「色んなカタチで歌が届けられる」石川さゆりの大きな発見とは
INTERVIEW

石川さゆり

「色んなカタチで歌が届けられる」石川さゆりの大きな発見とは


記者:村上順一

撮影:

掲載:21年03月07日

読了時間:約9分

 歌手の石川さゆりが1月27日に、通算127枚目となる両A面シングル「なでしこで、候う/何処(いずこ)へ」をリリースした。作詞に阿木燿子、作曲に杉本眞人、編曲に坂本昌之という布陣で制作された同曲は、春を感じさせるサウンドに女性の気持ちを語りかけるように歌い上げた1曲。カップリングには6月に公開の役所広司が主演する映画『峠 最後のサムライ』主題歌「何処へ」を収録。インタビューでは、無観客という紅白史上初となった『第71回NHK紅白歌合戦』に出演し、どのようなことを感じたのか。石川さゆりが明智光秀の母親・牧役として出演した大河ドラマ『麒麟がくる』での思い出、昨年12月に他界したなかにし礼さんとのエピソードなど、多岐に亘り話を聞いた。【取材=村上順一】

令和の『天城越え』と感じた瑛人の「香水」

――昨年末に行われた『第71回NHK紅白歌合戦』での「天城越え」のパフォーマンス、素晴らしかったです。

 ありがとうございます。無観客という新しい形は43回、紅白歌合戦に出演させて頂いて初めてでした。お客さまが目の前にいらっしゃらない寂しさはありましたが、自由度としてはみなさんも広がったんだと思います。制限がある中でも面白いことができる気付き、発見がありました。

――紅白で話題になったYOASOBIやNiziU、瑛人さんなどの方々は石川さんにはどのように見えていましたか。

 私がデビューした頃と今とでは、歌謡曲が生活の中で聴こえる幅も深さも違うように感じています。瑛人さんの「香水」を聴いた時に、「令和の『天城越え』なんだ」と思いました。もう忘れたいけど香水の匂いが思い出す香りの記憶、それは「天城越え」と一緒なんじゃないかと。それが今の彼らの表現になったという風に感じました。この先、彼らが大きな会場でも今の純粋な気持ちを持ち続けて、どのようなエンターテインメントを作っていけるのかとても楽しみです。新しいエンターテインメントを作り始めた皆さんを、私も音楽仲間として応援したいです。

――石川さんにとって昨年最も大きかった気付きは?

 色々なカタチで歌が届けられるということです。おうちにいなければいけない状況でも、歌をどうにか届けられないものかと思い、それでYouTubeで届けようという事になったんです。あまり大人数が集まってはいけないということで、最初は楽器パートごとにリモートでつなげて配信をしてましたが、そのうちピアノ一人、ギター一人、チェロ一人という少人数であれば、私の音楽室から皆さんに配信ができるとなって。それは私が今まで歌ってきた道にはなかった皆さんへの“歌届け”だったんですが、すごく面白く大きな発見でもありました。

――ちなみに石川さんはYouTubeには以前から興味があったのでしょうか。

 昔のものも観られますし、何でも観ます。ずっと動画を流しているとたまにとんでもないところに飛んでいっちゃうんです。またそれを観るうちに「こっちは何かしら?」って、自分の気持ちの流れのままに、1回観たものにもう戻れなくなったりして(笑)。色んなものを観て新しい世界の扉を開いたみたいな感じもあります。

――最近観た印象的な動画はありましたか。

 水曜日のカンパネラの「桃太郎」です。大好き! ステージも観てみたいなって(笑)。

――ステージといえば有観客のコンサートも開始されました。

「お客様は50%までで、まだ大勢のお客様はお迎えできない」とのことでしたので、昨年の春頃からやり始めていたYouTubeでのアコースティック編成を基にステージを組み立てることにしました。「天城越え」をピアノとチェロだけで歌ってみたり、オーケストレーションされた楽曲をたった1本の楽器で歌えるなど、アコースティックというのは違った聴こえ方がするし、ステージも密にならないし面白いなって。不自由の中で今までやったことのないこと、新しい自由を発見できたのが去年でした。

