Chage「とりあえず笑っとけ」コロナ禍にこそ届けたい今感じる前向きな想い
INTERVIEW

Chage

「とりあえず笑っとけ」コロナ禍にこそ届けたい今感じる前向きな想い


記者:平吉賢治

撮影:

掲載:21年01月09日

読了時間:約9分

 Chageが2020年12月9日、ニューアルバム『Boot up!!』をリリースした。本作は10月7日配信リリースした「君に逢いたいだけ」を含む全6曲を収録。CHAGE and ASKAとしても長い間第一線で活躍する。今作ではCHAGE and ASKAのデビュー曲「ひとり咲き」のアレンジを手がけた日本屈指の編曲家の瀬尾一三氏との再会もあったという。コロナ禍の中でChageが感じることやこの状況下での音楽の表現の仕方など、現在の想いを聞いた。【取材=平吉賢治】

アルバム制作秘話“2020年を思い出せるメッセージ”

――様々なアプローチが楽しめる本作中、ビートルズを彷彿とさせる楽曲があると感じました。

 ビートルズが好きな方だったらニヤニヤする曲です(笑)。マイクの位置やボーカルアンプなど、「そうであっただろうな」というやり方でレコーディングしました。編曲の島田昌典君がビートルズフリークで、ビンテージをいっぱい持っているんです。メロトロン(アナログ再生式のサンプル音声再生楽器)もありますし。

――3曲目「No.3」ではメロトロンも使用されている?

 現役の物を島田君が大切に管理していたので使えたんです。2人で「ビートルズやろうね」と言って。

――確かに、ビートルズ中期を思わせるようなシタールの音も聴けました。

 そうです。『リボルバー』(ビートルズのアルバム)などのちょっとサイケな感じの。ビートルズがライブをやらずにスタジオで制作に没頭していた頃ですね。歌詞も「もしジョン・レノンが日本語が堪能だったらこんな詞を書くんじゃなかろうか」とか言いながら書いていきましたし(笑)。コーラスもジョン・レノンとポール・マッカートニーがいるような、“一人ジョン&ポール”をやって(笑)。楽しくやりましたね。本当にリスペクトしているのでどんどんやりましょうよと。

――音としてとても伝わってきます。1曲目「それが愛なら OK」ですが、ピアノが活き活きと感じます。

 これは島田君が鍵盤ですから、ピアノポップをやろうということでエルトン・ジョン(英ミュージシャン)やベン・フォールズ(米ミュージシャン)のようなものを是非とお願いしたらこういう風になって。それでバンドっぽく、あまりダビングもしていないし。

――音に厚みがありつつも各パートがスッキリと聴こえます。

 そう、粒が見えるでしょ? 一発っぽく録っていますから。

――なるほど。ところで今年を振り返るとたいへんな変化がありました。

 コロナ禍という地球規模のとんでもないことが起きた年でしたね。僕達はそれに直面して乗り越えようとしていますが、自分が5年後、10年後このアルバムを聴いた時に、2020年を思い出せるようにメッセージを残したかったかなと。そういう気持ちは強かったです。

――『Boot up!!』というタイトルは“起動”という意味がありますが、「コロナ禍からの起動」という想いも?

 みんなが地球規模で暗くなりましたから、うつむくのもいいけど立ち上がることも必要と思い、そういう意味も込めて『Boot up!!』と自分自身に鞭を打つ感じで。春先は正直、コロナ禍でどうしたものかと。マイナスなイメージばかりで。ライブができない、「集まっちゃいけない」ということで、音楽でどうしようと思っていたんです。ライブという大事なものを一瞬取り上げられたのは非常に痛かったけど音楽はライブだけではないと。ステイホームなら“ステイスタジオ”ということで音楽に集中してデモテープを作らせて頂いて「じゃあアルバムを作っちゃおう」と。こういう世の中だから、2人のプロデューサーから「Chageだから明るくいこうよ!」と、楽しいアルバムをというコンセプトになっています。全てがラブソングでいいんじゃないかと思って。

――明るいし、温かいアルバムと感じます。

 このアルバムを聴いて温かい気持ちになってくださったら嬉しいです。もうひとつ言うなら、これを聴いて世界一周したような、旅行もままならぬ状況だから行ったつもりでね。曲を聴いて「南国っぽいね」「ロンドンっぽいね」って言ってもらえたら嬉しいです。それで最後は日本に戻ってくると。

