河口恭吾×ISEKI「エンターテインメントとして機能」改めて考える音楽の力
INTERVIEW

河口恭吾×ISEKI

「エンターテインメントとして機能」改めて考える音楽の力


記者:平吉賢治

撮影:

掲載:21年03月31日

読了時間:約10分

 シンガーソングライターの河口恭吾が17日、配信シングル「lai・lai・lai(feat.ISEKI)」をリリースした。本作はデビュー20周年を記念したコラボ企画第2弾で、元キマグレンのISEKIとタッグを組んだ爽やかでアッパーなダンスチューンの意欲作。本作の話題を中心に、配信ライブの捉え方や、河口が「コロナ禍になってそれをずっと考えていた」という現在の音楽のあり方や役割について話を聞いた。インタビューでは、10日に配信シングル「reflection」をリリースしたばかりのISEKIとともに音楽について幅広く語ってもらった。【取材=平吉賢治】

配信ライブの感触と新たな可能性

河口恭吾

――お2人は普段もよく会う間柄でしょうか。

河口恭吾 ISEKI君がキマグレンの時代のライブでご一緒させて頂いたり、ソロになっても何回かイベントやフェスなどで一緒にやらせてもらって、打ち上げなどでも話をしたりする感じですね。

――近況として、2月28日のオンラインライブの感触はいかがでしたか

河口恭吾 初めてライブハウスから配信をやらせて頂いて、前にお客さんがいない違和感がありました。それをどう捉えてやっていけばいいかという課題があったんですけど、この間の会場はライブハウスという馴染みのある環境で演奏できたので「こうやっていけばいいのかな」という感触を掴めたライブでした。

――有観客に加えて配信というライブのスタイルがコロナ禍で増えましたが、現状が収束した後もプラスの作用があると思われますか。

ISEKI ひとつのコンテンツという捉え方になると思います。「このパターンだから配信を入れたら面白いよね」など、そういう風になっていったらいいと思いますし、自分もそのように活用していけたらいいなと、そう捉えると面白くなるのではないかというイメージです。この間もYouTubeライブをやってみたりしましたが、意外と自分の中では楽しくて、今はInstagramライブにハマっています。

河口恭吾 ISEKI君的にはInstagramライブのどこが魅力だと思うの?

ISEKI 他と比べてゆるい感じが気に入っています。イメージ的に言うと、高校生の時に、好きな女の子に対してミュージシャンだったら歌やギターを聴かせたりするじゃないですか? 人によるとは思いますけど。

河口恭吾 うん。人によるね(笑)。

ISEKI その感覚にちょっと近いところもあるかなと思ったんです。お客さんと近い感じで、「じゃあちょっとだけね」とか言って譜面を見て演奏したりと、それはそれで一つの表現の仕方としてありだなと思っています。ガチッとやる時と遊ぶ時とそれぞれあっていいんだろうなと、そういう意味では配信は新しい可能性を感じています。だから今Instagramライブが好きで月一でやっているんです。アーカイブも残して「いつでも観てね」と。状況によってまた変わってくると思うんですけど、今のところはそういった感じです。

こういう状況の中に寄り添ったハッピーな楽曲を

ISEKI

――本作でISEKIさんとコラボした経緯は?

河口恭吾 2020年の11月からデビュー20周年で、コラボ企画第1弾シングル「マイ・アイデンティティー (feat. FLYING KIDS)」で浜崎貴司さんとやらせて頂いて、その企画の中で今まで関わりのあった方に楽曲を一緒に作ってもらうということでISEKI君にお願いしました。

――ISEKIさんが作曲された楽曲を最初に聴いた印象は?

河口恭吾 弾き語りのデモがとっても良くて、ISEKI君の声が凄くいいなと思った印象もありますね。そこから色々と歌詞のやりとりをしながら完成させていきました。

――楽曲制作のテーマやコンセプトとしては?

ISEKI 書き下ろしなんですけど、僕とやるのであればキマグレンらしさみたいなところも混ぜたいなと。今回はサンバなんですけど、河口さんの方から「最近のISEKI君のソロのテイストも欲しい」というところで、EDM要素のリズムを混ぜ込んだ感じで、かなりハイブリッドな作りになっています。

――共作の作詞はどのように進行したのでしょうか。

河口恭吾 ISEKI君の方から「思いついたことを散文でいいので送ってください」と言われて送って、それに歌詞を乗っけて歌ってくれたのがデモなんです。そこから「歌詞をどういう感じにしていこうか?」という話し合いを色々しつつ、ファイルのやりとりで歌詞が出来ていきました。

――歌詞の世界観のイメージは?

