R&Bソウル・ユニットRhye、ステイホーム中に聴きたい「メロウな癒し」
INTERVIEW

Rhye

ステイホーム中に聴きたい「メロウな癒し」


記者:編集部

撮影:

掲載:21年01月22日

読了時間:約6分

 ロサンゼルスを拠点に活動するマイク・ミロシュのR&Bソウル・ユニット・Rhye(ライ)が22日、ニューアルバム『Home』をリリース。2013年のデビューアルバム『Woman』でセンセーショナルに登場して以来、高評価を獲得し、多くのファンを魅了してきた彼が、約2年ぶりにアルバムを完成。男性版シャーデーなどとも形容されるメロウなR&Bチューンから、ディスコやダンス、ロックや、はたまた聖歌に至るまでを取り込んだ新たなサウンドスケープに挑戦する。コロナ禍を先取りしたかのような“ホーム”をテーマにした作風は、ステイホーム中のリスニングにも最適。西海岸から届けられた「メロウな癒し」とは?【村上ひさし】

このアルバムは一筋縄ではいかないよ(笑)

『Home』ジャケ写

ーーおそらくコロナ禍になる前から取り掛かっていたと思うのですが、今回のニューアルバム『Home』をどのような作品にしようと考えましたか?

 新しいことを成し遂げたいというのはあったけれど、ライの世界観の中でというのは変わらなかった。まったくこれまでとは違った、突拍子もないことをやろうというのではなかったよ。多様なジャンルを結合させたい。その方向性は続けていきたかった。例えば新作では、60人編成の合唱団を起用した。ほとんどグレゴリオ聖歌のようなクラシカル調だったり、クラシックロック的な要素を混ぜ合わせたり、ダンス的な要素も取り入れた。「Black Rain」なんてほとんどディスコ調だし、ソニック面における限界に挑戦したかったから、生ドラムもいっぱい導入した。前作は優しい作風だったけど、新作ではもっとエネルギーを感じさせたかったんだ。よりライブに近いサウンドってことかな。

ーー前作のEP『Spirit』はピアノをメインにしたシンプルな作風でしたが、新作で重要な役目を果たした楽器やサウンドというのは?

 新作ではシンセサイザーをたくさん使ったよ。それも全てアナログのシンセを。コンピュータ系統の音源を使ったものは一切ない。3種類の異なるモーグシンセとハーブとジュノ……そこにドラムやギター、コーラス、僕の歌などを混ぜ合わせた感じだね。あと弦楽隊も。かなりアップビートになったのは確かだよ。

ーー終盤には「Holy」(神聖)という曲が登場するなど、アルバム全体にとても神聖なムードが漂っています。

 うん、ただし、このアルバムは一筋縄ではいかないよ(笑)。3つくらい異なる解釈ができる感じなんだ。その「Holy」って曲も、じつは“神聖すぎないで、僕のために”と歌っているんだ。“少しくらい汚れてても大丈夫だよ”ってね。そう歌いながらも合唱団を使ったり、神聖で伝統的なサウンドを奏でている。オルガンなど伝統的な宗教サウンドを取り入れて。逆説的なんだ(笑)。

ーーアルバムを通してのテーマというのは?

 このアルバムに『Home』と付けたのは、僕が家庭(Home)を持ちたいと強く思っているからなんだ。この10〜15年ほど、僕の人生は波乱万丈だったけど、初めて家庭を持ちたいと思ったんだ。心の拠り所を築きたいと。恋人のジェヌヴィエーヴとの関係も良好だったし、自宅で音楽を創造したいと考えた。2人の新しい家にホームスタジオも移転した。ロサンゼルスの郊外マリブの丘のてっぺんにある家で、雲の上って感じだよ。創造性を高めるにも最適だし、安らげる聖域のような場所なんだ。

ーー自粛期間中にクリエイティブになれたというアーティストも多いようですが。

 うんうん、すごく分かるよ(笑)。僕もこの1年間に映画音楽を手掛けたり、ライのこのアルバムやセキュラー・サバス(Secular Sabbath)というプロジェクトの作品も手掛けたし、けっこう忙しくしていた。ツアーができない代わりに、じっくり音楽と向き合うことができたのも良かったし、こんな時期だからこそ自分をポジティブにしてくれる音楽や、幸せになることを実践したいんだよね。

ーーセキュラー・サバス(Secular Sabbath)では、具体的にはどういう活動をしていますか?

