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CDデビュー25周年を迎える坂本真綾が17日、4thコンセプトアルバム『Duets』をリリース。自身初のデュエットアルバムで、デュエット相手には和田弘樹、堂島孝平、土岐麻子、原昌和(the band apart)、内村友美(la la larks)といった縁のあるアーティストのほか、俳優の井上芳雄と小泉今日子といった豪華共演陣7組が参加。坂本の25周年イヤーを締めくくる本作について、デュエット相手に対する思い出や現在の心境を聞いた。【取材=榑林史章】
デュエットの面白さは1人では出来ないことが出来ること
――『Duets』のアイデアは、どんなところから生まれたのですか?
もともとは私が所属するレコード会社フライングドッグの社長(佐々木史朗氏)からの発案で、還暦のお祝いをした時の雑談で「実は坂本真綾のデュエットアルバムという構想があったけど、それを形にしなかったのがちょっと心残りだ」とおっしゃっていて。社長は25年前に私の担当ディレクターだったんですけど、当時はそんな話を聞いたことはなかったし、「そうだったんだ~」と流していたんです。でも、その話がすごく心に残って、誰と一緒に歌ったら楽しいかなとか、どんなデュエット曲が世の中にあるんだろうとか、だんだんそのことについて考えるようになっていって。意外と面白いものができそうだぞ、ということで、25周年の記念に作ろうということになったのが約2年前です。
――今回デュエット相手に選ばれた7人は、何か共通点みたいなものはあるのでしょうか?
25周年の自分へのご褒美みたいなアルバムなので、とにかく自分の好きな方に囲まれたいと思って。今まで出会った方の中から、とくに交流が深い方やずっと大好きだった方、一緒にお仕事してみたいと思っていた方にお声がけしました。
――憧れの大好きなアーティストたちと並んで歌ってみて、どんな気持ちでしたか?
すごく嬉しかったです。和田弘樹さん、堂島孝平さん、土岐麻子さん、昔から知っている自分より歳上のお兄さんお姉さんたち。今までは追いかけるばかりで、横に並んで歌うなんて25年前には想像も出来ないことでした。「Duet! / 坂本真綾×和田弘樹」の歌詞に<肩を並べて>と書いたんですけど、年齢を重ねてくると実年齢が縮まるわけではないけど、感覚的に年齢差がなくなってくるじゃないですか? 桃井かおりさんが「30歳を過ぎたら同い年」って言っていましたけど(笑)。だんだん一緒に話せることや共通の話題が増えていって、やっと自分から「一緒に歌いませんか」と声をかけられるようになるくらい、時が経ったんだなと思うと感慨深いです。
――25年という年月があればこそ、実現することが出来たと。最初に名前が浮かんだのは、どなただったんですか?
和田弘樹さんです。和田さんは25年前の私のデビュー曲「約束はいらない」がオープニングテーマだったアニメ、『天空のエスカフローネ』でエンディングテーマ「MYSTIC EYES」を歌っていて、そのご縁で知り合って。当時まだ高校生だった私にもすごく優しく接してくれた、ジェントルマンな歌手というイメージがずっとありました。それ以降も、菅野よう子さんプロデュースの9年間から離れて最初のシングル曲「ループ」の作曲・編曲もしてくださって、25年の要所要所で見守って、成長を見ていてくださっていた人です。
――作編曲家のh-wonderさんが和田弘樹さんとして歌っていた時代を、知らない人のほうが今は多いくらいでしょうね。その和田弘樹さんを坂本さんが、ちょっと強引なくらいに表に引っ張り出した感じもあって、歌詞で表現されているお二人の関係性が面白いです。
今は完全にh-wonderさんとして作編曲家のお仕事に専念されていて、もう22年ぐらい歌手・和田弘樹さんとしては活動してないそうです。なので「もう一回歌って欲しい」とオファーをした時はかなり驚かれつつ、本気にしてもらえないって言うか、「またまた~」みたいな感じでした(笑)。
でも私は単純に和田さんのアルバムがすごく好きで、10代の頃にもらったCDをそれこそ擦り切れる勢いで聴いたから、もう一回和田さんが歌ってくれるなら、ぜひ一緒に歌いたいと純粋に思ったんです。でも和田さんにしてみれば、忘れた頃に歌手のオファーをもらったわけで、それでも私の思いに応えてくださって。応えるからにはしっかり準備したいということで「準備に最低でも1年ぐらい欲しいと」言われて。
――歌詞は、実際にこういう会話があったかのような感じで。
歌詞では<君の頼みでも せっかくだけど遠慮させてもらうよ>と言っていますけど、さすがにここまで露骨に嫌がられたわけでは無いです(笑)。面白かったのは、h-wonderさんとしてお会いする時の和田さんはプロデューサーで、いつも迷いなくバシバシと全てを進めていくクールな印象で。でも、そこにいるシンガーとしての和田さんはすごくドギマギしながら「俺でいいのかな」と、久しぶりに緊張しているといった雰囲気で、それがとても新鮮で、そんな和田さんが無理なく共感しながら歌える歌詞にしようと思いました。
