jan and naomiのnaomiのソロ名義naomi paris tokyoが14日、最新作EP『21FW』をリリース。本作はアパレルブランドの春夏シーズン・秋冬シーズンの発表に合わせて定期的に楽曲を発表していくという試みの第2弾。アンビエント、ノイズ、オルタナティブ、繊細なビート、希望も憂いも含まれた歌声。それらのアプローチは、今のnaomi paris tokyoの情念が無意識下にダイレクトに、穏やかに溶け込み、深く染み入ってくる感覚をおぼえるようだ。本作の話題を中心に、自身の音楽性の源流や、名義にも含まれる“tokyo”の今に対して想うこと、そして意欲的な展望について、幅広く語ってもらった。【取材=平吉賢治】
圧倒的な“何か”を感じるものとは
――普段はどんな音楽を聴いているのでしょうか。
ずっと音楽を作って向き合っているから習慣的に聴くことはあんまりないです。誰かが「これいいよ」と言っているのをちょっと聴いたりSNSでたまたま目にするものを聴くくらいで、能動的に誰かの新譜を聴くことは遥か昔からやっていないです。ただ、音の出し方などに関しては意識して聴きます。
レコーディングした音を整音するミックス作業時に他の人はどういう風に低音・高音を出しているのだろうとリファレンスとして聴くことはあります。
自分の基準値がわからなくなるというのもあって。キックとベースと上モノの音量バランスの自分のデフォルト値は、人とどれくらいずれているのか確認するために聴くことが多いです。
――音楽を聴く目的ありきなのですね。
コロナ禍前は頻繁にライブをやっていて、DJがいる所でやることが多かったので、そこで好きな曲が流れたら「これ、誰の曲ですか?」とインプットする機会がありました。
――naomi paris tokyoの音楽性は一言で言い表せないものがあると思うんです。アンビエント、ノイズ、オルタナティブの要素もありつつ、浮遊感と温かみがあり、リスナーを突き放す感じもなく、何かnaomi paris tokyoの音楽性を表すワードはないものかというくらいオリジナリティを感じるので、バックボーンを想像で探ると、もしかしたらオルタナティブ寄りのレディオヘッドなどもあるのかなと…。
レディオヘッドのアプローチもそうですが、2000年代のエレクトロニカ、HIP HOPやハードコア、ノイズ・アバンギャルドなどは影響を受けた音楽です。
――ノイズって不思議だと思います。人によってはただのノイズだけど、言い表しがたい魅力を感じますし。
そうですよね。見たり感じたりする時に圧倒的な何かを感じることが多かったです。ノイズに包まれた時は圧倒されちゃって面白いなと思います。
自身名義、楽曲名にも含まれる“tokyo”への想い
――先日公開された1st EP『21SS』収録の「Tokyo」のMVを拝見して、個人的にはライターの火を見つめるシーンが印象的でした。どんな心境を表しているのでしょう。
暗闇の中で明りを灯してぽつんと自分の顔が浮かぶという演出にしたかったということで、あの手法が一番よかったということです。ライトやロウソクでもなく凄く頼りない光で。ライターくらいの弱々しい炎の灯の中、自分が暗闇の部屋にいるという寂しい感じを演出するのでライターの光が丁度よかったんです。
――なるほど。ところでnaomi paris tokyoの名前の由来は?
naomiだけでは寂しいと感じて、ラストネームをつけようと思った時に、ファッションブランドっぽくて面白いなと思ってparisをつけて、さらにtokyoも加えたという感じです。
――今作のタイトルの由来は?
『21FW』は「2021年、Fall Winter(秋冬)」で、前作『21SS』は「2021年、Spring Summer(春夏)」です。
――すると続いていく?
そうです。何シーズンやれるかわからないですけど、『22SS』『22FW』、『23SS』『23FW』と、3年はこのシリーズをやりたいなと。ファッションブランドのようにコラボや違う音楽性のものを別ラインでもやりたいなと思っています。
――楽曲について、前作『21SS』の楽曲「Tokyo」の続編として「Tokyo pt2」が収録されています。これらの楽曲だけ歌詞が日本語なのはなぜでしょうか。
日本語の詞の曲を作りたいという気持ちはずっとあって、日本語が合いそうな曲ができたら日本語詞にしようと、特にnaomi paris tokyoとして作品を作ると決めた時に思っていました。
「Tokyo pt2」は「Tokyo」を作る時に別アレンジとして作っていて、それをアップデートして別曲になったのが「Tokyo」なんです。だから「Tokyo」が出来る前に「Tokyo pt2」はあって。もともと同じ曲だったというのもあるからこういった曲のタイトルにしたんです。この2曲だけ日本語の曲だけど、他にも日本語で新しく作ってる曲はあるし、今後も日本語の曲は作っていくつもりです。
――曲名にも名義にも“tokyo”のワードが入っているので、東京に対する想いをお伺いしたいです。
歌詞を書いたのがコロナ禍以降で、コロナ禍の初期は実質ロックダウンみたいな雰囲気だったじゃないですか? 自分自身、なるべく家にいるようにしていて、東京にいるけど東京にいない感じもしたりして、そうすると東京への想いが強くなったりして。哀愁っていうか、そこにいるのに東京と離れ離れになっちゃったなという感じ。東京、つまり社会・自分以外のもの、みたいな感じで東京を捉えていたんです。
――2020年からのコロナ禍の前後の東京の変化を描いた部分も?
そうです。ビフォー・アフターというか、最初は特に凄く寂しかったから
――ところで、音楽を生み出す原動力は?
音楽を作ることが根本的に好きで、原動力がなくても創りたい気持ちがあるんです。子供がプラモデルを作ることが好きだとしたらそういう感じだし、音楽を創るのが好きなんです。
だから好きで創り続けられる状態がキープできたらいいなと思っています。お題を出されて音楽を作ることも面白くて自分の引き出しにはなかったり、普段やらないアプローチでやって新しい自分を発見できるから、そういうことももっとやれたらと思っています。あと、展望という意味では、今作のシリーズをあと3年、4作は最低創りたいというのが一つの目標です。
(おわり)