INTERVIEW

三吉彩花×葵わかな

私たち似ている!
『The PROM』でカップル役


記者:木村武雄

写真:興梠真穂

掲載:21年03月08日

読了時間:約13分

 葵わかな(22)と三吉彩花(24)が、「Daiwa House Special Broadway Musical『The PROM』Produced by 地球ゴージャス」に出演する。トニー賞7部門にノミネートされたブロードウェイミュージカル『The PROM』を、岸谷五朗・寺脇康文による演劇ユニット・地球ゴージャスが日本版として初上演する。レズビアンの主人公エマが、様々な人たちとの触れ合いにより、“自分らしく生きる”ことを貫こうと奮闘する姿が描かれる。葵はエマ、そして、エマの恋人・アリッサを三吉が演じる。初共演だが周囲からは「雰囲気が似ている」と言われ相性は抜群だ。2人はどう臨むのか。【取材=木村武雄/撮影=興梠真穂】

 2月某日、先だって行われた製作発表会で、その一部が報道陣に公開された。お互いに似ているところがあると話していた2人は口を揃えて「歌が難しい」と不安気。『ロミオ&ジュリエット』や『アナスタシア』などこれまでしっとりとしたバラードを歌うことが多かった葵は深みのある歌声が印象的、一方の三吉は『ダンスウィズミー』ではキュートで明るい歌声を披露していた。しかし本作はアッパーなロックテイストのミュージカルナンバーも多く、しかも踊りながら歌うシーンもあり、まさに挑戦といえるだろう。

 この日のステージは、エレキギターにアコースティックギター、ベースにドラム、キーボード、そしてバンジョーまで取り揃えられていた。生バンド編成で「ZAZZ」「目立ちたくないのよ!私」「It’s time to dance」の3曲をキャストと共に披露。凛々しく歌い上げる葵、キュートに舞いながら歌う三吉。2人とも活き活きとしていた。なかでも「It’s time to dance」は2人の歌声が重なり美しいハーモニーを生み出していた。当時見せていた不安は微塵も感じられず、2人の相性の良さは歌声にも表れていた。エマとアリッサが自分らしく生きるその強さがその歌声からも伝わってきていた。

三吉彩花と葵わかな(撮影・木村武雄)

ミュージカルというステージに緊張と喜び

――出演が決まった心境と、役柄をどう受け止めましたか。

葵わかな 地球ゴージャスはミュージカル界の中でも地位を築いていて、外部の方を引き入れてたくさんの公演をされているのは知っていましたので、その舞台に自分も参加できるというのは単純に嬉しかったです。ミュージカルに出演させていただくのは今回で3作目ですが、そういう方々に、私がミュージカルに挑戦しているという事を見てもらえていたというのが一番嬉しかったです。

 役柄については、レズビアンの女子高校生なので、最初は難しいのかなと思いました。でもNetflix版や台本を読んで、エマの真っ直ぐさや、課題を乗り越えていくところにフォーカスされている作品だと思いましたので、演じる上でのしんどさはありませんでした。もちろんエマにとっては上手くいかない事しかありませんが、どう足掻いて乗り越えていけるかというのは、エマのパワフルなキャラクターを表現するポイントだと思いますので、それが周りにどう影響を与え、どう動かしていくのか、そういう所を今は考えています。

葵わかな

葵わかな

――三吉さんは、昨年公開予定だった舞台『母を逃がす』が中止となって、本作が実質初舞台になりますが、いかがですか。

三吉彩花 地球ゴージャスには今までも先輩方がたくさん出られているので、いろんな公演を観に行かせて頂いていました。一観客として観ていても、エンターテインメントとしてすごく楽しいですし、毎回圧倒され刺激をたくさんもらっていたので、まさかそこに自分が参加することになるとは思っていませんでした。『母を逃がす』が中止になってしまったので、実質これが初めて。とんでもない初めてだなって感じで毎日ワタワタしています(笑)。ですが凄く嬉しいですし、新しいチャンスだと思って頑張りたいなと思っています。

 役柄については、台本やNetflix版を観た時の印象よりも、稽古が始まって物語が進むにつれて、アリッサを演じていく上での心の変化とか、エマやお母さん、D.D.アレンなどブロードウェイの俳優、いろんな人達に対してのリアクションなどの細かい所が重要になってくると思っています。アリッサは、エマの芯の強さと優しく包み込んでくれる性格に、弱くてタジタジして引っ張ってもらいますが、後半になるにつれて、自分の事をカミングアウトするという1つの大きな壁を乗り越えていくために、お母さんや学校のみんなとの向き合い方とかいろんなことに勇気を振り絞って一歩行動に出なくてはいけない。お客さんやいろんな方に観て頂くときに、みんなが本当に報われて良かったねとなるタイミングがアリッサの心情の変化などにあると思うので、今はやればやるほど辛い感じです。もっと追及していかなくちゃいけないですし、映像とは違う舞台の難しさや稽古の一連の流れを自分の中で整理しながらやっていくのに精一杯で、それをどんどんブラッシュアップしていかなくちゃいけないと思っています。

――「細かい所」というのは心情の部分も含めて?

