元サッカー日本女子代表でタレントの丸山桂里奈が、NBAのレブロン・ジェームズ選手が主演する映画『スペース・プレイヤーズ』(8月27日公開)の日本語吹き替え版で声優に初挑戦した。声を吹き込んだのは、レブロンたちと敵対するAIが作り出した最強デジタルチーム「グーンスクワッド」のメンバーで蜘蛛(クモ)の能力が備わったアラクネカ。丸山ほか中澤佑二や村上佳菜子、田中直樹(ココリコ)、野田クリスタル(マヂカルラブリー)も参加している。アフレコは夢だったと語る丸山は役作りのため自身が蜘蛛になった気分で生活を送っていたという入れ込みようだ。どのような思いで臨んだのか。【取材・撮影=木村武雄】
役作りのため蜘蛛に
――声優が決まってから蜘蛛になり切って生活を送っていたそうですね。
そうです。なるべく低めに歩いたり、道も真中ではなく壁際を歩いていました。声での出演が決まった時から蜘蛛になると決めていたので、少しでも蜘蛛の気持ちに近づきたいと思いました。
――でもアラクネカは人間と同じ大きさで…。
そうなんですよ。普通の蜘蛛なら人間はすごく大きいけど、アラクネカは人間と同じ目線の高さなので、同じ大きさならこういう声かなって意識しました。対戦する相手はワーナーのキャラクター。普段と同じようにレブロンやバッグス・バニーにも差し入れのお菓子をあげたいと思いました。
――蜘蛛になり切って分かったことは?
蜘蛛もいろいろとあって大変だなって。それと、アラクネカは映画ではレブロンと敵対するキャラクターですが、「グーンスクワッド」の目線で見た時はチームワークも良いですし、根からの悪い者ではなく本当は良い心を持ったキャラクターなんだろうと思いました。
――普段から相手の立場を考えることを大切にされている?
そうですね。自分の事は自分なので、ある程度はなんとかなると思うんですけど、相手は言ってみたら他人。他人だけど同じ世界に生きているから相手をリスペクトする気持ちやどういうことを考えているのかは考えています。どんな立場であれ、相手を考えることは大事にしています。
――声というところではどういうことを意識されましたか。
アラクネカは蜘蛛で黒っぽかったので、きゃぴきゃぴした感じではなく、少しトーンを下げたダークな感じを意識しました。
――普段の丸山さんの声とは違う印象ですね。
それはやっぱり蜘蛛がそうさせているから。蜘蛛じゃなかったら違うかもしれないですし、自分で言うのもおこがましいですが、蜘蛛とすごく合っていたなって思います。
アラクネカが扉を開けた
――今回の経験をきっかけに役者をやってみたいとか?
アフレコをやりたいというのが夢だったので一つ叶って嬉しいです。これをきっかけにアフレコもまたやれたらいいなって思いますし、ドラマや映画の演技の仕事もやってみたいです。いろいろと刑事ドラマを見ていますし。今回、アフレコがすごく楽しかったんですよ。一緒にやってくれた監督が優しくて。監督は私だけじゃなくて、ほかの人たちの声も見ていて、「グーンスクワッド」のメンバーは声優初挑戦で、うまくいかないこともあったと思うんですよ。それなのに全然イライラしなくて。絶対イラつくじゃないですか。私はアフレコが初めてだから全然わからなくて一から教えてくれるんです。それを佳菜子ちゃんも中澤さんも初めてで、初めての人に教えるって毎回毎回やったら疲れると思うんですよ。なのに疲れを見せずによくあれだけ笑っていたなって思うぐらい笑ってて。初めてのことって怒られたらどうしようと思うじゃないですか。でもそういうのが全然なくて、自分の声を引き出してくれたイメージです。いい人たちでした。だからこそもう1回やりたい。まさかこの作品のアフレコができるとは思ってもいなかったので、しかももう1回やりたいと思わせてくれたのは本当にありがたいです。
――役作りのために蜘蛛の気持ちになることも含めて、もしかしたら役に憑依するタイプじゃないのかとも思いますが、やってみたい役はありますか。やっぱり刑事役?
もし刑事ものだったら、コーヒーとパンを食べるのが定番じゃないですか。なのでそれを売っている人やパンを作っている人とか。パンにはなれないから。あとはアスファルトの役とか。誰もやっていない役をやりたいです。
――物なんですね。アスファルトでしたら人に踏まれ車に轢かれますけど…。
確かに…。でも絶対アスファルトは物語に出てくるじゃないですか、どこにでもいるみたいに。
――全編通して出たいってことですか?