――確かに南国を感じられる「僕だけのピンナップガール」もありますし、色んな風景を感じられる曲が入っています。

 「僕だけのピンナップガール」は「ふたりの愛ランド」のスピンオフなんですよ。<アイ アイ アイ>というアマゾンズさんのコーラスが入っているけど、あれは<夏 夏 ナツ ナツ ココ 夏>なので。2020年にやっと「ふたりの愛ランド」のスピンオフが書けたことがまた嬉しくて。

――アルバム全体を通して、「今ある音楽」という印象を受けました。そこは意図していたのでしょうか。

 それはやはり2人のアレンジャー、プロデューサーがその意識を凄く持っています。そういう方々が僕の音楽と対峙してくれて。“島田節”も随所に散りばめられていて、ドラムのスネアの音ひとつにしてもそうですし。

――スネアの音が太いですよね。

 でかいですよね! 下げると面白くないと思って。マスタリングの時も「これだけドラムが大きいのも気持ちいいですね。普通下げるんですけど」と言っていて「でしょ?」って。ドラムは5曲目まで吉田佳史(TRICERATOPS)君ですから。

瀬尾一三氏との絆、コロナ禍でChageが感じること

『Boot up!!』ジャケ写

――作曲面について、今回特別だった点などは?

 不思議な縁で久しぶりに瀬尾一三さんと楽曲を作れるということで、春くらいに一緒に「君に逢いたいだけ」を作りまして。瀬尾さんのために書きました。コロナ禍で会えない時期があったから、<君に逢いたいだけ>というフレーズが頭の中に残っていて。瀬尾さんと言えばデビューの「ひとり咲き」からずっとアレンジをして頂いたので師匠の胸を借りると言いますか、瀬尾さんに色々音楽のイロハを教えてもらいましたし。

 瀬尾さんにやって頂くにはちょっとフォーキー、アコースティックな世界観、詞も瀬尾さんに関してはフィックスして書こうと思って、曲と同時に詞もだいたいほぼ同じで変更なく渡せたらこういう雨が降っているようなアレンジをして頂きました。僕の中では「君に逢いたいだけ」は、もちろんみなさんに喜んで頂けるのも嬉しいけど、瀬尾さんがまず喜んでくれたのが非常に嬉しかったです。そこから弾みがついていますね。瀬尾さんにニコッて笑って頂いたのが印象的でした。僕は実は瀬尾さんと飲み屋が一緒の下北沢の路地裏だったんですよ。

――歌詞にも<下北沢の路地裏>とありますね。

 瀬尾さんに喜んでもらえたらと思って、それも歌詞に入れたんです。そんな風に瀬尾さんと繋がっていたので再び一緒に仕事ができて嬉しかったです。

――この曲の歌詞の<あるべきものがなくて なくてもいいものがある>という部分が印象的です。

 それぞれの「あるべきもの」と「なくてもいいもの」を考えて頂いてもいいんですけど僕の中では、コロナ禍がなかったら普通に日常があったけど、それが奪われた時にこそ感じる日常のありがたさ、当たり前のことができないという悔しさを体験したから、それを一行で表すにはと、ここに落ち着いていったんです。

――なるほど。コロナ禍の心境でもあるのですね。

 本当に、音楽は大丈夫かと思ったんです。

――ライブなど音楽の表現が制限されてしまったコロナ禍、これからどうしていけばいいと思われますか。

 人間は不思議なもので、駄目と言われたら違う方法で模索して見つけていく生き物だと思っているんです。僕はライブが駄目ならレコーディングがあると、時間はかかるけど音楽制作をしてそれを届けることができると。集まれないなら各自でネットを通してのオンラインライブが急速に普及しましたし、それはどこからでも同じライブを配信で観られるシステムさえ揃えば、どこでも観られる面白さがあると思います。拍手も歓声もないですけど、チャットが出るからお客さんの心理が見えるというのが面白くて。ライブの締めの挨拶のMCがあって、チャットで「ひょっとして終わろうとしてませんか?」ってくるわけですよ(笑)。