三吉彩花 心情の部分もそうですし、自分の感情の中で思っていても観ている人達にどこまで伝わっているか、そういう伝えるということを動きで表現しなければならないので、そこもすごく難しいなと思います。

三吉彩花

三吉彩花

葵わかな、三吉彩花それぞれの挑戦

――葵さんは、『わろてんか』(NHK連続テレビ小説、17年放送)以降、笑顔の印象があり、殺人事件を犯した女性3人の生涯を描いた『インフルエンス』(WOWOW、3月放送)は「転機になる」と話していましたが、今回はどのように受け止めていますか。

葵わかな 今回初めてシングルキャストで、しかもみんなが主役でもある物語なのに主人公にいさせてもらって、やればやるほど自分の役の大きさというか、もっと大きい人間にならなきゃいけないなって感じています。今までやっていた役でいうと、キャラクター自身がドラマチックな背景や過去を背負っていたことが多いので、演じる幅の広さをあまり意識しすぎなくても、自然とスポットライトの当たる場所に居られていました。でも今回は、地味というか普通な子。普通な子がすごい事をやるからドラマチックなんですけど、ブロードウェイの方達がすごいですし、あの方達のキャラクターの濃さや物語上、あの方達の意識を変えなくちゃいけません。それを考えると、外見とかの派手さではなく、エマの持つ心の派手さというか、他とは違うものがどれくらいあるか、それをどれくらい表面に出すかによって変ってくるのかなと思っています。役の持っている気持ちの面での広がりの大切さをすごく感じています。見た目がすごく派手な人だったら性格も分かりやすく表すことができますが、エマは普通の田舎の女の子でちょっと皮肉屋だけどわめいたりもしないので難しいです。

――その分、役者としてはさらに成長できる要素ではありますね。

葵わかな 良い部分を利用して、成長する姿が素敵に見えたら良いなと思います。

葵わかな

葵わかな

――三吉さんは『ダンスウィズミー』の時にいろいろな重圧で涙を流されていましたが、今回も初舞台で重圧があると思いますが、その時とは違いますか?

三吉彩花 全然違います。私は作品ごとに、心境も違いますし、捉え方も違っています。どれも同じくらい熱を注いでやっていますが、今回は今まで想定していたことじゃない事に挑戦するので、またあの時とは全然違う感じです。

――このタイミングでミュージカルをやるというのは「俳優」というキャリアを考えたときにどう思いますか。

三吉彩花 いつか経験してみたいと思っていましたし、舞台を観に行ったときに逆にあの舞台に上がったらどういう光景が見られるんだろうと日頃、感じていました。今の世の中の状況的にもなかなかシビアで難しいところだと思うんですけど、こういう時だからこそエンターテインメントでしっかりと愛や明日への活力、パワーを与えられたらいいなと思います。

三吉彩花

三吉彩花

歌に難しさも

――感情表現という意味では歌もその一つだと思いますが、結構アップテンポな曲が多い印象を受けます。歌はどうですか。

葵わかな 歌のレベルは高くて難しいですが、それがきちんと出来たなら、すごいパワーになって私たちを支えてくれる楽曲達だと思っています。良い曲なのは間違いないです。

――葵さんは深みのある声が印象的なので、アップテンポな曲をどう歌いこなすかが楽しみです。

葵わかな どれもテンポが速くて、それがこの作品の軽快さを出していると(岸谷)五朗さんは仰っていましたが、難しさもあって。グルーヴ感を出すのが難しい。アップテンポということは早く息を吸わなきゃいけないし、早く音を切らなきゃいけない。それに加えて結構踊るシーンがあるので、ダンスしながら歌うのは体力も含めて難しいです。

葵わかな

葵わかな

――歌詞も含めた歌の印象は?

葵わかな 等身大だなと思いました。今まではクラッシックな曲を歌うことが多かったのですが、今回は普通にジーパン履いた子が歌っているような曲。赤裸々にティーンエイジャーが自分の事を愚痴ったりする曲もあって。歌で愚痴っているって面白いよね(笑)。

三吉彩花 だいぶ愚痴っているよね。文句ばっかり言っているから(笑)。

葵わかな 私も最初のソロは愚痴なんですよ。伸び伸びやれている気がします(笑)。

――三吉さんはどうですか。歌声はピュアな印象がありますけど。

三吉彩花 私が普段喋っている声の印象より、歌うとだいぶパーンと明るくなるから、「意外と歌声、可愛いね」と言われて、そこを意識して歌っているわけじゃないですけど…と返すような会話はよくあります。