河口恭吾 ポジティブな世界観というか、こういう状況の中で出すシングルなのでラブ&ピースのような感じで聴いた人がハッピーになれるようなものにしたいというのがありました。

ISEKI ハッピーで、近い所に寄り添ってくれるような温かい楽曲にしようという話が最初からあったので、そこに寄り添っていった感じです。

――なるほど。ジャケットワークについて、前作のコラボ企画第1弾はFLYING KIDSの浜崎さんが描かれたものですが、今回もその流れを引き継ぎつつISEKIさんにオファーを、という流れでしょうか。

「lai・lai・lai(feat.ISEKI)」ジャケ写

河口恭吾 そうです。レコーディング、歌録りのディレクションもやってもらって一番疲れて最後に「ジャケット描いてください」とお願いして(笑)。

ISEKI 一応言っておきますと絵が上手くないんですよ(笑)。ファンからは画伯と言われていて「この絵はひどい」と。キマグレン時代からの暗黙の了解がありまして。

河口恭吾 (笑)。

ISEKI このジャケットのキャラクターは「耳マン」といって耳の形をしているんです。僕がサインをする時などに描いているんです。僕が描ける絵がこれしかないんですよ。

河口恭吾 そんなことないでしょ(笑)。

ISEKI 他の絵を描くと本当にひどいかもしれないから「これくらいしかないかな」と思って、僕の代表作の「耳マン」を使わせて頂きました。

河口恭吾 めっちゃインパクトあるし、いいですよ!

ISEKI 良かったです(笑)。

――ISEKIさんも10日にシングル「reflection」を配信リリースされましたね。こちらはどのようなテーマでしょうか。

ISEKI 2020年にコロナ禍で最初の緊急事態宣言が出た時に、ずっと家の中にいて出られないという状態を何か形にしたいと思って作品にしたんです。もともとは「春眠」という曲だったんですけど、もっとクオリティを上げていきたいと思って作詞家の方を2人入れているんです。最終的にはコライト(共同での制作)という形で、曲は僕が書いているんですけど、若干プロデューサー的立ち位置でもあるので、全体を見た時に作詞家でもありプロデューサーでもあるシライシ紗トリさんと、作詞家の矢作綾加さんに入って頂いて3人で書き上げた感じです。

 「reflection」というタイトルには“反射”や“熟考”という意味があるんですけど、今まで生きてきた自分の人生そのものをちゃんと肯定してあげるという決意、覚悟などを歌にしたという感じです。「みんな頑張ってるよね」と言いたいというか、そういう楽曲に仕上げました。

――今の時代にピッタリという点で河口さんとの本作「lai・lai・lai(feat.ISEKI)」と共通点があると感じます。

ISEKI 僕もそう思っています。ミュージシャンとして今僕に何ができるかなというところでの答えというか。

現在の音楽の役割

――現在においての音楽の役割について、どのようなお考えをお持ちでしょうか。

河口恭吾 コロナ禍になってそれをずっと考えていました。今のところ自分の中で出た答えが、エンターテインメントとして機能する楽曲を世の中に届けたいというのが一つです。ソングライターなので基本的に自分の心情などを表現してリリースしてきたんですけど、こういう状況なので個人の心情というより、今作もそうですけど、その歌を聴いた時に元気になれたりすることの方が大切なんじゃないかなと思っています。

――なるほど。ISEKIさんはどうお考えでしょうか。

ISEKI 個人差もあると思いますが、僕の中では音楽は食べていくためのものではないんです。もちろん音楽で稼ぎたいという気持ちもありますが、音楽を続けていくためにどうしようかと考えた時に、色々な方法があって。だから僕にとって音楽は人生を豊かにさせていくものという捉え方です。例えば、本を読むのと音楽制作は僕の中ではあまり変わらないんです。そうすることによって音楽を嫌いにならないようにするというか、音楽をやる時は好きなものしかやらないと決めているんです。キマグレンを解散した後くらいに映画『奇跡のリンゴ』(中村義洋監督、2013年)を観て、いいヒントになりました。

――河口さんにとって何かヒントとなった作品などは?

