吸」
INTERVIEW

あれくん

「大事にしているのは直感」自然体で作り上げた「呼吸」


記者:村上順一

撮影:

掲載:21年09月29日

読了時間:約10分

 TikTokでは初代バズアーティストとして君臨するあれくんが9月29日、フルアルバム『呼吸』でメジャーデビュー。2020年8月に「Seafloor」でメジャーデビューした涼真と岩村美咲とのバンド夜韻-Yoin-のメンバーとしても活動するあれくんは、これまで「好きにさせた癖に」や「ばーか。」が、YouTubeやSNSで話題となりストリーミングヒット。今回リリースされた記念すべきソロデビューアルバム『呼吸』は、恋愛する女の子の切ない気持ちを代弁する歌詞と、優しく包み込むような癒しのサウンドで構成された計10曲を収録。アルバムとしての流れも意識した一枚に仕上がった。インタビューではあれくんの音楽ルーツを紐解いていきながら、『呼吸』の制作背景、楽曲に込められた想いなど多岐に亘り話を聞いた。【取材=村上順一】

僕の音楽の根底にあるもの

『呼吸』ジャケ写

――TikTokに投稿し始めたきっかけは?

 音楽をやっている友達に「オリジナル曲を投稿してみたら?」と勧められてという感じでした。それでアップしたらバズりまして。

――それ以前までの音楽活動はどのような感じだったのでしょうか。

 サラリーマンをやりながら夜にツイキャスで配信をしたりしていました。なかなか一人でやっているとリスナーさんが増えないので、閲覧数の多い方の“歌凸待ち”みたいなのに積極的にいったりして自分のよさを伝えていくという活動をしていました。

――音楽のルーツは?

 中学生の時はJAM Projectなどを聴いていたんですけど、音楽に興味が出てきたのは洋楽を聴き始めてからです。高校の軽音楽部に入っていた頃は洋楽のパンクやメタルを聴いていて、メタリカやパンテラ、グリーン・デイやSUM 41などが好きでした。

――メタルとは意外でした。音を聴かせていただいてエド・シーランを感じる部分もあったんです。

 ギターの弾き方など、エド・シーランに影響されている部分が大きいなというのはあると思います。ライブに行くぐらい好きなんです。

――とはいえ、あれくんの奏でるアルペジオはメタリカのような哀愁を感じさせる部分もあるなと、いま思いました。「Enter Sandman」(メタリカの楽曲)とか。

 本当ですか(笑)。よく弾いていました。

――一般的なヘヴィなところではなく儚さ、切なさ、ノスタルジックな部分を継承しているのかもしれませんね。あと、アコースティックギターの音いいですよね。どこのギターを使っているんですか。

 これまではMatonのギターを使っていたのですが、今年買ったばかりのコール・クラークというブランドのギターで、今のメインです。煌びやかというか鳴りがよくて、洋楽っぽい感じ、ちょっと枯れた感じを意識しています。

――ところで、あれくんは夜韻-Yoin-というバンドもやっていますが、ソロとバンドのすみ分けはどう考えているのでしょうか。

 夜韻-Yoin-では表現をわりと複雑に、リアルよりも噛み砕いてファンタジックな要素を取り入れたりしています。比喩表現などを入れてちょっと考えないとわからないような世界観を作り上げていて。ソロのほうではリアルを描いたような歌詞で直感的なものを作っています。

――その中で本作のタイトルを『呼吸』にしたのは?

 直感的に歌詞とメロディが降りてくるタイミングがあって、それが息を吸うような、吐くような、そういう体現をしているのが呼吸だなと思ってそれをタイトルにしました。

――すると曲を作る時にあまり悩んだりしない?

 少しはありますがほとんどが直感的なんです。そもそも考えて曲を作るというのが凄く苦手で...。なので、降りてくるまでゲームして待っていたりとか(笑)。それを自然と捉えたら呼吸なのかなと思いました。

――さて、本作『呼吸』はどんなストーリー、コンセプトがありますか。

 全体的にはアコースティックの空気感を残しつつのアレンジ、個々の曲のイメージだと僕の軸である恋愛の曲があったり、今まで出していなかった社会に対して自分が思っていることをうまく混ぜたアルバムになりました。世の中に対して僕が思っていることを1曲目の「Light up」という曲で表現して、そこから恋愛に移り変わって、最後のほうで社会的なことに対して触れています。

――こういった構成になった意図は?

