eill「直感を大事にしたい」自分色に咲き誇るためのアティテュード
INTERVIEW

eill

「直感を大事にしたい」自分色に咲き誇るためのアティテュード


記者:村上順一

撮影:

掲載:21年08月11日

読了時間:約10分

 シンガーソングライターのeill(エイル)が11日、3rdデジタルシングル「花のように」をリリース。eillは2018年6月にシングル「MAKUAKE」でデビューし、2021年4月に人気TVアニメ『東京リベンジャーズ』のエンディング主題歌「ここで息をして」でメジャーデビュー。SKY-HI、m-flo、さなり、PINKSWEAT$ 等、国内外のアーティストの楽曲に客演で参加、NEWS、テヨン (ex 少女時代)、EXID等に楽曲を提供するなど、ソングライターとしても評価が高い。2021年注目のアーティストとして注目を集めているeillに、「花のように」に込めた想い、アーティストとしてデビューしてからの変化や、未来の展望について話を聞いた。【取材=村上順一】

自分に負けるのが嫌い

「花のように」ジャケ写

――CDデビューから3年が経ちましたが、メジャーデビューから約4カ月、ご自身の環境の変化は?

 物作りに関しては今まで通り自分がやってきたものをメジャーのシーンでもできているなという感覚ですが、アニメのおかげで海外のファンの方が増えたりなど、そういう実感はあります。

――海外ファンのリアクションで印象的だったことは?

 TVアニメ『東京リベンジャーズ』のエンディング曲「ここで息をして」を外国の方がカバーしてくださっていたことです。凄く上手で驚きました。

――自身で歌の難易度はどれくらいだと思いますか。

 凄く難しいと思います。歌入れの時とか「ライブで歌えません」と、毎回言っている気がします(笑)。

――過去のインタビューで昔はあまり歌が得意ではなかったとのことですが、今の歌を聴くとそんなことを全く感じさせないのですが、それは本当ですか。

 小さい頃、カラオケに母と行った時に「この子は人前で歌わせちゃダメね」と言われたくらい下手でした。

――当時はどんな歌を歌っていたんですか。

 大塚愛さんの「さくらんぼ」や西野カナさんの曲を中心に歌っていました。自分の世代で流行っていた曲なんです。

――そこからK-POPや洋楽にも魅了されていって。今はご自身が思い描いていた理想像に近づけている実感はありますか。

 それが正直よくわからなくて…。歌を始めた時は自分の理想像というものが明確になかったんです。自分がなりたいものがなくて、ただ「歌いたい」という気持ちで歌を始めたので。それは今でも掴みきれていない、ずっと形のないものだと自分では思っています。

――ボイストレーニングに通うようになり、そのなかでたくさん怒られたとも聞きました。

 本当は週一回のレッスンだったのですが、先生から「毎日通いなさい」と言っていただけたので通っていましたが、なかなか個人練習をする時間がなくて。頑張って夜中も練習していましたが、「何で練習してこないの!」と、よく怒られていました。

――逆に褒められたことは?

 ほとんどなかったかもしれないです(笑)。乗り越えられない自分に負けたくなくて、ずっと泣いていたのを覚えています。

――幼少期から負けず嫌いな部分があった?

 他の人に負けたくない、という感じではなかったです。自分が目標としていたことを超えられなかったことに対して悔しくなる事が多くて。私は学生時代、陸上部だったんですけど大会で4位になれたこともあったんです。でも、自分がそこで実力を出し切れなかったことが悔しくて。自分に負けるのがとにかく嫌いなんです。

――順位とかは関係ないんですね。さて、eillさんの歌についてですが、歌を聴かせていただいて声自体にグルーヴがあると感じました。eillさんが歌で意識されていることは?

 ボイストレーニングで声に厚みを出せるように沢山練習をしています。少しずつ自分の声が変化していくことを凄く楽しんでいます。「こういうところがいいよね」「こういう風に歌えたらいいよね」とボイストレーナーの先生に言っていただいた事を全て受け止めて、自分の声をどんどんアップデートしていくような感覚です。

――ご自身でも変化を感じているのですね。

 最初は滑舌、口の開き方が悪いのか、音源に乗せても全然自分の言葉が入ってこなくて。頑張って書いた歌詞も歌うことで流れてしまう感じがありました。でも、最近は今まで以上に歌の練習もして、言葉が伝わるボーカルを凄く意識して歌っています。