 セキュラー・サバスは24時間続けて行うライブイベントなんだ。大抵は参加者のためにベッドを用意して、泊まってもらう。素晴らしいアーティストたちがアンビエントミュージックを披露するんだ。僕も即興で演奏する。1〜2時間くらいかな。4時間やったこともある。普段とは違った声を出してみたり、常に実験している感じなんだ。おかげで僕も歌に自信がもてるようになったし、ライの新作にも反映されていると思うよ。と同時に、セキュラー・サバスは、ライへの反動でもあるんだ。ライでは1時間半〜2時間の決められたショーを繰り返すけど、セキュラー・サバスはごく少数のイベントで、参加者の間で特別な瞬間が生み出される。

ーーディプロと一緒に配信ライヴを行っていましたよね。まったく異なるタイプのアーティストじゃないかと思っていたのですが(笑)。

 アハハハ、そうだよね。ディプロとは友達で、けっこう一緒に時間を過ごしてる。僕の恋人も、彼の友人だよ。みんな仲良しって感じで、彼はセキュラー・サバスでも何度かプレイしているよ。すごく美しいアンビエント・ミュージックなんだけど、みんなが知ってるディプロとは違っているかもね。数ヶ月前に発表した彼のアンビエントのアルバム(『MMXX』)でも、一曲一緒にやったよ(「 XII」)。他にも一緒にダンスミュージックを作ってるけど、いつ完成するかはまだ未定かな。

アートとは人間がなせる最も美しい行為のひとつ

ーーライの「Black Rain」のMVでは俳優のアーロン・テイラー=ジョンソンが上半身裸でひたすら踊っていましたよね。

 パンデミック下のロサンゼルスでのビデオ撮影は、とても大変なんだよね。4人以上で集まるとかって。元々アーロンとは親しい友人だったし、僕のビデオで踊ってほしいと頼んだら、二つ返事でOKしてくれた。それに彼のほうから“だったら妻のサム(・テイラー=ジョンソン、『ノーウェアボーイ ひとりぼっちのあいつ』などの映画監督)に頼んでみる?”と提案もしてくれた。お互い近所に住んでるから、一緒にディナーをしたり、よく会ってるよ。

ーーあのビデオにはどのようなメッセージが込められていますか?

 アーロンは若い頃にバレエを習ってて、今でも毎日サーフィンをしているから、とても強靭な身体をしている。見れば分かるけど、内なるパワーも強靭なんだ。彼の演技もそうだけど、ある意味、天才的だと思うな。僕があのビデオで伝えたかったのは、2020年に起こった数々の苦難を乗り越え、打破しようってこと。「Black Rain」は、カリフォルニアなど西海岸一帯で起こった山火事をテーマにしている曲で、自宅を天災で失ってしまう恐怖や、そんな試練や障害に立ち向かい、乗り越えようと歌っている。彼は踊ってそうした障害を跳ねのけてくれたんだ。単に踊ってるだけのビデオと映るかもしれないけれど、そういうメッセージも込められている。とはいえ、何となくでもいいんだ、そういう感じを受け止めてくれたら。

ーーライの音楽で人々に癒しを届けたいとは?

 制作しているときは、そんなふうには考えないし、考えないようにしているけれど、ライの音楽を聴いて癒された、穏やかな気分になったとはよく言われる。音楽って重要なカルチャーじゃないかと思うんだ。世の中にある美しい行為って、じつはそれほど多くはない。鉱山を採掘したり、油田開発や森林破壊など、そうした行為には美しさは見出せない。人間性の素晴らしさが発揮されるのは、やはりアートじゃないかと思うんだ。アートを創造することは、人間がなせる最も美しい行為のひとつじゃないかとね。なかでも音楽は、すぐさま人々に訴える力を持っている。知性ではなく、感情面に訴えかけることができる。すべての音楽が癒してくれるわけではないけれど、音楽による癒しは創造するクリエイター側と、そしてリスナー側にも作用する。ストレスが溜まりがちな今日この頃だけど、僕にできるのは、そういう穏やかな気持ちを届けることじゃないかと思うんだ。僕の役割は、メロウな音楽で人々を癒す。そういうことだと思うんだ。

ーー現状ではコンサート活動はまだ難しそうですが、今後の予定は?

 4月からヨーロッパツアーを予定していたけど、もしツアーが出来ないのなら、またアルバムを作るかな。曲を作りすぎって話もあるけれど……実際、この新作のためにも35曲ほど作ったしね(笑)。でも建設的でいたいから、そうだな、映画でも作ろうかな。映画音楽でもいいし。でも、やはりできればツアーをやりたいね。ステージに立つのは好きだし、自分の音楽を人々と分かち合って、ひとつに結ばれるのは、とても特別な感覚なんだ。

ーー家庭を作っても、世界中をツアーしたいと?

 うん、そうなんだ。みんなと音楽をシェアしたい気持ちは変わらない。音楽を人々とシェアする喜びは、他の何事にも替え難いんだ。

(おわり)

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