 なぜ恋愛をテーマにした曲を間に挟んだのかというと、恋愛は社会の中に挟まれたものだと思っていて。生きていくには仕事をしなければいけない、そのなかでうまく恋愛をしていくと感じていて。

――さて、最近はサブスクが主流になっていて単曲で聴かれる方も多いと思いますが、アルバムを作るにあたって意識されたことは?

 聴き捨てられる時代になってきてはいるじゃないですか? そのなかで単曲とアルバムの違いをうまく出して、始まりから終わりまでのコンセプトでひとつのものをというのがあるので、そこは全ての曲を聴き取って汲み取って完結させてもらいたいなというのがあります。

――最後の「Bye by me」は、ご自身のこれからの姿勢が感じられます。

 コンセプトとしてはディズニーっぽい楽曲を作りたくて、自分がひらけた空間に飛び出したいというメッセージがあります。これまでちょっと閉鎖的な空間にずっといたので、その部分から脱却してもっと広い世界が見たいなと。海外が好きなのもあって、そういう意味も込めて作りました。

――閉鎖的な空間とは?

 最近、夜韻-Yoin-を始めてからライブなどが増えてきたんですけど、それまでずっとネットをメインとした活動をしてました。だからその部分から脱却して色んなことに挑戦してみようと思ったんです。色々な経験を得て出来る曲があると思うのでその想いを書いた曲です。

――その根幹にあるものは?

 「世界に出たい」という想いが一番強いです。やはり規模感が全然違いますし、色々なところに向けて発信していきたいなと。

――そのなかで日本語をチョイスしているのはあえて?

 ゆくゆくは英詞の曲も歌いたいなと思っているんですけど、歌詞で勝負するというよりも、メロディに触れてもらいたいなと思っていて。例えば「ばーか。」は日本語の歌詞ですが外国の方にも反響がありました。それっておそらく歌詞よりもメロディや音の構成を気に入ってもらえたんじゃないかなと思っていて。

――通常盤のボーナストラックとして収録された「ありのままで」は、エンジニアさんとのやりとりも入っていますね(笑)。

 初回限定盤ではアコースティックのバージョンが聴けるんですけど、通常盤ではアレンジされたものしか聴けないので、弾き語りという僕の原点を知ってもらうために「ありのままで」を入れてみました。どちらの盤を買っても楽しめる状態にしたかったんです。

――「ありのままで」はいつ頃作られた曲なんですか。

 1年前くらいの曲です。今回レコーディングするにあたって後半のセクションに新しい言葉を加えたいと思って電車に乗りながら歌詞を書いてました。その部分にはメロディをつけていなかったので、実はその新しく加えた箇所のメロディは即興なんです。歌いながら「次のメロディをどうしようかな?」と考えながらやっていました(笑)。

――インプロヴァイズしたパートなんですね。

 なので、「いま歌って」と言われたら歌えないかも(笑)。僕の大事にしている直感的な部分がこの「ありのままで」には強く出ていて、そこはドキッとさせたいなという思いがありました。

――直感を大事にされているのですね。

 ずっと僕の音楽の根底にあるものです。

アルバムとしての流れを意識した

――本作でのこだわり、新しい試みとしては?

 テイストが異なる楽曲やアルバムを通してセクションをわけるために、4曲目に「君を知って」を入れたことです。3曲目に「ばーか。」、5曲目に「好きにさせた癖に」、6曲目に「ずるいよ、、、」となるですけど、「君を知って」はセクションをわけるためのアクセントとして収録しました。これは新しい試みでした。

――インタールードの役割をしている曲なんですね。

 はい。今回の「ばーか。」がEDM調になっていてそこからだんだんひろがっていって、そのなかで展開されていく物語的なものを耳で感じ取ってもらいたいなというのもあって。こだわりという点だと、「Light up」とか跳ねた明るい曲はこれまであまり書いたことがなくて、そういった意味ではそこをこだわって作っていたのかなと思います。ずっと恋愛の曲だけだと飽きてくると思うんです。飽きさせない工夫は自分なりに考えました。

