INTERVIEW

三村朱里

あの時やっていれば。後悔を教訓に。
皆で作り上げる理想の場所「舞台」初挑戦


記者:木村武雄

写真:木村武雄

掲載:21年03月12日

読了時間:約5分

 女優・三村朱里が舞台『ぼくの名前はズッキーニ』に出演中だ。孤独な少年ズッキーニが、母を亡くしてひきとられた養護施設で仲間や彼を見守る大人たちと出会い、厳しい現実の中でも前を向いて生きようとする姿を描く。迎えに来ない母を待ち続けているベアトリス役を演じている三村は本作が初舞台。ダンスで培ったリズム感で、共演者と観客とで作り上げるグルーヴの一つになる。

三村朱里が扮するベアトリス

引っ込み思案だった過去

 ジャージー牛乳プリンのテレビCM「そうだ、ミルクは愛なのだ」篇(オハヨー乳業)ではとろける表情を、キッコーマンのテレビCM「うちのごはん レンジにおまかせ」では美味しく頬張る姿、リプトンイエローラベルのテレビCM「えがおをつくる、くるくる」篇では透明感のある表情。

 表情は豊かで、取材中も手ぶりで様々な表情を見せ答える。特に屈託もない笑顔が印象的だ。

 「思っていることがなかなか言葉にできなくてついつい表情や手が動いちゃって」と笑うが、言葉だけでなく体を使って「伝える」という意識は表現者として重要だ。

 ダンスが好きで、ヒップホップダンスを小学校3年生から6年生まで、そして高校の3年間やっていた。

 「友達に誘われてやり始めましたが、リズム感が付きますし、人見知りだったのが徐々に軽減されていきました。人前で何かを表現することに生かされているところもあって、やって良かったと思います」

 幼少期は引っ込み思案で母の背中にいつも隠れている子だったという。しかし、根は明るい。

 「きっとどう表現していいか分からなかったんだと思います。出し方が分からないというか。でもそうした自分を直そうといろんな人に会ったり、いろんな場所にも行きました。きっとダンスが少しずつ私を変えてくれたんだと思います」

 もともと芸能界への憧れはあった。今の事務所にはスカウトで入ったが、それ以前にも幾つかチャンスがあった。

 「引っ込み思案の悪い性格が出たというか、自分の気持ちに気づくのに結構時間がかかるタイプで、うまく踏み込めない自分がいました。そういう自分の行動に後悔することが多々ありました」

 「あの時やっていれば」それは今も後悔として残っている。

 2019年1月放送の日本テレビ系『女の機嫌の直し方』で女優デビューした。その時はすでに20歳を超えていた。

 「何も分からなくて、皆が飲み込めて当たり前に行動していることに1個1個引っ掛かるような感じでした。初めてのことってそわそわして居心地が悪いような感覚もあると思いますが、それを皆はとうの昔に経験していて、出遅れている感覚がありました。早くやっていれば違う自分になれたかもしれないって」

 でも前向きだ。教訓に変えて今はしっかり前に進んでいる。

 自身の性格は「明るくて頑固」とするが、中学生の頃、そして20歳になって父に言われたことがある。「朱里は責任感が強い」。

 「自分では全く思っていなくて、そうなのかなって驚きました。私は頑固で優柔不断だと思っていたから(笑)」

 裏を返せば頑固は「芯が強い」、優柔不断は「様々な選択肢のなかで熟考している」ともとれる。

三村朱里

作品を大勢で作ることに喜び

 幾度か踏みとどまった「憧れの芸能界」に今はいる。芝居は好きだ。その理由は「みんなで作品を作っていく過程が楽しい」から。

 「絵を描いている、音楽を作っている友達がいます。友達は何もないところから構築しているけど、私はそれが不得意。ですので、それを作っている人の隣にいて、形になっていくものを、もっと良いものにしていくために手伝っていきたいと思っています。役者はまさにそうで、一つの作品に大勢の人が動いている。そのなかの一員であることに喜びを感じます」

 巡ってきた初舞台はまさに理想の場所だ。

 「出演することが決まって本当に嬉しくて。もともと舞台を見るのが好きで、舞台は生ものだからライブ感があって、同じ内容でもその都度その都度雰囲気が違って見えるのが面白いと思っています。セリフを言わない時にもその登場人物は空間に存在して、新鮮さとライブ感のワクワクさが素敵です」

 『ぼくの名前はズッキーニ』の印象は、「子どもだからこそ自分の状況を100%理解できない残酷さもありますが、内に秘めつつも人との関わりを通して皆が前向きに明るくなっていく姿は良いなと思いました」。三村が演じるのは、孤児のベアトリス。迎えに来ない母を待ち続けている。

 「舞台は、共演者が作り出す空気を読むことが求められますが、役柄として読みすぎるのも子供らしくない、かといって読まないと流れが崩れる。そのバランスが難しいと思いました」

 稽古中に感じたことがある。「自分が発することが受け手にも伝播して作品全体のグルーヴが変わる」

 「テンポ感が大事だと改めて感じました。セリフを言うのを0.1秒でもためらうと繋がっていたリズムが切れてしまう感じがあって、そこが私の未熟さで、何度も飲み込んでしまいました。舞台は新鮮なものを届けないといけないから、間が出来てもずっと繋がっているものを大事にしたいです。歌から登場するシーンも、出ている人の空気感を崩してはいけないと思っています」

 気が早いが千秋楽を迎えた先に何が見えるのか聞いた。

 「かっこいい人って芯が強い、ゆるぎないものを持っている人だと思っています。私はそういう人になりたくて、この舞台はその一部になると思います。分からないことが多すぎて苦しく感じることもありますが、周りの方が温かくしてくれますし、好きな舞台にも立たせて頂いています。今はとても充実しています」

 何事も芸の肥やし――。彼女にしか出来ない表現がきっとある。引っ込み思案も明るさも、頑固も優柔不断も、責任感も、そしてダンスも含めて全てが彼女の財産だ。

三村朱里

(おわり)

【取材・撮影=木村武雄】

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