河口恭吾 『小さな習慣』(スティーヴン・ガイズ著、田口未和訳、ダイヤモンド社) という本があって、それにはコツコツやることの大切さ、そうすることでいかに人が目標や大きなものを達成できるかということが書かれているんです。腕立て伏せ1回から始めても、毎日続けると60日後には60回にと、継続と積み重ねの大切さを説いた本です。40代中盤になって残りの人生を考えた時に、まだ自分の中の伸びしろを信じていたいと思っているんです。そのためにはどうすればいいか、と思った時にたまたま出会いました。やはり継続することだなと最近思いました。

ISEKI 僕も似た本で、習慣も複利の考え方であるという内容を読んで勉強になりました。フェーズが一緒だからあの曲ができたということもあるのかなと思いました。

河口恭吾 ミュージシャンがそのほかのことを見ながら、違った角度から音楽を見て、でもポジティブだからああいった歌詞の世界観やメロディの持っているパワーやエネルギーを表現できるんだなと凄く思いました。そういう意味でも一緒に制作させていただく過程の中で学びがありました。

――なるほど。歌詞では<なんだかんだ続いてゆく 今日の終わり 未来のこと>という部分が印象的です。

ISEKI 河口さんの楽曲なので、河口さんの内面から出てくるものを大事にしたいというのがまずあったんです。「日記みたいに何でもいいから書いてください。そこから切り取ってメロディを考えます」という最初の段階で、「なんだかんだ続いてゆく」というフレーズがあったので、それを切り取りたいと思ったんです。なんだかんだ色んな事件などがあるけど、なんだかんだ続いてゆくんですよねと。あたりまえのことだけど、そこが凄くキラッと光るフレーズだと思ったんです。

河口恭吾 そういうところをピックアップしてくれる感性に凄く助けられましたよね。

――<なんだかんだ続いてゆく>というフレーズから<未来のこと>と続きますが、この先に音楽にまつわる未来はどうなっていくと思いますか。

河口恭吾 音楽自体がなくなることはないと思いますが、音楽を楽しむメディアも変わってきているじゃないですか? YouTubeで音楽を聴いたりと。そういう意味で、これからも色んな変化が起こりうる方が自然だしそうなると思います。

 最近のヒット曲などを聴いていて思うのは、どこかで新鮮さみたいなものを人々は常に求めているし、それがメッセージ性、楽曲やアレンジ、曲の構成だったりと色んな新鮮さがあると思うんです。音楽って何かのベースの上に成り立っている系譜の芸術みたいな側面があるので、心で感じたものを表現して、それが聴く人の心に届くという根底は当たり前ですけど、そこはずっと変わらずあり続けるんだろうなとは思います。

ISEKI 世代で好まれる音楽は変わってくると思うんですけど、プラットフォームが変わっていくだけという感じもするんです。淘汰されていくものも、残っていくものもある自然の摂理というか。シーンが変わっていくのはもう止められないというか、止めなくていいことというか、自分に置き換えてみると僕にしか出来ない音楽を作り続けることが大事なんじゃないかなと思っています。

――なるほど。ところで、4月3日におこなわれるライブはどのようなスタイルになりそうでしょうか?

河口恭吾 ISEKI君がゲストに来てくださって、本作を含めISEKI君のソロ曲や2人でやる曲など、配信ライブでやらせて頂きます。

――今の時代に伝えたいメッセージは?

河口恭吾 やはり明るいメッセージです。「絶対生きていればいいことがあるさ」ということです。こういう時代の中で色んな状況の中にみなさんいらっしゃって、でも生きていなければ明日がないわけで、明日があればまた何か希望があるかもしれないと、そこを一番伝えられるのであれば、それかなと思います。

(おわり)

作品情報

3月17日配信リリース
河口恭吾
lai・lai・lai (feat. ISEKI)
https://lnk.to/lai_lai_lai

作詞:ISEKI・河口京吾
作曲:ISEKI
編曲:GIRA MUNDO

LIVE情報

4月3日(土)
「河口恭吾 Online Live Vol.5@VOICE
 GUEST:ISEKI」
 20:00 LIVE START
 チケット代金 2,500円
https://www.mahocast.com/kawaguchi/live/6567

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