INTERVIEW

バカリズム

乗り切るためには書くしかない。
コント職人&名脚本家の仕事論。


記者:鴇田 崇

写真:

掲載:21年02月10日

読了時間:約7分

 バカリズムと井浦新がダブル主演した、バカリズム脚本のサスペンス・コメディー『劇場版 殺意の道程』が全国劇場公開と配信でスタートした。昨年末まで放送していたWOWOWオリジナルドラマ「殺意の道程」に新たな編集演出も加わった再編集版で、復讐殺人計画の準備を1つずつミッションとしてクリアしていく満(バカリズム)と一馬(井浦新)の顛末が、1本のジェットコースタームービーとして生まれ変わったのだ。

 「誰も見たことがない新たなる復讐劇」として人気を集めた本作は、完全犯罪を目論む男たちが、まず「どこで打ち合わせをするのか?」から悩み始め、普通の映画やドラマでは省略されるであろうどうでもいい“それ以前”のドタバタを、やたら細かくリアルに描いて笑いを誘う異色作。そこにはバカリズムのオリジナル性が炸裂しているが、その笑いはどう生み出されているのか。生みの苦しみに直面した際の意外すぎる解決法まで、バカリズムにじっくりと話を聞いた。【取材=鴇田崇】

(C)2021「劇場版 殺意の道程」製作委員会

無駄なもの

――もともとドラマ版あっての劇場版ということで、カットなどの作業は大変だったのではないでしょうか?

 一番大変だったのは、住田崇監督だったと思います。僕自身は脚本を書き直したというよりも、監督が編集して2時間くらいに収めたものを観て、「あそこを入れたい」「ここはなくていい」みたいな相談をしながら、また編集してもらったので、僕は比較的楽でしたね。

――ファンの間では独特の間などが面白いので、どこが切り取られるか気にされている声もあったようです。

 そうなんです。だから難しいのは、基本的には要らないっちゃ、ほぼ要らないとうか、このドラマは無駄なところだらけなので、その中でも必要な無駄と本当の無駄を分けて考えることでした。だから僕の優先順位として一番は笑いなんですけど、そういう微妙な違いがあったりするから、「映画としてはこっちを優先したほうがいいのではないか?」とか、そういうやり取りは、多少はありましたけどね。

――監督の想いとは基本的には合致していましたか?

 そうですね。だいたいは。もともと好きなものがすごく近い方だったので、そこはなんとなく共有できていたので、そんなにストレスはなかったですね。

――たとえばどのシーンが必要な無駄で、どのシーンが本当の無駄なので?

 言っちゃうと、買い出しのシーンなんかなくてもいいじゃないですか(笑)。普通のサスペンス・ドラマであれば、ごっそり弾かれちゃう部分ですけど、もともとがごっそり弾かれちゃうところこそやろうという作品だったりもするので、そのシーンは僕にとってすごく必要な無駄でしたね。なので入れることになりました。

 「なんだよ、ここ」って言われるようなところが入れたいところだったりするんですよね。ドラマの展開で必要なところをカットして多少つじつまが合わなくなっても、笑いさえあればいいやって感覚なんで。たとえばここの伏線がつながらなくなるからって、でも笑いを減らすくらいなら、そっちを減らしたい。一番は笑いを獲りたいので。

――絶対入れたかったシーンは?

 キャバクラに行く車中でかずちゃんの着ている服がいつ買ったものかという話題があるんですけど、あれ絶対要らないんですよ。ドラマ上は。ああいうのは真っ先に切られるんですけど、あれこそが「殺意の道程」のよさだと思うんですが、最初はカットされていました。でも大事なシーンですし、全7話を2時間に収める時にけっこう切らないといけなかったから、そういう僕のわがままを聞きながらやった部分もあるので、そこは、編集は大変だったと思います。映画として成立させなければいけない立場と、ただ笑いを撮りたいだけの立場では、意見の食い違いは若干あったでしょう。

(C)2021「劇場版 殺意の道程」製作委員会

バカリズムの世界に入った井浦新の魅力

――もともとシリアスなイメージもあったと思いますが、バカリズムさんの世界にやってきた井浦新さんの魅力も光っていました。

 とにかく真面目な方なんです。僕よりも一個年上で、作品に対して真摯的で。事前にしっかりと読み込み、空き時間に「このドラマはサスペンス・コメディーとおっしゃっていますけど、僕はヒューマン・ドラマでもあると思うんですよね」と言われていて、僕が想像もしていなかったところまで考えてくださっていました。思ってもいなかったですね。「ふたりの男の青春ロードムービーでもあるんですよ」とも言われたのですが、「違いますよ」とは言えなかったので「そうですね…」と(笑)。ただ、その感じが本当に今回の役柄のかずちゃんに近いというか、必要以上に生真面目で、ものすごい情熱をもって、一個一個に真剣に取り組む。あそこまでの熱量をもって作品に取り組んでくる人をあまり観たことがなかったので、それは性格であり才能ですよね。その熱量はすごかったですね。それがいい感じに作品の中で空回りしてくれるので、シリアスなシーンでは全力で重々しいい演技をしてくれたり、素晴らしい方です。

――井浦さんを主人公にしたのも、そういう理由でしたか?