――大勢のお客さんと対面するということは凄くエネルギーが出るものなのでしょうか。

 それはむしろ、歌うという事と、聴いていただくという事と、もう一つ、皆さんからエネルギーをいただくという事だと思います。配信ライブでも、不思議な、目に見えないエネルギーが立ち上がってくるんです。それをあらためて昨年は感じました。

生きた歌として歌い手が歌っていかなければいけない

石川さゆり

――昨年、なかにし礼さんが他界されましたが、なかにしさんの作品を数多く歌われている石川さんにとって、なかにしさんはどんな作詩家だったでしょうか。

 2007年に阿久悠さん、2010年に吉岡治さんがお亡くなりになり、そして昨年はなかにし礼さんも… 作詞作曲をしてくださる方々がいて、その表現者として歌い手がいるんです。それゆえ「石川さゆりをつくってきた方達」という気がします。なかにし先生が大変な病気との闘いも、書くことで生きるエネルギーに変えていかれるのを拝見し、凄まじい力強さを教えていただきました。

――なかにしさんの作品をどのような想いで歌っていきたいですか。

 素晴らしい言葉をいっぱい書いてくださったので、残された作品が風化していかないように、ちゃんと生きた歌として歌い手が歌っていかなければいけないなと思います。歌をいただき、一緒にたくさんお話もし、過ごした時と、スタジオでの礼さんの思い出もちゃんと感じながら大切に歌っていきたいと思います。

大河を満喫して帰ってまいりました

――大河ドラマ『麒麟がくる』が2月7日に最終回を迎えました。

 2019年6月から撮影がスタートして、暑い夏から秋冬春夏秋冬と季節が過ぎました。私は毎日ではなかったのですが、役者の皆さん、大勢のスタッフの皆さんと、コロナ禍のなか日々過ごしてまいりました。今の時代に『麒麟がくる』という題材を何か私達のやるべき作品だとして取り上げたというのは、空の高い所から人々は試されたり、見られたりしているんだなとも思いました。

――撮影はいかがでしたか。

 最初は要領を得ずに、「私はどこに立っていればいいんでしょう?」という感じだったんですけど、1年半くらい一緒にやっていると「あと1回だよ!」というように、皆さんとLINEでやりとりもしたりしていました。

――役者としての経験が歌にも活かされると感じた部分も?

 私は絶対頂いて帰ってきたつもりです。それはまたどこかで皆さんにちゃんとお届けできると思っています。だってあんなにアウェイを楽しんできたんだから。でも、みんなから「こんなに現場を楽しんでいる人はいない」と言われたくらい見るもの全てが新鮮で(笑)。例えば100人を超えるような人達が動いているのもそうですし、役者さんが被るかつらが100、200という数で並んでいたり、「これが戦か…」と思いながら写真を撮ったりして。「なにしてるんですか?」とみんなに言われましたけど(笑)。

 もう撮影で市場が出来ると気になっちゃって、その時代にはどんな魚がいて何が売っていたのかと、自分の出番でないところでも見に行ったりしました。スタジオに馬が来ると会いたくて走って行ったり。「馬に乗りたいな…」って言ってたらみなさん親切で、十兵衛がお母さんを連れて美濃の国に帰るシーンを馬に乗って帰るようにしてくれて。本当にみなさんには親切にして頂いて、大河を満喫して帰ってまいりました! あと、髪の毛もどうせやるならと地毛でやっていたんです。「そんな役者なかなかいませんよ」って言われて(笑)。

今、女性の詞が歌いたいと思った「なでしこで、候う」

「なでしこで、候う/何処(いずこ)へ」ジャケ写

――さて、今作「なでしこで、候う」についてですが、1月27日リリースで127枚目の作品というのはすごいですね。

 私は狙ってはいませんけど、偶然という名の選ばれしことっていっぱいあるんだなと思うんです。

――本作の作詞が阿木燿子さん、作曲が杉本眞人さんとなった経緯は?

 杉本さんには、最近の私の作品で曲を書いて頂くことが多くて、今回もお願いさせていただきました。作詞家の方は私の場合、男性が多かったんですけど、「今、女性の詞が歌いたい、女性の作詞家さんと組みたい」という思いがあって、阿木さんにお電話して何回かお話をしている中でこの歌が生まれました。

――女性の書いた歌詞を歌いたいと思われたのは?

