CHEMISTRY、ソロシンガー、役者など様々な活動を行う堂珍嘉邦が、9月9日から東京の日生劇場を皮切りにスタートするミュージカル『ジャック・ザ・リッパー』にジャック役として出演する。『ジャック・ザ・リッパー』は19世紀末ロンドンに実在した、連続猟奇殺人鬼“切り裂きジャック”を題材にした作品。世界で最も有名な未解決事件として、21世紀に入った今も話題に度々上がる。
ミュージカル『ジャック・ザ・リッパー』この猟奇連続殺人事件をモチーフに、チェコ共和国で創作され、このミュージカルを原作に韓国独自のアレンジを施したミュージカル『ジャック・ザ・リッパー』は、2009年の初演以来多くの観客に愛される演目になった。インタビューでは、切り裂きジャック役を演じる堂珍に、この舞台の見どころやシンガーとして臨むステージと役者として臨むステージの意識について、様々な活動を行う堂珍の原動力になっていることなど話を聞いた。【取材=村上順一/撮影=冨田味我】
多角的に見ることで物語のロジックをより理解できる
――ジャックというヒール役を演じることが決まった時はどんな気持ちでしたか。
過去に出演させていただいた『劇場版 仮面ライダーエグゼイド トゥルー・エンディング』やミュージカル『アナスタシア』では、ヒール的存在をやらせていただくことがありました。その流れの中で今回、ジャック役のお話をいただけたので、自分も演じることが楽しみでした。ただ今までの役と違うところは、ジャックは殺人を犯す事への罪悪感を持たないヒールの頂点のような人物なので、振り切ったキャラクターにやりがいも感じていますし、今はジャックという役を全うしたいと思っています。
――堂珍さんはジャックを演じるにあたって、ご自身でどんな人物なのか調べたりされたのでしょうか。
『ジャック・ザ・リッパー』の映画は観ました。他にも僕のファンクラブ「Drunkboat」の配信動画企画の中で、ロンドンをリモートで旅行をするというものを行なったのですが、その中で切り裂きジャックのお話を伺ったり、民衆が処刑されていたという処刑台の跡地などを巡ったのですが、リモート映像でもロンドンの霧がかった雰囲気は伝わってきました。残酷さや非情さ、不平等なところ、男尊女卑もそうですけど、舞台のセットが出来上がった時にそのその雰囲気を活かして、表現できたりするんじゃないかなと思っていて、どんな自分を表現できるのかそれも楽しみの一つなんです。
――演出を務める白井晃さんからはジャックを演じるに当たってのリクエストはありましたか。
ジャックを演じるに当たって話していたことは、メフィストフェレス(16世紀ドイツのファウスト伝説やそれに材を取った文学作品に登場する悪魔)という悪魔がいるのですが、そのイメージがジャックにはあると白井さんは仰っています。それは誰の中にも悪の部分があるけど、最初からあるわけではなくて、夢や欲望を叶えたいとき、悪の部分を利用してしまうというもので。闇に落ちるということだと思うのですが、それは誰にでもあることで、そういった精神性もジャックという役を演じるに当たって大切なところだと感じました。このミュージカルはもともとチェコ共和国からスタートして、韓国を経由し、日本に入ってきたという経緯があります。なので、チェコの舞台の良いところを取り入れたいというのと、それだけではなく新しい舞台を僕らで作っていきましょう、というお話をしていました。
――今回、一緒に出演される加藤和樹さんはダブルキャストということで、ジャックも演じられるとのことですが、ジャックについてお話しされたりしました?
ジャックについての話も多少はしたと思うのですが、彼はアンダーソンも演じているので、舞台を作り上げるものとして助け合うじゃないですけど、お互いの良いところ、解釈の違いなどを支え合いながら日々切磋琢磨している感じがあります。
――今作の堂珍さんの見どころとしてはいかがですか。
良い意味で一度観ただけではわからないところもあると思いますね。どのような見方をしていただいても良いのですが、例えば誰をフィーチャーして見るかによっても作品の印象は変わりますし、観る人によって自然と目に行く役も違うと思うんです。演劇ファンの方というのは何度も足を運んでくださるんですけど、作品やキャストの良いところを観に行く、体感しに来てくださるので、それぞれの役どころの活きるところを観てもらうのも楽しいんじゃないかなと。多角的に観ていただければ物語の奥深いロジックをより理解できるんじゃないかと思います。
違う自分をクローズアップ
――何度も楽しめる要素があるんですね。堂珍さんはシンガーとしての活動をメインとするなかで、役者としての活動も多くやられていますが、シンガーとしてのステージと役者として舞台に立つ時の意識の違い、チャンネルが変わるといった感覚はありますか。
あまり変わらないんです。それはまず伝える内容が違うというところが大きいです。自分のフィールドだと自分で気づいて反省して修正していかなければいけないのですが、演劇というのは相手との絡みがあって、自分が思うようにやればいいわけではないんですよね。音楽でも緩急はあってその要素はあるんですけど、その度合いが違うと感じていて。舞台はカンパニーとして、より一つにならないと成立しないと思っています。
音楽はストーリーの中で、ある部分だけを切り取ってそれを膨らまして曲にしている感覚があります。演劇ではある部分を切り取るのでなく、例えば生まれてから死ぬまでを描いたものもあって、大きなバックボーンがあればある程、役者として雰囲気や説得力が滲み出てくると思います。音楽のステージでは見えないような伝え方だったり、歌手と役者では違うところは沢山あるのですが、チャンネルを変えるというよりは、違う自分をクローズアップする、そうしたときに「どこまで出来るのか?」というのがあって、それは音楽も舞台も同じだと思っています。それが僕の中では舞台の方がよりシビアだなと感じるところがあって。でも、その中に自分を置く事で成長にも繋がると思っています。
――演劇は緊張しますか。
もちろん緊張しますね。頭で理解していても身体がわかっていないと、伝わる表現が出来ない時もあると感じていて。やっぱり身体に染み込ませないと自然に表現が出来ないので、演劇というものにすごくやりがいを感じています。
――ところで、堂珍さんがモチベーションを上げるためによく聴いている音楽は?
サブスクを僕は利用することが多くて色んな音楽を聴いているんですけど、昨日はイエス(英・ロックバンド)とゴダイゴを聴いてました。特にこれとジャンルを決めているわけではなくて、その日の気分で曲を選ぶことが多いです。例えば夏だったら敢えて気怠い雰囲気のラップ系を聴いたりしますから。音楽というのは気分を上げてくれたり、気持ちを代弁してくれるものだったりするので、その時のシチュエーションに合わせて素早く聴けるサブスクはすごく便利だなと感じています。
――シチュエーションに合わせて色んな音楽が容易に手に入るサブスクは魅力的ですよね。さて、様々な活動をされている堂珍さんですが、活動の原動力はどこにありますか。
CHEMISTRYとしてデビューして20年を走ってみて、その中で沢山学んだことはありました。これからもいろんな事を勉強、体感していくと思うんです。人生色々ある中で生きているというだけでも幸せな事だと感じています。
やりたくても出来ない人もいますし、自分もやりたくてもやれないこともありますが、うっすら見えているものから、ハッキリと見えているものまで、それに向かっていくことが一番活動しているという実感がありますし、ステージの上に立つことが純粋に好きなので、それが色んなことに挑戦できる原動力になっているのかもしれないですね。
(おわり)