――でもこの曲たちにぴったりだと思いました。

葵わかな アリッサっぽい声だと思う。

三吉彩花 そう言っていただけると救われる。

――それと可愛らしさというギャップもいいですね。

三吉彩花 パッと見たときにアリッサの方が大人っぽくて、エマの方が女の子っぽい可愛らしい感じに見えるけど、中身は正反対なんですよ。エマの方がしっかりしているし、アリッサはどっちかというと「エマ~、どうしたらいいの~」みたいな感じだから、そのデコボコ感のメリハリが見えるとニュアンス的にも面白いのかなって思います。

三吉彩花

三吉彩花

初共演、お互い「似ている」

――さて、お二人は本作が初共演ですが、最初の印象と実際やってみた感じはいかがですか。

葵わかな 彩花ちゃんはシュっとしていてスタイリッシュで、女優をやっている事も知っていたけど、モデルのイメージが強かったから、クールな子なのかなと思っていました。ちゃんとした生活を送ってそうだなと。

三吉彩花 じゃあ、今は送ってないって思っているってこと?(笑)

葵わかな 違う、違う(笑)。送っているんだけど、厳しくすべてを制限してやっているのかなって。ストイックって意味。私はどっちかというと普通だから、ダラダラしているとか思われたらどうしようって(笑)。

――三吉さんと比べるとって事ですか。

葵わかな そうです(笑)。もちろん仕事はストイックにやるんですけど、その他の事に関しては、ストイックにしたいという気持ちはなくて。こじんまり生きていきたいと思っているので、その点で言うと、もしかしたら気に触る事しちゃうかも、合わないかなと思っていました。

 しかも、前回(アナスタシア)と前前回(ロミオ&ジュリエット)、ダブルキャストが木下晴香さんで同じキャストだったんです。でも今回はシングルキャスト。知っている人もほぼいなかったから緊張もあって。でも実際お会いしてみるといい意味で普通の感覚がすごくあって、頑張る時は頑張るし、休むときは休むし、良い時はいいし、良くない時は良くないし、楽しい時は楽しいし、疲れたときは疲れたって。あっそれはそうだよなって。彩花ちゃんも人間なんだから、こういう感じだよなって反省して。思ったより笑うし、今は大好きです。

三吉彩花×葵わかな

三吉彩花×葵わかな

――葵さんのイメージは?

三吉彩花 人見知りなのかなって思っていました。私も初対面の方は人見知りをして、ガードが2枚くらいある感じなんですけど、それが似ているかもって。会って話したり本読みしたり、(本読みの)席もずっと隣だったから、会話も近くで出来ていたのが良くて、想像していた感じのわかなちゃんの延長線上に、もっといい意味で、この子すごい私の大好きなタイプの変な子だなって(笑)。違うけど、似ているんですよ。稽古場でもよく言われる。リアクションを取るタイミングとか、ノリの感じも似ている。しっかりしているし、年下という感じもしないって。

――ということは今回お二人とも重要視されている心情面では相性がばっちりということで、お互いに良い影響を与えそうですね。

葵わかな ぴったりです!

三吉彩花 私もそう思います。周りからも言われて、カップルっぽさが出てきたのかなと感じて嬉しいです!

三吉彩花×葵わかな

三吉彩花×葵わかな

 ◇

 製作発表会では主宰の一人、岸谷五朗が二人のキャスティング理由を明かした。岸谷は「絶妙な2人のバランスが必要だった」とし、フライヤー用の写真撮影している時に二人の姿をみてガッツポーズをして確信を得たという。

 葵については「エマは可愛らしい子。でも芯が強くないといけない、少し図々しくないといけなく、その太さを持つのは難しい。でもわかなちゃんは可愛いのに、実は芯が強い。芯が強い芝居がニコニコと可愛いのにできる。それは最大のエマの難しいところで、それが出来ている」と称えた。

 一方の事務所の後輩でもある三吉には「いつかドロドロと這いつくばった演技をしてもらいたいと思っていた。今作が初めての舞台。ぐいぐいと毎日、水をもらって成長する木のように伸びている」と手応えを口にした。

 「Daiwa House Special Broadway Musical『The PROM』Produced by 地球ゴージャス」は、3月10日から4月13日まで東京・TBS赤坂ACTシアターで、5月9日から16日まで大阪・フェスティバルホールで上演される。

三吉彩花×葵わかな

(おわり)

葵わかな
メイク:竹下あゆみ
スタイリスト:岡本純子(afelia)

三吉彩花
メイク:牧野裕大
スタイリスト:藤本大輔(tas)
ELISABETTA FRANCHI*エスケーシー(06-6245-3171)
TASAKI*株式会社TASAKI(03-3289-1184)

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三吉彩花
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