『17歳の瞳に映る世界』劇中音楽が肝、使用楽曲を紹介 17歳少女の心の叫び
こみ上げるシャロン・ヴァン・エッテンによるエンディング
第70回ベルリン国際映画祭銀熊賞(審査員グランプリ)、サンダンス映画祭2020ネオリアリズム賞受賞をはじめ、世界中の映画賞を賑わせる『17歳の瞳に映る世界』(7月16日公開)。妊娠が発覚した17歳の少女が親友と共に事態解決のため旅に出る物語。どの国にも通じる思春期の感情と普遍的な問題をあぶり出す。実は音楽が本作の肝となる。主人公オータムの心の叫びが聴こえてくる。劇中で使用されてる楽曲を紹介したい。
◆あらすじ
ペンシルベニア州に住むオータム(演=シドニー・フラニガン)は、愛想がなく、友達も少ない17歳の高校生。ある日、オータムは予期せず妊娠していたことを知る。ペンシルベニア州では未成年者は両親の同意がなければ中絶手術を受けることができない。同じスーパーでアルバイトをしている、いとこであり唯一の親友スカイラーは、オータムの異変に気づき、ふたりで事態を解決するため、ニューヨークへ向かう……。少女ふたりの旅路は、どの国にも通じる思春期の感情と普遍的な問題をあぶり出す。17歳の少女の瞳を通して浮かび上がるこの世界をみずみずしく活写した新たな傑作が誕生した。
◎…映画はペンシルベニア州のとある高校のタレントショー(文化祭的なもの)から始まる。
▽Pididdle(The Car with One Light)/Buzz Clifford
1958年発売の楽曲。デビューシングル「Baby Sittin‘ Boogie」が全米6位を記録したティーンネイジ・ロッカー、バズ・クリフォードによるセカンドシングル。男女の生徒たちがこの曲に合わせて踊る。
▽Rock and Roll Beat/Gene Maltais
プレスリーのような衣装をまとった男子生徒が口パクで歌う曲。1957年にデビューしたジーン・マルティスによる77年発売のロカビリーナンバー。
▽It Wasn’t Meant To Be/Al Hazan
フレッド・アステアなどにも楽曲を提供したプロデューサー、アル・ハザンによる曲。男子生徒3人がドゥーワップスタイルで歌う。
▽He’s Got the Power/The Exciters
オータムがギター1本で披露する曲。ロネッツ、シャングリラスと並び称されるガールズグループ、エキサイターズの1963年発売のセカンドシングルでフランスでもカバーされヒットした。「ビー・マイ・ベイビー」のエリー・グリニッチとトニー・パワーズが共作した。
「やりたくないのに/やらされて/言いたくないのに/言わされる
彼は愛の支配者/あたしを自由に操る」
ダンスのみ、口パク、演奏せずに歌うのみ、の生徒たちの中、主人公オータムはギター1本を持ってひとりで演奏しながら「やりたくないのにさせられる。彼は愛の支配者、私を自由に操る」と歌い上げる。
1950年代~70年代の曲で構成されたのは監督の意図。いつの時代の話と決めるのではなく、時代をぼやかそうとしたそう。
◎…オータムとスカイラーが夜を明かすニューヨークの地下鉄構内。
▽Scenes from Childhood, Op.15 - I.Of Foreign Lands and People/Robert Schumann
シューマンによるピアノ曲「子供の情景 第1曲 見知らぬ国と人々について」。
▽Scenes from Childhood,Op.15 - IV. Pleading Child/Robert Schumann
シューマンによるピアノ曲「子供の情景 第4曲 おねだり」。
▽Piano Sonata No.11 in A Major,K.331: I. Andante Grazioso/Wolfgang Amadeus Mozart
モーツァルトによる「ピアノソナタ第11番 イ長調 K. 3 31 第1楽章」。
地下鉄の構内では様々なストリートミュージシャンが演奏をしている。その様子を楽しげに見ることのできるスカイラーと対照的に、身体が重いオータム。構内のベンチやトイレにいると、静かにBGMが流れてくる…。
◎…夜を明かすためにバスでナンパしてきた男ジャスパーとカラオケへ…。
▽Wishing(If I Had a Photograph of You)/A Flock of Seagulls
様々な映画でもネタにされがちなイギリス・リヴァプール出身のニューウェイブバンド、フロック・オブ・シーガルズによる1982年発売の6枚目のヒットシングル。生まれる前にリリースされたこの曲をカラオケでジャスパーが歌う。出会いたてのスカイラーにあてた想いを込めているかのよう。
「この胸の高鳴りは/ムダなのか?/振り回さないで
君の写真があれば/思い出の物があれば/この想い 断ち切るのに」
▽Don’t Let the Sun(Catch You Crying)/Gerry and the Pacemakers
ビートルズと並ぶ人気を誇った英国リヴァプールサウンドバンド、ジェリー&ザ・ペイスメイカーズの1964年発売曲「太陽は涙が嫌い」。腹部に痛みを感じながらも、曲目リストを眺めたオータムが選ぶ。肉体的にも精神的にも追い詰められていた心の内を吐露しているようだ。
「今夜は思い切り/涙を流していいのよ/あなたのハートが壊れるまで
でも明日 朝日を浴びたら/泣いてるところを/太陽に見せないで」
オータムの選曲はジャスパーが歌ったフロック・オブ・シーガルズへのリヴァプール返し?!カラオケは60年代vs80年代リヴァプール対決になった。
◎…すべてが終わったあとの彼女たちを包み込むエンディング曲。
▽Staring at a Mountain/Sharon Van Etten
https://www.youtube.com/watch?v=NlG2n9WKwSk
オータムの母を演じたシャロン・ヴァン・エッテンが本作のために書き下ろした曲。ふたりの旅路を見守るようにエンディングを包む。
「誰も知らない闇をのぞいたから/もっと深みへ落ちてゆくの/私には理解できない底知れぬ闇へ でも あなたは闇を知ってる/あなたには分かってる」
主人公オータムが歌う曲は、バンドボーカルもしているシドニー・フラニガン自身が監督と相談して選んだ曲。どちらも60年代のアメリカとイギリスを代表するバンドの曲だが、歌詞内容にオータムの気持ちが透けて見える。気持ちを表すセリフが少ないオータムだからこそ、歌に思いを込める…新星シドニー・フラニガンではないと演じられない素晴らしい歌唱シーンが生まれた。
エンディング曲を手掛けたシャロン・ヴァン・エッテンは2019年にリリースした楽曲「Seventeen」がオバマ元大統領がその年の1曲に選ぶなど注目されたミュージシャン。エリザ・ヒットマン監督が彼女のファンであり、出演とエンディング曲の提供がかなった。日本版と同様、全国的に本作の予告編はシャロン・ヴァン・エッテンの「Seventeen」が使用されている。