――まるで会話するような歌詞で、こういうのがデュエットの醍醐味ですね。
デュエットの面白さは何だろうと考えると、1人では出来ないことが2人なら出来るかもしれないとか、1人の時よりも知らない自分が出てくるかもしれないとか、そういうワクワク感を体現してくれるんじゃないかということです。歌詞は和田さんに宛て書きをするように書いたのですが、今までと全然違う頭を使って、お芝居の脚本を書いているみたいで面白かったです。
――デュエットの関係性も曲によって様々あって、「あなたじゃなければ / 坂本真綾×堂島孝平」は、長年連れそった夫婦っぽい感じ。「ひとくちいかが? / 坂本真綾×土岐麻子」は、女性同士の友情のような感じです。
堂島さんにはぜひラブソングを書いて欲しいとお願いをしたんですけど、いい歳の男女が歌うのだから、生活感があって私たちの年代が聴いて共感出来るラブソングにしたいと話をして、それで夫婦ゲンカみたいな歌詞に辿り着いたんです。でも、すごく微笑ましくて、愛情深いラブソングになったと思います。
土岐さんとは、女同士ならではのテンポ感のおしゃべりをテーマにしました。お互いに話を聞いているんだか聞いていないんだか、とにかく転がり続けて会話が止まらない感じをデュエットで出せたら面白いですね、と打ち合わせをして。作曲・編曲のTENDREさんは前から好きで聴いていて、いつかご一緒したいと思っていて。TENDREさんのとてもオシャレで大人っぽい曲が、土岐さんの雰囲気とも似合うんじゃないかと思って、声をかけさせていただいたのですが、まるでワインバーで話しているみたいなオシャレな雰囲気になりました。
小泉今日子さんは抱擁力と可愛さ、両方を持っている
――「でも / 坂本真綾×原昌和(the band apart)」と、「sync / 坂本真綾×内村友美(la la larks)」には、近年の坂本さんの楽曲ではお馴染みのアーティストが参加されています。とくに「でも」の原さんの歌声が素晴らしくて驚きました。
そうなんです! バンアパ(the band apart)さんなら荒井岳史(VO&G)さんだろうと皆さん思うでしょうけど、荒井さんの声が良いのはみんな知っているので、ベーシストで普段はフィーチャーされないけど、たまにコーラスをやっている原さんの歌声は実はとても良いということを、もっとみんなに知らしめたいと思って(笑)。普段話す時は低い声なんですけど、歌うとすごく繊細な文学青年ボイスなんです。その意外性がすごく良いんですよ。
――「sync」の作曲・編曲にはla la larksの江口亮さんが参加しています。
今まで江口さんに提供していただいた曲は、「色彩」や「空白」など『Fate/Grand Order』シリーズのテーマソングで、ダークで激しい印象の曲が多いんですけど、あえてそこからガラッと変えて、可愛いくガーリーでポップな曲にしたいと相談をしました。友美ちゃんの普段のクールな印象とは違った女の子らしさが見える曲になって、la la larksの番外編という感じで良いんじゃないかなと。
――内村さんはゲーム『Fate/Grand Order』シリーズが大好きで、イベントにも足を運んだりしているんですよね。
それも真面目な性格ゆえです。仕事で関わるからにはとゲームを始めたら、とことんハマってしまって。要は尽くす女なんです(笑)。ロックバンドのボーカリストなのだから、もう少し不真面目でもいいと思うのに、真面目だし几帳面だし、目上の人を立てる大和撫子の友美ちゃんを、もっと知って欲しいなと思います。いろいろな悩みや迷いを乗り越えて今ここにいる友美ちゃんを、一人のボーカリストとして尊敬しているし、お互いを讃え合って励まし合える曲にしたいということで、「頑張れソング」を作りました。何かに挑む人、勝負していく人に向けて、その瞬間その場にいなくても、どこかで誰かが一緒に戦ってくれていると思えるような、共鳴感を表現しました。
――「星と星のあいだ / 坂本真綾×井上芳雄」は、2012年からミュージカル『ダディ・ロング・レッグズ ~足ながおじさんより~』で共演している俳優の井上芳雄さんとのデュエットで、8年間舞台をともにしてきた集大成のような楽曲になりました。
私が出会ってきた人の中でも非常に絆が深い人なので、デュエット企画で声をかけないのもおかしいだろうと思って。役を演じている芳雄さんはいっぱい見られますけど、今回は素の歌い方でまっすぐに歌ってくれて、友人としての芳雄さんが感じられて嬉しかったです。
――「星と星のあいだ」という言葉は、どういうことをイメージしているのですか?