 もちろん(別の作品で)演じている姿を観たことがあるんですけど、なんとなくシリアスな表情や雰囲気というものが、今回の作品ではフリの部分でものすごくいきてくるんですよね。主演はよりサスペンスっぽい雰囲気を出せる人のほうがいいなって思っていたので、井浦さんが真面目に抜けたことを言うとよりおかしくなるというか、井浦さんが演じると説得力があるんですよね。井浦さんがコンビニのパンの話をしているだけで面白く感じる。そいいう意味ではピッタリで、描いている時から井浦さんをイメージして描いていたので、バッチリだと思いましたね。

――俳優としての凄みも感じますよね。

 そうですね。もともと脚本でイメージして脳内再生されていたものが、目の前で再現されている感じでしたし、本人いわく、ああ見えてほしがる部分があったっぽくて、コメディーだからこういう風にやったほうがいいとか、コミカルに動いたほうがいいのかなとか、研究されていました。リハで試されていたことがそれは違うってなったこともありましたが、その臨機応変に試していく姿勢はすごいなって思いました。

(C)2021「劇場版 殺意の道程」製作委員会

乗り切るために必要なもの

――コントのネタとドラマの脚本では、笑いを生み出す方向性は同じですが、作業に違いはありますか?

 ほぼ同じですよね。僕は脚本の手法を勉強していないので、脚本の手法がよくわからない部分があって。コントの書き方はわかるんですけど、普段なら長くて20分くらいの尺でやっているものを、1時間いただいて描いている感じなので、基本的には変わらないですね。ただ、あんまり僕にとってはコントだと思ってやってるんでって言いすぎちゃうと、俳優さんとかキャスティングする時にやってくれないかもしれないので、あんまり大きな声で言えないのですが、ほぼコントとして書いています(笑)。

――ネタと全体のストーリーは、どちらが先に存在しているのですか?

 車の中でぼそぼそと話しているシーンは、あの画が最初にありました。サスペンス・ドラマで張り込みをしているシーンがありますが、ふたりが延々30分くらい関係ない話をしていたら面白いな、そういうの観たいなみたいなものがあって、「なんかそういうドラマ作れないですかね」と住田さんと話していたら面白がってくれて「なんかやりましょうか」みたいな。そのちょうどいいタイミングでWOWOWさんからもお話をいただいて、サスペンス・コメディーをやりましょうと。最初は社内の会話、無駄話でした。重々しい設定があればあるほど、よりくだらなく聞こえるんじゃないかみたいな。そいうところが最初ですね。そこからストーリーを後付けでつけています。

――ちなみに、たくさんの笑いを生み出し続けていますが、仕事で筆が進まない時、どう乗り切っているのですか?

 それはもう、乗り切るためには書くしかないです。筆が進まなくても書くしかないから、ひたすらパソコンの前で考えますね。基本的に気分転換している時間もないんで、そんなことしていたら締切がきちゃうんで。絶対に締切は守りたいので、それでもなんとか絞り出したいみたいな。それで今までなんとか乗り越えてきてるんで、逃げない、ですかね(笑)。

――ストイックすぎますね(笑)。

 それでも自分の経験上、なんだかんだ出てくるから、っていうのがあるんですよね。パソコンの前にいれば、そのうち出てくるという感じなので、基本的にはあきらめずに、何も出てこなくても、ずっとパソコンの前で考える、ですかね。

――ストレスで体に異変は出ないんですか?

 体に異変は出ていますよ。肩もやばいですし、整体に行くと、普通の人でも耐えきれないくらいのストレスを体が抱えていると。それえを超える精神力があるから、普通でいられていますけど、みたいな感じでした。普通なら病院に行っているレベルだって(笑)。

――最後になりますが、配信と公開を楽しみにしているファンにメッセージをお願いいたします。

 もう、面白いんで(笑)。お笑いとして、コントとして、いい仕上がりになっていると思うので、そこは保証しますので、観ていただきたいですね。サスペンスが苦手な人でも、というか苦手な人ほど観ていただきたいという感じです。

バカリズム

(おわり)

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