テレビドラマ化もされた、おおのこうすけ氏による大ヒット漫画『極主夫道』が、今千秋監督のもとNetflixオリジナルアニメシリーズとしてアニメ化された。強面な見た目とは裏腹に家事を完璧にこなす元極道の専業主夫・龍(たつ)の姿をコミカルに描く。龍の声を演じるのは実写版PVでも同役を務めた津田健次郎。悲劇と喜劇の紙一重な所に面白さを感じるという津田が思う龍の魅力、そしてアフレコ秘話を聞いた。【取材=木村武雄】
テンポ感の秘密
――原作を読まれたときの感想は。
笑いのセンスが抜群だと思いました。僕がこの作品に関わっていなかったとしても非常に面白いと感じていたと思います。バカバカしさが微笑ましくもあり素直に笑える優秀なコメディ作品です。
――もともとコミックスの発売記念CMで龍の声を演じたのに始まり、その後実写版PVで龍、そして監督を務められました。引き続いてアニメでも声優を務めることが決まった時はどのような心境でしたか。
嬉しかったです。CMや実写版PVで龍を演じさせて頂いて、キャラクターとしては出来上がっていましたので、意識せずにすんなりアニメにも入れました。アニメの方がテンポは速くて細かいニュアンスをどう作っていくかというよりも勢いでやりながら作っていった感じはありました。
――1話が短く、アニメーションは漫画のコマ割りのような作りになっていて独特です。声を吹き込むことで心掛けたことは何でしょうか?
原作の要素がかなり強く出ていると感じました。絵を動かさないという表現ですので、これは芝居の比重が随分と上がったぞと思いました(笑)。でも、その手法によって勢いやシーンの面白さが損なわれているわけではないので、とにかくコメディとして面白くするという意識でした。
――妻・美久とのやりとりも心象的でしたが、声を演じられた伊藤静さんとはどのような感じでしたか。
コロナ禍なので基本、僕は同じフロアにある別のスタジオで一人ずっとブースに入ってやっていました(笑)。ただ話が短いので大きめなスタジオには話数ごとにキャストが入れ替わっていましたが、僕はずっと一人ブースで孤独に(笑)。でもみんなの声を聞きながら出来たので楽しかったですね。美久がしゃべっているなとか、雅(声・興津和幸)がしゃべっているとか。少し場所は離れていても、そういうオンタイムでのやりとりはできました。他の作品の現場ですと完全に抜き録り(一人録り)で、他のキャストとの絡みはナシでやるのが今は多いですから。絡みがあるなかでやらせて頂いたことに感謝しています。
――ではあのテンポ感はそういう環境も影響して…。
そうですね。美久が出してくるニュアンスをしっかり受け止めてやれました。ありがたかったです。
喜劇と悲劇、有限であることが原動力
――ところで津田さんご自身、龍との共通点はありますか。
いや僕は…全く家事は得意ではないです(笑)。龍が家事に情熱を注いでいるのは面白いですし、家事を一切手を抜かずに丁寧にこなすのは素晴らしい。なので、僕と全然似ていないです(笑)。でも強いて言えば、顔がちょっと似ているかもしれない。最初はコミックスのCMが始まりですが、その時に出版社の編集者さんが「龍に似てません?」って。それもあっての実写版PVにも繋がっているのでそこはちょっと似ているかもしれません(笑)。
――津田さんは過去に、悲劇も喜劇も紙一重でどちらも見えた方が面白いと話されています。龍にもそのような点が見えます。
龍は一生懸命にやっているなかで失敗もする。ドタバタするのは龍にとっては悲劇だと思うんです。洗濯を一生懸命にやりますがそれがバサッと落ちてしまうとか。そういう龍にとっては「オイオイ」となるところが、見ている側としては面白い。もちろん日常を描いたコメディなので悲劇と言っても深刻なものではありませんが、そういう龍にとっての悲劇が喜劇になる部分はあります。『極主夫道』にはそうしたギャップ、勘違いコメディの分量は多く含まれています。
――津田さん自身は、悲劇と喜劇の要素に惹かれますか?
そうですね。演じ手としては、困る、追い込まれるところは惹かれますね。何にでも一生懸命で情熱を注ぐけど空回りすることがすごく多い。雅を呼んでぶん殴るところも、龍からしたら「雅、おまえこんなんじゃだめだ!」と彼を思って一生懸命に親身になっている。その熱さや人の良さ、愛情が空回りして「え?」となるところも魅力。ですので、演じ手としてはその一生懸命さをしっかりと表現したいと思いました。
――そんな津田さんの、声優として、俳優として、監督としての原動力は?
もともと表現することが好きです。お芝居もそれ以外の表現もクリエイトな部分も好きでやって来ているなかで、時間が有限であることが一つの原動力になっているかもしれません。折角生きているならいろいろとやってみようとか、やるなら本気で全力で作りたいというのが自分のなかにあります。時間が有限であることがポジティブに働いていて、それがエネルギーの源になっています。後になって「あれ、やっておけば良かった」とは思いたくない。ですので、今やれることを全力でやる。それが僕の原動力です。
(おわり)