たまたま2020年に見たニュースで、朝の4時~5時くらいの時間帯にネガティブなことをつぶやく人がグッと増えるというデータが紹介されていたんです。夜明け前の薄暗く肌寒い時間帯は、エアポケットに入ってしまうみたいに、自分の不安や悩みが大きくなってしまう人が多いそうです。たしかに暗い空を見ると明るい星ばかりに目がいってしまうけど、明るい星と星の間の何も見えない真っ暗なところにもちゃんと星があって。そういう見えないけど何かあると思うことが、孤独な時間を乗り越えるのに役立つんじゃないかと思って書きました。今は何かと不安を感じることが多く、不安になる気持ちは私にも分かりますし、何か寄り添える曲があったら良いなと思って。
――そしてラストに「ひとつ屋根の下 / 坂本真綾×小泉今日子」を収録。小泉さんとはどういう接点が?
今のディレクター(フライングドッグ福田正夫氏)が20数年前に小泉さんを担当されていたという繋がりから、一度ご挨拶をさせていただいたことがあっただけで。一方的に憧れていただけなので、一緒に何かをするというイメージは持ったことがなかったんです。それが今回ディレクターから「こういう時こそ小泉さんって言うんじゃないの?」と。それで、次はいつこういう機会があるか分からないからと思って、お声がけをしたら快諾してくださって。じゃあ二人の共通する作家さんである鈴木祥子さんに曲を書いてもらおうと。歌詞は私が書かせていただいたのですが、小泉さんと私の共通項として、とても大事な動物の相棒を亡くした経験があることから、動物と人間のデュエットが面白いんじゃないかと。
――憧れの人と実際に会って、いかがでしたか?
やっぱり好きな人とは、会うものではないですね(笑)。その人を前にしたら、緊張で何も出来なくなってしまって。そんな私を和ませようと、小泉さんがとにかく気さくに話をしてくださって。
――緊張する坂本さんを動物になった小泉さんが、やさしく見守ってくれている感じで、小泉さんの甘い声も曲にぴったりです。
そうなんです。いくつになってもキュートな印象は変わらなくて、だから動物役も似合ってしまうんですよ(笑)。それにペットって、最初は赤ちゃんでも自分より高速で年を取って、最後はお母さんや先生みたいになって。そういう抱擁力と可愛さ、その両方を持っているところでも、小泉さんが本当にぴったりの曲になりました。
――小泉さんに憧れていたということですが、どういう部分に憧れたのですか?
私がとくに好きなのは、エッセイストとしての一面です。雑誌『an・an』の連載コラムで、お気に入りのものを写真と文で紹介していたり、旦那さんの話をしたり、仕事で落ち込んだ話も出てきたり、自然体で包み隠さないところが本当に好きです。当時すでに私もビクタースタジオに出入りしていたんですけど、あの元気で明るくハツラツとしたキョンキョンのいろいろな面が、文章を通じて見えてきた時に「もっと知りたい」という気持ちになりました。決して誰かから張り付けられた笑顔ではなく、本当に自分で選んで人生を手に入れてきた格好いい女性だなと。自分が歳を重ねれば重ねるほどそう思えて、そこにとても憧れます。自分をよく知っていて、自分の見せ方も一つひとつ自分で選んで、その上で今も輝き続けているのがとても素敵だなって。
――NHK連続テレビ小説『あまちゃん』での、天野春子役も良かったですよね。
すべてを楽しんでいるような印象ですよね。だから今回のような突然のお声がけにも、面白がって応えてくださったんだと思います。遊び心で捉えてくれる余裕を感じて、そういうところにも憧れます。
――今後また『Duets 2』とか、こういう企画をやりたいですか?
年月を重ねて、また出来たら嬉しいです。確かにすごく大変だったし覚悟も必要だったんですけど、そのぶんすごく楽しかったから。もしも『Duets 2』を出せる時が来たとしたら、その時は自分の交友関係がそれだけまた充実していることの証拠だと思うし、そう思えるような日々が重ねられたら、すごくステキだなと思います。
(おわり)
作品情報
坂本真綾
4thコンセプトアルバム『Duets』
2500円+税 / VTCL-60544
フライングドッグ
《収録曲》
1. Duet! / 坂本真綾×和田弘樹
作詞:坂本真綾 作曲・編曲:h-wonder
2. あなたじゃなければ / 坂本真綾×堂島孝平
作詞・作曲・編曲:堂島孝平 ホーン編曲 : 堂島孝平・sugarbeans
3. ひとくちいかが? / 坂本真綾×土岐麻子
作詞:土岐麻子 作曲・編曲:TENDRE
4. でも / 坂本真綾×原昌和
作詞:岩里祐穂 作曲・編曲:原昌和
5. sync / 坂本真綾×内村友美
作詞:内村友美・坂本真綾 作曲・編曲:江口亮
6. 星と星のあいだ / 坂本真綾×井上芳雄
作詞・作曲:坂本真綾 編曲:山本隆二
7. ひとつ屋根の下 / 坂本真綾×小泉今日子
作詞:坂本真綾 作曲:鈴木祥子 編曲:山本隆二
公演情報
坂本真綾 25周年記念LIVE「約束はいらない」
3月20日(祝・土) 横浜アリーナ
【ゲスト出演】内村友美(la la larks) 堂島孝平 原昌和(the band apart)
3月21日(日) 横浜アリーナ
【ゲスト出演】内村友美(la la larks) 堂島孝平 土岐麻子
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