 社会的にジェンダーレスというのがとても大きく扱われていて、それはそれで自由な表現ができていいなと思ったんですけど、母親になったり、働いている女性もいますし、これだけ女性が社会の中に自由に進出してきた時に、女性同士で励まし合ってもいいかなと思ったのがきっかけでした。逆に最近そういう歌はなかったなと。私のスタッフもそうなんですけど、女性で一生懸命良い仕事をしているんです。でもお家に帰ったら一人でご飯を食べてまた仕事の続きをやっちゃったりして、女性だけではないのかもしれないけど頑張っていると思うんです。本当は「大丈夫だよみんな、根っこは一緒だよ」とか、「大丈夫かい?」と言ってもらいたいんですけど、そういう女心みたいなものを今の時代だから歌ってみたいなと思いました。

――石川さんが「女性は強い」と思った瞬間はありますか。

 “決断”ですかね。男性は優しいのか、「こうするんだ」と思っても、「しかし、これをやってしまうとこの人の立場がない」とか思ったりするでしょう?

――確かに思います。優柔不断なだけかもしれないのですが(笑)。

 そんな言葉もありますね(笑)。その優柔不断や優しさだけだと、事が進んでいかないし、だからと言ってカードをどんどん乗っけていっても倒れちゃうし。だから男性と女性がいるんでしょうね。どっちかが突っ走ると「いい加減にしなさいよ」と、漫才みたいに止めが入ったりするじゃないですか? 「それ行け!」と、2人で走っては行かないような気がするんですよね。

――実際に「なでしこで、候う」のサビの<大丈夫よ>というのが今の時代に凄く合っていて、こんな時代だからこそ安心感を与えて頂けました。

 私もよく母に言われた言葉でした。どちらかというと私は心配性で、石橋を叩き割って落っこっちゃうみたいな感じだったんです(笑)。でも、母が「大丈夫よ、やってみなければわからない」とよく言っていて。<大丈夫よ 独りじゃないわ>という、そういう勇気をくれる、本当は大丈夫かなんて誰もわからないんだけど、でもそういうのって大事だなと思います。それで杉本さんのメロディがそこにしっかりとはまる、勇気をくれるんですよね。頑張っているメロディではなく、勇気をくれるメロディが付いていると感じています。

――そして、坂本昌之さんのアレンジが素晴らしいです。

 爽やかに、さらりと。このアレンジを聴いた時にほっとしましたね。「春が来るね」、そんな気がしました。

――カップリングの「何処(いずこ)へ」はスケール感がすごく大きい曲です。

 これは原作が司馬遼太郎さんの小説を映画化した『峠 最後のサムライ』という、役所(広司)さん主演の映画主題歌です。その音楽を加古隆さんが全編担当されていて。その中で歌を入れたい、「石川の声を入れたい」というところから、生まれた歌なんです。そうしたら加古さんが「主題歌はボーカルのキーに変えず、全編サントラのキーでいきたい」とお話しされて。なので、キー的にはみなさんが「歌いやすい」と感じてもらえるような歌ではないと思うんですけど、結果的に本当に大きく世界観がある曲になって嬉しかったです。是非、映画を観ていただいて、最後に流れてくると、音源とはまた歌の聴こえ方、世界が違って見えるかもしれないです。

――映画館でもまた違った印象を楽しめそうですね。さて、2021年はどんな気持ちで活動していきたいですか。

 意気込んでコンサートの準備をしても「延期、中止」になって、お客さんには本当に申し訳なくて…それでもチケットを持っていてくださるのは本当にありがたいなと。国の方針に則って私たちもしっかりエンターテインメントを作りたいと思っています。この間、大阪のフェスティバルホールと、習志野と2カ所コンサートをやらせて頂いたんですけど、みんな声に出せない「待ってたよ!」という大きな拍手をしてくださって、後半になるにつれてその大きな拍手が熱い拍手に変わっていくのにとても感動しました。これをまた自分のエネルギーにして、みなさんにもっとバージョンアップしたものをお届けしなきゃと思えたので、みんなで思いっきり楽しんで頂ける、そういうコンサートをやりたいと思います。

(おわり)

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