――歌声の変化が最も現れたのはどの曲でしょうか。

 去年リリースした「片っぽ」という曲からボーカルのパートを1本に変えて、コーラスを積むのをやめました。その前まではハモを積んだりして歌録りが凄く楽しかったんですけど、メインボーカル1本だとごまかしがきかないので、1番から最後のサビまでしっかりと感情が伝わるようにしなければいけなくて。それは簡単なことではなかったんですけど、ボーカルの芯を出すことを意識して歌うようになりました。

バックバンドに負けない歌の存在感

――現在ツアー『eill Live Tour 2021 「ここで息をして」』を行っていますが、手応えはいかがですか。

 ツアー自体が久しぶりだったので、会場の大きさも2年前とは変わりましたし、お客さんの距離も違ってきました。生でダイレクトにお客さんの感情、表情、拍手などで伝わってくると「私の歌は一人歩きしていないんだな」と、一人ひとりに寄り添えているんだ、と凄く実感出来て嬉しかったし、楽しいです。

――ステージの見せ方にも変化はありましたか。

 変わったと思います。大きな課題は、バックバンドに負けないボーカルの存在感でした。以前はなかなか存在感を出せずに悩んでいました。以前よりも大きな会場になって、よりボーカルの声量が必要になってくるので、ライブができなかった1年間はそのトレーニングをしていました。

 観に来てくれた人の背中を少しでも押せるようなライブになればと願いながらやっています。コロナ禍になって、自分自身と向き合う時間も増えたと思いますし、そういう時にかけてあげたい言葉をちゃんと残せるライブにしようと意識していました。

――明確にライブ届けたいものがあるんですね。8月13日のZeppDiverCityでの追加公演ライブでも、ここまで培ってきたものとイメージをより濃く届けられるんじゃないかという自信も?

 そうですね。追加公演は少し演出も変わります。私はビヨンセなどディーバのライブに憧れていました。憧れていたライブに少しでも近づけるような演出ができるんじゃないかなと思っているので、私もすごく楽しみなんです。

――ライブで最も注目してもらいたいところは?

 追加公演ではダンスグループのGANMIさんと一緒にパフォーマンスします。私も「ここで息をして」のMVでダンスに挑戦しているんですけど、ライブでダンスを披露したことはまだないので、注目して頂けたらなと思います。

――楽しみですね。先ほど、お客さんに届けたいメッセージで、背中を押したいと話されていましたが、eillさんは音楽にどのように救われてきたのでしょうか。

 私が歌手を目指した時には、どんどん周りの人が夢や進路に向かっていくなかで「自分は何者なんだろう?」「自分はどんな意味があって生きているんだろう?」と、考えていた時期に音楽が凄く側にいてくれて。いつも私が悩んでいると救ってくれました。いつか私もそういう存在になりたい、と思って歌い始めて。

――「私は何者なんだろう?」ということに対しての答えは出ましたか。

 その時に歌を選んだことが始まりだったと思うので、今は音楽があるから私はここに存在している、“私になれる”みたいな答えが出ました。

一番強い一歩踏み出した瞬間とは

――11日にリリースされる新曲「花のように」はどんなイメージで書かれたのでしょうか。

 この曲は「自分色に咲き誇ろう」というテーマで書きました。生きていると自分の色だけが見えなくて「周りはあんなに綺麗に咲いているのに」「あんなに輝いているのに」とか思うことがあると思うんです。それは自分自身にも言えて、「昨日の自分はあんなに格好よかったのに今日の私は全然ダメだ」とか、そういう気持ちになった時に心の底から「私は私なんだから大丈夫だ」って、「たったひとつの私だからこのままでいいんだ」と思える楽曲になるといいなという気持ちで書きました。

――歌詞はどのような流れで書かれたのでしょうか。

 曲が先に出来ていて、自分のことをどういう風に例えようかと考えました。初めて自分の人生について書いたのが「SPOTLIGHT」という楽曲だったのですが、その時は「自分に光を当てるのは自分だ」というテーマで書いたんですけど、次はどういうので、何に喩えて書こうかと思った時に花があって「人の人生って花みたいだな」と思い、その時にパッと浮かんで「花のように」というテーマにしようと、歌詞を紡いでいきました。

――ちなみにeillさんはどんな花が好きですか。

 自分を花に喩えるならずっと「青の薔薇」と話していて。

――青の薔薇って珍しいですね。

 青の薔薇って存在できないんです。研究してやっと作れるようになった花なんですけど、花言葉も「存在できない花」なので、あまりいい意味での花言葉ではなかったんです。それが作れるようになってからは「夢が叶う」という意味に変わりました。私はいつも歌詞を書く時はマイナスの感情を歌詞にすることが多いので、マイナスをプラスに変えるような青の薔薇を大事にしています。

――今回歌詞を書くにあたり一番苦労した点や注目してほしいフレーズなどは?