そうではないんですけど(笑)でも人がやっていない役をやりたい。
――狂気じみた役とかやったらすごいじゃないかって思います。
え! やってみたい! そういう機会があればやりたいですし、今回やったアラクネカは私の基礎になる気がします。
――アラクネカが扉を開けた?
本当そうです。開けてくれました。足もたくさんあるし。8本ですよ!
――丸山さんと同じ試写会で見ていたんですよ。終わった後に拍手されて。
映画の世界に入っていたんですよ。本当なら自分がやったシーンはしっかりと見るべきだったんですけど、映画に入りすぎて、終わった後にようやく「自分も参加していたんだ!」というふうになって。「うわ!すごい!」って感動して泣いていました。ワーナーのキャラクターが大好きなので私の分身がこんなに囲まれて、こんな愛や絆があって人間の世界に戻りたくないなって思ったぐらいです。だから素晴らしいなって思って拍手して。
――人間に戻った時は?
あ、これが現実なんだなって。あの世界にいたかったなって。
――映画やアニメは違う世界に連れて行ってくれるような?
そうです。それとやっぱり夢だったアフレコで、自分の分身がスクリーンのなかで生きている感覚になるので、より思い入れは強かったです。
澤穂希の叱責がいまに
――なかでも印象的なシーンは?
レブロンのチームが、私たちのチームに勝てなくて、チームメイトに「俺の言うことを聞け」と言うんです。でもそうやっても勝てなくてロッカールームに行ったときに「みんな自分らしくプレイしてくれ」とレブロンが考えを変えたシーンが印象に残っています。この映画のなかでもそうですが、人生においても大事だと思っていて「人と比べるよりも自分は自分、だからと勇気を」というメッセージが伝わってきて、勇気がもらえるシーンだと思います。
――逆に丸山さんの自分らしさは?
それは自分ではわからないです。
――今のタレントとしての活動はありのままに近い?
ありのままです。サッカー時代は、OLもしていたので疲れていたんです。サッカーはもちろんやっていましたけど、やったことがない仕事をかけ持っていたので気持ち的にも落ちていて。でも今は本当に仕事が楽しくて、だからこそ自分が自分らしくいられていると思うし、周りの人たちがいて、助けて下さる、サポートして下さる方がいるから自分が自分らしくいられるのかなって思います。
――この映画では数々の名シーンがありますが、ご自身の人生のなかでの名シーンは?
やっぱりワールドカップで優勝したときかな。表彰台に上がった時、バーンって打ちあがるじゃないですか。金銀のテープが。あんな近くにあんなもんが上がるんだって。音にもびっくりしたし、上に上がって落ちてくるものもいっぱい取りました。それが自分のなかでは見たことがない光景だったので名シーンでした。花火はすごい遠くで上がるのに、こんなにも近くで? みたいに。花火が上がったような音だったので。
――ドイツ戦でゴールを決めた瞬間が名シーンではないんですね。
ああ! 忘れてました(笑)。ゴールを決めたというのも自分のなかでは忘れられない体験ですが、みんなで体験したことで言うとあの瞬間でした。なおかつあの時、永里(優季)が結婚するって変なタイミングで発表して。だからみんな「え!うそでしょ。まじで!?」っていう驚いた顔になっていて。こんな結婚報告の仕方があるんだってそれも含めて名シーンでした(笑)。なでしこのなかでの名シーンはあそこだなって。
――そのなかであの時の経験が今に生かされているものはありますか?
やっぱり、北京オリンピックの時に澤(穂希)さんに怒られたことです。ドイツとの3位決定戦で、私はスーパーサブだったんですけど、準備をしないでそのまま出たらかっこいいと思ってウォーミングアップとかしなかったんですよ。
――「もっと走れ」と言われたあの事ですか。
そうです。やっぱりそれでもっとしっかり準備しないといけないと思いましたし、そこからいろいろなことを考えてやるようになりました。大人になると自分がだめなことしても怒ってくれる人がいないじゃないですか。その時に怒ってくれる人がいて良かったなって思いますし、それが今にも生きているというか、繋がっているなって。
――では今でも番組とか仕事の前に準備をして?
そうです。相手の気持ちになるとか。
――では今回の役作りにも生きている?
そう! 蜘蛛の気持ちになるとか。リスペクトをもってお仕事したいなって思います。
――澤さんの一言がなければ、今につながっていない。アラクネカの声色も生まれていなかったかもしれない?
「準備が大事」というのは繋がっていると思いますし、澤さんに限らず周りでそう言ってくれる人がいるので、よりその大切さが分かったという感じがします。
(おわり)
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