――お客さんの気持ちが可視化されたと(笑)。

 これが受けちゃって(笑)。ライブの会場でも「お客さんはそう思っていたんだな」と。あと、ネットがない場合のコロナ禍だったら大変だっただろうから、ネット環境があったのが救いでしたね。だから来年以降はより生に近づこうというシステムが生まれてくると思うんです。

――前向きな心境なのですね。

 状況がまたどうなるかわからないのではっきりは言えませんがライブの予定があって、対策万全でビルボードさんもやって頂けるというので、3本のクリスマスパーティーで生音が出せるという喜びがあって。ありがたいとことだと思いながら、久しぶりに生でお客さんと対峙できるというのは、ちょっと不思議な感覚ですね。もうできないと思っていましたから。ちゃんと対策をすれば生音の音圧を体感できるというのは嬉しいですね。やはり対策は万全にして、医療関係や介護に携わっている方々は本当に戦っていますから、そういう方々の負担にならないように僕らはできることをしなければいけませんから。そして音楽を届けたいと思います。そのライブを配信もしようとしているし。行きたいけど行けない方々のために配信という形でと。でも、MCの時は生で僕が出ますので、そういうラジオっぽい構成にもできます。

――新しくて面白いです。

 人間はそういう知恵がいっぱいでますから! あと、ファンの方で何に最初つまずいたかというと設定なんです。ウェブページが開けない、チケットが購入できない、オンラインのページにたどり着けないなど、色んな設定や入力もあるし。だから“設定に負けるな”というフレーズでプロモーションをしたら、同年代の方などから「観られました」と。諦めなかったんです。「大画面で観られます」と言って。嬉しいですよね。

無償の愛がそこにはある

――長い間活動される中で、音楽を作る際に一番大切にしていることなどありますか?

 「リアルなものを届ける」ということかな…今その時のリアルな気持ちを。それを毎年積み重ねてアルバムや楽曲を発表している感じです。そういうのをずっとやっていけば大丈夫なのかなと。自分に嘘をつかない、自分をまず愛することからやっていけば人に伝わるんじゃないかなと思って。僕には聴いてくれる人、観てくれる人がいるというこの幸せ、作ったら絶対聴いてくれる、観てもらえる関係がファンの方々との間にできていますから、それは長年培ったものだろうし、ファンの方と僕の関係性は特別なものだろうし。今CHAGE and ASKAがお休みしている中で、「チャゲアスも休んでるので私も休んでよう」という方がもし聴かれたら一番いいなと思っているアルバムです。「そうそう、Chageってこういう風だったよね!」と思ってくれると嬉しいなと思って。

――なるほど。「自分をまず愛すること」という点に関してですが、仮に自分を愛せないという場合はどうしたらいいと思われますか。

 本当はライブに来て頂いたりアルバムや楽曲を聴いて頂けるのが一番いいんですけど、みんなでなんとかなると思っている人が多いので、そういう人がいたらみんなで助けようと。無償の愛がそこにはあるし、それは僕にとって音楽だし。どうせ同じ人生だったら楽しく行った方がいいじゃないですか? だから音楽でそこらの辺のスイッチが切り替わってくれたらそれに越したことはないと思っています。今、色んな人に想って発信している感じがします。

――そう考えると音楽は凄いと思います。

 やはり太古からある音ですからね。音楽は原点、音のない世界なんてなかなか考えられないというか。今作のジャケットにしても音楽の一部じゃないですか? 綺麗にデザインされているし、ジャケットを見るだけでも楽しくなるし。僕はジャケットを見て、このスタイリストさんは本当に素晴らしいと思いました。ここにピンクの靴下をもってきたのが凄いですよ(笑)。

――文字の色とリンクしています(笑)。

 これはプロの技だと。デザイナーも見事な足の位置をとってくれているし、全てみなさんがChageという素材で楽しく遊んで頂けているのが好きなんです。そういうのがひしひしと伝わってきて、みなさんの協力によってみんなが同じ方向を向いているからそれが嬉しいですね。

――様々な今の想いが表れている作品なのですね。さて、コロナ禍という特殊な時代、大切にした方がいいと思われることは何だと思われますか?

 「なんとかなる」ということですね。これは昔から僕はそうで、実際なんとかなってきているので。僕の家庭では、何か落ち込んだことがあると親は「とりあえず笑っとけ」と言っていましたから。このフレーズは最近凄く好きで。笑顔を見せて怒る相手はいないし(笑)。

(おわり)

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