――「ばーか。」は女性と男性を1番と2番で変えている歌詞だと思いますが、アイディアはどこから出てきたのでしょうか。

 1番ができた段階でかなりのボリュームがあったんですけど、男性部分の描写だけだと、ちょっとリアルさに欠けるなと思って。それを補うために女性の部分も加えたらリアルさが増すんじゃないかなと思い、こういう構成になりました。

――女性の気持ちを書くのは難しいと思うのですが、どこからヒントを得ているのでしょうか。

 今の時代SNSが盛んになって、スクロールするだけで色んな言葉が並んでいるじゃないですか? そのなかで目にしたかどうかはうろ覚えなんですけど、「携帯ばかりいじって全然相手にしてくれない」という言葉を見つけて。無意識に取り入れて昇華しているんだと思います。

――けっこうSNSは見ているんですね。

 わりと見ています。悩んでいる女の子のツイートとかをブックマークに入れたりします(笑)。

――ちなみに映画や漫画などからインスパイアされることは?

 本はほとんど読まなくて、映画はSF系の洋画しか観ないのでインスパイアされることはあまりないです。

――映画はどんな作品が好きですか。

 一番最近観た映画は『フリー・ガイ』で、現実ではあり得ないような壮大なものが好きです。

――さて、「月燈」というタイトルはどのように出てきたのでしょうか。

 これまで感じていた思いを綴った<憧れや才能も>という歌詞が後半に出てくるんですけど、自分の根底にある部分を書き出した曲です。僕は曲作りをする時やライブ配信をする時は間接照明だけ、淡い光を照らして作業することが多いんです。それは雰囲気を自分の中で作り出すためにやっていて。その淡い光が月燈のようだなというのと、僕はどちらかというと性格が明るいタイプではなく、自分から輝く太陽よりも照らされて光る月のようなタイプだと思っていて。でも、光っているのは一緒で、明るくないタイプの子でも光り続けているよ、という思いが込められた「月燈」という意味なんです。

「好きにさせた癖に」と「ずるいよ、、、」の関係性

――「ずるいよ、、、」の歌詞は出だしから<愛がないなら、重ねないでよ>とパンチがあっていいですよね。

 「好きにさせた癖に」がバズッたあとで、自分のなかでも次の曲どうしようかなと考えていた時でした。いつもお世話になっているレコーディングスタジオで休憩時間にギターを弾きながら口ずさんでいたら歌詞とメロディが一気に降りてきました。思いというのはきっと「好きにさせた癖に」に繋がる部分をたぶん自分のなかで作りたいと思っていたんだと思います。

――「好きにさせた癖に」があったから出来たというところもあるのですね。

 そうです。MVなども繋がりを持たせた部分もあって。「好きにさせた癖に」はさらっと書き出した曲になっているんですけど、そのなかの「ずるいよ、、、」はもっと中身を掘り下げた楽曲になったと思います。

――繋がりがあるということはMVも必見ですね。MV制作にはあれくんもリクエストを出したりも?

 リクエストさせて頂きました。「好きにさせた癖に」のMVはアニメーションなんですけど、それとリンクするように大熊花名実さんに演じてもらっています。細かいところだと、LINEっぽいのが出てくるんですけどそれも「好きにさせた癖に」と紐づけています。他にも「ずるいよ、、、」のMVの冒頭で曲が流れていないシーンがあるんですけど、そこは僕のなかで綿密に考えて、「女の子はこういう風に思っているんじゃないか」というのを描いたMVになっています。

――今後ライブも行われると思いますが、あれくんにとってのライブとはどんな意義を持っていますか。

 ライブに関して僕が思っているのは、音源で聴くというのは耳でしか聴けなかったり、何かをやりながら聴き流すということも多いと思うんです。音楽だけに集中してずっと聴いていることは今はあまりないと思っていて。ライブのよさは音楽に対して真摯に向き合える場所で、耳だけじゃなくて全身でも触れ合える、それがライブの醍醐味だと思っています。ライブで僕の音楽、世界観を全身で感じ取ってもらいたい、そういった場所なんです。

――最後にこれからの展望を教えてください。

 恋愛系の曲や「Light up」「Bye by me」のように、社会的な曲も作ったんですけど、今後はもっと洋楽チックなものも取り入れていきたいと思っています。より洋楽っぽい、より自分らしさを出した楽曲をこれからも出していきたいです!

(おわり)

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