 <守ってばっかじゃん>という歌詞です。その時自分は、今の状況の自分を守ることに必死で、変えていくことが怖かった時期に書いた曲で。でも守ってばかりじゃ何も生まれない、一歩踏み出さないと何も変えられないよねと、凄く自分に言い聞かせながら書きました。自分はできていないんだけど、できていない自分に問いかけるみたいな感じで書いたので、もしかしたらそういう感情になっている人がこの曲を聴いた時に「私もっと頑張る」と思ってくれたらいいなって。

――ちなみにeillさんが人生で一番強い一歩踏み出した瞬間は?

 「MAKUAKE」という曲をリリースした時です。もともと自分で曲は書いていなくて、作家さんが作ってくれた曲でデビューする予定でした。確かそれも「MAKUAKE」という楽曲だったと思います。でも、それが諸事情で出せなくなってしまって、泣きました。でも泣いている時間があるんだったら自分で曲を書いて、その曲でデビューすればいいと思って、曲を作ってリリースの三週間前くらいに納品して「私、この曲で絶対デビューしたいです」と話して。それが自分で初めて道を切り開けた瞬間でした。今まで韓国のオーディションとかも受けていたんですけど、なかなか通らなかったり色んなことがあったけど、自分の人生の扉を初めてそこで開けられた感覚がありました。

――そのなかで大切なのは?

 最近すごく思うのは、自分が最初に思ったことや信じたことは大事だなと。初心に戻った時に「これは好き、嫌い」という、その感覚値というのは自分を表現する一番早い手段だと思うので、それは大事にしていこうと思っています。結局、説明できるものが本当に自分がやりたいことだなと思うので、作られたものではなくて、自分が説明できるものをしっかり作っていきたいという感覚はあります。

凄くリアルな歌声を残せた

――レコーディングで新たな試みはありましたか。

 歌詞がレコーディング当日まで出来ていなくて、スタジオに入ってからも歌詞をずっと考えていました。歌を録りながら歌詞を書くというのは初めてでした。焦りと緊張でずっとアワアワしていました。目の前にあるマイクに感情を抑えることにとにかく必死でしたし、体から溢れ出てきた歌という感じでした。

――歌詞がなかなか決まらなかったのは何が原因で?

 パズルみたいな感覚があって、何か一個が欠けていて、それがハマった瞬間に「ああ出来た。この歌詞はこれでいい」と思えるんです。他の人が見たらたぶん「一緒じゃん」って思うところなんですけど、そこは自分のこだわりです。自分でも何が正解かはよくわからなくて不思議なんですけど、感覚的にハマったと思えるものがあって。

――その決め手となった言葉とは?

 1番のAメロの<散らかった部屋で何を守るの>など、今回はたくさんありました。この曲は「私は今のままではダメなんだ」と歌っている曲で、そういう気持ちになって歌えたので、凄くリアルな歌声を残せたと思います。レコーディングは大変でしたがこの歌が録れて本当に良かったと思いました。

――最後の方で<Tonight>という言葉が入っているのが印象的でした。

 このあとに、<ピンボケた朝に飲んだ苦いコーヒー 蕾はいつの日か花のように>という歌詞がくっついていて、Aメロの歌詞と一緒なんです。でも2行目だけが違って、それは朝がきて、<Tonight>で夜がきて、また次の日の朝がきて、同じような日の朝だとしても自分の心が違うだけで咲き誇れるよ、という意味を込めました。

――ところで、アレンジにeillさんはどれくらい関わっているんですか。

 バンドメンバーと一緒にスタジオに入って、みんなでああでもないこうでもないと、ディスカッションをしながらやっています。バンドみたいな感じでやるんですけど、毎回アレンジが終わってからみんなで話す事があって「どうやって作ったか今はもう再現できない」と。感情のままに一人一人が思ったことを発信しているので、一人でこれを作りたくても作れない。それが凄くeillらしさみたいなものを出していて、一人一人のパワーが反映されたアレンジの仕方なんです。

――最後にこれから先どんな姿をファンの方々に見せていきたいですか。

 自分の音楽を作ることだったり、色んな人の音楽に触れて私は救われているので、自分もいつか色んな人に勇気を与えられるような音楽を作ることができればなと思っています。自分がやりたいこと、直感を大事にして一つのことにとらわれずに、どんな色に染まっても私は私だという唯一無二の音楽をこれからも届けていけたらいいなと思っています。

(おわり) 

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